【インタビュー】KREVA『Project K』| やればやれる

2024年にソロ・デビュー20周年を迎え、自身名義の作品のみならずヒップホップ内外のコラボレーションやプロデュース・ワークも精力的にこなしてきたKREVA。一方で、昨年は長年所属していた事務所からの独立や、母親の死去など、様々なドラマを乗り越えてきた一年でもあったようだ。2年振りにリリースされるニュー・アルバム『Project K』は、そんなKREVAの葛藤やストレスをリリックの随所で滲ませつつも、自身のアーティストとしての地力や貪欲さをもって全てをポジティヴなクリエイティヴィティに昇華させようという、彼の執念や意地のようなものすら感じさせる仕上がりだ。
そして、今作に限った話ではないが、最先端のテクノロジーや技術、知識を積極的に取り込んで音楽制作に反映していく姿勢も健在で、今作ではAIの活用が大きなトピックのひとつとなっていて、こちらも彼持ち前の貪欲さと好奇心、オタクぶりを窺わせ、マニアックな視点でも興味深い作品となっている。
取材・構成 : 伊藤雄介
撮影 : 横山純
- ここ数年のKREVAさんにとっての大きな出来事としては、まず事務所を独立されたことが挙げられます。活動初期から関わりのあった事務所だけに、決して小さくない変化だと察します。
KREVA - 何ならBY PHAR THE DOPESTとしてデビューするときからいたしね。
- 個人事務所の社長になられたということですよね。
KREVA - でも、俺とマネージャーしかいないしね。個人事務所というより個人会社。
- 前事務所時代にはくレーベルというレーベルを主宰されてたこともありましたけど、ゆくゆくは自分のレーベルを設立したりアーティストを抱えるような展開もあり得るんでしょうか?
KREVA - それもそうだし、今のところそういう人間に出会ったことはないけど、「どう考えても自分はKREVAさんの側に必要だと思います!」みたいな人間が現われたら会社として雇ってあげることができるよね。「俺、こんだけビート作れます!」みたいなヤツが来たときに会社という形があったら、「よし、契約だ!」ってしてあげやすいよ、っていうアドバイスをもらって、それで法人化したんだよね。ちなみに、オマケの情報としては古物商の資格も取ったから、中古レコード屋もできる(笑)。
- レコード屋をやりたいんですか(笑)?
KREVA - 原書展示販売会「ラッパーと紙とペン」をやったじゃん? アレと同じ感覚で、俺がディグってきたレコードに俺自身がシールを貼って、「◯曲目が良い。コレはこういうふうにサンプリングできる」みたいなメモを貼って売る、みたいな。そんなことが出来たら面白いんじゃないかなって思って、そのために資格を取った(笑)。でも、そういうことって事務所に所属してたときは「やらなくてもいいんじゃない? どこで儲けを出すの?」みたいな話になりがちなんだよね。当然な話ではあるんだけど。でも、自分の会社なら当然、俺だから出来るって感じで。
- 現時点で契約したいアーティストがいるわけではないですよね?
KREVA - 全然ない。どんな人でもいいんだけどね、映像クリエイターとかでも。なにかに特化したスキルがある人がいいなとは思う。あと、声がデカいとか(笑)。でも、今のところはまだ分からない。まだ設立して1年も経ってないから、どういうところでどんな人が必要なのかを探りながらやっている状態。それも踏まえてざっくり言うと、気合いが入ってる人がいいね。
- また、プライベートでは昨年お母さんが亡くなられたというのも大きな出来事だったと思います。それも考えると激動の2024年でしたね。
KREVA - 俺、見えない部分も含めてノー・タトゥーなんだけど、どこかに「2024」って入れとこうかなって思うぐらい、いろんなことがあった。独立に関わるバタバタや母の体調が悪くなったこと以外にも、自分の周りでは良いことを余裕で覆ってしまうぐらいの悪いことが立て続けに起こって、だいぶ辛い時期だった。だから、(制作の)モチベーションを保つのが大変だった。「この日は一日制作できるぞ」って思ったタイミングで病院から電話がかかってきたりとか。高めていった気持ちを違う方向から折られるようなことが多かった。マラソンにたとえるなら、俺は走る気マンマンなわけ。トラックはもちろん作ってるし、アルバムの制作も開始してる。だけど、42.195kmはスタートとゴールが決まってるから走れるわけで。 ゴールが定まってないからスタートが切れない状態でずっといたというか、そういう辛さもあった。でも、制作の〆切が出てきたときは、そういったゴタゴタがあったからだいぶタイトなスケジュールだったけど、最後まで頑張って仕上げたね。
- お母さんの存在は、KREVAさんにどのような影響を与えてきましたか?
KREVA - 俺の生き方に相当影響を与えてくれたと思う。いつも言ってる話なんだけど、大学受験のときに短冊にお願いを書くことがあって、俺は「大学に合格しますように」って書いたんだけど、「いや、あなたは絶対に合格するから『合格ありがとうございます』って書きなさい」って言われたり。そういうふうに良い方向に持って行ってくれたんだよね。振り返ってみたら、アーティストとしてもいち個人としても俺のことをずっと信じてくれた。俺が濡れ衣を着せられて指をさされていたようなときでもひとりでかばってくれたり。親だったらみんなそうなのかもしれないけど、いつも「あなただったら出来るよ」って言ってくれて、信じてくれた人だった。だから、そういう人がいなくなってしまったのはすごく寂しい。
- 初期BY PHAR THE DOPEST時代も含めると30年近いキャリアがあるわけで、これまで良いことも悪いこともいろいろあったと思いますが、KREVAさんは自分に関わるネガティヴな感情や話をあまり公にしてきてなかったと思うんです。基本的にはイケイケな自分を見せてきた。今作『Project K』ではリリックの端々で苦しかった心境や状況が窺えます。
KREVA - どこかに所属していたら、矢が降り注いできたときに受け止めてくれる屋根のようなものがあったりするけど、独立したらそれもないし、実際ひとりだったからね。そこのプレッシャーもあったね。

- KREVAさんにとって、クリエイティヴな作業を行なう/クリエイティヴであること自体が自身のアイデンティティ、みたいな部分もあると思うんですが、そういったクリエイティヴなプロセスがプライベートでの苦しい状況において、より救いとして機能したのではないかと、今作を聴いて感じました。
KREVA - 正にそうだね。"No Limit"とかは「スピード出したい」って曲ではなくて、「クリエイティヴィティの限界にチャレンジしろ」って自分自身に言ってる曲で。今、言われたように、実際に途中で辛いときが来て。辞めようとは思わなかったけど「どうすればいいの? これ」みたいなときがあっても、そういうときも……ひたすらやり続けたね(笑)。ただ、ひたすらスタジオに入った。で、それを全部出していくという。そのスタンスをヒップホップ的と言う人もいるのかもしれないけど、ヒップホップがどうとかでもないよね。「創造とは?」みたいな。
- 修行感ありますもんね、今作(笑)。ひたすらミット打ちしてる、みたいな。
KREVA -「組手」みたいな。しかも、今まで戦ってきたような相手じゃなくて、目をつぶって「全・自分との戦い」。それをやめた瞬間、終わりなんだよね、多分。
- 前半と後半でいろんな起伏や流れはありますけど、基本的には結構アッパーなアルバムだと思いました。細かいところは置いておいて、パッと聴きの印象としては『SPACE』(2013年)に近いな、と。
KREVA - そうだね。あのアルバムもひとりで作ったしね。
- メンタル的な部分では『SPACE』とは違うと思うのですが。今作は全曲で自らを奮い立たせようとしている。自分にかかるウェイトが増えたことに対するプレッシャーや環境の変化によって「改めて上げていこう」的な気合いがそうさせたのかな? と思ったのですが。
KREVA - 確かに。あと、この3年の間にOZROSAURUSの"Players' Player feat. KREVA"もあったし、King & Princeの"ichiban"をプロデュースした経験も影響したかもしれない。「やればやれる」というか。
- 「やればやれる」というのは、しんどいときでも自分のスキルを使えばちゃんと形にできる、ということですか?
KREVA - ちゃんと向き合ってやれば。"Players' Player"で「答え」を出すって、ないじゃん(笑)? 俺とMACCHOとZORNしか持ってない答え、みたいな。多分ZORNには俺もMACCHOの気持ちも全部は分からないと思うしさ。でも、ちゃんと向き合って作ったらみんなちゃんと反応してくれた。King & Princeの曲の場合は、「そのスケジュールで曲を作るの? しかも、アイドル・グループの?」って最初は思って。最初に提出した曲に対して「これじゃない」って言われたりもしたんだけど、それでも作って出したらああいう形になった。そういうことを経てきて生まれた自信は、向き合ってやり続けたからこそ出来た。そういう経験もデカかったかもね。お題を与えられたっていう経験はデカくて、例えば"TradeMark"は『Shibuya StreetDance Week 2023』に楽曲提供の依頼を受けて、THE D SoraKiっていうRedBullのダンス・バトルで世界チャンプになったダンサーと一緒にやることになったんだけど、彼にスタジオに来てもらってダンサー感覚でビートを選んでもらった。ちょっとだけどダンスやDJを経験したことがある立場からすると、意味が強すぎる曲ってかけづらかったりするじゃん?
- サビ連呼系の分かりやすい曲の方がフロア受けが良かったりはしますよね。
KREVA - でも、今の俺はクラブ・シーンにいるわけではないから、今やることじゃないな、と。それでもダンサーが踊れる曲となったら、意味を超えた言葉量、圧倒的な韻の量とスピード感でいくしかないな、って思って"TradeMark”みたいなとんでもない質量のラップを書いた。"ラッセーラ"も青森市のダンス・プロジェクトから来た話で。子どもの頃から聴いていたねぶた祭りの祭り囃子にコード進行を付けるとか、それまで考えもしなかったことだし、昔の自分だったら絶対に出来ていなかったと思うけど、いろんな曲を作ってきたからこそ「イケるな」と思ってトライしてみたり。そういう経験があったから勢いのある曲たちが出来たんだと思う。
- 客演やプロデュースなど、外部のアーティストと関わることも多かったここ数年ですが、そういった交流が影響を与えている部分はありますか?
KREVA - ZORNと出会って以降は韻のハードルが爆上がりしたというのはあるね。昔のアルバムみたいなスペシャル・サンクス欄が今作にあるのだとしたら絶対ZORNとAKLOは入れたいかな。みんなソロのラッパーだし、ひとりで戦っていく中で多かれ少なかれ歌詞が書けない時期を経験してて、俺も〆切に追われてるときとかに3人で話していろいろ意見をもらった。その意見をそのままやったわけではないけど、トップ・ラッパーたちとそういうことを共有できたのはデカかった。ZORNには曲が出来たら送ったりとかして、どこに反応するのか見たり。

- ZORNとAKLOと言えば、今作では彼らのプロデュース・ワークでも知られるBACHLOGICがミックス/プロデュースの両面で大きく関与していますね。
KREVA - 前作『LOOP END / LOOP START』(2021年)でもほとんど全曲を彼にミックスしてもらってて、今回はプロデュースもお願いしよう、と。(BACHLOGICがプロデュースした)"口から今、心。"は、「口」「今」「心」って字を合わせると「唸(る)」になるってことを思いついた瞬間、これで曲に出来ると思ったんだけど、自分が作って持ってたトラックにはそのテーマにフィットするものがなかったからBLに頼んで。そしたらとんでもない数のトラックが送られてきてさ。150曲ぐらい……震えたね、ホントに(笑)。
- これまでも自身名義の曲や客演曲まで、BACHLOGICと作業することが多かったと思いますが、改めて彼の仕事のどんなところに惹かれているんでしょうか?
KREVA - 意外と会って一緒に作業したことはないんだよね。基本、データのやり取りだし、今回もそう。でも、自分が「こんな感じにしたい」って思ってて、BLも「こういうふうにしたい」って提案が来たとき、その考えのズレがほとんどないんだよね。同じようなヒップホップを聴いてきた同士の感覚というか。
- ミキシング・エンジニアとしてのBACHLOGICサウンドの魅力は?
KREVA - ラップを中心に置けることじゃないかな。ミックス作業をしていく上で一番難しいのってやっぱりヴォーカル(の処理)なのは間違いないから。ヴォーカルにちょっとかけるディレイの感じとか、その辺の細かい処理は本当に上手い。良い意味で声をひとつの「素材」として捉えてくれるんだよね。
- 他メディアでのインタビューなどでも既に語られてきていることですが、今作を含め近年のKREVAさんの制作工程において、AIの活用というのが大きなキーワードとなっているようですね。実際、音楽制作の現場でも近年最もホットなトピックのひとつです。具体的に挙げるとミックスやマスタリング作業の補助的な機能/サービスから生成AIで音源を作成するサービスまで、その活用法は多岐に渡ります。
KREVA - 今挙げてくれたような使い方、そのままです。みんな、「音楽でAI」って話になるとまず「AIが曲を作ってくれるんじゃね?」みたいに思いがちだけど、実生活に喩えるとお掃除ロボットの普及に近いものがあると思ってるんだ。あれも出てきた当初は「これ、使う?」みたいな感じだったけど、今は普通に使われてるじゃん? で、普通にちゃんと掃除してくれる。写真アプリとかでも画質をキレイにしてくれたりする。 ああいう感じのことを音楽でもやってくれるんだ。俺はAIに関してはポジティヴに考えてる。音の要らない部分を提案してくれて切り取ってくれるって、クリエイターにとっては難しい部分だったりする。作っていくうちに、どうしても音を重ねすぎていってしまうものだから。そういった部分でまずはAIに対してポジティヴに接していたんだけど、そのうち生成AIもどんどん進化してきて、自分の声を入れたら別人の声に変えてくれる、みたいなサイトも出てきた。世の中が懸念していることって、こういう技術を使って作った曲を「自分が作った(オリジナルの)曲だ」って言い出しちゃう人が出てくるってことだと思うんだけど、俺は「(AIを使って)素材を作ればいいんじゃん!」って思った。「サンプリングしたい素材をAIに作らせて、それをサンプリングしても作ってるのは俺じゃん」って。カレー粉は買ってきたけどカレーにしたのは俺、みたいな。そういう感じならイケるんじゃないか? って思ってプロンプトの打ち方とかを工夫したら、「だいぶAIは、勉強してるな」というのが分かってきた。例えば「ジャズ」ってキーワードを入力するとする。 そのときに「60年代」みたいな年代を指定すると、ものすごく(各音が)左右にパンされてるんだ」
- ステレオ登場初期のレコードによくあるミックスですね(笑)。
KREVA - 左にはドラムだけ、右にはギター、みたいな。アイツらはそういう感じで表現すればそれっぽくなる、ってことまで分かってるんだよね。そこで、「ここまで来たか」と思って俺的なゴー・サインが出て、そこからいろいろ遊びだして。AIが提案してくれる曲っていうのは、俺にとってものすごい刺激だった。しかも、それをサンプリングできて、チョップ/フリップするお題を与えてくれるし、こちらの願いも叶えてくれる。最高じゃん! って。
- 具体例を挙げると"口から今、心。"で使われている声ネタはAI生成で作られたんですよね?
KREVA - そう。BLが最初にレファレンスで某ヒップホップ・クラシックの声ネタを入れてきて。BLからは「こんな感じでフレーズを入れてるけど、KREVAさんの曲から歌詞に合うフレーズを選んでもいいですよ」って言われて、自分の曲を聴き返してみたんだけど、オールド・スクール・ヒップホップをサンプリングした音を聴いちゃうと、そういう音の方が良くなってきちゃうんだよね。だから、まず「口から今、心。」って日本語をAIに英訳させて、そしたら「Fresh out of my mouth」みたいなフレーズが出てきたから、更に音源生成AIで「80年代後半」とか「バトル・ラップ」みたいに、丁寧にプロンプトを入力してガチャを引いたら出て来た。更に俺は「クイーンズっぽいフロウで」とかも書いたんだけど、最初は「クイーン」に反応してフィメール・ラッパーの声が出て来たりして。そうこうして出来たフレーズをBLに渡したら、彼の方で音程とか直してくれて着地した。同じような手法の曲がいくつかあるとアルバムとしてのまとまりが良くなるというのがあると思うんだよね。例えばスクラッチが入ってる曲がいくつかあるとか。“IWAOU”ではサンプリングしたくなるようなオールド・スクール・ヒップホップを生成してみてたときに、"口から今、心。"でやったような歌詞の指定はしないで作っていたら、この曲の「I break free and celebrate!」ってフレーズが出て来たんだ。そこから「自由になって自分を祝う」っていうサビのテーマにして作ったね。
- 他の曲で実際に実践したAI活用法はありますか?
KREVA - "Knock"は、自分の声を白人女性シンガー/黒人男性シンガー/男性ハードロック・シンガーみたいに変えられるソフトがあって、それを15人分、自分で歌い直して一個にまとめることで、大人数でスタジオに入って録ったみたいな声が出来るな、と思ってやってみた。"New Phase"では、自分が欲しいサンプリング・ネタが出てくるまでガチャを引き続けて出したフレーズをサンプリングしてるね。具体的なジャンルとかじゃなくて「メランコリック」とか、心象的なプロンプトを入力して辿り着いたサンプルをチョップ/フリップして作ったフレーズが使われてる。あと、今作じゃないんだけど、ANARCHYの"September 2nd"をプロデュースしたときに「俺、AI使うのめちゃくちゃ上手い」って思った。ANARCHYが「みんなに届く曲を作りたい」って俺のところに来てくれたんだけど、彼から歌詞をもらって、それを見た上で音とメロディを付ける、っていう作り方でやろうと思ったんだ。それで、ANARCHYから来た歌詞に俺が手直ししたものをAIに英訳させて、その歌詞を使って70年代のソウルみたいな音源をAI生成させたら、それがドンピシャで。ANARCHYと俺で作ったメロと歌詞にもピッタリハマるネタが出てきたんだ。JUST BLAZEとかDIPSET周りが2000年代前半によくやってた、イントロにサンプリングネタのフレーズが流れてから同じネタをチョップしたビートが流れる、みたいな構成。アレの無料版を俺は完成させてしまった、と(笑)。しかも、ANARCHYが書いた歌詞を翻訳した歌詞で歌ってるから、内容も完全にリンクしてる。これはゲーム・チェンジャーだ!と。そこから自分の作品にもAIをどんどん活用するようになったんだよね。
- KREVAさんがポジティヴなスタンスでAIを活用されているのはよく分かったのですが、一方で音楽やクリエイティヴ・ワークの分野でAIを使うことに関する是非はいまだに議論され続けてもいます。KREVAさんの中で「パンドラの箱を開けてしまった」と感じたことはないですか?
KREVA - ないなぁ。もっと早くみんなも使うようにならないかな、とさえ思ってる。iPhoneユーザーの人は分かると思うけど、写真アプリが加速度的に進化していて、アプリ上で旅行の写真だけをまとめて音楽を付けたりするようになってるよね? 近いうちにその音楽を自分でAI生成できる時代も来ると思うんだ。
- AIに関して否定的なスタンスの人の多くは、AIが人間の活動の大部分をテイクオーバーしてしまう、という点を危惧している部分もあると思うのですが、KREVAさんはAIがいくら発展しても人間が持つクリエイティヴィティへの信頼があって、AIの上に自分がいるという主従関係が明確だからこそ、積極的にAIを取り入れることが出来るのかな、と思いました。
KREVA - 数学者みたいな人がテレビで「計算なんか出来なくていい。必要なのは計算機を上手く使える人」って話してて、それを数学者が言うのってスゲェな、って思ったんだ。計算が出来ないからって止まる必要がない時代になってきてる。でも、だからって計算が出来ないのに数学の世界に入れるわけではない。何かをやる上で躊躇してしまう原因になってるものを簡単に取り払うことが出来るのなら、それはどんどん使ったほうがいいと思うんだ。俺みたいに、ラップもビートも、あらゆることをやってるヤツって今の業界にほとんどいないと思うんだけど、そういう人間からするとAIの存在はスゲェ助かる。だから、ポジティヴな部分がネガティヴな要素を完全に上回ってるね。
- 逆に、かつて行なっていたような、苦労してディグしたレコードから一音だけサンプリングするような行為が愛おしくなったりはしないですか(笑)?
KREVA - 昔のやり方は、別に不便さを求めてたわけじゃなくて、偶発性やジャケ買いした安いレコードに良いネタが入ってて最高、みたいな感じだったからね。AIでもそうじゃなくても、ストレートに自分で弾いたフレーズから作るんじゃなくて、一回用意されたフレーズをサンプリングして、自分の力で聴きたい音に近づけるという、軽い遠回りが良いんだよ。AIでネタを作る行為も、プロンプトの書き方を工夫するとか、だいぶ遠回りはしてるんだよね。だから、感覚的には昔とそんなに変わらない。新時代のディグというか。AI過渡期だからこその、生成された音源の音質の悪さとか、エモいとさえ思ってるからね(笑)。昔、ネットでダウンロードして聴いてたミックステープによく入ってたような、「これ、絶対ミックス前の音源使ってるだろ」みたいな音質の音源でもカッコ良いのがあったじゃん? それに近いエモさ。
- 独立されたということは、前の事務所内にあったスタジオからも出られたということですよね?
KREVA - 前のスタジオは機材置ける場所もいっぱいあったし、スピーカーもMUSIK(ドイツのハイエンド・スピーカー・メーカー)で。あそこが俺の城だと思ってたけど、会社のお金で機材を買うと当然会社のモノになっちゃう。新たに大きいスタジオを作ることも考えたけど、まずは立地優先で考えて、事務所の中に防音室を作ってレコーディングもビートメイクもそこでやってる。振り返ると、広いクローゼットの端っこを間借りして、そこでビートを作っていた頃の感覚というか。物置みたいなところに機材を並べてその真ん中で寝ながら作っていた頃を思い出す。最近、「BACK TO BASICS」というテーマを掲げているんだけど、はからずもそうなった感じ。昔と比べると今だとそういう環境でも全然できるんだよね。でも、ひとりで制作する分にはそれでもいいけどみんなとは(コラボレーションが)出来ないから、いずれはもっと大きいスタジオにはしたいけどね。
- 音楽制作をPC+ソフトウェア中心の環境で行なうことを「IN THE BOX」と表現しますが、スタジオがコンパクトになったことで制作環境も当然変わりますよね?
KREVA - そう。だから新しいスタジオを「BOX IN BOX STUDIO」って名前にしたんだよね。マスタリング作業で使うような良いスピーカーで音を鳴らし放題で作れる環境って果たして良いのかな? って、昨今のイヤホン中心のリスニング環境とかを考えたら思っちゃったかな。ライヴでの鳴りを確認するために大きい音を鳴らすのにはハイエンドで大きいスピーカーが最適なんだけど、制作の時点ではニアフィールド・スピーカーでもいけるな、って感覚はあるかな。オーディオ・インターフェイスも以前はAVID PRO TOOLS HDXだったけど、今はUAD APOLLOに変えた。プロ仕様だけどみんな使ってるモノにしたね。
- 環境が激変した2024年でソロ・デビュー20周年を迎えられたわけですよね。ちなみに、“TradeMark”ではソロ・デビュー・シングル「希望の炎」の曲名がフレーズで使われていますが、これは意識的な引用ですか?
KREVA - 意識してない、ということでもないね。今年の6月までが20周年イヤーなんだけど、その期間内にリリースされたらいいな、っていう気持ちもあったかもしれない。
- 「新人クレバ」から20年経ち「新人社長クレバ」となったわけですが、これまでの20年を踏まえた上でこれからの20年、KREVAさんはどう進んでいくと思いますか?
KREVA - そうだねえ……。
- 20年後となると60歳台ですもんね(笑)。その頃にラップしてるイメージはありますか?
KREVA - いや、ない。でも、音楽はやってると思う。そんな甘くないでしょ、ラップ。体力的にも。この20年の間に起きたあらゆる価値観の変化みたいなのも考えると、そんな簡単じゃないと思うな。
- フィジカル面が衰えたとしても、長年の経験によって上手くなる部分もあるでしょうから、その年齢なりのラップ表現というのもあるのでは? と思ったのですが。
KREVA - 俺にとって、ヒップホップで一番良いのはいつも一番新しいモノなんだ。昔のことにこだわればこだわるほど、ただの古いヤツになっていっちゃうし、そのスキル・アジャストができないヤツはただの懐古主義で終わってっちゃう。「(流行が)一周したな」って思ったときも、昔やってたことをそのままやってもダメだと思うんだよね。 その感覚を向こう20年もずっと続けるのは、これまでの20年でやってきたことを考えると異常にエグいと思う。「ファンキー」って概念も消えつつあるし、「フリーキー」もなくなってきてるよね。
- これまでのKREVAさんの音楽に対するスタンスを考えると、必然的に歳を重ねたらどうしても相容れない部分が出てきてしまう、と。
KREVA - そこに固執しすぎるとね。じゃあ、今やってることをそのままやっていけばいいのか、って言ってもまず出来ないし、上手く出来たとしてもキモいかも(笑)。今までやってきたことを無駄にしないで今後に活かす力を保ち続けるのはなかなか厳しいと思うから、どこかで退いたほうがいいのかな、っていう時は来るんじゃない?
- でも、それは向こう1~2年とか近い将来の話ではないですもんね?
KREVA - そうだね。だけど、向こう1~2年は「出し切ったなー」って思えるぐらい、しっかり頑張っていかないとダメだな、と思ってる。

Info
KREVA - 『Project K』
- No Limit (1/24先行配信SG)/
- ⼝から今、⼼。 (Track Produced by BACHLOGIC)
- TradeMark (ストリートダンスイベント「Shibuya StreetDance Week 2023」テーマソン
グ) - IWAOU
- ラッセーラ
- Project K Interlude
- Knock
- Forever Student
9.Expert(「BYD」 SUV「ATTO 3」TV-CM ソング) - 次会う時
- New Phase