【インタビュー】JJJ 『MAKTUB』| ださいって分かってるからこそ振り切れるかっこよさがある

JJJが5月にリリースした3rdアルバム『MAKTUB』。この待望のアルバムが、大傑作であることは言うまでもない。精神的に過酷な時期を経て制作された本作は、痛みや弱さなどをはじめとしたJJJのパーソナルであり率直なリリック、そしてスムーズであり強度を増したフロウが、多彩かつシンプルなサウンドの上に乗っている。

今回のインタビューでは、JJJが本作にどのように向き合っていったのかを音楽的な側面を中心に語ってもらった。

取材・構成 : 和田哲郎

撮影 : Daiki Miura

 - 音楽を作りたい気持ちはずっとあったんですね。

JJJ - ありました、もちろん。誰にも言ってはいなかったんですけど、そのすごい病んでたときに、本当に死んでやろうって思って、次のライブで最後にしようと考えてて、このイベント終わって家帰ったらもう俺も終わってしまおうって考えてました。今だったら本当に笑える話なんですけど。

 - それは具体的には何年ぐらいですか。

JJJ - 2021年の『XROSS CULTURE』っていう名古屋のイベントに呼んでもらった時です。佐々木と井坂さん(担当ディレクター)と車で行ったとき。コロナ禍だけどライブが久しぶりにできるというので、覚えてる。本当に誰にも会いたくなかったんですけど、何故かライブオファーを受けてしまって、久しぶりに家から出た日だった。でもその東京から名古屋までの車で佐々木がめっちゃ話してくれて。本当に久しぶりに沢山笑ったのを覚えてます。

 - その時期くらいから、ちょっと変わっていった部分っていうのが。

JJJ - そうですね。マインドが全然前向きになったっていうか。こういうこともぶっちゃけてラップにすればいいんだって。つらいとかそういうことを、今までは回りくどく言ってたんですけど、それをもうちょっとストレートに全然言っていいんだなみたいな、と思った気がします。あと、どうせ死ぬなら口座の金全部使おうって思って使ってたら、本当にめっちゃ楽しくなっちゃって。本当に全てが馬鹿らしくなって、そういう事も考えなくなりました。馬鹿だったし弱かったなと思います。

 - 今作のリリックは『HIKARI』よりも感情の直接的な部分だったり、あと具体的な光景みたいなものがすごい増えたんじゃないかなと思っていて。

JJJ - 確かに。前のApple Musicのインタビューでも言ったかもしれないですけど、目に見えたものをそのまま歌うのがいいなって思ったし、それが今のラップのトレンドにも近いなって思って。例えば今俺はこういうことをしているみたいな、今、目の前には水があってその横で携帯を充電している、みたいなそういうことをただラップにするだけ。すごいプライベートな表現じゃないですか。そんなこと言われても聴いてる側は全然意味分からないけど、でもそれがかっこいいなっていうか、密室で行われてることをただ淡々と自分でしゃべってラップする。更にそこに比喩表現だったり自問自答だったりが入ったり。思ってたことをしゃべってたらそれがラップになってたみたいな。それがうまくできるようになった気がします。

 - あとはラップのフロウも変わりましたよね。

JJJ - そうですね。

 - 『HIKARI』のときはもう少し、アクセントの強弱がすごく明確にあったと思うんですけど。それがよりフラットに、でもすごい音楽としての聴き心地がすごいキープされてるなと。

JJJ - なんか昔はもっとフロウがかくかくしてたんですけどね。今はもっと波みたいにスムーズになってる。自分が思うグルーヴに言葉数が合う日本語を見付けるのが、しゃべっててうまくなったのかなと思いますけどね、ラップ。

 - フロウの変化には、意識的に取り組んだ?

JJJ - 意識的に取り組んでたわけじゃないんですけど、ラップってやったらやっただけ上手くなるものだから、多分単純にラップがうまくなったのかな。

 - ちょっと戻るんですが、今ある事実をラップしてると言ってましたが、JJJさんの場合って1曲で一つの光景を言うんじゃなくて、断片的に他のものと、他の出来事とつながってくのが特徴的で。例えば映画だとしたらどんどんいろんな場所のショットが連続的に流れてくるみたいな印象があって。

JJJ - 昨日たまたまウォン・カーウァイのインタビューの動画を見てたんですけど、似てるなって思って。インタビューでウォン・カーウァイは撮りながらフリースタイルで作品を作る時があるって言ってて。だから撮ってる間に話も当初と全然変わってくるし、トニー・レオンが『ブエノスアイレス』っていう映画で、最初はゲイの役ではなかったのに、「君、明日からゲイの役になります」ってことを言われたり。主人公が1人じゃないから、視点もころころ変わってくから。そういう感じと似てるのかなと思いました。

 - 歌詞を書いてるうちに、そういう視点の切り替わりが自然に思い浮かんでくる?

JJJ - 思い浮かびますね。一つのことをずっとやってるのが、やっぱり苦手なんで。自分の歌詞は連想ゲームに近い。それで、その語尾とこれがつながってるから違うところに飛んでくみたいな。このスタイルはラップを始めた時から今までずっと変わらないですね。

 - JJJさんが自分で経験したことと、あとゲームの中の出来事までも全部フラットにつながってるみたいな感じがあって。ゲームの中の光景も、バーチャルな出来事というより、すごいリアルに書いてる感じがするんですよね。

JJJ - 言われてみたらそうかもしれないですね。ゲームやってるときも、ゲームやってるっていうよりか、自分は入り込んでしまうタイプで、そこで生活しちゃうみたいな。『Red Dead Redemption 2』とか『Cyberpunk 2077』はかなり入り込んでしまったし衝撃の面白さでした。

 - 一つの曲の中に、色々なことが連想されてく中でも共通の感情がしっかりあるからこそ、自分たちはJJJさんの体験を共有してないけど入ってくるのかなと思いますね。

JJJ - 確かに。でも、なんで入ってくるんですかね。俺は自分の曲だから、なんで入るのか分からないけど。あんまり他人にこう思われたいとかは思って書いてなくて。みんな辛いのは一緒だし。俺とは全然違う辛い思いをしてる、もしくはそれ以上にみんな苦しんでるから。そんな人にそういうふうに入ってるのかなっていうのは、たまにありますけど。このアルバムを出してからすごい長文の悩みのDMが来たりとかして、でも俺カウンセラーでもセラピーでもないからなんとも言えないんですけど。自分はただ自然に全てを表現したいし、等身大でいたいです。変に自分をでかく見せることもしたくない。

 - 曲が作れるようになった前と後でそれぞれ作ってた曲があると思うんですけど、後半のほうに作ったものって。

JJJ - "U"っていう曲が一番最後に作ってて。"Oneluv"もそうだし。"Oneluv"も"Voyage"の撮影が終わってから出来たし、"Mihara"もそうだし、結構、ほぼそのときにばあってできた気がするんです。"MAKTUB"っていう曲も自分のバースができたのはそのときだったし。そんな感じだと思います。

 - じゃあ他の曲は結構苦しかったときにできてた。

JJJ - そうですね。"Jiga"を作った後は結構できたような気がするな。そのときに、誰かをとかそういうわけじゃないんですけど、本当にぶち殺してえみたいなときに、そういう感情を言ったらもうそれがふわって消えて、その後は自分の感情を、うまく言葉をコントロールできるようになってきました。"Beautiful Mind"とかは結構前からあったんですけど。

 - "Scav"は、ガラージっぽいテイストじゃないですか。やっぱり前作と違う部分でいうと、UKの乗りが大きいと思ってるんですけど、もともとUKの音楽を聴くきっかけになったこととかってあるんですか。

JJJ - きっかけはJ Husですかね。全然UKっぽくないビートの”Common Sense”だったんですけど、でも今になればあれはめっちゃUKの人は好きなんだろうなと思うんだけど、この人がUKの人だってそのときは知らなくて。

 - 普通にビートはヒップホップっぽいですね。

JJJ - そうですね。どんどんそれを追っていったら、ガラージとかそういうのに繋がってってみたいな。で、Jorja Smithの”On My Mind”がばっとはやって。その年に結構どっぷりはまった気がしますね。

 - UKの音楽の面白いところを説明するとしたら。

JJJ - ラップがいなたいのにリズムがスタイリッシュだったり軽快なビートでやってる感じが好きですね。グライム、ドリル、ガラージ、2ステップとかいろんなリズムのビートがある所も魅力的ですよね。語感は日本人とちょっと似てる感覚あると思ってて。結構母音も残ってる。UKの英語は語尾が『ウォーラー』じゃなくて『ウォータ』とか言ったりとか、そういうとことかもすごい好きですね。アクセントがべとっとしてるっていうか、ごつっとしてるっていうか。声の出し方とかもすごい好きなんですよね。リリックはとてもハードだし、団地の下に集まってグライムとかドリルとかみんなでラップしてるのとかもかっこいい。もちろんukのブームバップもかっこいいし、最近だと2000年代のヒットソングサンプリングみたいなのも面白いですよね。

 - トラックの部分でいうと"Taxi"もトラックはかなり骨格だけある感じになりますよね。トラックの部分でいうと極限まで引き算されている統一感みたいのはすごくあるなと思っていて。

JJJ - 前のFNMNLのインタビューでも言ったかもしれないですけど、Noah’40’ってDrakeのプロデューサーがほんとに好きで。とても影響を受けたというか、それで行けるんだみたいなぐらいの引き算のビートでラップをしてパッケージとして出すみたいな。それがすごいかっこいいなと思って。関係ないけど、自分の1stアルバムの『Yacht Club』を、この前用事があって久しぶりに聴いてたんですけど、音数の多さが今と全然違う。否定はしないけど、今と考えてることが全然違くて面白かったです。

 - しかもドラムの乗りも変わってるのかなっていう。

JJJ - どう変わったんですかね。

 - 『HIKARI』のときのドラムはもうちょっと暴れてた感じがあったなと。今回は他のプロデューサーのトラックも使ってますけど、最小限なんだけどそれで最大の効果を生み出してるなと感じるかなっていう。

JJJ - 前は荒々しいものを作りたいというのがすごいあったんですけど、今は作るときじゃなくてミックスのときに荒くするのが好きなんで。それがちょっと違うところかもしれないですね。"Mihara"も自分でミックスしたんですけど、ミックスでどんどん嵐の中みたいにしていったみたいな感じだった。でもシンプルなものがどんどん好きになっていって、このままいったらどういうものが好きになってくるのかって思いますけどね。もちろんうるさいのも大好きですけど。自分がラップを入れるってなるとそういうの好きなんですよね。あとシンプルなほうがすごい、ライブしてるときに自分は気持ちいいんですよね。ラップが映えるというか。

 - "Eye Splice"も形としてはドリルだとは思うんですけど、かなり引いていますよね。

JJJ - noshにラップ入れたものを送ったら音を沢山入れてエディットしてくれたんですけど、エディットしてくれた部分をやっぱり全部消して、結局シンプルに戻して。そういうことをしてましたね。フックでシンセを入れまくったりするけど、ないほうがかっこいいし、今っぽい。入れるとJ-POPっぽくなる。その感じ、そのさじ加減、すごい大事だなと思いました。いらない飾りをどんどん外してく感じ。昔は自分もフックにシンセを入れるのは当たり前だし、例えば8小節目から展開を付けてフックに盛り上げて持っていくみたいな、そういうのもしない。ワンループでかっこいいのでいく。みたいなのをやるようになりましたね。自然体なものが好きなんですよね。

 - 等身大というところとつながる。

JJJ - そうですね。

 - 前までだと、ラウドなギターがシグネチャーだったと思うんですけど。

JJJ - 確かに。

 - それが今作は鍵盤に変わってきてるのかなっていう。

JJJ - 確かに。単純にそういう音楽を聴かなくなったのかなっていうのがありますけど、自分が。それで昔はめちゃくちゃ上がってたのに、今は全然上がらなくなったって、それだけかもしれない。

 - ちなみに最近よく聴いてるものとかってありますか。

JJJ - 最近よく聴いてるもの。悩むな。サンプルソースは常にディグっていますね。André 3000の新しいやつとか。Andre3000ラップもクソやばいけど、音もすごい次元行ったなと。あとあいつにめちゃめちゃはまったんですよね。フランスのラッパーのFreeze Corleone。

 - ストーリーに上げてました?

JJJ - 上げてました。多分最近で一番影響を受けてるぐらい。フランス語であんな語感聞いたことないしすげえ響きとかかっこよくて、そこにめちゃめちゃ影響を受けましたね。『MAKTUB』作り終わるぐらいでどんどんはまり出してはいたんですけど。リリックも翻訳して調べたりしてたんですけど、結構思想強くてあんまり言えないけど。とにかくラップがかっこいい。『LMF』ってアルバムがすごく好きです。Flemって人がアルバムのビートをほぼ作ってるんですけど本当にピアノの音が冷たくてかっこいい。今年に出たアルバムに入ってた"Shavkat"って曲もめっちゃかっこよかった。

 - ちなみに長期間だとは思うんですが『MAKTUB』作ってるとき、よく聴いてたなというのは

JJJ - よく聴いてたのはあれですね。吉田美奈子の『扉の冬』。好き過ぎてレコードも買ったんですけど。歌詞がめっちゃ寂しい。多分ほんとに一番聞いてたかもしれないです。あと、タイトルが冬の扉じゃなくて、扉の冬ってとこが、おこがましいんですけど自分っぽい言い方してるなって思いました。あと"Eye Splice"でも言ってるんですけどKacy Hillの"I Believe In You"っていう曲もめっちゃ聴いてました。どっちも走るときに聴いてた。

 - 走る日課はまだ続けてるんですか。

JJJ - 最近は忙しくてできてないですけど、ライブ前日とかは時間あったら確実に走ってます。最近何聴いてるんですか。

 - 最近何聴いてるかな。

JJJ - きょうは何聴いて来たんですか。

 - きょうはもう『MAKTUB』しか聴いてないです。

JJJ - 『MAKTUB』だったら何が好きなんですか、ワダさん。俺は"Mihara"なんですよね。"Mihara"か"Something"がすごい好き。

 - "July"がビートもすごい好きだしsogummのボーカルとのバランスとかもすごい、しっとりしてるんだけど抜けがあってすごい好きだなって。

JJJ - 確かに。不思議な曲っすよね、あれ。

 - あと"U"が。

JJJ - ああ、"U"、好きなんですか。

 - 最近すごい好きになりました。

JJJ - ありがとうございます。

 - Jさんがフックで歌ってるのもすごいいいし、でもそうあるべき曲だよなっていうか。

JJJ - 良かった。あの曲は別にそんなテーマにするつもりはなかったんですけど、C.O.S.A.君がそういうふうに言ってくれたから。今の自分の大事な人みたいな、そういうのを思い浮かべて書いてたんですけど。

 - 最初聴いたときはこういう曲も入ってるんだって思ったけど、いろいろつじつまが合ってくるとすごいいいなって思うようになった。

JJJ - 言ったらラブソングじゃないですか。ラブソングにできたのは、いいな。いい経験だなと思ってた。

 - しかもこの曲は本当にその日のことだけをすごく正直に歌ってる曲なので、これまでのJさんの中にないものだなって。

JJJ - そうですね。

 - それがすごく新鮮に感じますね。

JJJ - 良かったです。俺もめっちゃ気に入ってました。今も気に入ってます。

 - あと今作、"Mihara"も代表的ですけど、いろんな地名、例えば塩浜って何回か出てくると。あれって福岡のことなんですか。

JJJ - いや、全然。実家がある川崎市川崎区塩浜っていうローカルな地名。

- そうなんですね。塩浜っていう地名検索すると福岡にもあるし千葉にもあって。

JJJ - ここで言っときます。地元です。

- 福岡でSCRATCH NICEさんと合宿もしたって言ってたんで。

JJJ - "Something"のビートを作ったんですよね。

 - そこと近かったんです塩浜っていう所。

JJJ - "Something"作ってたときもすげえ面白くて。その話、あんまりしてなかったんですけど、福岡の志賀島に、"Mihara"でスクラッチを最後に入れてくれた福岡のDJ SHOEくんと福岡のフォトグラファーのカヨさんがエアビーですごいコテージ借りてくれて。ほんとにピッて押したら窓が全部開いて、外は全部海みたいなすごい場所。そこでみんなでビート作ったりして、夜は適当に窓を、ただバッて開けて砂浜歩いて空を見てたら流れ星が落ちてくるみたいな。そういう非日常的なところで、誰かのこと考えたり、自分の行いを見つめ直したり、そういう気持ちをそのまま歌詞に書けたから、すごい嬉しかったし良い経験でした。

 - そういういつもと違う場所に行く、"July"もそういう曲だと思いますし、移動することもインスピレーションになる。

JJJ - 昔から自分はそうで。井坂さんにもすごい、めちゃくちゃわがまま言ってMV撮影とかでもいろんな所に行ったりして。ビデオで撮影行ったときにもビートとか作ったりして、そういう時のビートはすごいいいし、ちょっと違うんですよね。何でか分からないですけどね。雰囲気がそうさせてるのかもしれないし、他の場所で、場所を変えて作るっていうのはすごい大事なことだと思います。

 - しかもリリックとかでも視点の移動みたいな形で、例えば対馬のこととかが出てきたりみたいな、それってその体験をしたときにこれはリリックにしようみたいに思うのか。書いてる時に急に思い出すのかどちらでしょうか?

JJJ - どっちもあるんですけど、メモしてます。リリックっぽい言葉が出てきたなとかそういうときは、携帯にぱあってメモしたりとか、そのときにある紙とかに書いたりしたりとか。歌詞だけじゃなくて、思ったこととかをそのままの言葉で書いたりしてます。昔はそういうの気持ちわりいなとか思ってたんですけど、今はどんどん書いてます。

 - その習慣はいつぐらいから。

JJJ - いつぐらいからだろう。分かんないですけど、でも自分の気持ち、リリックじゃなくて気持ちの方を書くようになったのは本当最近だと思うんですけどね。あとインタビューごっこみたいな妄想も好きなんですね。

- そうなんですか。

JJJ - 寝れないときに自分で自分のインタビューを妄想でしてくんですよ。それで自分の気持ちを確認するみたいな。ラッパーでやってるやつ多いと思うんだけどな。言わないだけで。ラッパーってリリックの意味聞かれると喜ぶじゃないですか。それに近い。

 - ちなみに今作の中でJさんが、このリリックは個人的にすごく気に入ってるバースってどこですか?

JJJ - いっぱいあるんですよね。"July"の「誰にも見向きされず、宝はそうやってあるものだと知る」っていうのは好きです。光り輝いてるようなものじゃなくて、日常の隅っこに置いてあったようなものが案外宝物みたいなものだったみたいな。後は"Oneluv"はリリック全体的に好きですね。自分の過去のパーソナルな事とか、家族のこととか、大事な人にシャウトを送れたから。渋滞してる時に、窓の外の隣の車に乗ってる子供が泣いてて、その瞬間に自分の子供のことがふっと頭によぎったり、そんな不意の名前もないような感情みたいな。そういう気持ちをリリックにできた。あと最近、ガザのこととかニュースを見てて、それも"July"なんですけど、「祭りの裏genocide」ってリリックがあるんですけど、そういうところはすごい思い出しますね、自分で。すげえ、俺は今こんだけ好き勝手に動いて生きてるけど、祭りみたいにやってる裏ではそういうことが世界では沢山起きているのが現実だから。駆け抜けるんだったら中途半端にやっちゃ駄目だなって強く思いました。

 - これも聞きたかったことなんですけど、この作品がすごくリアルだなって思うのは、そういう常に地獄とかhellみたいな言葉がすごく多いじゃないですか。それが今の社会とすごく接続しちゃってるのかなと。Jさんの中ではすごくパーソナルな感情として出てるものだとは思うんですけど。

JJJ - 何て言ったらいいか分からないけど、マインド的に苦しんでる人はすげえ多いっすよね。さっきも言ったけど、生きていればみんな辛い。病みながらぶち上っちゃってるやつとか見ちゃったりとかして、そんな姿をSNSで拡散させて面白がってみたいな。そういう連鎖は多いと思いますね。YouTuberとか見てると、どんどん頭おかしくなっていくな、みたいな。何て言ったらいいのか分からないけど、この国だって、この世界だってここからどうなってくかは分からないじゃないですか。だから、この楽しいのがずっと続くわけないし、昨日も考えてたんですよね。井坂さんとかずっといるわけねえからなとか思って。だからちゃんと生きて死にたいっていう感じです。色々な気持ちも残していきたい。俺もラップはずっとはするつもりなんですけど、ずっとこの声が出せるかっていったら出せないと思うから、今のうちに全部やっとかないとなって思いますけどね。

 - アルバムとは離れるんですけど、ライブパフォーマンスも変わった部分があるのかなと。

JJJ - 本当ですか。

 - 前はエネルギーを内に秘めてた部分が、今は外側にエネルギーが出てるのがすごく印象的で。

JJJ - 何なんでしょうね。でも歌い方が変わったから、『HIKARI』の時と。それもでかいんじゃないかな。そうやって歌おうとすると、どんどん開いてくみたいな。開いたっていうのは自分でも分かるんですよね、心が。だから、そういうのがあるのかな。あとすごい練習をするようになったんですよ。ヘッドホンで自分の声聞きながら練習してるんですけど、いつも。家のマイクで。自分の声を聞きながら練習するっていう。練習とか昔、本当に大嫌いだったんですけど、今はすごい好きになったんですよね。

 - 自分の中で理想を見つけたみたいな部分もあるんですか。

JJJ - そうですね。単純にリリックは飛ばしたくないし、だからずっと練習するしかないなって思って。自分の声を聞いてると自分の声のキーを取れるし、ずっと爆音でやってるんですけど、それが終わった後に耳の後ろにめっちゃ汗かいて、耳もキーンってなってるんですよ。それがすごい気持ち良くて。なんか走るのに似てるのか分からないけど。俺、別にマゾじゃないんですけどね。自分を痛め付けてすり減るの、結構嫌いじゃないんです。

 - 生きてる感覚ということですかね。

JJJ - いい言い方するとそうかもしれないです。そうかもしれないな。

 - ライブ自体も好きになりました?

JJJ - いや、ライブはまあ好きですよ。やってるときは好きですけど、やる前はすげえいらいらするんですよね、なんか。でも子どもの写真とか見たりして落ち着いたりしてます。いつも自分のワンマンライブのときは大好きなやつらがみんないたから、ずっと楽しくしゃべって、そのまま、じゃあ行ってくるわって、ぱあって行くみたいな。それがすごい好きだったっす。

 - 今作が、かなり難産で生まれた作品じゃないですか。

JJJ - そうですね。

 - この次ってもう考えたりしているんですか。

JJJ - 今、少しだけ作ってて。いつになるかは、どうだろう、分からないですけど。でも新しいことしたいなと思ってます。ツアーももう終わったので、『MAKTUB』は完っていう感じにしたいなと。もう次のことしたいしって感じですね。

 - 2023年も終わりますがどういう年でした?

JJJ - いろんな所行ったし、めっちゃ楽しかったな。8月とかはぶっちゃけなんもしてなかったんですよ。ライブも全部断ってたし。名古屋のリリースパーティーだけ月末にやってたんですけど、それ以外はずっと色んなところに行って色んな体験して遊んでたな。初めてのこと沢山やってみたり楽しかった。生きてて良かったなと本当に思いました。

 - クラブとかで普通にJさんの姿を、出演とかじゃなくて見るようになったなっていう。

JJJ - 単純に他人に話しかけるようになったのが大きいと思います。人としゃべるの好きだし。そんな別に、人に興味ないとかそういうわけではないんですけど、自分から話しかけに行くっていうのが楽しいなっていうのが分かりました。あと友達はほんとに偉大って思いました。つらいことがあったときとかも時間と友達がほんとに解決してくれたんですよ。それはほんとにずっと大事に大切にしなきゃいけないなと思います、まじで。

 - それこそ今作で言うと、Campanellaさんだけ2曲参加してるじゃないですか。

JJJ - そうっすね。

 - Campanellaさんの存在はJさんに取って大きかったんじゃないかと聞いたことがあります。

JJJ - そうっすね。あの人が遊び方っていうか、色々教えてくれたんですよね。教えてくれたっていうか、別に言葉で言うんじゃなくて、俺が勝手に背中を見て、やべえ、あの人。みたいに思ってました。それを見て、もっと楽しい世界あるなっていうのはすごく気付きました。2022年のXROSS CULTUREの次の日、名古屋の友達が俺を色んなところに連れ回してくれて、あの日くらいからずっと気持ちが家から飛び出して帰ってきてない感覚なんですよね。今も。

 - 今もそうだとは思うんですけど、すごいストイックに打ち込んでるっていうイメージがずっと強かったんで、すごい個人的にも印象的で。

JJJ - 単純にクラブとか嫌いだし、爆音で好きな曲を好きなタイミングで聴きたいし、だったんですけど。何なんだろう。どんどん、自分が変わってってるのはすげえ分かります。30歳超えたら人間は性格が変わらなくなるっていうじゃないですか。もう30超えてるし、だからそう言われるのは悔しいから、自分でも意識して変えようとして最近生きてたんですよね。そういうのがどんどん、これからどうなってくんだろうと思いますけど。て感じですかね。

 - それも楽しみというか、自分が。

JJJ - そうっすね。自分は楽しみっす。気持ち悪いんですけどね、すごい、自分のことが好きになった気がします、前より。すごい気持ち悪いですけど。

 - いいことじゃないですか。

JJJ - でもあんまり自信を持ち過ぎるのって良くないと思うんですよ。

 - そこはまた違う。

JJJ - 語弊があったら嫌なんですけど、自信持って生きることはとても良いことだけど、やっぱりどこかでストップできる自分っていうか、客観的に自身をジャッジできる鏡が自分には必要だなって思います。自信持ちすぎてたら逆に何も感じ取れなくなりそうで。

 - それは、分かりますね。来年はどういう年にしたいですか?

JJJ - 来年はどうなるんですかね。作品は出したいんですけど。自分のために作品出したいっていう感じです、俺は。もちろん聴いてくれる人がいるのはうれしいけど、でも出てからそのときは聴いてたけど、もう多分自分の作品を聴いてないっていう人もいるだろうし、自由に聴いたり聴かなくなったりして全然いいんで。だから俺はただ作ってって、それをその人に、その時代に飽きるまで聴いてもらってっていうのがやれたら、それを一生やれたらいいなって思います。さっきの話じゃないですけど、自分がださいって分かってるから、ださいって分かってるからこそ振り切れるかっこよさがあると思うんですよね、『MAKTUB』って。それを作品を通して伝えられたらなと。

 - 聞きたいことは聞けたような気がします。ありがとうございます。

JJJ - ほんとですか。良かったっす。ありがとうございます。

Info

JJJ『MAKTUB』

【DIGITAL】
発売日:2023年5月26日(金)
レーベル:FL$Nation / AWDR/LR2
フォーマット:DIGITAL
LINK:https://ssm.lnk.to/MAKTUB

【LP詳細】

JJJ 『MAKTUB』

発売日:2023年12月22日
品番:DDJB-91237
税抜:4,800円
税込:5,280円
レーベル : FL$Nation / AWDR/LR2
仕様 : 2LP(見開きジャケット)

[トラックリスト]

SIDE A
1. Synthese Freestyle
2. Cyberpunk feat. Benjazzy
3. July feat. sogumm
4. Eye Splice
5. ⼼ feat. OMSB

SIDE B
1. STRAND feat. KEIJU
2. Friendskill feat. Campanella
3. Taxi feat. Daichi Yamamoto
4. Scav

SIDE C
1. U feat. C.O.S.A.
2. Mihara
3. Verdansk
4. Something feat. Campanella

SIDE D
1. Jiga
2. Beautiful Mind
3. Maktub feat. SPARTA
4. Oneluv

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