【インタビュー】さらさ | 何者にもならない力を抜いた存在

2021年のデビュー以来、等身大の言葉と柔らかな声で多くのリスナーを惹きつけてきたシンガーソングライター・さらさ。R&Bを軸にしながら、ソウル、ポップス、フォークなど多様な要素を独自のニュアンスで包み込んできた彼女の歌は、同世代の女性を中心に拡大し続け、大きなうねりへと成長しつつある。2024年にアルバム『Golden Child』で確固たる存在感を示したのち、この度新曲"青い太陽"、"Thinking of You"をリリース。正直でまっすぐなこれまでのアイデンティティを大切にしながらも、さらに開かれたさらさ像へと歩みを進めた印象だ。自らの“嘘のない音楽”を信じて進む、彼女の現在地について話を聞いた。
取材・構成 : つやちゃん
撮影 : Saeka Shimada

- "青い太陽"、"Thinking of You"と、新曲を立て続けにリリースされました。アルバム『Golden Child』の流れも汲みつつ、また新しいフィーリングが入ってきていて、わくわくします。新曲2曲は、アルバムリリース後に制作を始めたんですか?
さらさ - そうです。アルバムリリースしてツアーを終えた後に作りました。私が以前勤めていた株式会社yutoriという会社の社長が最近音楽活動を始めて、フィーチャリングで一曲参加したんですけど(69 "pool feat.さらさ")、その曲のプロデュースが(有元)キイチさんで。もともと私はODD Foot Worksが大好きなんですよ。気さくな方で、一緒に曲を作ってみたいなと純粋に思ったのが始まりです。お声がけしたら、スタジオ入ってみましょうか、という話になりました。
- スタジオに入る前に、こういう曲にしたいという話はされたんですか?
さらさ - 今後なりたい「さらさ像」について事前に話しましたね。その中でキイチさんが、それだったらこういうの合うんじゃない? というリファレンスを出してくれて。スタジオに初めて入った日に2、3曲トラックを用意してくださってたんです。そこから選んで、初日にトラックごと完成しつつありました。次の2回目でトップラインもできて、今までにないスピードで曲になっていきましたね。
- ちなみに、お伝えした「今後なりたいさらさ像」というのはどういったものだったのでしょうか。
さらさ - 自分はR&Bがすごく好きで、今後もそれはやっていきたいと考えているんですね。その中で、自分がカッコいいなと思うのが、やっぱり90年代後半くらいの日本の女性R&Bシーンなんです。渋くてカッコいいし、それでいて多くの人にも聴かれていて。各々のカラーがしっかり出ていて、ファッションなども含めて独自のカルチャーを築いていたじゃないですか。全てが揃ってて、憧れなんですよ。あの時代の輝きを、今の時代に実現できないのかなって考える。前作のアルバムを作っている途中から、そういったことはぼんやりとイメージしはじめていました。
- すごく共感します。あの時代のR&Bって、本当に特別ですよね。デビュー当初からさらささんの表現からはそういった感触はありますけど、最近はそこに徐々にスケール感も加わってきているように感じます。
さらさ - 私は、デビューしてからずっとやりたいようにやってきてて。「こうしたらいい」「ああしたらいい」って指図されたことは一切ないんですね。そこはすごく周りにも感謝しています。だからこそ、次のさらさについては、脳(ブレーン)が必要な気もしているんです。もっと色んな人と色んなアイデアでやっていくべきだと思ってるし、その中で、この人と仕事してみたいなという新しい人ともたくさん出会えたらいいなって。でも、最初からそういうマインドにはなれなかったし、たぶん初めは「うるせー!」って言ってた(笑)。何年かここまでやってきて、今の人数で全てやっていくのは難しいということが分かったからこそ、最近はすごくオープンに色んなことを受け入れて試せるようになってます。それが楽曲にも影響してきてるのかな。
- オープンになれているのは良いですね。自分以外の色んな人と関わることに対しての不安は特に感じていないですか?
さらさ - うん、それはないです。バンドじゃなくソロだからかもしれないけど、自分の名前と顔を出して三年くらい活動してると、自分の周りのスタッフがやってくれてることも含めて全て評価になって自分に返ってくるじゃないですか。そういう責任感が強く育ってきたと思う。逆に言うと、誰かの意見に対して違うなと思ったことは自分が正面からちゃんと伝えないと、周りも巻き込んで誰かの思惑に流されてしまうことだって簡単にあるわけですよ。だからこそ、もともと主張することはそんなに得意ではないけどそれができるようになってきたし、どんな人に対しても「自分はこうです」「これを試したいです」と言える自信がついた。だから、オープンに受け入れられるのかもしれないです。
- さらささん自身が、自分のことをどんどん分かってきたし、それによって軸ができてきたのかもしれないですね。
さらさ - そうかもしれない。セカンドアルバムの『Roulette』に「同じ自分を生きることに少し慣れた」って歌詞があるんですけど、そういうイメージ。

- デビューしてこの三年くらいで、以前は気づいていなかった自分らしさに気づいたことって他に何かあったりしますか?
さらさ - 自分のことを、すごくまっすぐだなと捉えるようになった(笑)。正義感強いなぁって。逆にそれが強すぎて、自分の正義や正しさに苦しめられることがある。色んなことに対して、隠しごとなく筋を通して、言いにくいことがあっても面と向かってちゃんと言うことを大事にしてる。正面から色んなことにぶつかりにいく性格なんだと気づきましたね。
- もともとデビュー前から、そういう性格の片鱗はあった?
さらさ - そうですね。でも、若い頃はもうちょっと色んなことから逃げていた気がします。たとえば、気まずい友達がいたらもう連絡とらないとか……分かりやすく言うとね。でもいま音楽をしてると、関わってくれてる人のおかげ、もちろん聴いてくれている人たちのおかげで活動ができているし、とにかく誤解のないように失礼なことがないようにというのは大事にするようになりました。そうなると、多少言いにくいことや気まずいこともどんどん真正面から言わなきゃってなる。でも真正面から行き過ぎてたまにびっくりされる(笑)。
- それは、曲からも感じます。一本スッと筋が通っている感じ。ヘルシーですよね。
さらさ - 自分の楽曲で嘘つくと、バレちゃうから。
- 自分の周りのさらさ好きな子たちは、「さらさちゃんには親近感が沸く」って言うんですよ。たぶん、今の話に通じるものがあるんだと思います。本音で喋ってくれてる感じというか。
さらさ - ありがたいですね。ライブのMCでも、言いたいことがなかったら喋らないし、誰かに怒ってる時とかは「嫌な奴は勝手に落ちるから、自分の大事な口汚さないように行こうな」って突然言い出したりするし。自分で素直だなって思って笑ってしまうこともあります(笑)。
-(笑)。最近の曲制作やクリエイティブに関するところで、ここは自分が大事にしているこだわりポイントなんだなと改めて気づいたことはありますか?
さらさ - 嘘がないようにというのは今言った通りですけど、それと同時に、自分はこういうタイプだからこういうことはしない、といった自分が勝手に決めた枠は取っ払うようにしています。
- 先ほどの、新しいことに挑戦するという話とも通じますね。ちなみに、歌詞についてはどうですか?
さらさ - 歌詞もそうで、自分が体験したり実感したりしたことについて書きつつ、でも頭の中の想像で膨らんでいったフィクションについても書きます。でも、「こう見せたい」「こう見られたい」ということは絶対書きたくない。
- あぁ、なるほど。
さらさ - うん。なんか……そういった変なプライドみたいなものはないと思います。誰にも届かなかったものがあったとしても、自分が納得できていればいいし。

- でも、なぜその境地にたどりつけるんですか? 「こう見せたい」「こう見られたい」というところで悩んでいるアーティスト、いっぱいいますよ。
さらさ - うーん……私は、デビューシングルが"ネイルの島"なんですよ。あれ、ほとんど初めて書いた曲で。アーティストって、一番初めに人に評価された曲が原体験としてすごく残ると思ってて。よくあるのは、暗い曲で評価されてしまうと、自分は苦しんでいないといい曲が書けないかもと思ったりね。でも、私がラッキーだったのは、"ネイルの島"が「私は何者にもならなくていいし誰にも評価されなくていいし力を抜いて生きていく」という決意の曲だった(笑)。自分の価値は「何者にもならない力を抜いた存在」であると思ってスタートしてるんです。だから逆に、グッと力が入っちゃうと、まずいまずいって反省する。誰かから評価されないといけない、こう見られたいっていうのを少しでも考えてしまうと、それは本当のさらさじゃない! ってなる。そこが原点にあるのは、ただただラッキーだった。
- ある意味、最高のスタートを切ったんですね。
さらさ - それに、本当は自由だって分かってるのに、自分はこうじゃなきゃいけないって思い込んで気持ちよくなってる人を見ると、酔ってるなと思うんですよね(笑)。私も元々は繊細だしちょっとダウナーだし、明るく楽観的でっていうタイプでは全くない。自分の曲にはどれも悲しみが落ちているんですけど、それはブルージーで暗いことやネガティブなことをそのまま受け入れていこうという思いがあるから。でも、その暗さで人に迷惑をかけたくないし、暗さに酔いたくはない。なんか、それはダサいから。ある種「何者にもならない」っていうのは、力が抜けているととれるかもしれないし、諦めともとれるかもしれないし。そういう二面的なものが常にあります。
- 確かに、さらささんの曲には悲しみの影が落ちてはいるけど、ことさらにそれを引き延ばしたりはしないですよね。
さらさ - そうですね。でも、悲しみの影が落ちていない曲をいつか書けるようになりたい、とは思ってます。今感じている幸せをただただ見つめる、ということができるようになりたい。今までの私は、見つめている中で先のことを考えてしまう。「でもそれにはいつか終わりが来るよね」とか。それで今回"Thinking of You"では、今この幸せをただただ見つめるだけの曲を書くということをトライしてみたんです。でも、全然だめだった。急に筆が進まなくなって、途中で諦めてまた悲しみの影を落としたけど、そこがさらさらしくて気に入っているポイントでもあります。
- さらささんの中で、ただ現状を見つめるというのがまだしっくり来てないんですね。
さらさ - 今はまだ、そういう感覚がないんでしょうね。
- そもそも、なぜ「今この瞬間の幸せを見つめるだけの曲を書きたい」と思ってるんですか?
さらさ - セカンドアルバムに"予感"という曲があって、リリース後に普通に自分で聴いてたんです。すごくいい曲ができたなぁ……と思って聴いてたんですよ。ずっと温かくて白昼夢のような幸せが漂ってる歌詞が続くんですけど、一カ所だけ「終わりが来るなんて思えずに」って歌が出てきて。つまり、終わりが来るってことじゃないですか。その時に、すごく幸せな気持ちで聴いてたのに、めちゃくちゃ萎えたんですよ。
- 自分の歌詞に自分で萎えてしまった(笑)。
さらさ - うるせえよ、今はこの幸せな気持ちに浸らせてくれよ! って思った(笑)。それがきっかけ。それに、言霊なんだよねって思って。そう思ってるから終わってしまうのかもしれないって。
- まぁ聴く人によっては、そこに影が落ちることでストーリーが感じられていいっていう人もいると思いますけどね。
さらさ - そうですよね(笑)。

- でも、そういった歌詞に関してもだし、音楽性やサウンドについても、これからさらささんがどんなに新しいことをしても——たとえば突然ロックやジャズの曲を出したとしても——中心にさらささんらしさがあるから、違和感なく聴ける気がするんですよね。規模感が大きくなったら、突然メジャーっぽいサウンドになってなんかアーティスト性が曖昧になった、ってことが往々にしてあったりするじゃないですか。さらささんは、そういうイメージがない。たぶん、さらさらしさというのが鮮明で、何をやってもそれが中心にあるからだろうなと思います。
さらさ - "青い太陽"はトラックからなので違うんですけど、基本的には弾き語りで作ってるから、というのもあるかもしれないですね。弾き語りがあって、そこにアレンジが乗ってくる。どんなアレンジが入っても、あまりそこに引っ張られてない気がします。たとえばロックを突然やったとしても、そこに嘘がなければいいんでしょうね。
-"Thinking of You"も弾き語りがスタートですか?
さらさ - サビは弾き語りから作ってます。平歌はトラックができてから作りました。最近は、そういう融合した作り方もしてますね。色んなやり方を試してみたいモードに入ってきてるので。
- 曲作りのプロセスがさらさんらしさに関係している、というのは納得です。歌詞については、ノンフィクションとフィクションと入り混じっているという話でしたが、たとえば"青い太陽"はファンタジー性がだいぶ出ていますよね。「月になって ただ光って 果てしない 海を泳いで」というラインとか、素敵だなと思いました。
さらさ - ちょっと散文的というか、抽象的な雰囲気がありますよね。歌詞は、基本的にはトップラインに引っ張られているとは思います。メロディから浮かんでくる情景があるので、そこから音の数や母音が決まってくる。あとはだいたいAメロから作っていくので、初めに書き始めた入りから繋げて物語ができていく感じですね。
- "Thinking of You"は、「永遠に燃える恋」というラインがあります。珍しく、直接的な恋愛の歌詞ですね。
さらさ - 私は、ずっと恋愛の曲を書きたくなかったんですよ。今はもうそんなことはないですけど、十代の時に街中で流れてくるJ-POPに恋愛の曲がすごく多くて、なんかダサいなと思ってたんです。なんで皆恋愛の曲ばっかり歌ってるんだろう? お前の哲学や思想を聞かせてくれ! って(笑)。だからこれまでも、何かを書いていくうちに、恋愛をしている時の自分の気持ちにフォーカスした詩が生まれることはあるけど、恋愛をテーマにした曲を書こうと思ってかいたことはないんです。でも、今年くらいから、恋愛をするのに、恋愛の曲を書かないのは自然ではないと思ったことがきっかけで書いてみようと思って作ったのが"Thinking of You"です。「永遠に燃える恋」とか、以前は絶対使わなかった。
- そういうことだったんですね。個人的には、さらささんの「~て」で終わる歌詞がすごく好きなんです。たとえば「リズム」も「辿って」「雨音のリズムに身を寄せて」から始まると思うんですけど、"青い太陽"でも「~て」で止める歌詞が頻出しています。歌い方も相まって、一つひとつが切れずに続いていく感じがすごく切なくて。
さらさ - 本当だ! 癖ですね(笑)。確かに文章の終わりではない、続きを感じる歌い方。
- さらささんらしいリズムが感じられる、ひとつのシグネチャーだと思います。
さらさ - 気づいてもなかったです(笑)。
- ライブについても伺いたいんですが、東名阪ツアー『Thinking of You Tour 2025』も始まりますね。会場のキャパシティも大きくなってきていますが、それに応じてパフォーマンスも変わってきていますか?
さらさ - 去年リキッドルームでやらせてもらって、その時は1,000人規模だったんです。今まで、先輩のミュージシャンたちから「1,000人超えると届け方が変わるよ」と聞いてきたんですよ。へぇーって思ってたんですけど、実際にやってみて、確かに肉体的にも精神的にもひとつ変わった気がしました。今回はSpotify O-EASTでさらに増えますけど、そういった中で器用に色々出来ている気はしないです。ただ、一つひとつ新鮮に驚いたり刺激をもらったりはしていて、自分でも何が起きているかはちゃんと分かっていないかな。お金と時間をかけて来てくれてる以上、自分がたくさんもらったものに対してちゃんと返していきたいとは思います。
- バンド編成なんですよね?
さらさ - そうです。私含め5人で届けます。ギターに(有元)キイチさんが新たに入って、それ以外はこれまでと同じメンバーになりますね。
- さらささんのライブはファッションもすごく楽しみです。毎回、ライブのコンセプトにあわせたスタイリングが素敵ですよね。
さらさ - スタイリストのYuki(Yajima)が去年のツアーも担当してくれたんですけど、すごく信頼しているので、イメージはすりあわせつつもけっこう委ねています。私が大事にしているさらさ像を理解してくれているし、そのうえでYukiのさらさ像も取り入れていきたいですね。
- 今回、アー写も一新されました。真っ赤な世界観ですね。
さらさ - こちらは松岡一哲さんが撮ってくださって。"青い太陽"、"Thinking of You"のアートワークも松岡さん撮影ですね。私、写真家にはそこまで詳しくないんですけど、以前から好きで追いかけているのが松岡さんと鈴木親さんなんです。それで、うちのスタッフがそれを全く知らずに「松岡さんっていう写真家をこの前知ったんだけど、さらさに合う気がするんだよね」って言ってきて。それはもうお声がけするしかないということで、ダメ元でオファーさせていただいたら撮ってもらえることになった。一緒に打ち合わせしてイメージを作っていきました。自分の中にあるオーガニックでプリミティブっぽい感じというか、そういった印象を引き出してもらった。アー写は、アイライン含め強調したアイメイクを(Ryoji)Inagakiさんにやってもらって、今までより強さも出たと思います。
- 音楽はもちろん、あらゆる面において次のさらさ像を打ち出されてますね。ツアーでのステージが楽しみです。今日はありがとうございました。

Info

〇10月22日リリース「Thinking of You」
https://lnk.to/salasa_ThinkingofYou

〇9月24日リリース「青い太陽」
https://lnk.to/salasa_aoitaiyou

〇さらさ Thinking of You TOUR 2025
11/13(木) 名古屋 ell.FITS ALL
11/19(水) 東京 Spotify O-EAST
11/20(木) 大阪 UMEDA CLUB QUATTRO
open/start 18:00/19:00
前売 ¥5,000+1D
チケット好評発売中
