【インタビュー】JUBEE 『Liberation (Deluxe Edition)』| 泥臭く自分の場所を作る

2020年代における国内ストリートカルチャーの相関図を俯瞰した時に、いま最もハブとなっている一人がJUBEEであることに疑いの余地はないだろう。ヒップホップやロック、ダンスミュージックといった各コミュニティでクロスオーバーを体現しながら世代を繋ぐ役割も果たす、とにかく縦横無尽の動き。今年は2ndアルバム『Liberation』をリリースし、それに伴う全国ツアーではKj(Dragon Ash/The Ravens)やJESSE(RIZE/The BONEZ)をはじめとしたレジェンドと共演してみせた。また、Kjとは『Liberation (Deluxe Edition)』にて音源でもコラボレーション。同時に、"CROSSOVER"などの自主企画も次々に展開している。JUBEEの音楽活動においては以前よりもロック~ミクスチャーの濃度が増した一年だったように思うが、『Liberation』に伴う怒涛の活動を振り返ってみてどう感じているのか——その手応えを訊きつつ、いま彼の見ている世界を覗いてみた。とにかくガッツがあって、泥臭い。JUBEEらしい人間味が伝わってくるインタビューに、ぜひ触れてほしい。

取材・構成 : つやちゃん

撮影 : 雨宮透貴

JUBEE -あのアルバムは自分の夢、つまり好きなアーティストたちを集めて一つの形にしたものだったんですよね。本当に「妄想ベストイレブン」みたいな感覚で作り上げることができました。ちょうど前のアルバムの曲を先日のワンマンライブで披露したところなんですけど、リハやってても、やっぱり全然曲のテイストが違うなって思いました。前作の『Explode』はもっと世間に広めたいという気持ちが強かったしポップな曲が多かったんですよ。でも今回のセカンドアルバムは、好きなアーティストをたくさん呼んで自分の世界観をしっかり確立するというモードで作った。外向きというよりは、既に自分の音楽を好きでいてくれる人たちにもっとどっぷり浸ってもらえるような作品を目指しました。

JUBEE - 正直、Kjさんとのコラボは自分の中で「まだ早いかな?」と思っていた部分もあったんですよ。だけど、元THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのチバユウスケさんや、Hi-STANDARDの恒岡章さんの訃報が続いて、自分が憧れている人達の存在が決して当たり前ではないんだと思うようになって。実際自分はチバさんも好きだったしThe Birthdayもいつか対バンしたいって密かに思ってたけど、会うこともなく終わってしまった。だから、もう行くしかないと思って、Dragon Ashの岡山でのライブにAFJBで呼んでもらった時に、打ち上げで勇気を出してオファーさせてもらいました。「今を逃したらいつできるか分からないから一緒にやらせてください」って。

JUBEE - その前から飲んだことはあって、でも大人数だったしそんなに話せなかったんですよ。面識ある先輩、程度の感じ。Kjさんって「いいね」とか「カッコいい」とか言わないタイプの人だから、そういう方が話しかけてくれて、あぁ認めてくださってるんだなって思って嬉しかった。

JUBEE – 「いやー、どうしよう!?」って思って、でもトラックはやっぱり最新感が必要だなと。自分が好きな往年のミクスチャーサウンドをそのまま表現するよりも、新しい世代の人が聴いてもいいなって思うものにもしたかったし、となると、プロデューサーはKMさんしかいないなと。KMさんもDragon Ashが好きで、いっぱいレコードもCDも持ってるんですよ。めっちゃ適任じゃんということで、もう一択でした。それで送られてきたビートを聴いてたら、突然"Amploud"の“keep it loud”っていうフレーズが降りてきて。その勢いでバースも入れて、Kjさんに送りました。

JUBEE - 自分が思う最新感っていうのは、他の人がやってないということ。自分の趣味を全開に出した時点でもうそうなってるんですけど。歌についても、がなり一辺倒だと焼き直しに聴こえちゃうから、色んなボーカルスタイルを試しました。一曲だけ聴いたら誰かの真似かなと思う部分もあるかもしれないですけど、アルバム全体で聴くとかなりバラエティに富んだ工夫が凝らせたと思う。

JUBEE - 今って、音楽の表面的なクロスオーバーって簡単にできてしまうと思うんですよ。例えば、ギターの音を引っ張ってきてトラップのビートと組めば、それっぽい音楽にはなる。ただ、それだけではクロスオーバーとは言えないじゃないですか。自分は音楽を取り巻くカルチャーそのものが好きだからこそ、バンドを始めようって思った。バンド活動をやってしっかりカッコいいところを見せたからこそ、先輩も認めてくれたのかなと感じるんです。たぶん、自分がラッパーとしての活動だけしていたら「コラボしましょうよ」って言ってもJESSEさんもKjさんもやってくれなかったんじゃないかな。だから、AFJBとしてちゃんとバンドをやったのは大きかったと思います。そういうのもあって、自分はソロのライブでバンドセットを軽々しくやりたくないんですよね。それだったら、しっかりバンドを組んでアルバムも作ってちゃんと見せますっていう。自分の分析だと、そこかな。説得力が増すから。

JUBEE - 自分の場合、昔から後輩と遊ぶよりも年上の人たちと一緒にいることの方が多いんですよ。だからなのかもしれません(笑)。それにロックシーンから見ると、自分は外の人間という立場だからということもあると思います。

自分がもし同じ界隈にいるバンドマンだったら、緊張して上田剛士さんに声なんてかけられなかったと思います。神様のような存在の方なので。逆に、自分はヒップホップの上の世代の方には積極的にはいけないです(笑)。

JUBEE - あと、AFJBみたいなラップ主体のバンドって本当に少ないんですよね。特に日本だと、ラウドロック系の若いバンドはシャウト系やメタル系が多くて、それこそDragon AshやRIZE直系のスタイルを継いでいるバンドは意外にもうちらくらいしかいなくて。だからこそ目立てている部分はあるのかもしれないです。

JUBEE - そう。自分たちの世代とDragon Ashの世代の間に、ラップ要素を取り入れたバンドがあまりいない。もしかしたら、もっと下の世代になると「AFJBに影響を受けました」っていう人たちが出てくるのかもしれないですけど。

JUBEE - うーん、そうですね。自分の思っているミクスチャーでいうと、ない。「色んなサウンドのミックス」という意味だともちろんたくさんあって、それこそPaleduskもミクスチャーだと思う。大きい意味で捉えると間違いなく増えているとは思うんですけどね。たとえばバンドマンがクラブに遊びに行ったりも増えたし、それこそAFJBはワンマンライブの後に打ち上げじゃなくてアフターパーティーでDJしたりしてるけど、そういうのは多くなってる。

JUBEE – 音楽としてはすごく面白く聴いているんですけど、クラブでのライブに対する考えは変化してきていると思います。今回、自分はツアーをほぼライブハウスでデイ(タイム)にやったんですけど、それも理由があって。以前Yohji IgarashiさんとコラボEP『electrohigh』を作った時にクラブでライブをしてたんですよ。20分間とかで。ちょうどヒップホップの俺とロックの俺が混ざりはじめてた時期だったし、JESSEさんにすごく食らってた時でもあったから、「酒飲もうぜ」とか「盛り上がろうぜ」とかそういう内容が中心のMCの中、ちょっと長めのメッセージを伝えたんですよ。でも後ろで喋って全然聞いてないお客さんがいて、それで腹立っちゃったんですよね。そのあたりから、自分はもっと違う環境で、プレイヤーとしての地肩を固めたいなと思うようになった。だから今回のツアーは、それも修行の一つだと思ってライブハウス中心でデイにやるようになったんです。今、自分は自主企画のライブを撮影禁止にしてて、Creative(DrugStore)も俺が言って撮影禁止にしてもらってます。ライブは段々そうなっていくと思う。それで、ヒップホップのデイ(タイム)のライブも増えていくんじゃないかな。

JUBEE - 正直、バンドマンと比べてラッパーはライブでマイク一本使ってぶちかませるっていう地肩のある人が少ないと思っていて。自分もまだまだ人のこと言えないけど、ライブ力をつけていかなきゃいけないんですよね。あと、自主企画のライブをもっとやった方がいいと思う。呼ばれたライブで30分やるのと、自主企画で2時間やるのとではやっぱり全然違う。お客さんとの深いつながりも作れるようになるし。例えばヒップホップのリスナーで、流行っているラッパーはみんな好きみたいなライト層ばかりがどんどん増えてきちゃうと、ワンマンの集客が難しくなってきてしまうじゃないですか。そこはロックとの違いですよね。再生回数だとヒップホップの方が多いんだけど、ロックの方がZEPPを埋められる人が多い、みたいな違いがある。だから、ヒップホップもどんどんそういう時代になっていくと思う。

JUBEE - でもそうは言いつつも、自分はやっぱり今でもラップが家だと思ってるんです。そこから留学に出て色んな経験をしているようなイメージ。ヒップホップにいるよりも留学した方が刺激をもらえると思ったからいま家を出てます、みたいな。

JUBEE - 最初16歳からDJ始めてラップやるようになって……やっぱりラップが好きなんですよ。それは根底にある。最初に食らったし、ダボダボの服が好きだし。自分はけっこう飽き性なので、次はまたラップのフェーズに入るかもしれないです。

JUBEE - うーん……いないっすね…正直それはいない。だからバンドマンと遊んじゃうし。ていうか、ずっと孤独だったんですよ俺は。Creative(DrugStore)のメンバーも、もちろん友達ではあるけどこの価値観は俺独自のものなので。そういう意味では、ずっと孤独にやってますね。けっこうキツかったですけど、でも今までもたまに年上の人たちが「JUBEE面白いね」って言って気にかけてくれた。GUCCIMAZEさんやTSUBAMEさん、BINGOさん(HIRO “BINGO” WATANABE)とか、そのあたりの人たち。そういうのは嬉しいですよね。

JUBEE - あー、HEAVENはそうですね!RY0N4とかはバンドやってるから、どっちかというとヒップホップの人という目線では見てないかも。紹介もAge Factory経由だったし。最初に会ったのもライブハウスだったから。

JUBEE - ファンを大事にするラッパーがどんどん増えてほしいなって思います。ファンの人たちに何を伝えたいか。自分も、バンドをやるまでは伝えたいメッセージって特になかったんですよ。でもバンドを始めてから苦しい思いもたくさんしてきたしそれが最近少しだけ報われているところもあるから、今伝えたいメッセージがめちゃくちゃたくさんある。だからライブのMCもいっぱい喋っちゃうし。ラップだけやってた時は、それが全然なかったんですよね。そういう気持ちを伝えたいから自主企画をたくさんやってるし、そういう場でお客さんへの愛情も生まれてくる。お客さんの中には、俺が腐ってた時代から観に来てくれてる人たちもいるんですよ。そういう人たちのおかげで俺はいま飯食えてるし、若い時から売れてる人たちと比べたらすごく遅咲きで、自分の場合は28、29まで報われず食えなかったから。だからこそ、いて当たり前じゃないってすごく思うし、大事にしたい。10年後にRIZEやDragon Ashみたいにファンと一緒に成長してっていう関係性が作れるラッパーは本当に一握りだと思うし。自分は長く続けていきたいから、どうしてもそういう考えになります。

JUBEE - 今、もうイベントもライブもいっぱいあるじゃないですか。それで、例えば月に20万あったとして、このアーティストとこのアーティストのライブに行って貯金もしてってなると、どうやってその20万をやりくりしようかってなるのは当たり前で。昔と違って今はアーティストもたくさんいるし現場もたくさんあるからこそ、JUBEEのライブは絶対行きたいって思わせないといけない。今後プレイヤーはさらに増えるだろうしね。

JUBEE - あぁ、確かに。それはあるかもしれないですね。でもバンドの人たちも、3つのバンドを掛け持ちしてますとか最近特にある。あと、多少手間はかかっても、自分が前に立って旗を持って何かをやる大事さもRave Racersをやってから身に染みて感じました。人を集めて巻き込んで仕切って……をやると大変だけど、人間力も上がる。

JUBEE - 確かにそうですね!(笑) 自分的にぶちあがってるのは、フジロックに最初SUMMITで出て、次にCreative(DrugStore)で出て、次にソロで出るという、それって面白いじゃないですか。LIVE AZUMAも、最初ソロライブで出て次にAFJBで出て、今年はDJで出て、って。それで最近自分がやってるのが、ロックDJなんですよ。ロックDJって、グリッド合わなかったりするしめちゃくちゃ難しくて面白いんですけど。RIZEが復活した時に前座のDJで呼んでもらったり、THE ORAL CIGARETTESがフェスをやった時にそれもDJ呼んでもらったり、そういうことにもなってきている(笑)。

JUBEE - マイク持てるんで、結局DJしながら全然普通にMCもやっちゃうっていう(笑)。毎日、全然違うジャンルを行き来すると学ぶことが多いです。そういう動きを、皆がどんどんやっていったら面白いと思う。それに、アウェイでどんどんやった方が成長するんですよね。この前もCrossfaithとのツアーでThe BONEZと俺で札幌と旭川に行ったんですけど、たぶん俺のこと知ってる人は一人もいなかったんじゃないかな。でもアウェイだけどライブして最後はダイブになってたし、そういう経験はどんどん自分を強くしています。キャーキャー言われてスマホで動画撮られるような環境にだけいると、絶対成長しないと思うから。どんどん苦しい思いをして、10年後に向けて頑張っていきたい。

JUBEE - 長く続けるカッコよさってあると思うから。JESSEさんに、お前ヤバいなって言わせたいんですけど、それにはまだまだ全然足りないんですよ。俺のワンマンにも出てもらった時も、ステージに出てきたその瞬間に空気が変わるんです。もう、ほんと凄いなって。自分もそうなりたい。それでね、JESSEさんは、努力しかないって言ってました。自分もちょっと前までは、俺センスあるかもなって思ってたんです。このままやっていけばうまくいくっしょって甘い考えでやってた。でも、JESSEさんと話して分かったのは、あの人はカリスマだと思うけど誰よりもライブしてギター弾いてあそこまでいってるし、別に生まれながらのロックスターじゃないということ。というか、スポーツ選手も芸能人も皆そうですよね。当たり前だけど。生き残ってる人で、楽してる人なんかマジで誰もいないし、天才なんていないと思う。KenKenさんも、この前Xに「ベース弾けなさすぎて、悔しくて久しぶりに泣いた。明日からもっと練習する」って書いてたじゃないですか。うわぁ、あの人でもそうだよなって。まぁもちろん、ラッパーはそういうの見せないですっていうスタンスも分かりますけど。でも俺は泥臭いのが好きだから、もっと挑戦しないといけないし行動しないといけないし、そういうメッセージをお客さんにも伝えてる。

Info

『Liberation (Deluxe Edition)』
【Track List】

  1. Liberation
    Prod by JUBEE & Yohji Igarashi / Mixed & Mastered by Yohji Igarashi
  2. Re-create
    Prod & Mixed by TAKESHI UEDA (AA=) / Mastered by EGL
  3. JACKPOT
    Prod by JUBEE & DJ WATARAI / Mixed by D.O.I. / Mastered by EGL
  4. Impala feat. OMSB
    Prod by Submerse / Mixed by AWSM. / Mastered by EGL
  5. RED CAP feat. MUD
    Prod by JUBEE & AWSM. / Mixed by AWSM. / Mastered by EGL
  6. Slowsurf feat. shimizu eisuke, in-d
    Prod by AFJB / Arranged & Mixed by AWSM. / Mastered by EGL
  7. Vision feat. JESSE
    Prod by JUBEE & AWSM. / Mixed by AWSM. / Mastered by EGL
  8. Let's Go JB Jam
    Prod by JUBEE & Xansei / Mixed by TSUBAME / Mastered by EGL
  9. Droptown feat. 牛丸ありさ
    Prod by JUBEE & TSUBAME / Mixed by TSUBAME / Mastered by EGL
  10. Playground feat. (sic)boy, HIYADAM
    Prod & Mixed by TSUBAME / Mastered by EGL
  11. SP!N
    Prod by CYBERHACKSYSTEM / Mixed by TSUBAME / Mastered by EGL
  12. Escape
    Prod by JUBEE & AWSM. / Mixed by AWSM. / Mastered by EGL
  13. PICK UP THE PIECES (Mass Infection Mix)
    Prod & Mixed by TAKESHI UEDA (AA=) / Mastered by EGL
  14. Dream Smasher feat. Kj
    Prod & Mixed by KM / Mastered by EGL
  15. Kids Were Alright
    Prod by JUBEE, nerdwitchkomugichan & AWSM. / Mixed by AWSM. / Mastered by EGL

【リリース情報】
JUBEE 2nd Album 『Liberation (Deluxe Edition)』
発売日:2024 年 10 月 18 日(金)
リリース形態:ストリーミング & ダウンロード
リンク: https://jubee-cds.lnk.to/Liberation_dx

【イベント詳細】

タイトル:JUBEE presents. “CROSSOVER” #2

日程:2024年12月11日 水曜日

会場:WWW X

時間:OPEN 18:00 / START 19:00

出演:JUBEE / どんぐりず / ENTH

金額:Adv. ¥5,500 / Door. ¥6,000 / U20 ¥4,500 ※ドリンク代金別

https://w.pia.jp/t/jubee-crossover-2

先行販売:10/29(火) 22:00 ~ 11/4(月) 23:59

RELATED

【インタビュー】OMSB "toi" | 嘘くさくなく低音はデカく

NHK Eテレの番組『toi-toi』のテーマ曲として制作されたOMSBの新曲“toi”。ふとした日常の描写の中に彼の想いが込められた本楽曲は、OMSBがこれまで描いてきたテーマの延長線上にあり、より深く、より大きさを感じさせる楽曲となった。番組のパイロット版を見て深く共感したという彼が、制作の過...

【インタビュー】Siero │ 俺、もう全部やる気なんすよ

昨今のラップシーンで、「アングラ」という呼称をよく見るようになった(※)。ジャンルでいえば、rageにはじまり、pluggやpluggnb、new jazz、glo、jerkなどなど有象無象のビート様式の集合体としか言えないが、そこに共通すると思われるのは、デジタル世界のエッジを踏破せんとするオタク的態度、また地上に蔓延するハイファイな既製品を拒まんとする皮肉的態度である。 伝統的な意味での「アングラ」といえば、王道に対する邪道、有名に対する無名、ようするに、わかる人しかわからない玄人好みの芸術領域なのだといえよう。その意味で、現代のアングラシーンのギシギシ歪んで耳の痛い808のテクスチャは理解されうるし、弾きっぱなしのブラス音源のチープさも諧謔として楽しめる。 ところが、国内でもにわかに形成されてきたアングラシーンの一角といえようSieroに話を聞けば、とにかくメインストリームのステージで光を浴びたい、そんな成り上がりの夢を恥ずかしげもなく語りだす。彼にとって「アングラ」は邪道ではなく、単に王道へのステップだ。どうやら、フラットに引き伸ばされた世界においても、かつてインターネットの無い時代に叫ばれた〈comin’ straight from the underground〉というような垂直方向の物語は有効らしい。 事務所に飾られたPOP YOURS特製ジャケットを見ては「俺もここに名前縫われて〜」と衒いのないSieroであるが、ラッパーとしての彼の魅力といえば、華やかな未来を描く情熱と、その同じ夜に枕を濡らすセンチメンタルとが同居したところにあるだろう。あるいは、その嘘の吐けなさにあるだろう。きっとその言葉が、夜の闇や地下の闇を貫いていくと信じて、Sieroは多弁に語る。 ※この呼称については議論があろうが、限定的には、USを中心とした2020年代のSoundCloudラップの潮流として認められる。USのシーンについては、プレイリスト「UNDERGROUND RAP 2025」や、instagramのゴシップメディア「Hyperpop Daily」などが参考になるだろう。

【インタビュー】PRIMAL『Nostalgie』 | ラップは自己主張

PRIMALは、00年代の国内のインディ・ラップの興隆を象徴するグループ、MSCのオリジナル・メンバーだ。私はかつてPRIMALのラップについてこう記した。「いくつもの問いがあふれ出しては、彷徨っている。そのことばの放浪が、PRIMALのフロウの核心ではないかと思う。(中略)脳内で延々とループする矛盾と逡巡が、オン・ビートとオフ・ビートの狭間でグルーヴを生み出し、独特のリズムを前進させる。目的地を定めないがゆえのリズムのダイナミズムがある」。 1978年生まれのラッパーの14曲入りのサード・アルバム『Nostalgie』を聴いてもその感想は変わらない。声音やフロウのキレには驚くほど衰えがない。そして、労働者、家庭人、ラッパーという複数の自己のあいだで生じる葛藤や懊悩を豊富な語彙力を駆使していろんな角度からユーモラスにラップする。リリックもライミングも相変わらず支離滅裂で面白く、若いころにハードコアで鳴らしたラッパーの成熟のあり方としてあまりにも特異で、それが本作の最大の魅力だ。 彼は、2007年に『眠る男』、2013年に『Proletariat』という2枚のソロ・アルバムを発表、『Nostalgie』はじつに12年ぶりのアルバムとなる。2016年に東京から移住した釧路/札幌で制作された。札幌のヒップホップ・グループ、Mic Jack Production(以下、MJP)のビートメイカー、DOGG a.k.a. DJ PERROやHalt.、あるいはMichita、ながさきたけし、荒井優作らがビートを提供、YAS I AM、MAD KOH、RUMI、漢 a.k.a. GAMI、BES、SAWといったラッパーが客演で参加している。カヴァーアートは、MSCのメンバーで、グラフィティ・ライターのTaboo1が手掛けた。 このインタヴューは、PRIMALと、彼の盟友、漢の対談動画の収録直後に、ふたりと仲間が青春時代を過ごした東京・高田馬場の居酒屋でおこなわれた。PRIMALはいま何を考えているのだろうか。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。