【特集】中国でのラッパーへの規制に対し現地のクラブ関係者やDJはどのように考えているか?

先週初めに、中国政府当局からTVなど各メディアへのラッパーへの出演を見合わすよう要請された件が、大きな話題となった。

マスメディアではヒップホップシーン全体への規制かという報道も出たが、実態はラッパーPG Oneと女優・李小璐の不倫報道から、PG Oneのリリックに薬物使用をほのめかすものや、女性蔑視的な表現があることが問題となり、中国唯一の公式な全国婦女組合連合である中華全国婦女連合会の機関紙などがPG Oneを批判したため、PG Oneの楽曲は配信サイトから取り下げられ、TV番組の出演もキャンセルとなった。さらにその余波を受けてTV出演を行っていたGAIやVaVaも出演がキャンセルとなった。

PG Oneのスキャンダルから始まったこの問題、果たして中国はヒップホップ自体を規制しようとしているのだろうか?中国の国内で活動するDJやクラブオーナーなどに、その影響を聞いた。

取材・構成 : 和田哲郎

取材協力 : DJ KAT. (IN.SIDE Club)、粟田翔太

広州にある2014年にできた中国有数のヒップホップ・クラブ『IN.SIDE Club』を拠点にし、中国のローカルシーンに溶け込む日本と中国のルーツを持つDJ KAT.(『IN.SIDE Club』のDJ兼ブッキングマネージャー)さんは、「クラブの営業などには、今回の規制は関係ないだろう」と見ている。規制されたPG Oneはラッパーだが、芸能人的な立ち位置で見られており、あくまでメインストリームのメディアに露出していたラッパーなどに対しての要請であり、「現状ヒップホップシーン全体に影響はないが、ただ今後の中国政府の動きには気をつけたい」と語ってくれた。

DJ LEAD、DJ Ta--shiを筆頭に日本国内のトップDJやHEAVY HITTERS、HOT 97などのUSのDJ陣も『IN.SIDE Club』定期的に招聘してきた彼は、現在の中国がある種のヒップホップバブル的な状態だと話す。その人気はTV番組『The Rap of China』の影響が大きいといい、「これまではお客さんの7割程度は外国人だったのが、番組放送開始後は中国人の若者が多く訪れるようになり、外国人の客は別のクラブに行くようになった」と、客層の変化を明かした。

最後に現在の中国のヒップホップシーンをどう見ているかという、こちらの質問に対して、DJ KAT.は「現在のヒップホップブームは、TV番組が作り上げた一過性のもので、カルチャーとして根付くまでには至っていない。クラブミュージックでもEDMの方が人気があり、今回のTVの規制で人気は沈静化するのではないか」と見通しを語ってくれた。

続けて広州のアンダーグラウンドなクラブHangoverのオーナーは、PG One以外のアーティストへの影響は大きくなさそうだと見通しを明かしてくれた。またヒップホップやテクノ系のクラブなどで活動している別のDJは、「まだ大きな規制につながるかはわからないが、事態を注視している」といい、「ラッパーはまだライブはできているが、TVなどメインストリームメディアへの出演はできないのではないだろうか」と言い、それはヒップホップシーンの成長に大きな影響があるだろうと予測する。

さらにこの規制の影響かはわからないが、あるヒップホップフェスが、開催直前に中止になったことも教えてくれた。ただ問題の当事者であるPG Oneもライブ自体は出演し続けられるだろうとも語っている。しかし大規模なフェスが次に開催されるかどうかはわかっていない状態で、次にキャンセルになったとしたら、しばらくは開催できないかもしれないという。

PG Oneはライブ出演はできているようだが、上記のFNMNLのTwitter宛のリプライにあるように、客のPG Oneへの風当たりは強いようだ。やはり中国共産党の所属組織の機関紙からの批判というのは、大きな影響を与えるようだ。

現在中国の大手配信サイトでTencentの運営するQQ MusicではPG Oneの楽曲は、配信されていないが同じくTV出演がキャンセルとなったVaVaや、人気グループHigher Brothersの楽曲は変わらず配信しており、やはり配信サイト上でもあくまでPG Oneに対する規制という方針のようだ。

ファイル 2018-01-29 16 58 22

ファイル 2018-01-29 16 58 11

ファイル 2018-01-29 16 57 58

ただTencentの動画アプリではまだPG Oneのミュージックビデオなども配信されており、足並みが揃っているとは言えない。

ファイル 2018-01-29 16 58 30

QQ Musicと同じく大手音楽配信サービスのXiamiのヒップホップ担当も、PG One以外のアーティストの影響は今の所なく、ヒップホップ全体への規制とは言えないと答えてくれている。

また中国に日本人アーティストを招聘するなどの仕事をしている粟田翔太さんは、習近平政権が腐敗撲滅を掲げており、今回のPG Oneのようなスキャンダルが一度公になってしまうと、一気に規制の対象になってしまうと話している。また一党独裁を続ける共産党政権に批判の矛先が向かないように、常に外部のものに国民の矛先を向ける必要があるため、ヒップホップが腐敗の要因として政府に指定されると、さらに大規模な規制が起こる可能性もあるという。

これは経済成長を維持するために、アメリカや日本など先進国との関係を良好に保つ必要があるために、中国国内で批判の矛先を作る必要があり、また政府が腐敗撲滅を徹底する姿勢を見せることも同時に必要なため、大規模な規制に傾く可能性もあると粟田さんは教えてくれた。

また今回のPG Oneへの規制が始まって間もないため、大勢に影響するようなさらに大規模の規制が始まるかは注視していかなければならないが、若年層に影響力の大きいTVへの出演規制は、爆発的な成長を遂げていた中国のヒップホップシーンに少なからず影響は与えるだろう。

 

 

RELATED

フロリダの若手ラッパーProject YounginがInstagram Live中に銃撃される

先日XXXTentacionが銃撃されて殺害されたフロリダで、またしても痛ましい事件が起きてしまった。

逮捕されたラッパーが自身のリリックを根拠に通常より重い判決を下される

ストリートでのリアルな経験を歌うことはある種のラップにおいて重要な要素の一つだが、それらが行き過ぎたためにシリアスなトラブルに巻き込まれてしまうこともあるようだ。

議員に立候補した元ラッパーの過去のリリックが問題に

楽曲の中で政治的な主張を行うラッパーはコンシャスラッパーと呼ばれ、ヒップホップシーンに数多く存在している。しかし、もしもそのようなアーティストが政治家を目指して活動する場合、過去の楽曲の内容が問題になってしまうこともあるようだ。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。