【コラム】ブルックリンドリルの潮流はいかにして生まれたか?

“Welcome To The Party”の大ヒットによって一躍スターとなったPop Smokeを筆頭に、現在のヒップホップシーンの中で一つの大きな波となったブルックリンドリル。シカゴ、UKに続き新たに生まれたブルックリン独自のムーブメントは、一体どのようにして発展したのだろうか?

そもそも「ドリル」というジャンルは2010年前後、Chief Keef、Lil Reese、G Herboらシカゴのラッパーたちの登場によって成立した。Young Chopに代表されるプロデューサーたちによる凶悪な雰囲気が際立ったビートの上で、極度に暴力的な内容をリアルかつ詳細にラップするスタイルは衝撃的であり、その流れはロンドンへと波及。1011、67といった匿名性の高いグループ名、グライムのビートやフロウとの合流などを経て、独自の「UKドリル」シーンが形成されている。

そして、2017年にブルックリン出身のSheff Gの楽曲“No Suburban”がリリース。同年に同じくブルックリン出身のラッパー22Gzがリリースした“Suburban”に対するアンサーソングであるこの楽曲はYouTubeにアップロードされた直後から再生回数を伸ばし、彼らのサウンドが「ブルックリンドリル」と呼称されるに至る。

Sheff G、22Gzの二人と同時期、Sleepy Hallow、Fivio Foreignといったラッパーたちが精力的に活動し、ブルックリン独自のドリルシーンが形成されていることを知らしめた。

そして昨年夏、ブルックリン出身の20歳のラッパーPop Smokeの“Welcome To The Party”が突如バイラルヒット。Nicki Minaj、Skeptaによるリミックスバージョンがリリースされた他、Meek MillやRico NastyらがSNSで反応したことで格段に知名度を上げブルックリンドリルの勢いを決定づけることとなった。

そもそもブルックリンでは貧困、ギャングの抗争といった問題が蔓延している現状もあり、ドリルというジャンルが持つ特性との親和性は必然的なものであった。Bobby Shmurdaや6ix9ineといったギャングスタなラッパーたちがブルックリンから定期的にデビューしていることからもそれが窺える。しかし、ブルックリンドリルの楽曲たちをチェックした際に誰もが感じることの一つに、彼らがラップしているビートが先述の二人も含む従来のアメリカのトラップミュージックとは一線を画したものである、という点があるだろう。先述のSheff Gや22Gzによる楽曲、さらにPop Smokeの“Welcome To The Party”などのビートやフロウは、いずれもグライムを通過したUKドリルとの強い共通性を持つ。

Sheff G、22Gzらの楽曲を手がけるプロデューサーAXL BeatsはUKの出身。彼はUKドリルのアーティストのトラックを手がけるかたわら自身のビートを「Drill Type Beat」としてYouTubeなどで販売しており、ブルックリンドリルのラッパーたちがそれらを購入して楽曲を制作したことが、UKのテイストがブルックリンに持ち込まれた理由であったようだ。

Sheff Gや22Gzらはいずれもインタビューなどで影響を受けたラッパーとしてChief Keefや50 Centらの名前を挙げていることから直接的にUKドリルの影響を受けた訳ではないことが分かるが、UKドリルシーンのビートメイカーとインターネット上で繋がったことで間接的にUKドリルがブルックリンに逆輸入された、という点が興味深い。

また、Pop Smokeのヒット曲“Welcome To The Party”や“Dior”などのトラックを手がけた808 Meloも同じくUK出身のプロデューサーである。

AXL Beatsは昨年末にDrakeが突如リリースした楽曲“War”をプロデュースしており、同曲の中でDrakeはUKライクなフロウに挑戦している。

DrakeのUKへの接近は2017年のアルバム『More Life』などでも見られたものだが、AXL Beatsの起用は明らかにブルックリンドリルの盛り上がりを念頭に置いたものだろう。実際に、AXL BeatsはComplexによるインタビューの中で「Drakeが、俺がプロデュースしたFivio Foreignの“Big Drip”を聴いたって言ってきたんだ」と明かしている。

今やブルックリンドリル随一のヒットメーカーとなったPop Smokeは、The Faceのインタビューにて「シカゴ、ロンドン、ニューヨークのドリルシーンを結びつけるものは何ですか?」という質問に対し「ニューヨークとUKはビートで繋がっている。でも、俺たちが歌っている内容はシカゴから来たんだ」と語っている。またシカゴ発のオリジナルのドリルサウンドと比べ、UKのサウンドにより接近している理由については「俺に似た奴は沢山いるからだ。808 Meloはまるで俺みたいだろ。俺たちは同じ仲間で、たまたま世界の別の場所にいただけだ」として、自身がUKのアーティストたちに持つ強いシンパシーを表明している。

そんな彼は昨年AXL Beatsと共にTravis Scott率いるJACK BOYSのミックステープに参加しており、ドリルのサウンドがヒップホップのメインストリームとなりつつあることを証明した。さらに今日リリースの新作『Meet The Woo 2』では同郷のFivio Foreignらの他Quavo、A Boogie Wit da Hoodieといった面々をフィーチャーしており、彼が持つ勢いと実力を存分に発揮した作品を完成させている。

UKのサウンドを通過したブルックリンドリルがアメリカのヒップホップシーンのメインストリームに登場したことは、UKとアメリカのラップミュージックの間に存在した溝を埋める役割を果たしつつある。Atlantic RecordsのA&RであるDallas Martinは、2020年のラップシーンを予測するComplexの特集記事『What Will 2020 Sound Like? Experts Predict the Future of Rap』にて「UKのプロデューサーがアメリカのラッパーと絡み合うことで、UKの多くのラッパーがアメリカで輝く機会を与えられるのでは」という可能性を示唆している。インターネットを介してUKのプロデューサーとブルックリンのラッパーがアンダーグラウンドなコミュニティを結成し、彼らが徐々にアメリカのメインストリームへと進出しつつある状況は、確かにラップミュージックの幅が広がる新たな可能性を感じさせるものではないだろうか。

今後もますます勢いを増し、様々な展開を見せるだろうブルックリンドリルに注目である。(山本輝洋)

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