【インタビュー】Aru-2 & 写楽 『Sakurazaka』| 世界がどう変わるか

2024年、ビートメーカー/プロデューサーのAru-2とラッパーの写楽がタッグを組んでアルバムを作った。Kid FresinoやJJJ、NF Zessho、Daichi Yamamotoなど様々なアーティストの楽曲をプロデュースするAru-2と、MCバトルシーンで名を馳せた写楽は、一見遠いところで活動しているように感じられるかもしれない。しかし二人が並んで座って話しているだけで共作をリリースしたことを納得してしまうほど、柔らかく温かい雰囲気がどこか似ていて心地よさを感じた。今回はそんな二人の出会いや、CDに続いてLPもリリースされたアルバム『Sakurazaka』の制作秘話を聞いた。

取材・構成 : MINORI

写楽 - 18歳くらいの時ですね。

写楽 - 立川でした。高校生ラップ選手権が終わった後すぐに行って、バトルすることになって、負けたんですよ。「逃げんじゃねえよ」って言ったら「逃げたもん勝ちだろ」って返されて、逆手に取られて。そこから去年ライオン(渋谷のクラブ)で再会して、一緒に曲も作りましたね。

写楽 - 高校2年生の時に学校を中退して、そのタイミングで「学校辞める=グレる」みたいな考えがあったんで、辞めた次の日から家で時間があったのでヒップホップをディグり始めて。

写楽 - 学校辞める=社会への犯行みたいな印象があったので、そこから90年代のヒップホップとかバーっと聴いたと思うんですけど自分にしっくりくるものがなくて。でもその時TABOO1さんと志人さんの"禁断の惑星"を聴いて、それが一番自分に刺さって。これやばいなと思って、そこから関連アーティストを聴いて、PSGとかもすごく好きで。

写楽 - あんまり自分の中で明確な線引きはないです。相手が目の前にいるかいないかが違うだけで。バトルのときも作品を作るときも「遊ぶ」ことが中心にあるんですけど、バトルになるとやっぱり相手がいるんで、遊ぶプラスちょっとユーモアのあるディスりを入れてあげる。ちょっと前までは攻撃的にラップをしてたんですけど、今はぬるっとかわしてユーモアのあるパンチで殴るみたいな。

Aru-2 - 酔拳っぽいね。

写楽 - そうっすね。

Aru-2 - そうですね。スタートが早かったんでキャリアも10年以上ですね。初めてOILWORKSからCDをリリースさせていただいたのが20歳の時で、そのあとP-VINEで佐々木(KID FRESINO)と一緒に『Backward Decision For Kid Fresino』を出したのが21歳。

Aru-2 - そう。中学の時に「俺はもうこの道で生きていく!」って決めて。中学校の卒業文集で「ヒップホップキングになる」って書いてた。今となっては恥ずかしいけどそれくらいのやる気でした。

Aru-2 - 日本だとキングギドラとかニトロ(NITRO MICROPHONE UNDERGROUND)とかKICK THE CAN CREW、RIP SLYMEとか聴いてて、USでもJay-Zとか50 Centとか色々聴いてたけど、誰か特定のヒーローがいるっていうよりも、自分だったらもっとやばいのが作れそうって思って始めました。無知だからこそ自信があって勢いで始めて。最初はラップをやりたくてリリック書いてたんだけど、そのラップを発表するにはビートが必要だから自分でビート作り始めたらそっちに夢中になって、ラップそっちのけでずっとやりまくってました。

Aru-2 - はい。写楽が自分でビート作ってる曲、俺すっごい好きだよ。

写楽 - ありがとうございます。

Aru-2 - それは結構明確なきっかけになるアーティストがいて、Kanye Westの『Graduation』をたまたまクラスで隣の席の友人からCD借りて聴いて、その時ちょうど高校1年生ぐらいで。小学生のときに父親の影響でMichael JacksonとかDaft Punkを聴いてて、『Graduation』ではそれをどっちもサンプリングしてヒップホップに昇華していて。「サンプリングおもろ!」ってなって、そっからサンプリングで作り始めたかな。

Aru-2 - 静岡のHALってDJが主催するパーティーで俺とNF Zesshoが一緒に「AKIRA」で出演してて、写楽も出演していて、そこで初めて会って。まずリハするって時に写楽の持ってきてるCD音源が流してもなぜか針飛びするの。それには原因があって、CDに「〇月〇日ライブ用のインスト」とかペンで書いたりするじゃん。写楽はペンじゃなくて、ハサミで傷をつけて書いてあって。そのせいで針飛びしてたの。それが衝撃すぎて。獣じゃんって。

写楽 - 結局ライブまでに1回家に帰ったんですよね。1時間半くらいかけて。

Aru-2 - それでまた戻ってきて、ライブめっちゃかましてて。すごいわって。

Aru-2 - それが2020年で4、5年前とかかな。それから写楽は神戸行ったんだっけ?

写楽 - そこから一旦愛知で自分の『MIMISOJI』って作品を作って、2021年くらいから淡路に行きました。

Aru-2 - このアルバムの制作を始めたのは写楽が淡路に行ってからだよね?

写楽 - そうです。2021年くらいですね。

写楽 - 神戸の思い出がいっぱいあります。今は地元の豊川から移住して岡崎市に住んでて。

Aru-2 - 俺も神戸にいっぱい友達いるからイベント呼んでもらったりして、写楽と再会して、そういうきっかけもあって一緒に曲作ることになって。

写楽 - "Sabaaidheel Freestyle"のリリックですね。Sabaaidheelっていう静岡のめちゃくちゃ美味しいタイ料理屋さんに行って。

Aru-2 - そう。そのタイ料理屋に行って、そのままドッと出た曲です。写楽がフリースタイルで一発で録ってました。

Aru-2 - とりあえず一緒に曲作ろうよっていうので制作を始めて、そのときは別にアルバムを作ろうって気持ちはなかったんだけど、出来上がる曲が全部良すぎて、外れがないから、このままどんどん作ってて楽しいし、アルバムにしようよって多分俺から言ったんだよね。

写楽 - 言ってくれました。覚えてます。めちゃくちゃ嬉しくて。

Aru-2 - こんな才能ある人、プロデュースしないわけにはいかないって。ひたすら楽しかったんですよ。

写楽 - 自然とですね。

Aru-2 - それこそ写楽がPSGの影響を受けてるっていうのも、俺にも通じる話だし。俺も高校生の時に5lackさんとかPSGを聴いて、それが自分の音楽の世界観に影響があったから。5lackさんとか日本のMF Doomだと思ってる。自分で自分のスタイルを作ってて。だからそういう聴いてきた音楽の影響とかも関わってそうだよね。

写楽 - 行きました。2回ぐらい、遊び兼制作合宿みたいな感じで。

Aru-2 - 俺の家に泊まって制作したね。

写楽 - 淡路にいたときも何曲か録って。

Aru-2 - どうやって録ってた?あの環境で

写楽 - 淡路に住んでた時に、住まわせてもらってた場所の持ち主の池田さんが持ってたマイクを使って録ってました。山の中で。"Sorrows"とかは虫の声とかも入ってるんです。

写楽 - 山があって、その周りに甲子園球場2個分くらいの土地があって、そこには栗農園がありました。山のてっぺんに小さい小屋があって、自分はそこに住んでました。

写楽 - ラッパーのKAKKYくんが神戸に来いって言ってくれて、池田さんも紹介してくれて。

Aru-2 - 池田さんは淡路島の重鎮でDJもやってる方なんですけど、その栗山の持ち主で。

写楽 - 廃材使って小屋を建てたり、イベントやる時は装飾したりして。

Aru-2 - 鉄人みたいに自分で山を開いたり、小屋を建てたり。そこでNOAHってイベントを主催して2、3日ぶっ通しでパーティーする、あれはカルチャーショック体験でした。

写楽 - 後半の曲は地元で録りました。"Sakurazaka"とかも地元の愛知で。

写楽 - それは関係ないです。"Sakurazaka"のビートを2ヶ月ぐらい聴き続けて、最高のメロディは出来てたんですけど、リリックをどうしようって思ってて。最高なメロディだからその分悩んで。淡路で悩んでそのまま愛知でも悩んでたんですけど、ある日机の前に座ってたらブワーって降ってきて。85%ぐらい全部降ってきて、バーってリリック書いて、見返したらこれ一生聴けるかもってものができて。15%は自分で書いたんですけど、85%は降りてきました。

Aru-2 - だからタイトルの"Sakurazaka"も降りてきちゃったと。

写楽 - そう。降りてきました。

写楽 - それも分かんないんです。

Aru-2 - 曲の世界観と、自分がイメージしてるメロディーと、一番合う言葉が“Sakurazaka”だったのかもしれない。

写楽 - そうですね。情景とか哀愁とかを入れたいので、バランスも考えて出てきたのがその言葉だったのかもしれない。

写楽 - 今回の作品だと"Sakurazaka"の次の"Good Latency"もAru-2さんの家で作ったんですけど、前日から自分は瞑想状態で感覚が研ぎ澄まされていて。50%は降りてきました。

Aru-2 - いや、普通だったと思う。

写楽 - 座り方があって、膝を広めに広げて坐骨を椅子にピッタリ着けるんですよ。その状態でメロディを聴いて(音楽と)一体化してるみたいな感覚になると、たまに降りてくるんです。

Aru-2 - そうなんだ。俺もこの姿勢の話は初めて聞いた。

写楽 - ここ一年、音楽に対してだけでなく、自分の人生の中を見つめ直していて。例えば誰かが自分に嫌なことをしてきて、それに反応するとか、外側に対して自分でそういうバイブレーションを作ることにすごく疲れてしまって。これをどう自分で機嫌を取っていくか考えてるんです。でもAru-2さんがその師匠みたいな方で。

Aru-2 - いやいやいや…(笑)。

写楽 - Aru-2さんは自覚がないかもしれないですけど、本当にいい意味でリズムが整っていて、誰に対してもフラットで。すごい影響を受けてます。

Aru-2 - そんな美化しなくても…。

Aru-2 - すげえするよ。一人になった時なんだアイツ!って。

写楽 - 一緒に制作している時も自分がボタンを押し間違えてもふふってちょっと笑うんですよ。足とかぶつけても静かに「イテテ」って。そういう何に対しても重く捉えないというか。そういうエッセンスを近くで吸収させてもらってます。

写楽 - ジャケットのデザインを依頼する時もどういう質感で送ろうかずっと迷ってたら、Aru-2さんがめっちゃいい感じでYoshitoさん(Yoshito Ikeda)に送ってくれて。

Aru-2 - 今回のアルバムでは、「喜びも悲しみも希望も絶望も全部が共存してる世界」をイメージしてたから。写楽のリリックは、ちゃんと生きづらさと向き合ってる人のリリックだと思ってて。そうじゃないとこういう言葉は出てこないよなって感じるから。そういうイメージを一度言葉にして放っておくっていうのも、Yoshito Ikeda大先生にメッセージで送ったらもうそれを具現化してくれた。落ちながら何か掴んでたり。

写楽 - 僕がまさに瞑想をしながら、体の中がクリスタルになるイメージをしてたんですよ。それでこの絵を見たらマジかって(ジャケットに描かれた人の膝からクリスタルが生えている部分を見せながら)。しかも太ももを切った中の緑と赤紫っぽい部分があるじゃないですか。ちょっと人間の体のチャクラの話に飛ぶんですけど、ルートチャクラとハートチャクラっていう、僕が今まさに大事にしたいと思っている部分があって。ルートチャクラはふわふわした気持ちを地に足つけて生きるために意識している部分。ハートチャクラは自分にも外にもより柔らかい向き合い方をするために意識している部分。各々に色があって、それが赤と緑なんです。そしたらこのジャケットが来ちゃって…。

Aru-2 - 繋がっちゃったんだ。

写楽 - 繋がっちゃいました。やっぱりYoshitoさんの音楽のセンスなんですかね。

Aru-2 - みんな野生の勘が鋭いのかも。理屈じゃなくて、自然体でそこに辿り着けるのかもしれない。

写楽 - まずメロディーフックから作ることが結構多いんですけど、メロディーを頭の中で浮かべてそれを携帯で録音して後で聞き返してそこからまた広がっていったり。リリックの色味とバランスを考えて。

Aru-2 - 色味とバランス。

写楽 - 僕、音に対して色とか香りをすごく感じるんです。そこを自分の中で大事にしたくて。哀愁というか、楽しい曲であってもちょっとノスタルジーを残したい。Aru-2さんの曲はいろんな情景を浮かばせてくれるので、そこに身を任せつつ、自分のはっきりした意思も持ちつつ、全体のバランスを嗅ぎながら。

Aru-2 - 毎回違うけど、例えばリズムの土台となるドラムを最初に組んでそこに何が一番合うか試してながら、キーボード弾いたりサンプリングで作ったりする時が多くて。あとは、最初にピアノを触り始めてあ〜とか、う〜んって、降りてきて、それを録って、その録音したやつを聴いてそこから組み立てていく時もあるし。でも本当に「今音楽しないとどうしようもない、心がぐちゃぐちゃになる」みたいな時に音楽と向き合って作った曲はだいたい良い。もちろん日常的に曲は作ってるけど、必然的に生まれるビートがたまにあって。今回の『Sakurazaka』はそういう曲が多かったかな。"Sakurazaka"も"Good Latency"も"Party Finale"もそうだし。

Aru-2 - "Party Finale"はMIGURIっていうミュージックバーが浜松にあって、そこで俺と写楽がライブをしてて、その朝に浜松に戻ってきて「昨日は最高のパーティーだったね」って気持ちを俺はビートにぶつけて。できた瞬間に、写楽が「俺録っていいですか?」って。写楽は写楽で出来上がってたんだよね?

写楽 - 速攻でしたね。すごくいいパーティーだったのでテンション上がってました。

写楽 - (パーティーが)全然終わらなかったんですよ。本当に「いつまでやんねん」って思うくらい。

Aru-2 - 俺もずっとDJしてたもんね。

Aru-2 - 俺がそのビートをずっと"Good Latency"って呼んでたんだよね。

写楽 - そうですね。

Aru-2 - "Good Latency"ってなんで名前つけたんだろうな。でも「レイテンシー」って基本的には毛嫌いされるもので、遅れることって社会的にも怒られたりするけど、自分の音楽に関してはそのレイテンシーがあるからグルーヴになっていくっていう。だから悪いだけじゃないでしょうって。レイテンシーも捉え方次第でいいものになるよねって、名前をつけたと思います。

写楽 - あれは僕が普段思っていることで。かりゆし58の"さよなら"って曲で「ぼくが生きる今日はもっと生きたかった誰かの明日かもしれないから」って歌詞があるんですけど、それもそうかもしれないし否定するつもりはないんですけど、誰かのために生きるだけが幸せじゃない。外側じゃなくて内側に幸せを見つけることもできるよなって。幸せのために無理して現実を変えようとするんじゃなくて、今の自分のいろんな面を全て許して愛せたら、なんの道具も必要なく、ゼロから幸せを生み出せると思っていて。その方法を、今自分は行っている最中なんです。

Aru-2 - 物質だけじゃないもんね。幸せって。欲しい機材とかも…

写楽 - それは欲しいです(笑)。

Aru-2 - 拠り所のない誰かの力になれるようなものというか、若い人も年取ってる人も赤ちゃんもみんなが共有できるような音楽を作っていきたい。ジャンルも関係なく、いろんな人を繋げられる音楽を作っていきたいですね。基本的に自分勝手人間なので。

写楽 - 僕が決めることではないんですけど、まだ僕たちの音楽を必要としているのに届いていない人たちがいると思っていて。ストリーミングやクラブコミュニティだけじゃなくて、例えばママさんたちの集まりで聴いてもらって議論して欲しいし。

Aru-2 - いつか老人ホームとかでも聴いて欲しいね。

写楽 - 『Sakurazaka』を聴いて、例えば風の感じ方が変わったり、朝日の見え方が変わったり。あなたがこれを聞いて、あなたの世界がどう変わるか。見え方がどう変わるかを大事にして音楽を作りたいです。

Info


<アルバム情報>
アーティスト:写楽 & Aru-2
タイトル:Sakurazaka
レーベル:P-VINE, Inc.
仕様: デジタル | CD |  LP
発売日: デジタル、CD / 2024年11月6日(水) LP / 2025年2月19日(水)
品番: CD / PCD-25429  LP / PLP-7503
定価: CD / 2,750円(税抜2,500円) LP / 4,500円(税抜4,091円)
*Stream/Download:
https://p-vine.lnk.to/EtCu3F

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