【インタビュー】Mom 『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』|マクロな「終わり」とミクロな「終わり」

7月8日、フルアルバムとしては3作目となる新作『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』をリリースしたMom。現在から20年後、2040年の終末が迫り来る世界を生きる少年「カルトボーイ」を主人公に据えたコンセプチュアルなアルバムとなった今作は、大きくアップデートされたサウンド面や作品としての完成度の高さもさることながら、今現在の空気や社会に対する批評性を持った作品だった。

今回FNMNLでは、今年を代表するアルバムの一つとなるであろう『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』をリリースしたばかりのMomに話を訊いた。収録曲一つ一つを紐解く手がかりとなり、アルバムをもう一度通して聴くことがさらに楽しくなるようなインタビューになっていれば何よりだ。

取材・構成:山本輝洋

撮影:Cho Ongo

 - まずはリリースおめでとうございます。最初にリリースの経緯を教えて頂きたいんですが、制作はいつ頃からスタートしたのでしょうか?

Mom - 前回『Detox』ってアルバムを去年の5月ごろに出したんですけど、そこからすぐに作業には着手してて。携帯に、凄く断片的ですけど、次に何をやるかをメモってて。それでちょっとずつ、フワッと。去年の6月ごろから作った感じですね。

 - 最初の頃に出来た楽曲が“2040”だったんですよね。

Mom - そうですね。

 - アルバムを聴いた印象として、今までの作品と比較しても一つ別にフェーズに移って行った作品だと感じたんですが、ご自身の実感としてもそれはありましたか?

Mom - どうですかね...今まではGarage Bandを使っていたんですけど、今回からソフトウェアをLogicに変えて。そういうサウンド的な、制作のソフトが変わったというのは大きな変化だったと思うんですけど、マインドというかリリックというか、根っこの「良い詞を書いて良いメロディを書いて」みたいなのはそんなに変わってないですね。割と流れがあっての作品かなと思いますね。

 - サウンド面の変わった部分で言うと、使っているドラムの音色が今までと比べてガラッと変化していますよね。

Mom - 今回は割と緻密に組みましたね。

 - でも根本的なマインドは変わらず、手法的な部分がアップデートされたという感じでしょうか。

Mom - そうですね。ローファイっぽさというか、それが好きでGarage Bandを使っていたんですけど、もうそこに大して胸が踊らないというか。「チープさがカッコいい」みたいなのが最初はフレッシュだったけど、もうスタンダードになってきて、ルーツとかが何も見えない物も増えてきたし、あまり面白くないなと思ってより緻密な方向に向かって行った感じですね。

 - 先日公開されたニートtokyoのインタビューでも、「ローファイを脱却する動きが自分の中であった」というお話をされていましたね。確かに、ローファイなサウンドの表層だけが先行して流行った部分もありますよね。

Mom - お洒落感としてのローファイ、みたいな。変じゃなくなったんだと思います(笑)変じゃないと面白くないなと。

 - これは他のインタビューでも何度も聞かれていることだと思いますが、今回のアルバムはこれまでと比べても怒りや焦燥感のような感情がサウンドとリリック共に強く出ているような印象で。これはどういったところから出てきた物なのでしょうか?

Mom - 曲を作るっていう行為自体が、自己と対峙することだと思っていて。今までそれを怠ってきた訳ではないけど、『Detox』以前、『PLAYGROUND』の時とかは敢えて自分のパーソナリティから離れて曲を書いていた部分があったんです。それは割と意識的なもので。自分のエモーションを晒すのが、結構性に合わないというか。それをやるには、まだ自分のメンタリティが未熟だったと思うんですけど。でもその殻は前作の『Detox』で破って。結構フォーク的な手法で、背中を丸めてボヤくように、自然主義的な独白をするというか。それを前作でやって、歌心みたいなものの根本の良さってそういうところだなと思ったりして。そこからもう1ステージ上がるために、自分のエモーションというのはもちろん軸というか中心に据えるものとしてあって、そこからそれを人に伝える上で、SFとか終末モノとかディストピアとか、そういう物語が一個乗っかってきた感じですね。

 - 『Detox』を経て、自分のエモーションをより洗練された形で伝えるための手法ということですね。

Mom - より進んだ形で、物悲しさとかを作品というものを介して伝えるということを今回はやりました。

 - そのための一つのツールとして、今回のコンセプチュアルな構成がある訳ですね。舞台を2040年という近未来にしたのはどういう理由なんでしょうか?

Mom - 絶対生きてるな、っていう(笑)これが100年後だとか1000年後とか、自分が存在してない時代のことを歌っても現実味が無いっていうか。割とSFとかそういうものを見ててハッとする瞬間が多いので、ある種のリアリティみたいなところで、近い20年後に起点を置いているというか。

 - 近未来だからこそ、現実の延長線上にこれがあるという切迫感が生まれるということですね。

Mom - そうですね。それは絶対にあると思います。

 - 別のインタビューで、今回のアルバムを作るにあたって影響を受けたSF作品として筒井康隆や藤子・F・不二雄の短編を読んでいたというお話をされていましたよね。具体的にどの作品から着想を得たのでしょうか?

Mom - 異色短編っていう分厚いやつがあるじゃないですか。一応その時に星新一さんとか筒井康隆さんのショートショートみたいな、短いお話で驚くようなところに落として、ユーモラスながらシリアスで身につまされるような体験を結構してて。そのショートショート的な流れで、藤子・F・不二雄さんのSFシリーズを読んでいて。具体的にどのエピソードが、というより、ニュアンスとしてショートショートのような作りは結構拝借しましたね。

 - シニカルでユーモラスで、という部分はもちろん、驚くような落としどころに行き着くというのも今回のアルバムと共通する部分ですよね。そのニュアンスをここまで音楽面とリリックの両方に還元出来るのは凄いと思うんですが、そういったアイデアを曲に還元するプロセスをご自身で言語化するとしたらどんなものになりますか?

Mom - 今回は言葉と音がリンクしてる瞬間というのがより沢山あって。でも、元を辿っていけばヒップホップってそういう要素が結構入ってるじゃないですか。例えばライブとかで特に、聴かせたいワードの時に音を切ったりとか。そういうのもあったりするので、割と自分の中で正統にヒップホップ的なことを自然とやってる、っていうのはありますね。

 - 今までの作品にももちろんそういう部分は多分にあったと思うんですけど、今作はよりストレートにヒップホップだなと思う瞬間が凄く多いアルバムだなと思って。そこはやはり、よりヒップホップなアプローチで、という部分が念頭にあったのでしょうか?

Mom - そんなに意識的にやるというよりは、自分が考えているテーマだとか、浮かんできたフレーズとか、それを膨らませて、人に伝える上で一番ラジカルに聴こえるものを今回は作ろうとしたんです。それの一番の最適解が、それぞれに詰まってる感じですかね。

 - 『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』というアルバムタイトルも非常に印象的ですよね。ご自身でもスケートを始められたとのことですが、始めたきっかけはどんなものだったんでしょうか?

Mom - 元々憧れだったんです。スケートカルチャーみたいなのはもちろん好きで、でも自分が実際にやるという体験をずっとしてこなくて。このアルバムは去年の6月ごろから制作を進めていて、ちょうど中盤ぐらいで行き詰まる時があって。曲を作るときは瞬発力というか、パッと浮かんだものの熱量を思い切り放出していく感じで作るので、凄く膨大なエネルギーが必要で。制作が中盤に差し掛かる時ぐらいに、「これは多分完成させられないな」と思って。それで、何かパワーを求めてスケートボードを始めたんです。物凄くピュアな刺激がありますね。

 - スケートを始めたことで自分の中に得られたエネルギーはどんなものでしたか?

Mom - 素直になれましたね。童心的な素直さ。スケートボードって、他の乗り物と全然違う。小さい頃にトイザらスとかで、外で遊ぶ用のスクーター的なものとか、ローラーブレードとか色々あったじゃないですか。ああいうものの感覚って、大人になってから体験することって少なくなりますよね。唯一カジュアルにそれを体験出来るのって、多分スケボーだけだなと思って。そういう意味で、少年的な気持ちに立ち返るというか。自分と向き合うという行為に素直になったかなと思います。

 - そういう少年性のような部分って、今作に収録されている楽曲には特に多く表れていますよね。今までもそういった少年的な部分は出してきたと思うんですけど、スケートをやったことを通して改めて感じることが出来たということでしょうか?

Mom - そうですね、解像度は上がったと思います。自然と、性質としてあると思うんです。「少年」みたいなのを意識的に出してはいないんですけど、やっぱり、子供の頃に感じたものをどんどん忘れていくというか。それを、ふと「あの時こういうのが怖かったよな」っていうのを思い出す瞬間が、生きてると結構あって。慣れというか、人ってどんどんそうやってバカになっていくんだなっていうか...感覚バカというか。そういうものに対しては結構敏感でありたいんです。防衛本能的なことだと思うんですけど、それによって自分の見てる視点が狭まるってことが凄く怖いと思ってて。ちゃんと色々なこととか、今の空気感を捉える上で、少年性みたいなものはある意味必然的な要素なのかなと思っています。

 - なるほど。ここからアルバムの収録曲について1曲ずつお話を伺いたいんですが、1曲目の“胎内回帰”はさっきのお話とも通じるタイトルですよね。この曲はいつ頃作られたものですか?

Mom - 最後の方だったかな。だから、“胎内回帰”はスケート以降ですね(笑)その以前と以降が多分あるんですよ。この曲は、ある意味一番自分のエモーションに対してピュアに歌ってる曲だなと思います。

 - この曲を最初に持ってきた理由も、一番ピュアな部分が出たのがこの曲だったからということでしょうか?

Mom - そうですね、パワーが一番あるというか。惹きつける力が一番あるっていう単純な視点もあるし、構成として“2040”っていう一つの終末に向かっていくから、これは始まりでもあるし、終わりを予見するような歌でもあるし。そういう位置づけですね。

 - 終盤の“2040”から“胎内回帰”に戻るような、一つの円環構造という捉え方も出来ますよね。

Mom - そうですね。

 - 結構サイケデリックな雰囲気のトラックですよね。冒頭のギターもサイケデリックロック的なバイブスもあって。そこから中盤の展開に移り変わる構成も面白いです。

Mom - 確かにサイケかもしれないですね。

 - 次が“あかるいみらい”ですが、この曲も攻撃的な雰囲気がありつつ、希望と絶望が隣り合わせになっているような切迫感がありますよね。これはどうやって出来た曲なんでしょうか?

Mom - これは、多分制作を始めてすぐぐらいに出来ました。サウンドは最後の方まで色々と試行錯誤していてまるっきり変わったんですけど、リリックは早い段階から出来ていて。当初は多分“カルトボーイ”のような具体的なイメージやキャラクターが無かったんですけど、ディストピア的なところで、少年ジャンプ的にガムシャラにやる曲で。でもそれで行き着いた先でまた絶望して、みたいな、そういう歌ですね。具体的に言うのはちょっと難しいんですが。

 - 今回のアルバムについてご自身でお話されていた「スラップスティック」という感じは、この曲のリリックにも強く表れていますよね。

Mom - そうですね、これは結構ダイレクトにそれをやってる感じです。

 - サウンド面では、例えばJPEGMAFIAと共通するような部分があるということを指摘する声も多いですよね。“あかるいみらい”の冒頭、キックのロールとガラスの割れるサンプルから入る感じもJPEGMAFIAっぽさがあるなと感じたんですが、そういった影響もありましたか?

Mom - ありますね。JPEGMAFIAだけではなく、Dean Bluntとかも好きなんですけど。サンプリングって言ったらそうなんですが、曲を捉える視点っていうのが一枚上手だなと思うんですね。Kanyeとかもずっと好きで。曲の捉え方、音の捉え方がやっぱり凄いなっていうか。凄く直裁的な、メロディが被ってないとかドラムパターンが聴いたことないとか、そんな単純な話じゃない。スクラップアンドビルドじゃないですけど、サンプリングも、そういう既存の音を集約させて、そこからまた新たな独創性を探すっていう。やっぱり、根本はそこだと思うんですよね。蓄積があって新しい文化って出てくるものだと思うし、それを分かりながらクリエイトするっていう感覚が、JPEGMAFIAとかDean Blunt、Kanyeにはあるなと思うし。そういう視点っていうのを、僕も結構意識して今までも作っていたので。それがよりダイレクトに形になったのかなと思います。

 - Momさんの楽曲は初期から一貫して、ある種のコラージュ的な面白さがありますよね。

Mom - そうですね。本気ではやっていないというか。根っこは言葉と歌でしかないので、それを盛り付ける器は自由で。それをより意識させたいっていうのはありますね。

 - なるほど。次のトラックが“食卓”ですが、この曲に限らずMomさんのリリックの中に、よく「食べる」や「飲む」といったトピックが良く出てくるような気がしていて。そこに何か感覚的に意識する部分があるのでしょうか?

Mom - どうだろう...でも、多分「食べる」とか「歩く」は一番基本的な行為で、「食べる」というのは特に人が無防備な瞬間で。“食卓”っていう曲も、基本的な行為というのをテーマにして、一回全部取っ払ってまっさらになって、一回腹を割って喋ろうっていう歌なんで。そういう意味で食べるってことをモチーフにするのかもしれないですよね。

 - 「せめて同じ釜の飯を食う」という歌詞も、基本的な行為を通じて繋がるコミュニケーションを意味したものですよね。

Mom - せめてもの共通項というか。依存してるものがみんなそれぞれ違うので、それを取っ払って、ってことかな。

 - 続く“アンチタイムトラベル”はいつ頃出来た曲なんでしょうか?

Mom - 一番最後ですね。この曲は一番このアルバム全編で歌われていることとか、人々の動きみたいなのを説明的に歌われているのかなと思うんですけど。「タイムトラベルなんかくだらない けどこのままじゃやるせない」っていう拮抗しているところを...

 - アンビバレントな感情が表現されていますよね。

Mom - タイムトラベルって、僕は絶対無理だと思ってるんですけど、そういうある種の馬鹿らしさというか、「絶対無理でしょ」って感情がありつつ、でも「それ以外に果たして手立てがあるんだろうか?」っていう、それぐらい追い込まれた状況で葛藤している、という。割と誠実な歌だと思います(笑)

 - 「この怒りを優しさに変えるマジック 今世紀中には編み出せないかな」って部分も、その葛藤がダイレクトに表れていますね。

Mom - そうですね。「この怒りを優しさに変えるマジック」って、タイムトラベルをそのまま意味しているんだと思います。

 - なるほど。続く“マスク”はこのタイミングで聴くと凄い曲だなと思ったんですけど(笑)最初にリリースされたのは去年ですよね?

Mom - そうですね、去年です。

 - 改めてアルバムに収録された上で聴くと、凄く同時代性を帯びているというか。ここで歌われている「マスク」はあくまでメタファーですが。

Mom - そうですね、ペルソナというか。今着けている物ではないです(笑)

 - でも、アルバムのアートワークでもマスクを被ってる訳ですよね。

Mom - そうなんです、厄介なことに(笑)

 - 昨年のハロウィン頃にリリースされた曲ですよね。意図せず新しい意味を帯びているところが面白いですが。メロウなトラップビートでもありつつドラムパターンや音像が面白いトラックですけど、これはどういった風に思いついたんでしょうか?

Mom - ノイジーなものが作りたくて。サビのベースラインでブーっていうのが鳴ってるんですけど、割りとノイズというか、インダストリアルなテクスチャーを意識して。でもグッドメロディな、そういう感じですね。

 - James Blakeの『Assume Form』とも通じるテイストだなと感じて。

Mom - Travis Scottとかが入ってるやつですよね。James Blakeはね、好きですから...(笑)「好き」とかいうレベルでもないというか、みんなの要素として組み込まれつつありますよね。

 - 今って、James BlakeとBon Iverは特にそうですよね。それで言うと、今作のコーラスの重ね方などはその両者の流れにある物なのかな、とも感じました。

Mom - 確かに...その二つは、今の潮流の走りですもんね。

 - でも、今の日本で出ている作品の中では特に上手く換骨奪胎して、自分のテイストにされているというか。次の“レクイエムの鳴らない町”と“スプートニクの犬”は今作の中でも特にフィクショナルな歌詞世界で、しかもフォーキーな側面が出た楽曲ですよね。

Mom - 意識的にその面を出した訳ではないんですけど。例えば“レクイエムの鳴らない町”は、ずっと鳴ってるのが歌とベースだけなんですけど、他にも色々やりようがある曲で。このメロディに色々ビートを乗せることも出来るけど、それを選びとるってだけの話でもあるので。全体的に、「フォークとヒップホップの邂逅」みたいな意識は無いんですよね。多分、フォーキーなメロディというのは元々ギターを弾いていたからあるもので。それがよりダイレクトに出たんだと思います。

 - お話を伺っている中で、リスナーとしては今作の完成度故に凄く意識的な構成がなされたアルバムだと思わされてしまうところがあって。でも、ご自身としてはあくまで自然に、自分の中から出てきたものをダイレクトに出してるだけっていうのが興味深いです。

Mom - もちろん、どっちもありますけどね(笑)

 - ある意味、作っている人にとっては当然といえば当然の話かもしれませんが(笑)この“レクイエムの鳴らない町”と“スプートニクの犬”の2曲は歌詞の面でも、“2040”を除けばフィクショナルな短編としての側面が強い部分だと感じたんですが、制作にあたって他の曲と異なるマインドがあったのでしょうか?

Mom - でも、結構アルバム全体を通して演じている部分がありますね。よりストーリーテリングというか、歌っている物語を辿りやすい2曲、という感じですかね。

 - “レクイエムの鳴らない町”の最後にピッチが上がったバージョンと着信音のSEが挿入されますが、これはどうして?

Mom - あの別バージョンは、当初あれを出す予定だったんです。今回は骨組みを沢山見せていきたいと思っていて。例えば“スプートニクの犬”でも「わたしはもう疲れました」って歌ってますけど、これは単なる身の上話ではなくて。大体の人は分かってくれてると思うんですけど、色々なものがどんどん説明しないと分からないようになっていってると思うんです。音楽も、映画とかドラマも、全部劇中で説明しないと伝わらないような。

 - 映画やドラマは特に顕著ですよね。全部セリフで言っちゃう、みたいな。

Mom - 映画がテレビドラマ化してる(笑)「全部納得させないといけない」みたいなことを凄く感じていて。音楽も多重構造的に成り立っている部分があって。「物語というものがあって、それを書いてる僕という存在があって」って、そこにいくつもレイヤーがあるんですよ。その構造をサウンドと合わせることでより伝わりやすくするというか。“あかるいみらい”の冒頭にデモみたいな音源が流れたりするのも、そういう意図で入れています。

 - なるほど。次の“ゴーストワーク”はシニカルでユーモラスな、Momさんらしい部分がダイレクトに出た曲だなって印象があって。幽霊の視点から歌う歌詞の着想はどこから得たのでしょうか?

Mom - そもそもこの「カルトボーイ」ってキャラクターが、みんなそれぞれ違う価値観や倫理観、道徳観を持っていて。そこの幅はあるけど、みんなが人間臭く躍動してるってアルバムなんですよね。“ゴーストワーク”は自分の意思というものを持って、システム的に動いているというか、脳味噌を通さずに動いてる人たちへの憤りを突き詰めて行った末に、嘲笑みたいなスタンスになるのが凄く怖くて。人ってそうなってしまいがちだと思うんですよね。変えられないものに対して冷めたスタンスになってしまう。それが本当の終わりというか、ただただ終わりを待つだけの人というか。それがこの歌の中の「ゴースト」だと思っていて。

 - それが「お気軽なシニシズム」と表現されている訳ですね。ただ、一方で「涙が出なくなったらこの歌を思い出してみてよね」という部分からは一種の優しさのようなものも感じたんですが。

Mom - 優しさっていうのはちょっと分からないですが...ただ、ある意味この歌そのものが救済ではあるんです。歌の中で何かが覆ることは無いけど、この曲自体が救済のような位置づけではあって。

 - 冷笑する方向に至った存在を、生命感を失った一つの「終わり」と捉えていると。

Mom - そうですね。

 - 次が”カルトボーイ”ですが、この曲がシングルとしてリリースされた際に一聴した瞬間「凄いところに行ったな」という印象を受けて。この曲は制作の中のどの段階で出来た曲なのでしょうか?

Mom - もう忘れちゃったな...(笑)でも、自分の中でキーにはなっているというか。テーマがグッと明確になった曲ではあるので。シングルにするつもりはなかったんですけど。

 - この曲の歌詞は、ある種の生命力が極限に達した状態と、それ故の危うさが同居しているような印象でした。

Mom - この曲は割とフォーク的なスタンスで、コーティングせずにトゲトゲした部分を歌っているというのが強くて。スケートボードの話もそうなんですけど、曲を作るのはエネルギーをぶつける作業で、それはスケートボードみたいにポジティブなパワーだけじゃなくて。もちろんネガティブなエネルギーも曲を作る上で根っこになる部分だったりするので。自分の作る物が胡散臭いというか、それを疑うような時期があったです。それを歌っているというか。自己暗示みたいなものでもあるし。凄く宙ぶらりんな曲ですよね(笑)

 - なるほど。フックのリリックやサウンドから、聴いているこちら側を刺しに来ている楽曲だと感じたんですが、あくまで自分自身に向けた内容なんですね。

Mom - そうですね、完全に自分に向けて歌っています。

 - 後半の展開も凄くハッとさせられますが、「だから手を繋ごうよ 愛し合おうよ」という部分は徐々にポジティブな思考にシフトしていったという訳ではないんでしょうか?

Mom - どちらかと言うと、ここが一番自分に対して暗示を掛けているところかもしれないですね。

 - より切迫したものだと。

Mom - そうですね。そこは優しさとか、そういうニュアンスで歌っている歌ではないです。暗示をかけているだけです(笑)

 - 最後の2行にも苦悩がダイレクトに表れていますからね。サウンド自体はポップなのに葛藤や苦しみが出ているバランスは、他の色々な曲に通じる部分ですよね?

Mom - 出ちゃうんだと思います。曲とかに関わらず、人に飄々とした部分だけを見せていきたいっていうのがあって。多分それなんじゃないかなと思いますね。

 - 次の”ハッピーニュースペーパー”についても、一見凄く明るい雰囲気の曲だからこそ「“明るい曲だね”って言われるけどそうじゃない」というお話を他のインタビューでされていましたね。

Mom - そうなんです、逆張りの一番分かりやすい形(笑)

 - 歌詞のモチーフとして「アンブレラ」や『12モンキーズ』といったパンデミックを連想させるようなキーワードも出てきますね。『ガメラ』や『インデペンデンスデイ』という部分も明らかに終末感が出ているもので。

Mom - 陰謀論的な(笑)曲の流れとして、「レイヤーを何枚も何枚も重ねちまえば ネタばらし無し 性根の悪いフェイクニュース」って、フェイクニュースをバラ撒いて、集まってくる人の流れを離れた場所で捉えてるというか。そういう歌ではあるので。モチーフとしてより大袈裟な物を使った感じですね。

 - 「ニュースペーパーを読み込んで街へ出かけよう」という歌詞はとても示唆に富んでいるなと感じて。これはシニカルな意味で、さっき言っていた陰謀論的なものを「ニュースペーパー」というモチーフに仮託しているのか、もしくは「無自覚でいちゃいけない」というメッセージとしても読み取れるなと。この部分の意味について教えていただけますか?

Mom - 「受け身としての素朴さ」というのがずっと危惧しているものとしてあって。そういうスタンスというか身の置き方が僕は凄く怖くて、そういう人たちに向けてちょっとドキッとさせることを歌っているような。そういうニュアンスももちろんあるんですけど。でも、意外と「ちゃんとハッピー」みたいな受け取られ方をするんです(笑)

 - 「おめでとう人類 よくやったぞ人類」という部分などは明らかにアイロニックなフレーズなのに、ってところですよね(笑)

Mom - 凄く分かりやすく作ったつもりなんですけどね(笑)

 - “ハッピーニュースペーパー”の辺りは"2040”で訪れる終末に対して明確に向かっている部分ですが、その次に“Old Friend (waste of time)”が収録されていますよね。この楽曲で歌われている内容はフィクショナルな物なのか、自分の実際の気持ちをストレートに出したものなのか分からない部分があって。これはどちらなんでしょうか?

Mom - どっちもありますね。でも、これもフォーク的なマインドで書いた部分があって。“ハッピーニュースペーパー”と、この後にくる“2040”はマクロなんですよね。“2040”は実際に人間たちが太刀打ち出来ないような大きな終わりなんだけど、“ハッピーニュースペーパー”はもっと思考的な終わりで。

- それこそ“ゴーストワーク”と通じる「終わり」ということですね。

Mom - そうですね。色々な社会問題とか、そういうものに対して危ういなと思う気持ちって、紐解いていくと凄く身近な話になってきて。自分の身の回り、あるいは自分自身に対して。例えば凄く身近な人がそういう良くない思考回路に染まっていっちゃったりとか、そういうのは凄く悲しいことだと思っていて。色々な世の中の動きの根本にあるのは、そういうミクロの話だと思うんですよ。そういう意味で、“Old Friend”は「世界」ってものがあまり見えない曲で。物凄く限られた領域のことを歌っている歌なので。そういう、色々なものがパーソナルな所に帰結していくような歌ですね。

 - “Old Friend”は大人になるに従って、先ほど話されていた「思考的な終わり」に人が向かっていってしまう悲しみが出ている曲ですよね。この“(waste of time)”というサブタイトルは、その悲しみに対してもう一つ向けられたアイロニカルな視点なのかなと思ったんですが、これはどういう意図で付けられたものなのでしょうか?

Mom - なんだろう...別にこの歌が時間の浪費だとは思っていないんですけど(笑)でもこの曲がマクロに対して歌われた曲ではないから、そこに視点が移っている間に秒針が進んでいる感覚というか。結構、この3曲は時の流れが凄くシビアに構成されている感じはします。

 - そして、“2040”で一つ明確な終わりを迎える形になりますよね。これが一番最初に出来た曲ということですが、ここから逆算して構成されているということですか?

Mom - そうですね、結果的にそういうことにはなりました。

 - “2040”は凄く絶望感のある曲でもありますね。

Mom - なんで作ろうと思ったんだろう...(笑)でも、もちろん世界が終わる歌だっていうのは意識しながら書いてるし、みんなとか自分とかが誰一人として腑に落ちていない感じで、「今だけ無邪気に喋ろう」って部分があるんですけど、それが僕にとっては絶望的なことで。残酷な終わりというものを綺麗に書くってことをやろうとしたんだと思います。

 - 「見放された虫かごの中みたいだね」って終わり方も凄まじいですよね。先ほど話に出たコーラスの重ね方も、“2040”は特に顕著かつユニークな使い方をしていますね。

Mom - そうですね。これが出来たときは絶対にシングルとして出そうと思って推していたんですけど、あまりしっくり来ていなかったみたいで...未だにそこが納得出来てなくて(笑)でも、サウンドもそこから紆余曲折あったんですけど。Logic処女作ではあって。色々と面白い、ユニークな重ね方というのは意識しました。最初のフックが終わった後のトラックが変わったりとか、色々な試みをしています。

 - 最後の曲が“(open_mic)”ですね。このアルバムの冒頭から「話をしよう」というコミュニケーション的な部分が歌われている中で、“(open_mic)”というタイトルの楽曲が最後に来るのは一つの広がりを持たせる意図なのかなと思いきや、実際の歌詞では不信感のような感情が歌われていて。これを最後に持ってきた意図は?

Mom - これは、“2040”が一つの区切りの曲ではあるので、隠しトラック的な、ボーナストラック的なニュアンスで入れていて。右側からちょっとだけ聴こえる音とか、全編で「オープンマイク」的な音は結構入っているので、最後にそういう側面を出すことでレイヤー感を表現したというか。“2040”を聴いた後に全部まっさらになるのが悲しくて、そこに一個作家としての自分を置くことで、よりリアリティのある物としてリスナーの人たちに届くんじゃないのかな、っていう。骨組みを見せているだけなので。これで歌っていることっていうのは嘘じゃないけど、軽くタブーみたいなところもあるし、僕は基本的にここで歌っていることを大っぴらに言うのは負けだと思ってるんですよ。だからこれを伝えたい訳ではなくて、敢えて弱い部分、人間的な部分を見せたんです。

 - 本で言うところの後書きにあたるけれど、そこにももう一つ仕掛けがあるということですね。最後に、新型コロナウイルスの流行と緊急事態宣言で生活にも変化があったと思いますが、8月にbetcover!!との2マンライブが予定されていますよね。久しぶりのライブということになりますが、ライブに向けての気持ちや楽しみな部分などがあれば教えてください。

Mom - まず、実現出来たらいいなって祈りがありますね。また感染者数が増えているので、実現出来たら良いなって気持ちと。あと、僕はあんまりライブ自体が好きじゃなくて(笑)だからここ数ヶ月間はずっとクリエイティブ脳というか、ある意味緊張感の無い期間ではあって。やっぱりライブとか、直接的に人前に晒される機会があるのが、一つ緊張感というか、背筋がピンとなる瞬間としてあって。久々に緊張感みたいな物を味わえたらなと思います。

 - ありがとうございました。

Info

【Mom 3rd Album「21st Century Cultboi Ride a Sk8board」】
(読み:トゥエンティーファースト センチュリー カルトボーイ ライド ア スケートボード)
7月8日リリース(ストリーミング、DL、CD)
VICL-65381 ¥2700+tax
(収録曲)
1. 胎内回帰
2. あかるいみらい
3. 食卓
4. アンチタイムトラベル
5. マスク
6. レクイエムの鳴らない町
7. スプートニクの犬
8. ゴーストワーク
9. カルトボーイ
10. ハッピーニュースペーパー
11. Old Friend (waste of time)
12. 2040
13. (open_mic)

「WWW presents dots」

日程:2020年8月11日 (火)
会場:WWW
時間:OPEN 18:30 / START 19:30
料金:前売 ¥2,800 / 当日 ¥3,300 (税込 / ドリンク代別 / スタンディング)
出演:betcover!! / Mom
チケット:7/24(金)10:00〜 / e+ (https://eplus.jp/www-presents-dots/)
公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/013198.php

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