【コラム】リバイバルを果たしたUKガラージ/2ステップの現在と歴史

再燃するUKガラージ/2ステップとは何か?

ここ数年、UKガラージ/2ステップの何度目かのリバイバルが来ている。そしてUKイギリスではPrince Of UK Garageことブリストル出身で西ロンドンを拠点とする新鋭DJ/プロデューサーConductaがプロデュースしたAJ Traceyの”Ladbroke Grove”が新世代のUKガラージ/2ステップサウンドで2019年10月UKシングルチャートの3位を記録、いよいよUKガラージ/2ステップの復活は本物になってきたと言えそうだ。

2019年には、そんなUKガラージ再燃の象徴的存在Conductaが初来日、東京〜大阪をツアーした。ここ日本でもそんなUKGリバイバルに刺激を受け、新世代のDJ/プロデューサー達が、刺激的なコラボレーションを生み出しつつある。先日リリースされたJUBEEの”JOYRIDE feat. SARA-J”やDaichi Yamamotoの"Let It Be feat. KID FRESINO"は、そんな流れの中、UKガラージ/2ステップのトラックを取り入れた1曲だ。

日本ではあまり知られていないが、90年代半ばにイギリスで生まれ、2000年前後にブームのピークを迎えたこのサウンドは、ゼロ年代以降のイギリスの音楽シーンに多大な影響を与えただけではなく、現在のUSを始め世界中のダンスミュージックに広く影響を与えた最重要サウンドのひとつといっても過言ではない。

UKガラージ/2ステップについては、その後、ダブステップ、グライム、ベースライン、UKファンキーといった振り幅の大きいサブジャンルを生み出しただけでなく、ダブステップがアメリカに渡りブローステップとなり、それがEDMの中心的存在になり、そこからトラップが生み出され、更にグライムがそこに融合、現在進行系のUSヒップホップ/R&B/ポップのサブベースサウンドのもとにもなったりと、その影響は枚挙に暇がない。そんなUKガラージの最盛期/黄金時代に生まれたUKガラージのスタイル、2ステップについて紹介しよう。

UKガラージの誕生から全てを飲み込む2ステップのリディムの発明へ

UKイギリスで初めて生まれたオリジナルダンスミュージックであるジャングル/ドラムンベース。その音像とUSハウスの融合から90年代半ばに生まれたUK発のダンスサウンドがUKガラージ(地元では単にGarageと呼ばれる。略してUKG)。そんなUKGが最もメジャーフィールドに受け入れられた2000年前後に隆盛を極めたサウンドスタイルが2ステップだ。

90年代半ば、イギリス全土に大流行していたジャングル/ドラムンベースに対応する形で、UK各地のクラブのサウンドシステムはそのダブ/レゲエ仕込の強力なベースサウンドを鳴らす為、軒並みバージョンアップを図っていった。それが始まりだった。(特に低音が)パワーアップしたサウンドシステムに合わせて、自然発生的にUSハウス/ガラージとドラムンベースの重低音を交配したスピードガラージというスタイルが生まれる。BPM125〜130というハウス/ガラージにしては早いBPMからその名前は付けられた。

UKガラージの始まりと言われるこのスタイルの代表的な曲は、Doube 99 "RIP Groove"、187 Lockdown " Gunman" 、CJ Bolland "Sugar Is Sweeter" (Armand Van Helden Remix)など。

その特徴はシャッフルする4つ打ちのハウスビートにジャングル直系のうねるサブベース、上モノには女性ボーカルやラガMCなどが乗る。その質感はまるでBPMを130にスローダウンしたジャングル/ドラムンベース。1997年前後、スピードガラージはクラブシーンからポップチャートを賑わすが、同じような曲が瞬く間に溢れ、1年経たずに飽きられてしまう。

しかしUKガラージは消えてしまった訳ではなかった。海賊ラジオ局を根城にしてUKのストリート/クラブミュージックは常に進化してきた。ジャングル/ドラムンベースを真っ先にサポートし、レイヴを主催したのも海賊ラジオ局ならば、更にそこから進化したUKガラージの最先端をアンダーグランドでサポートしていたのもまた彼らだった。1998年頃には、スピードガラージの4つ打ちキックの2拍目と4拍目を抜いた突っかかる様なビートのサウンドスタイルがシーンに登場する。それが2ステップだ。

2ステップのリズムパターン(リディム)はTuff Jamなど初期のUKガラージDJ達によって発掘され、それは発明になった。US産ハウスやR&Bの12インチに収録されていた、あまりプレイされない方の面にひっそりと収録されていた4つ打ちじゃない、ちょっと変わった曲をBPM130でプレイした時、マジックが起こった。Roy Davis Jr. "Gabriel(Live Garage mix)" やTina Moore"Never Gonna Let You Go" (Kelly G Bump-N-Go Vocal Mix)といった曲は、初期の2ステップのアンセムとなって海賊ラジオ局やパーティでヘビープレイされた。

スピードガラージをスローダウンしたドラムンベースと表現したが、ドラムンは実は4つ打ちではない。寧ろ2ステップのリズムパターン(リディム)の方がまさにBPMを落としたドラムンベースだ。キックとキックのはざまに、細かく刻まれシャッフルするスネアとベースラインが生み出すポリリズミックな空間は、スピードガラージに比べて隙間が増えた分、自由度が格段にアップした。2ステップのリディムの発明/発見で表現の幅が広がったUKガラージは、ここからビッグバンを起こしていく。

海賊ラジオ局や各地のクラブでDJ達が、新しく獲得したリディム=2ステップを使って様々な既存のジャンル/スタイルのレコードを再解釈してスピンし、それに影響を受けたプロデュサー達がさらに独自の解釈でオリジナルの2ステップ/ガラージのトラックを生み出していく。

ヒップホップ、R&B、ダブ、レゲエ、ダンスホール、ハウス/ガラージ、テクノ、ブレイクス、ジャズ、ソカ、アフロビート etc、都市に集まる様々なルーツをもつ人々のサウンドが交配し、2ステップのリディムで競い合うように新しいチューンを生み出していった。

UKガラージ/2ステップの代表曲をいくつか並べて聴いても、これが僅か2~3年の間に生み出されたものとは思えないほどに、その振り幅の広さは驚くほどだ。

その勢いは2000年前後に、アンダーグランドのクラブシーンからポップチャートを席巻するまでに至る。ちょうどその頃、ハードでシリアスになり過ぎたドラムンベースのシーンがアンダーグランドに潜航するのと入れ替わりに、2ステップ/UKガラージがロンドンをはじめ全英のクラブでプレイされるようになる。ドラムンベースが無くしたそのポップさとパーティ感が、多くのクラバー達の心と身体を掴んだのだ。

サウンドの進化・深化の進むUKガラージ/2ステップの受難

UKガラージの中でも2ステップと呼ばれるこの時期のサウンドの特徴の一つはポップなR&Bヴォーカルだ。元々はUSのR&Bの12インチに収録されるアカペラをDJ/プロデューサー達が勝手にマッシュアップして2ステップに仕立て上げた海賊盤のダブプレートを現場でプレイしていたものが人気を集め、そのうちUK盤の12インチシングルにリミックスとして収録されるようになった。最初はマッシュアップ/リミックスから始まったこのスタイルは、まもなくUKのR&B/POPシンガーをft.したオリジナル曲が制作されるようになる。その中でMJ Cole、Artful Dodger、Craig David、Wookieなどがシーンのトップに躍り出てくることになる。ここでいくつかその代表曲を紹介しよう。

さらにDJプレイの現場では、これにドラムンベース/ジャングル仕込のMC達がフローやコール&レスポンスを入れることでフロアを盛り上げるスタイルが定番で、そんなMC入りのオリジナル曲が生まれ、やがてはMCだけのトラックも、ボーカルものの合間の変化球として登場してくる。その代表格がSo Solid Crewだ。これらのMCものの流れは、後にPay As U Go CartelのWileyらによってグライムというサブジャンルを生み出すことになる。

しかし2001年を境にUKガラージ/2ステップシーンは、徐々に衰退を始める。サウンド的なクリエイティビティは、失速することなくどんどん加速していったにもかかわらずだ。このジャンルがメジャーシーンから消えていった理由は、実は音楽ではなく、それ以外の部分からだった。

多くのジャンルでありがちな話だが、当初ポップなパーティサウンドでブレイクし、時とともにハードでシリアスなサウンドになる流れは、2ステップ/UKガラージにも起こった。その中で生まれたのがMC達をftしたグライムであり、ダブステップだった。

グライム前夜、その祖先とも言えるSo Solid Crewが出演するUKガラージのパーティには、彼らのストリート・ギャング感あふれる空気に惹きつけられ、ヘッズ達が集合し、暴力沙汰にはじまり、果ては銃撃やら殺人事件まで起こる事態を引き起こす。それは全国ニュースになり、時の国会議員が名指しでSo Solid CrewやUKガラージのシーンに非難を浴びせた。結果、危険なジャンルとして風評がたち、次々にUKGのパーティがキャンセルされる。そしてメジャーなクラブからUKガラージは締め出されることになる。それが2002年頃のことだ。

So Solid Crewの悪評(実際にメンバーが逮捕され、もはやそれは風評を超えていた)によるクラブからの締め出し、そしてサウンドのシリアス化(NOT パーティ感)が影響し、UKガラージはアンダーグラウンドに潜航する。そしてポップの象徴だった2ステップという呼び名は使われなくなってしまう。

この頃にはグライムはパーティより寧ろストリート中心で発展していき。UK産のオリジナルラップミュージックとして、その後進化していくことになる。代表格はWiley、Dizzee Rascal、Boy Better Know(Skepta、Jammer、JMEなど)など。

一方サウスロンドンのBIG APPLE RECORD周辺から出てきたSkream、Benga、Digital Mystikzなどが『FORWARD』というパーティでダブステップサウンドを深化させ、SkreamのMidnight Request Lineのリディムが発明/発見されることで、ダブステップはロンドンを飛び越え、世界中に広がっていった。

ガラパゴスなUKGが世界をテイクオーバーする

2ステップが最盛期だった1998年〜2001年頃、そのUK産オリジナルサウンドは、意外なことにUSのヒップホップやR&Bとは直接的にはほとんど関わりがなかった。2ステップ/ガラージはUK国内でのみブレイクしていた音楽で、一部の好事家/DJ以外にはアメリカでも全く受け入れられも、知られもしていなかった。

2ステップはUSのR&Bネタのリミックスが多いが、それはUK盤の12インチにしか収録されない完全に国内向けのものだった。USのヒップホップに関して言えば、もっと遠い存在で2ステップ/ガラージのリミックスはほぼ存在しなかったぐらいだ。その証拠に2ステップシーンで売れたSo Solid CrewやMs Dynamiteが世界進出をねらって制作したアルバムにUKGのトラックは申し訳程度に1〜2曲収録されているだけで、あとは普通にUSスタイルのヒップホップやR&Bだった。

ある意味ブームだった当時の2ステップ/ガラージは、完全にUKイギリスにおけるガラパゴスだったとも言える。

UKガラージは、スピードガラージ〜2ステップ〜グライム/ダブステップ〜ベースライン〜UKファンキーとそのスタイル/リディムを変化させながらゼロ年代末に一旦の終焉を迎えたかに見えたが、その後、2010年代初頭のDisclosureを代表とする新世代によるUKGに影響を受けたディープハウスの世界的なヒット、James Blakeらダブステップの深部にアクセスしたプロデューサー達のポストダブステップのムーブメント、Skeptaらグライムのオリジネイター達が英国マーキュリー賞を受賞するなどメジャーシーンでも高く評価され、海を渡りヒップホップの本場USでも遂にブレイク、時を経てUKガラージが生み出したサウンドはガラパゴスを超えた。

同時にダブステップはゼロ年代後半、Rusko/Caspaなどのスタジアム受けする所謂ブローステップがUSのEDMシーンのブレイクを生み出し、ネットの普及で国境の呪縛から解き放たれたUSのR&B/ヒップホップアーティスト達がダブステップ/グライムを発見し、トラップを生み出した。現在のUS R&B/ヒップホップシーンのサブベースサウンドは、ネットとUKガラージが20年前に産み落とした種が時を経て開花したものなのだ。

余談だが今やグラミーを受賞するまでにビッグアーティストとなったEd Sheeranは、メジャー・デビュー前にWileyやP Money、JMEといったグライムのMC達とのコラボアルバムを出していたり、同じくグラミー受賞のSam Smithの最初のヒットはDisclosureにftされたことだったりと、今世界で活躍するUKのアーティスト達のルーツにはグライムやUK ガラージがあることも、UKガラージ/2ステップが世界の音楽シーンに与えている影響の大きさを感じさせる。

そうこれらのことから言えること、それは今UKガラージは世界をテイクオーバーしている音楽なのだ。

そしてブームから20年を経て、嘗てのUKガラージ/2ステップに対する負のイメージ(チャラい、悪い、怖い)は、完全に洗い流され、親たちがカーステで流していた音楽として純粋に影響を受けた子の世代が、再評価し、先に紹介したConducta、DJ Anz、Mind Of Dragon、Sharda、Bassboyなど新世代のプロデューサー達が新たなトラックをリリースし、ヒットを生み出している。そのことは20年の時を経て、ようやく本来の音楽的な価値でUKガラージ/2ステップが評価される時が来たのだと言ってもいい。

MJ Cole、Zed Bias、Craid David、Wookieといった往年のプロデューサー達は20年間進化し続け未だにフレッシュで現役だ、TQD(DJ Q、Royal T、Flava D)といった中堅も現役、そしてConductaを始め新世代のDJ/プロデューサー達が、このサウンドをさらに更新して行こうとしている。それが2020年の今だ。過去も現在も関係なく音楽にアクセスできるネットネイティブのこの時代、あなたも現在進行系の進化を追いつつ、過去20年間の知られざるアーカイブをディグしてUKガラージ/2ステップの広大な宇宙にダイブしてみてはいかがだろうか。(DJ Eraguru)

Info

DJ Eraguru

https://twitter.com/eraguru

UK Garage Classics on Spotify

https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DX0RJRF55W5lt

 

new UK Garage on Spotify

https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DX6MNYaY0PcFh?si=PnLBunicTyW7fbZZHwGGyg

 

 

RELATED

【レビュー】Don Toliver『Life of a Don』|自立、進化、サイケデリア

Travis Scottが3rdアルバム『Astroworld』でサイケデリックラップを追求し、後の音楽業界に絶大なインパクトを残したことは言うまでもない(商業的な点においてもだ)。彼と同郷のヒューストン出身アーティスト=Don Toliverは、おそらく彼の影響を最も受け、かつ同じ音楽路線で絶大な成功を手にした弟子の1人だろう。『Astroworld』のリリース前日にミックステープ『Donny Womack』を発表しキャリアをスタートするが、Donのキャリアの成功は師匠であるScottのアシストなしでは考え難い。全米中のキッズを虜にするScottのアルバムにたったの1曲でさえ参加できれば、新人ラッパーにとってスポットライトの量は十分だ。“Can’t Say”でメインストリームに現れたDonは、Scottの音楽レーベル=Cactus Jack Recordsからの莫大なサポートを味方にシーンで頭角を表し始める。

【レビュー】Kanye West 『DONDA』|ゴスペルの完成または..

度重なるプレリリースイベントを経て、Kanye Westが8月末にリリースした新作『DONDA』。Kanyeが最も愛した実母の名前を冠したこのアルバムは、幾度となくリリース予告がされていたこともあり重要な作品と目されており、リリースと同時に大きな反響を呼び、久しぶりの商業的な成功を彼に与えることに...

【レビュー】Isaiah Rashad『The House is Burning』|地獄からの復活

Isaiah Rashadはこの5年間、姿を消していた。TDE所属のラッパーは高評価を得たアルバム『Sun’s Tirade』を2016年に発表して以降、以前から悩まされていたドラッグ中毒に溺れ、貯金を使い果たし、テネシーの実家に戻っていた。KendrickやSZA、Schoolboy Q等を輩出してきたレーベルの期待を背負いながらも、友人宅のソファで数ヶ月間寝泊まりしていたRashadは、その肩書きなしではただの大学中退者だった。しかし、彼を心配したTDEのTop Dawgのおかげもあり、平穏なオレンジカウンティで1ヶ月のリハビリを経たRashadは、今もう一度復活を果たそうと試みる。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。