【特集】Adrian Sherwood来日公演直前スペシャル | 今改めてダブとはなにか
ここに一本の動画がある。自身が主宰するレーベル、ON-Uからダブ/パンク/アヴァンギャルドのボーダーをまたいだ作品群を発表してきたUKダブ界の重鎮、Adrian Sherwoodがスタジオでライヴ・ダブを披露している動画だ。「Adrianはかなりの機材マニアなんですよ。新しいものを取り入れつつ、アナログ機材にもこだわってる」――そう話すのは、国内外で活動するエレクトロニック・レゲエ・リズム・プロダクション、BIM ONE PRODUCTIONの1TA。まずはこの動画を彼に解説してもらいながら、ダブの制作現場を覗いてみよう。
ダブミックスをする場合、まず必要となるのが楽器パートごとのオーディオファイルであるパラデータだ。Adrianの場合、アナログ・ミキサーを使って特定の楽器パートを抜き差しする。最初鳴っているのは生ドラムのリズムだけだが、そこにリズムマシンによるビート、ブラジルの打楽器であるクイーカを重ね、音に厚みを加えていく。ベースラインの抜き差しで緩急をつけていくそのスタイルは、まさにライヴ演奏そのものだ。
「ダブミックスは基本的に即興で行われるもので、肉体的な感覚が強いんです。ライヴと同じで毎回違うので、同じダブミックスは一回もないんですね。何人もの演奏をひとりのミキサーが操るという意味では、オーケストラの指揮者に近いともいえます」(1TA)
ダブミックスにおける最大の見所は、やはりエフェクターを使った派手な効果音だ。Adrianも楽器ごとにいくつものエフェクトをかけており、前半ではドラムだけを抜き出し、スネアにリヴァーヴとフェイザーをかけている。これはダブのスタンダードなテクニックのひとつだ。
「彼はAMSのリヴァーブとディレイを愛用してますが、このデジタル・エフェクトの音はまさにAdrianという感じがします。あと、Eventide H910というハーモナイザーも多用してますね。この動画でもちょこちょこ写ってるMu-TronのBi-PhaseというエフェクターはLee Perryも使ってたフェイザーで、これを使うとサイケデリックな空間を彷彿させる独特な音になりますね」(1TA)
右手で操作しているのは、Fulltoneの「Tube Tape Echo」というテープエコー。中盤ではこれを使ってかなり激しいエフェクト・ノイズを生み出している。ディレイとリヴァーヴで加工したギター・カッティングを差し込んだりと、6分足らずの動画のなかにダブミックスの基本的な手法が詰め込まれているわけだ。
ダブという手法は1960年代中盤から末にかけてKing Tubbyが生み出したとされている。この時期のTubbyは自身が運営するサウンドシステム(移動式ディスコ)、HOME TOWN Hi Fiでさまざまな実験を試みた。ダブプレートと呼ばれる一点もののオリジナル音源の制作、専属MCによるマイク・パフォーマンス。ダブプレートでは音の抜き差しやエフェクトによる音の加工が施されていたが、それは他のサウンドシステムにはない音を鳴らし、顧客の心を掴むための手段のひとつでもあった。そのようにダブという手法自体、サウンドシステム・カルチャーという大河のなかから生まれたわけだ。
なお、1950年代以降、マルチトラック・レコーダーをはじめとするレコーディング機材が著しく進化したが、複雑なダブミックスはそのことによって初めて可能になった。それはジャマイカだけに限ったことではない。1960年代のイギリスではJoe Meekが奇怪なサウンド・エフェクトやオーヴァーダビングによって未来のポップ・ミュージックを創造していたように、この時期、世界中でさまざまな音楽的実験を繰り広げられた。King Tubbyらダブのオリジネイターたちもまた、学理に則った音楽とは違った「音の世界」を切り拓こうと格闘していたのである。
「ダブではスペース・エコー(ローランドRE-201)という空間型のエフェクターがよく使われるんですけど、ああいうテープ・エコー機はジェフベックの作品やサーフロックなどでも多用されていましたね。あと、King Tubbyは周波数のある帯域をカットするハイパスフィルタも特徴的な使い方をしますね。」(1TA)
1970年代以降、ダブの手法は世界各地へ伝播。ある音を消し去りながら、残った音に加工を加えることで新たな音の世界を構築しようというダブの手法は、リミックスの元祖といえるものでもある。ニューヨークの伝説的ディスコ、Paradise GarageでLarry LevanらDJたちが試みていたものはダブおよびサウンドシステム・カルチャーの発展型といえるが、それはあくまでも一例に過ぎない。ジャマイカからの移住者が数多く住むロンドンやブリストルでは、ニュールーツと呼ばれるUKスタイルのルーツ・レゲエ~ダブが確立。2000年代以降もその枝葉は伸び続け、ダブステップという新たなスタイルも産み落とした。Adrianは近年、息子世代にあたるPinchとコラボレーションを重ねているが、それは音楽的にも親子関係にあるダブ~ダブステップの系譜を繋ぎ直すものでもあったはずだ。
では、プロデューサーとしてのAdrianの凄さとはどのようなところにあるのだろうか。1TAはこう話す。
「Adrianは十代のころ、借金までして自分のレーベルを立ち上げて、ジャマイカのレコードをリリースしていたわけですよね。でも、プロデューサーとしては決してジャマイカの物真似じゃなくて、オリジナルなものを生み出した。レゲエのリスナーからは好き嫌いが分かれるけど、ON-Uというジャンルを作ったともいえると思うんですよ。それでいて、ジャマイカへの愛も感じさせるんですよね」(1TA)
ジャマイカのルーツ・レゲエを愛し、ダブを愛していた若きAdrianは、先人たちの後を追うのではなく、同世代の仲間たちとON-Uスタイルのダブ・アルバムを作り上げた。それはNew Age SteppersやAfrican Head Charge、もしくはDub Syndicateの作品として世に送り出されてきたほか、Primal Screamの1997年作『Vanishing Point』をAdrianがダブミックスした『Echo Dek』などの作品としても結実した。いずれもジャマイカからは生まれることがなかった種類の「ダブ・アルバム」である。
そんなAdrianの最新作が、Lee "Scratch" Perryの『Heavy Rain』だ。このアルバムはAdrianがプロデュースし、今年4月に発売された『Rainford』をダブミックスしたもの。エイドリアンは1980年代からLee Perryと組んで『Time Boom X The Devil Dead』(1987年)、『Secret Laboratory』(1990年)などの作品を発表し、近年も『Mighty Upsetter』(2008年)、『Dubsetter』(2009年)といった作品を作り上げているが、今回の『Heavy Rain』は過去の名作とも劣らない輝きを放つ。冒頭のライヴ・ダブ動画同様、ライヴ感溢れるAdrianのダブを楽しめる一方で、さまざまな音を自由気ままにコラージュするリー譲りの手法も垣間見える。
2019年11月22日、東京・渋谷のWWW XでそんなAdrianの来日公演が行われる。今回は3セットのダブミックスを披露。1セットでは日本レゲエ界の敏腕たちが集うディープでエキゾチックなレゲエ・グループ、EXOTICO DE LAGOをAdrianが料理。2セットではAdrianとLeeのこれまでの作品をマルチトラック音源によって再構築する。最後の3セットでは、「ROOTS OF BEAT」と名付けられたこの日のためのスペシャル・バンドがLee Perryクラシックをカヴァーし、それをAdrinがダブミックスする。このROOTS OF BEAT、蓋を開ければ七尾茂大(ドラムス)、河西裕之(ギター)、外池満広(キーボード)、Master PATA(ベース)らを擁する、ほとんどDRY&HEAVYおよびAUDIO ACTIVEの混成バンドである。まさにダブの真髄と可能性を浮かび上がらせる一夜。冒頭の動画に感じるものがあった方は、ぜひ現場の重低音とともにAdrinのライヴミックスを体感していただきたい。(大石始)
Info
ADRIAN SHERWOOD
Time Boom X The Upsetter Dub Sessions
MIX 1 - EXOTICO DE LAGO - Live Dub Mixed by ADRIAN SHERWOOD
MIX 2 - ADRIAN SHERWOOD: Diving into Original Multi-Tracks
MIX 3 - ROOTS OF BEAT plays LEE ‘SCRATCH' PERRY Classics - Live Dub Mixed by ADRIAN SHERWOOD
2019.11.22 Fri WWW X
Ticket Adv.:¥5,800
Open 18:00 / Start 18:30
来場者特典!エイドリアン・シャーウッド録り下ろし特典MIX CDプレゼント!!
[ チケット絶賛発売中!]
BEATINK:https://beatink.zaiko.io/_item/319057
イープラス:https://eplus.jp/sf/detail/0170040001-P0030006P021001
チケットぴあ:https://t.pia.jp/pia/ticketInformation.do?eventCd=1948084&rlsCd=001
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iFLYER:https://iflyer.tv/adriansherwood-191122/
Clubberia:https://clubberia.com/ja/events/288666-ADRIAN-SHERWOOD/
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