議員に立候補した元ラッパーの過去のリリックが問題に
楽曲の中で政治的な主張を行うラッパーはコンシャスラッパーと呼ばれ、ヒップホップシーンに数多く存在している。しかし、もしもそのようなアーティストが政治家を目指して活動する場合、過去の楽曲の内容が問題になってしまうこともあるようだ。
ニューヨーク州の都市スケネクタディ出身のAntonio Delgadoはニューヨーク19区の議員に立候補している。Delgadoが選挙活動を続けてゆく中で、彼がかつてラッパーとして活動していた際のリリックが議論の対象になっているという。
10年以上前にラッパーAD the Voiceとして知られていたDelgadoは2006年にアルバム『Painfully Free』をリリースしており、そこには人種差別や経済的不平等、アメリカの奴隷制の歴史をテーマにした楽曲が収録されていた。
それらの楽曲にはNワードが頻繁に使用されている他、白人至上主義や過去の大統領、ハリケーンカトリーナへの政府の対応やアメリカの二大政党制に対する批判も含まれている(ちなみに『Painfully Free』は現在廃盤になってしまっているが、彼のシングル集『Maxi-Single』は今でもSpotifyやApple Musicなどのストリーミングサービス上で聴くことが出来る)。
共和党からの対立候補であるJohn Fasoは、それらのリリックを「攻撃的かつ物議を醸すもの」であるとして激しい批判を浴びせている。New York Timesの取材に対して、Fasoは「彼の歌詞の内容はニューヨーク19区の多くの住人たちの考え方と一致するものではない。19区の人々はこの国の正しい姿を代表しているからだ。Delgado氏のリリックはアメリカを醜く、間違った形で描写している」とDelgadoのラップが不適切なものであることを訴えた。
これらの批判に対し、同じくNew York Timesの取材を受けたDelgadoは「ラップと政治は文脈もやり方も違うが、それでも俺は同じ内容を訴え続けている。収入格差やジェンダーの問題、環境汚染や気象の変化…。これらは全て俺がアーティストとして歌ってきたことで、そして今候補者として話していることだ」と自身の主張を曲げる意思は無いことを語っている。
AD the Voiceの楽曲は今のアメリカと共通する問題がテーマのコンシャスなものであり、例え過激な表現が含まれていたとしても「アメリカの間違った姿を描写している」との批判には首を傾げざるを得ない。John Fasoはフードスタンプなどの福祉を厳しくカットするような公約を掲げているというが、対するDelgadoはヘルスケアや教育、環境保護の促進を訴えているそうだ。ラッパー出身のリベラルな政治家が選挙に勝利することを望む者は少なくないだろう。