【コラム】MAZEUMとUnsoundとBLACK OPERA by 浅沼優子

ちょうど1年前の今頃、Jun Yokoyama氏にインタビューを受け、FNMNLで掲載してもらった。あっという間の1年、相変わらず色んなことに首を突っ込んで日々頭の中が混乱している状態が続いているが、現在その混乱の大部分を占めているのイベント、『BLACK OPERA』の紹介をしたい。

開催は来週、11月14〜17日の4日間で、最初の二夜はオープニング・パーティー、3日目と4日目が『BLACK OPERA - 鈍色の壁 / ニブイロノカベ -』の本公演が全3回あるという構成になっている。

本来なら今頃、昨年立ち上げた音楽フェスティバル『MAZEUM』の第二回目を今年も京都で開催するため準備に死にそうになっている予定だったが、やむを得ない事情で今年は開催を断念することになった。今年はフェスティバルとしての開催は無理になってしまったが、次の開催に向けての下地作りというか、今後どう発展させていくかの模索はずっとしていて、元々フェスティバル開催の動機であり、展望であった国外のフェスティバルとの連携、アーティストの派遣や交換を実施しはじめた。その最初の成果が、『BLACK OPERA』オープニング・パーティー第二夜『MAZEUM meets Unsound』(11/15(金))だ。

初のパートナーシップにして、相手は私が世界で一番好きで尊敬しているポーランドはクラクフの『Unsound』!『Unsound』そのものについては、別途しっかり紹介する文章を書く予定だが、私が毎年(もう8回目?)通っていて『MAZEUM』がお手本としている、 理想としている音楽フェスティバルだ。その『Unsound』と、日本のアーティストをクラクフに送り、ポーランドのアーティストを日本に招聘する、という交換をすることになった。先月6〜13日に開催されたクラクフでの『Unsound』には、GoatYPYが出演(尚、この派遣が実現できたのは国際交流基金の助成のおかげ)。また、今年の『Unsound』は『MAZEUM』でも活躍し、京都での開催に多大な協力をしてくれた空間現代も出演した。

特にメンバーの入れ替わりがあったGoatには、かなりキツいスケジュールでの準備を強いることになってしまい、多大なプレッシャーをかけた上に私自身も取りまとめになかなかの苦労をすることになったが、結果は挑戦してよかった!という手応え。フェスティバル3日目のメイン・コンサートのトリを務め、そのパフォーマンスは会心!耳の肥えた『Unsound』のお客さんや世界各国からの集まった尖った出演者たち、スタッフからも大絶賛された。私にとっても、これぞ国際音楽フェスティバルの醍醐味、と思える体験で3日目にして感無量だった。

映画監督アンジェイ・ワイダが基金を設立して建てたクラクフの、日本美術技術博物館“マンガ”館を会場としたコンサートでのGoatの勇姿。(写真: Unsound提供)
同じコンサートに出演し、それぞれ渾身のパフォーマンスで圧倒したKa BairdとDreamcrusherとGoatメンバー

このフェスティバル間パートナーシップは相互交流を目指しているので、今度は、(私の独断と偏見ではあるが)これまでにUnsoundで観たポーランドのアクトの中でも最も印象に残った2人組のユニット、BNNTを日本に招聘することにし、『BLACK OPERA』オープニング・パーティー第二夜「MAZEUM meets Unsound」に出演する。彼らはワルシャワを拠点に10年以上活動しているバンド、というか自称「アート・グループ」だ。黒い覆面に上半身裸、裸足という姿で、謎の自作楽器「バリトン・ミサイル」とドラムのみのシンプルながら儀式的かつ呪術的、でもどこかパンキッシュなラディカルさを感じさせる音楽パフォーマンスで、異空間を作り上げる。偶然のタイミングで、『Middle West』というニューアルバムの発表を控えたBNNTは、今回が初来日にして新作の初お披露目となる。

ちなみにこちらがBNNTの前作『Multiverse』と昨年のパフォーマンス。

実は『BLACK OPERA』の主力メンバーは、去年の『MAZEUM』の中心メンバーとほぼ同じであることと、まさにBNNTが『BLACK OPERA』の世界観ともバッチリ合うことから、今年の『BLACK OPERA』前夜祭は『MAZEUM』プレゼンツとして、『Unsound』の協力のもとプログラムすることになった。しかしながら、はっきり言って日本でBNNTの事を知っている人はほぼいない。一人もいないかもしれない。ヨーロッパでもほとんど知られていない。ではなぜわざわざ呼ぶのかと言うと、パフォーマンスが素晴らしいからで、より多くの、特にヤバい音楽を分かっている『BLACK OPERA』に集まるような観客に見てもらいたいから。ただそれだけだ。昨年の『MAZEUM』でも、いわゆる「外タレ」、国外からの招聘アーティストは3組のみで、Sarah Davachi、Moor Mother、Naziraという国内ではほぼ無名、うち2名は初来日だった。知名度で集客に繋げる、というイベント正攻法の真逆にあえて挑戦したわけだ。その作戦は奇跡的に成功し、お客さんや共演者からも、「全然知らなかったけど良かった!」との反響を得られた。これは、有名人を呼んで見込み通り人がたくさん来るイベントをやるよりも、ずっと達成感がある。この経験を経て、『MAZEUM』チームは今後の方針を決めた。「これからも、みんな知らなくても知るべきアーティストを紹介していこう」と。

『MAZEUM meets Unsound』は、BNNTに加えて昨年の『MAZEUM』と今年の『Unsound』の両方に出演している空間現代、そして『BLACK OPERA』キャストである角銅真実さんのソロパフォーマンスと、山川冬樹さんとスガダイローさんの初のコラボレーションというラインナップになった。さらに、飛び入りゲストもアリそう...。DJとしても、このカオスな祭典に相応しいねじれたプレイをしてくれるMoodman、7e、suiminの3名が出演してくれる。ぜひ。この前衛音楽を通じた新たな文化交流を目撃しにきて欲しい!

『Unsound』側にはアーティスト交換ではなく、「キュレーション交換(curatoral exchange)」と書いてもらえて光栄...!(なんと今年のプログラムには、「音楽プログラム・アドバイザー」として私の名前をクレジットしてくれた!) このフェスティバル間パートナーシップは今後も続けるべく、既に来年のアイディアの話も始まっている。また、全く別の国の別のフェスティバルともパートナーシップの話を進めているので、来年以降少しずつかたちにしていきたいと思う。

『BLACK OPERA - 鈍色の壁 / ニブイロノカベ -』本編についてはこちらに紹介してもらっているので割愛するが、少しオープニング・パーティー第一夜『TALK & MOVIE SCREENING』(11/14(木))についても触れておきたい。お察しの通り、ドイツ文化センターで開催される今年の『BLACK OPERA』は、ベルリンの壁崩壊30年にちなんで壁をテーマにしている。だいぶ早い段階で「映画の上映をしたい」という話があったので、ドイツ以外では未公開の『B-Movie:LUST & SOUND IN WEST-BERLIN 1979 - 1989』というドキュメンタリー映画を提案し、今回上映されることになった。この映画は、使用楽曲の著作権上の制限により、商業目的の映画館では上映ができない。フェスティバルと非営利の文化事業、教育目的の場合のみドイツ国外で上映が可能だ。当然ドイツ文化センターでは上映できるので、2年ほど前に同施設で日本語字幕なしの上映が行われている。

そして去年、私が企画・制作したベルリンのフェスティバル『Berlin Atonal』の日本開催イベント、『New Codes』で東京と京都の二都市で1回ずつだけ日本語字幕付きの上映会をした。字幕は私がつけた。その際、この映画の主人公Mark Reederの旧友でもある石野卓球さんが情報を拡散してくれたこともあり、前売りソールドアウトで観たくても観れなかった方が多くいた。今回は、上映条件を満たした希少な機会なので、再上映することにした。壁崩壊前、Nick CaveやDavid Bowieも魅了された西ベルリンのデカダンな音楽シーンがどんなものだったか、マンチェスターから移住してきた音楽好きの青年の視点から、当時の非常に貴重な映像によって追体験できる内容だ。Nick Caveも出てくるし、Einstürzende NeubautenのBlixa Bargeld 、Malaria!、『クリスチーネ・F』本人などなど、時代のアイコンが次々と出てくる。Mark Reederはマンチェスターとのコネクションを生かしてJoy Divisionのツアー・マネージャーをやったり、持ち前の押しの強さでガンガン現地の音楽シーンに入り込んでいく様子も面白い。そして、この映画を観れば、なぜベルリンがテクノ首都になったのか、今も根付くDIYスピリットやエクスペリメンタリズムの文化的・歴史的背景がよく理解できると思う。

オープニング・パーティー第一夜では、この映画の上映に加えて、昨年の『BLACK OPERA 2018 - Hole on Black-』のダイジェスト・ムービーの上映、「技術の誤用から生まれる音楽」というテーマで、「紙レコード」作家としても知られる九州大学の城一裕さんと『BLACK OPERA』のディレクターの一人であり「オプトロン」奏者でもあるアーティスト伊東篤宏さんによるトーク、そしてCompuma氏によるDJという、アヴァンギャルドでアダルトな内容。これだけ盛りだくさんで入場料1000円ポッキリというお得さなので、こちらもぜひ!(浅沼優子)

Info

BLACK OPERA - 鈍色の壁 / ニブイロノカベ-
■会場: ゲーテ・インスティトゥート 東京ドイツ文化センター ホール(東京都港区赤坂7-5-56) ■WEBSITE: http://blackopera.jp/
11/14(木)OPENING PARTY I - TALK & MOVIE SCREENING -
Open 18:30 /Start 19:00
●映画上映 / MOVIE SCREENING
『B-Movie: Lust & Sound in West Berlin 1979-1989 』( 予告編 ) 『BLACK OPERA 2018 - Hole on Black-』(Short Documentary)
●TALK
『技術の誤用から生まれる音楽』Music from Misuse of Technology 城一裕(研究者、アーティスト〈九州大学/YCAM〉)
伊東篤宏 (美術家、オプトロンプレイヤー)
●DJ : Compuma
●FOOD : クロメシ (黒煙米使用)
●TICKET: [座席] ¥ 1,000

11/15(金)OPENING PARTY II- MAZEUM meets Unsound-
●LIVE
BNNT (from Poland)
空間現代
山川冬樹 × スガダイロー
角銅真実
●DJ : MOODMAN, 7e, suimin
●FOOD: 壬生 モクレン (Kyoto)
Open 18:30/Start 19:00
●TICKET: [立見] Adv ¥ 3,000 / Door ¥ 3,500

11/16(土)『BLACKOPERA -鈍色の壁/ニブイロノカベ-』本公演
昼公演:Open 13:00/Start 14:00 夜公演:Open 18:00/Start 19:00
■出演
KILLER-BONG、JUBE、スガダイロー、伊東篤宏、山川冬樹、志人 (降神)、RUMI、鎮座ドープネス、Jin Dogg 、荘子it (Dos Monos)、切腹ピストルズ、マヒトゥ・ザ・ピーポー、コムアイ、折坂悠太、テンテンコ、波多野 敦子、千葉広樹 (KNTC)、藤田陽介 、角銅真実、VELTZ、ANTIBODIES Collective、益山寛司 (劇団 子供鉅人)、 菅佐原真理、rokapenis、中山晃子
●DJ: L?K?O、AKIRAM EN、DJ SOYBEANS
●FOOD: IROHA

11/17(日)『BLACKOPERA -鈍色の壁/ニブイロノカベ-』本公演
Open 15:00/Start 16:00
■出演
KILLER-BONG、JUBE、スガダイロー、伊東篤宏、山川冬樹、志人 (降神)、RUMI、鎮座ドープネス、OMSB、 荘子it (Dos Monos)、切腹ピストルズ、マヒトゥ・ザ・ピーポー、コムアイ、折坂悠太、テンテンコ、波多野敦 子、千葉広樹 (KNTC)、藤田陽介 、ermhoi、VELTZ、ANTIBODIES Collective、益山寛司 (劇団 子供鉅人)、菅佐 原真理、rokapenis、中山晃子
●DJ: L?K?O、AKIRAM EN、DJ SOYBEANS
●FOOD: IROHA
●TICKET: [座席] Adv ¥ 4,500 / Door ¥ 5,000 [立見] Adv ¥ 3,000 / Door ¥ 3,500

各種チケットはこちらから:https://eplus.jp/sf/word/0000137051

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