【インタビュー】KM 『Ftheworld』| 自分自身を拡げる

プロデューサー/DJのKMによる通算3枚目となるニューアルバム『Ftheworld』。Campanella、ermhoi、Daichi Yamamoto、Skaai、Lil’Leise But Gold、LEX、Ryugo Ishidaらのゲスト陣を迎えつつ、全13曲中の4曲で自身がボーカルを務め、インスト楽曲でも強い印象を残す本作で、なぜ彼は取り巻く環境に対してファックと叫ばざるをえなかったのだろうか。

自身の内面に切り込こみながら大きく前進した前作『EVERYTHING INSIDE』から3年。プロデュースのオファーは絶えなかったはずだし、DJとしても八面六臂の活躍。我々から見たら順風満帆なこの間にも、KMは悩んでいた。プロデューサーという職業が持つある種の型やイメージに足を取られ、アイデンティティを見失いそうになりながらも、〈何処からはじめよう〉と光明を手繰り寄せようとしたそのログが本作『Ftheworld』には収められている。アルバム完成の裏にどのような葛藤があったのか。まずは彼のキャリアを振り返りながら、本作に至る経緯を順番に紐解いていこうと思う。

取材・構成 : 高橋圭太

撮影 : 横山純

KM - 当たり前なんですが、2018年と現在では単純に作曲スキルやDTMのスキルが上がったと思います。いま思えば『FORTUNE GRAND』のときはまだ右も左もわかってなかった。たまに当時の制作ファイルを開くと、もうわけわかんない。どこをどうミックスしてんのかとかも全然わかんなくって。試行錯誤してたと思うっすね。いろんなプラグインが挿さってて、いまとなっては“それ全部外したほうがいいよ”って(笑)。あと2018年の時点ではどんなラッパーがいるかもわかんなかったんで、とにかく会ったアーティストみんなとセッションしてみよう、っていう感じでした。そんななかでも、当時としては初期のエモ・ラップを自分のなかに取り込もうとしてた時期だと思ってて。その方向性はいまの自分にも確実にある部分だと思います。

KM - 『EVERYTHING INSIDE』の制作では、ビートはこちらから決め打ちでお願いしていて、ほぼビートができあがった状態でアーティストにオファーしていたはずですね。おっしゃる通り、あの時期はタイプビート的なものとかトラップ一辺倒なところから抜け出したかった時期。自分としては日本におけるトラップ第一陣のプロデューサーだと思ってて。ぼくがビート提供をはじめた時期にトラップの楽曲をリリースまで持っていけるプロデューサーは少なかったと思う。そこからトラップの隆盛があって、『FORTUNE GRAND』の制作時期は、自分としてはもうすこし変化を求めていたころだったんじゃないかな。鍵盤とかローズ……柔らかい印象のエレピに808に乗っけたらおもしろいんじゃないかなっていうのがあって。だから“Distance”とか“夜のパパ”みたいな、柔らかい雰囲気なんだけどしっかりスーパーローが出てる楽曲っていうのは自分としても実験だったんですよ。そこからBPM帯に幅が生まれたのが『EVERYTHING INSIDE』。ダンスミュージックへの思い入れもあったし、もっと自身の楽曲にもそういうテイストを取り入れてみようっていう時期ですね。レーベルでいえばGhostly InternationalやUKのWarpあたりの昔から聴いていたラインをもっとアウトプットしたいなって。アーティストでいえばNosaj ThingやJacques Greeneとか。そういったエッセンスで作ったのが“Filter”や“nothing outside”だったっすね。だから『EVERYTHING INSIDE』のときからダンスミュージックに振ってたっていう意識はあって。

KM - ハイパーポップ感もありますよね。“Every Time”とか“Stay”は低音をあえて割れた音質にしてたんですよ、当初。でも(Mary Joy Recordingsの担当A&Rである)肥後さんにアドバイスをもらってもうすこしマイルドにして。ああ、あと『FORTUNE GRAND』と『EVERYTHING INSIDE』の合間に(sic)boyとの『CHAOS TAPE』のリリースがあって。自分のなかでのラウド方向のアウトプットはそこで昇華してたというのもありますね。

KM - 想像以上だった。やっぱ“Stay”とかのヒットチューンがあって……LEXがものすごく成長期だったというか、アーティストとして駆け上がっている時期にいっしょに曲を作れたというのも、もちろんあると思うんですけど。ただ、そこまで“ヒットを作るぞ!”って意気込みで作ってないんです、“Stay”も“MYPPL”も“Filter”も。“Filter”に関してはMVも作ってないっすからね。客演陣がライブでパフォーマンスし続けてくれたおかげで広まってる。リリースからたくさん聴かれるまでに時間差があって。『EVERYTHING INSIDE』リリースの時期がもろにコロナ禍だったんです。リリパもやったけど人数制限があったし、まだ世の中が大変なときにアルバムが出てるんで、心置きなくライブに行けるようになったタイミングあたりから拡がっていってる気がする。

KM - 自分としてはヒップホップシーンへの楽曲提供は2021年以前よりはやってなかったって印象がありますね。それって(sic)boyでトライしたプロダクションがすごくJポップ向きだったというのが理由としてあると思ってて。『CHAOS TAPE』以降、いろんなメジャーのレコード会社からオファーをいただいて、加藤ミリヤさんだったり、最近だと野田洋次郎さんのリミックスもやらせてもらったり。そのあいだにLil'Leise But Goldの『喧騒幻想』みたいな、よりKMのロウな側面をフィーチャーした作品も出てて。

KM - 前のアルバム以降、外仕事が増えて、それはそれでそのときしかないチャンスと思ってバンバン受けたんですよね。で、当時はこっちもテンションが高いんで、『EVERYTHING INSIDE』で得たファンにも“ついてきてくれ”って感じでトライしていて。理解してもらえると思ってたんですね。だけど、これはあたりまえなんだけど、そこは(受け取られ方が)違うんですよ。まったく違う。

KM - そもそも、(sic)boyでやったようなプロダクションで獲得したリスナーと、『EVERYTHING INSIDE』を聴いてファンになってくれたリスナーはぜんぜんかぶってないんです。たとえばメジャーのアーティストに楽曲提供するってなったときに、もっと応援されると思ってた。2ndアルバムみたいなアンダーグラウンドな雰囲気の作品を出したあとに、メジャーでバンバン仕事するっていうのが自分としては特殊だしおもしろいなって。実際、自分としても制作はすごく楽しかったんだけど、ただ、そこでのリアクションはほぼなかったんです。

KM - ですね。だんだんリスナーに届いてないんじゃないかって疑心暗鬼になってきて……あの時期は本当にバッドだった。いま思えば『FORTUNE GRAND』と『EVERYTHING INSIDE』で獲得したリスナーは、KMの作品を聴くという感覚じゃなかったんじゃないかって。もちろんぼくが監督してるアルバムではあるんですけど、ほとんどはLEXやDaichi Yamamotoくん、JJJくん、Campanellaくんたち客演アーティストのファンが聴いてくれてただけなんだなって。でも、それって当然で、自分はプロデューサーなんで。

KM - そう、もちろんずっと応援してくれるリスナーもいるって前提ですけどね。そういう危機感からスタートしたのが、クラブのパーティーでのKMリミックスセットとSoundCloudでの定期的なミックスのアップ。ああいう形のセットに興味を持ってパーティーに来てくれるひとは間違いなく自分のお客さんなんですよ。だって自分にしかできないセットなんで。そのおかげで自分もいち出演者として見てもらえるっていうか、裏方じゃなくなるっていうか。だから自分にとってはめちゃくちゃ大事な活動なんですよね。そういった活動がなかったらちょっとヤバかったかもしれない。やっぱりすごいアーティストと仕事をすればするほど、自分の名前がどんどん裏方になっていくんですよ。それはめちゃくちゃ危ないと思う。もちろん職人的に裏方としてプロデュースワークをするひとはたくさんいるし素晴らしいんだけど、自分はやっぱりアーティストとしての意識が強いから。メジャーフィールドの仕事って個人的な役割の体感ではトラック50%、歌い手50%ぐらいのパワーでやってるつもりなんですけど、実際の見え方としてはトラック1%、歌い手99%ぐらいですよ、マジで(笑)。逆に言ったら、歌い手のパワーを自分のパワーだと勘違いしちゃうと、めちゃくちゃバイブスがよくなくなっちゃうなって。そういう部分を思い知って、大変だけど改めて自分にとってのコアなリスナーを作っていかなきゃな、というのがこの3年間だったと思う。たとえば自分のDJパーティー『DANCELIXIR』をはじめたのもそういう意識がきっかけっすね。

KM - LEXのツアーでバックDJをやってるときかな……。レーベルはちゃんと出演者としてクレジットもしてくれてるし、KMのDJの時間もちゃんと告知してくれていたんですけど、ツアーに来たお客さんからしたらLEXしか見えてないわけですよ。でもそれが現実ですよね。東京のクラブでもぼくを認知してくれてるのってコアな一部の層というか。その時期にちゃんと自分の立ち位置を認識したのかもしれない。いま見えてる再生数は自分のパワーじゃなく、歌い手のパワーであって、そこを勘違いするのがすごく危ないなってことなんですけど。

KM - そうですね……。でも、そういった経験があったからこそ『DANCELIXIR』やKMリミックスセットをやろうと思えたし、いま考えればいい判断をしたなって思えるっていうか。今回のアルバムのモチベーションやコンセプトにも大きく影響したんじゃないかな。

KM - さっき話したような心情が如実に出てたと思いますね。最初にできたアルバムの曲が“Ugly”で。次に“Another day, I'm OK”ができて、“Dawn Chorus”だったかな。だから、気分が暗いときに作っていて、サウンドの雰囲気も暗い。『Ftheworld』=“Fuck the World”ってタイトルも最初から決めていたし。次のアルバムはそうしようと。これ、もうしょうがないっていうか、事実だから言うんですけど、どんなにいい曲を書いたとしても結局は歌い手なんですよ、きっと。ヒップホップという枠にいるかぎり、プロデューサーがメインになることは絶対にないんで……まあMetro Boominみたいな特殊な例はあるけど、それでもMetro Boominの客演なしのライブがあったとして、おなじ日に21 Savageがやるってなったら、ほとんどのひとは21 Savageのチケットを買うと思う(笑)。だから、主人公になれないんですよ。ラップっていう枠だと。

KM - というか、ならないと自分の好きなスタイルを伝えられないと思ってます。

KM - なかなかむずかしいな、っていう。その心持ちがそのままアルバムを作るモチベーションになった。たとえば、収録されてる“Highnoon in the Living Room”ってインストの曲とか自分でもめちゃくちゃ好きなんですよ。すげえのができたなって。でも“Highnoon in the Living Room”、“Ugly”、“Another day, I'm OK”みたいなのが続くEPを出しても、たぶんだれも聴かないと思う(笑)。そういった試行錯誤のなかで自分でラップしてみようっていうアイデアも生まれて。アイデアの時点では“自分で書かなきゃいけないのか……”ってしんどい気持ちだったんですけど、やってみたらおもしろくて。最初に書いたのは“Lost 2 (Ftheworld)”ですね。この曲のBPM帯って意外とハメやすいんですよ、自分的に。お手本になるようなフローもたくさんあるし、自分のなかでの蓄積もある。だからわりとスッと作れたっていうか。書くのがだんだん楽しくなってきてからは“Gasoline”、“Ugly”、“ネコ”って流れでどんどん書いていきましたね。

KM - 最初の3曲と“ネコ”って全部キーがEメジャーでいっしょなんですよ。まず最初に自分の声の出る範囲を上から下まで調べて、“このキーだったら声を張ったときに許せるボーカルになるな”っていうのを考えて作りました。ボーカルに関しては自分としてもこだわりがひとつあって。メインのボーカルは1本にしようって。それは自分がPi'erre Bourneの『The Life Of Pi'erre』シリーズがすごい好きで、こうなりたいっていうのがずっとあったから。Pi'erre Bourneの存在は大きいかもしれない。あとはBONESや$uicideboy$とか、BladeeやThaiboy Digitalの所属してるDrain Gangらへんの作品が好きで、すごく勇気をもらったというか。“自分にもできるかも”って思わせてくれるようなインディーズ感がありますよね。

KM - ですね。本当にあの車のおかげで暗い時期から抜け出せたと言っても過言じゃなくて。あんなにブチ上がったことありませんでしたから。

KM - たしかに。〈ずっと真っ暗なトンネル/踏みっぱなしでall day〉っていうのも、どんどん自分がなくなってくような気がしてた時期のリリック。〈もうつかれたよ/とか泣き言言わないで逃げ切るこのゲーム〉で歌ってる“ゲーム”っていうのは、自分がプロデューサーとして名前を出し続けないといけない、という意味での“ゲーム”ですし。相当やられてたんだろうな……。実は日々リリックというかムカついてることとかを日記として文章に残してたりはするんですよ。それをもとに……だから“Ugly”とかはもっといろんなこと書いてたんですけど、愚痴みたいになるのもいやだからさすがにそれは削って。“Gasoline”の〈消えないように燃やす命とガソリン〉っていう部分には、外仕事ばっかでこのままじゃヤバいっていう焦りが出てるっすね。〈誰も通らないライン〉とかも、車の車線っていう意味合いもあるけど、自分のキャリアの積み方に関してのことだし。こういうことひとつひとつ、言葉にしないと伝わんないなっていうのはあったっすね、いまの自分の気分を。

KM - ありましたね。こうやってリリックを振り返ると当時の自分の心境が振り返れておもしろいな。“Lost 2 (Ftheworld)”の〈あすはどこへ行こう/夜には晴れるかも/気分も変わるかも〉って書いてる時期は車を買ってから書いてるはずで、すこし気持ちが持ち返してるのかもしれない。いや、ほんとね、自分が車好きっていうのもありますけど、車を買ってだいぶ突き抜けた感覚があって。

KM - そうなんです。最初はダンスフロアにいる男女のイメージで書いてたんですけど、書いてるうちにだんだんトピックが車のことにすり替わってしまったっていう(笑)。

KM - “Gasoline”の〈また誰かが書き込むHate/そのまにRainさせてる金〉ってラインですかね。“金”を“カーネ”ってメロディックに乗せたのが自分的にウケたっすね。自分で録ってて“めちゃくちゃラッパーっぽい!”って(笑)。

KM - あまり複雑にしないっていうのは考えてたかもしれません。特に“Lost 2 (Ftheworld)”は“ここにボーカルが入るからこのハイハットは邪魔だな”みたいな引き算の作業をかなりした。あと、この曲と“Ugly”はフックがないですよね。それって“ここはビートを聴いてください”っていう気持ちの表れなんですけど。ダンスミュージック的な感覚に近い。

KM - 最初はほとんどインストで出すか、客演というよりボーカルサンプルを使用して作ろうかって考えてたんですよ。

KM - そう。“two-seater(348)”はFred Again..を聴いて、あの方法論を日本でやったらどうなるかなっていう実験で。Baby Keemとの“leavemealone”とかもサンプリングだと思うんですけど……サンプリングというか、ブートレグのリミックスを作ってたら許可が下りて、って感じかなと想像するんですけど。それってすごくいまっぽいですよね。だから以前プロデュースしたC.O.S.A.くんの“Motown Man”の使用許可をもらってトライしようと。

KM - “Highnoon in the Living Room”は自分がはじめてギターから作った曲で。これまでもある程度まで作ったトラックに生っぽさを足すためにギターを入れる、みたいなことはしてたんですけど、この曲ではギターをリビングで弾いてそれをパソコンに録って、っていうすごくローファイな作り方をしていて。だからクオンタイズされてないっていう。この遅れ方とかは実際に弾かないと出せないんですよ。それがすごく楽しくて。

KM - そうです、そうです。ハードオフで買ったやつ。“Highnoon in the Living Room”ではスロウコアを作ろうと思って。制作のなかではわりと後半にできた曲だったんじゃないかな。アルバム全体の時間軸として、中盤の“DANCELIXIR”って深夜のパーティーの曲で、“もう一度キスをして”はその翌日くらいをイメージしてるんです。で、“Highnoon in the Living Room”はその次の日の午後。気だるい二日酔いの感じっていうか。それを作りたいってなって1週間くらい集中してスロウコアの雰囲気で作ってみて。

KM - 当初は“Late Night”をラストにする予定だったんですけど、もうすこし余韻がほしいなって思ってアルバムの納品日に作った曲ですね。この曲にラップ入れたかったなぁ。だれかに歌ってもらうでもいいですし。すごく映えると思うんですよ。次のアルバムの1曲目はこのトラックでいいかもしれない。

KM - オファーしたかったアーティストにはほぼほぼ参加してもらってるかな。なかでもermhoiさんはこれまで制作したことはなかったけど、今回ぜひいっしょにやりたいなって思ってお願いしました。彼女が参加してるBlack Boboiの曲も全部聴いてましたし、今回の作品のベースにあるダンスミュージック軸を補強してもらったなと。ただ、最初は“Beautiful”と“Late Night”はアルバムに入る予定じゃなかったんです。というのも、『Ftheworld』は本当に暗い気持ちが凝縮したアルバムにしようと思って。わざと暗くするっていうか、“Ugly”、“Dawn Chorus”、“Another day, I'm OK”の流れで後半も作っていくつもりだった。でもそんな形で出しちゃったらまったく理解されないんだろうなぁとなって。で、“Beautiful”は去年の時点で完成してて……LEXの“Control”って曲ができたころですね。“もう一度キスをして”も本来はこっちのバージョンががオリジナルになる予定だったんですけど、LEXとしてはもうちょっとコードを抑えたトラップの形でやりたいっていう感じだったので、このバージョンは自分のアルバムに入れようと。そうやって外向きの曲が収録されるって形で考えたときに、その(“Beautiful”や“もう一度キスをして”のような)テンションに向かっていく楽曲を改めて作らなきゃなと。“DANCELIXIR”もその流れを汲むような曲ですね。最初のアルバムのスケッチにはなかった。

KM - さっき言ったダークな3曲(“Ugly”、“Dawn Chorus”、“Another day, I'm OK”)があるじゃないですか。そこに“Late Night”を当てはめると、かなりタイトな作品として成立する。そうなんだけど、はたしてそれでいいんだろうかっていうのがあって。

KM - もちろんプロデューサーとして長くいろんな作品を発表していきたいし、気持ちも前向きになってアルバムのテンションももうすこし上げなきゃっていうのがだんだん出てきたんでしょうね。

KM - まず先行してRyugoくんのほうで“TUFF”って曲をリリースしていて、そのスキルトレードって形でぼくの作品にも参加してくれないかって話をして。で、Ryugoくんってハードなイメージがありますけど、あえてこういう優しい曲をやってみてほしいなと思って。自分がこれまで生きてきた感じ、背負ってるもの、地元のこととかを想像して書いてみてほしいって伝えましたね。あとアルバムの最後のほうに入れたい曲だってことも事前に伝えてました。それにしてもいいリリックですよね。〈ゆっくりしてる時間もうない/まだ振り返るの必要ない〉、〈こんな夜はもうなんども送れない〉ってラインがすごく好きで。これはRyugoくんじゃないと出てこないリリックだなって。奇跡が起きた曲ですよ。だからこの曲が完成してアルバム全体をほぼ作り終えたときはめちゃくちゃ気分が上がったっすね。

KM - そうですね。そう思ったら今回で作風に幅が広がってよかったなっていう気持ちはすごくあって。作り終えたいまとなっては、これからいくらでもやることあるなって気持ち。今回も“Another day, I'm OK”のブレイクでわけわかんない音出してたり……あれはブレイクコアのスクリューなんですけど、そういう特殊なチャレンジはしている。ああいうチャレンジって、自己満足ではあるんですけどね。あと、『Ftheworld』ってキーの転調が多くて。イントロやアウトロだけキーを下げたり上げたり、次の曲のキーにつながるようにできる曲はそうしてて。“Beautiful”と“Late Night”のキーをつなげたり、“Another day, I'm OK”のアウトロと“Beautiful”のイントロがいっしょだったり。

KM - まぁリビングとかでも聴ける、ひと続きのBGMになったらいいなって考えてたから。家のスピーカーからちっちゃい音で流してもいい雰囲気だし、しっかり聴けば深いっていう。だから、今回は全体的にあんまりラウドにしてないんですよね。自分のなかではリスニング方向の作品にしてると思う。だから、たとえば“DANCELIXIR”も最新のドラムンベースっていうよりは、もうすこし軽さのある90年代的なドラムンにしてますし。

KM - やってます。そのあたりの作業もだいぶ落ち着いた感じを意識してたと思います。“Stay”なんかは、ある意味でEDMみたいに“ここがフックです!”っていうのがわかりやすいミックスにしてたんですけど、今回はすこし余裕を出したかもしれないですね。その点も引き算の考え方。

KM - そうなんですよ。それはね、(sic)boyの『HOLLOW』を作ってるときにちょっと増やしすぎたかもって反省があったんですよね。ちょっと大人になったっすね(笑)。興味がダンスミュージックに寄ったというのも大きな要因です。大好きなOvermonoだったり、Nosaj Thingとかの〈Warp〉系アーティストみたいに、音数やコードを引き算してカッコいい曲って作る側からしたらめっちゃむずかしい。日本人の特性として、コード4つ全部詰め込んで最初からキャッチーにしちゃう、みたいな作り方って得意だと思うんですよ。反面、たとえばOvermonoみたいな、最初にワンコードだけではじまって、曲の中盤まで我慢して、後半に一気にコードを4小節の中に4つ入れてエモーショナルにする、みたいな感じをここ最近は目指してるっすね。Kaneeeくん、Kohjiyaくん、Yvng Patraくんとの“Champions”って曲があるじゃないですか。あの曲ではめちゃくちゃイントロを抑えてる。4小節に対してツーコードしか使ってなくて、〈価値が上がっていくLately〉って部分から一気にメロディーが拡がるように作っていて。これまでの自分だったら、そこがいちばん美味しいところだから最初から鳴らすと思うんですよ。でも抑えることで後々のエモーショナルにつなげていく。コードの引き算ってそういうことで。ダンスミュージックを聴いてて“こういうふうにやんないとカッコよくなんないよな”と思ったんですよね。以前だってそれに気づいてはいたけど、プロデュースワークにおいて、オファーされた楽曲をヒットさせたいと思うじゃないっすか。そうなると楽曲のいちばん美味しいとこをド頭に持ってこないと、マーケットが日本である以上、ヒットの可能性としては減っちゃう。だけど自分のアルバムだったらそういう部分も含めて自由にできるんで。

KM - 自分としては『Ftheworld』はセールスしなくてもいいと思ってる。デカくなればなるほど変なことも言われるし、そういうのも疲れたから。ぼくはもう3万人以上のフォロワーはいらないですよ。

KM - そりゃ『EVERYTHING INSIDE』と比べたらトーンダウンしてるって思うひともいるかもしれないけど、自分は負け惜しみとかじゃなくてそれでいいと思ってる。だってこっちのほうがぼくはカッコいいと思ってるんで。じゃあここで試したことをJポップのプロダクションに転用しようとかも全然思ってなくて。3年間いろいろ仕事を受けてきて無理だなと思ったっすね。トライしてるアーティストはめちゃくちゃいるんでしょうけど、自分のプロデューサーの仕事という意味で考えると、シンプルになればなるほど歌い手の存在感や本質性の話になってくるわけで。いまのところ、自分のやりたいこととフィットするJポップのアーティストってなると挙げるのがむずかしいかもしれない。

KM - でも、ぼくはオーバーグラウンドの仕事がきらいってわけじゃないんですよ。ただそういった仕事で自分のやりたいことを優先して、Jポップ的な様式をわざわざひん曲げなくもいいんじゃないかなって思うだけで。もしかしたら近い未来……それこそLANAちゃんみたいなアーティストがより影響力を持っていくことで変わっていく部分はあるのかもしれないけど。

KM - やりたいと思ったっすよ。つねに“こういうラップが乗ったらいいな”みたいなことは頭のなかにあるんで。ボーカルとしては1年生の気分なんでね。いまはもうひとり新しいKMがいるって感じ。あと今回の制作ですごく思ったのは、自分にあえてラベルを貼るとしたら、ダンスミュージックのDJなんだなって自覚できたこと。ボーカルをセルフでできるっていうのも、自分としては勇気を得れた感じがある。その広がったマインドで次回作が作れたら、また新しい自分が見せられるのかなって思います。

Info

KM - Ftheworld
https://kmmusicworks.lnk.to/Ftheworld

Produced by KM

Photo by Daiki Miura
Artwork by LAID BUG

Tracklist:
01.Lost 2 (Ftheworld)
02.Gasoline
03.Ugly
04.Dawn Chorus (featuring Campanella & ermhoi)
05.two-seater (348)
06.ネコ
07.DANCELIXIR (featuring Lil' Leise But Gold, Daichi Yamamoto & Skaai) (Album Version)
08.もう一度キスをして (feat. LEX & JP THE WAVY) (KM Remix)
09.Highnoon in the Living Room
10.Another day, I'm OK
11.Beautiful (featuring LEX)
12.Late Night (featuring Ryugo Ishida)
13.20241009

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