【インタビュー】uku kasai 『Lula』 | 二つでも本当

プロデューサー/シンガー・uku kasaiの2年ぶりのニューアルバム『Lula』は、UKGやハウスの作法を身につけて、これまでのベッドルーム的なニュアンスから一挙にクラブに近づいた印象がある。25分の時間の進行のなかで、部屋からフロアへと導かれるような感覚になるのだ(事実、キックのボリュームが前後半で変わっているように聞こえる)。

それは、ベッドルーム音楽の一大潮流・ハイパーポップと近接した領域で評価を獲得して以降、『TOKIO SHAMAN』(東京)や『KOMA-oto』(ロンドン)、『Mana』(ベルリン)、Oli XLの来日公演、表参道WALL&WALLでの自主企画『hi』など、数々の現場に出向くようになったアーティストのキャリアと重なるようにも思われる。

ところが今作の絶妙なバランスは、私的な領域とクラブとの間で揺れ動く、不器用なステップによって形作られたのだという。話を聞いてみれば、運針の軌跡がそのまま残ったジャケット写真と似たような、曲がりくねった思考の道筋が『Lula』に刻み込まれている。ここでは、そんなアルバムの1年以上の制作過程で得た、ライブや制作への向き合い方、そしてアーティストとしての在り方など、現在のukuの暫定的な回答を語ってもらった。

取材・構成 : namahoge

撮影 : 盛島晃紀

部屋とフロアの狭間で

uku kasai - あの頃、めちゃめちゃ狂ったように夜散歩をしていて。ずっと歩いていたんです。その時の風景を切り取るみたいな感じで、制作にかけた時間も今回と比べたらすごく短かったので、やっぱり一時的な感情で作ったという気持ちが大きくて。前作は特に、音楽的になにかやろうと意図したことはなかったような気がします。「これが今の自分ですよ」っていう感じで。

uku kasai - 呼ばれたからとにかく出たっていうのはあって。自分の周りもわりとハイペースに出る人が多かったので、「みんなもっとやってるし」っていう気持ちで出ていました。私はライブの意義みたいなのがあんまりわからなくて、「デジタルの完成された音源が一番優れてるに決まってるじゃないですか」ってずっと思っていたんですけど、でも、みんなライブが好きだし、ライブに行きたいって言うから、そういう気持ちを知りたかったっていうのもあるかもしれないです。

uku kasai - 最近はライブ感のあるライブをやりたいなって思ってきています。ちゃんと「技を磨く」みたいなことを、ずっと自分は怠ってきたな、みたいな。機材が苦手で、いままでUSBとマイク一本でライブすることもあったくらいなので。最近はOniというユニットを組んで、Cwondoさんの影響もあり少しずつ機材を買ってみたりしています。

uku kasai - そうですね。決して今まで後ろ向きだったわけではない、とは言っておきたいんですけど、音源と違うことをやってもいいなと思えるようになってきています。

uku kasai - 私はもともとクラブで育ってないし、クラブにあまり行かないけど、部屋でめっちゃクラブミュージックを聞いてるような人間で。今でも自分のライブがない限りあんまり行かないんですけど、ベルリンに滞在している間に一度クラブに連れていってもらったんです。その時が生まれてはじめて思いっきり、なんというか、「クラブで踊る」ということをした日だったのかもしれないと思います。周りの人も誰も知らないし、自分にとってものすごく安心できる状況だったのかなと。

uku kasai - なにも知らないんですけど、めっちゃドテクノみたいな感じでしたね。

uku kasai - ヨーロッパに行く以前から、「ダンスやります」みたいな気持ちにはなっていました。だから「海外に行きたい」という話をして、実際に行くことになったという順番なんです。1stアルバムの時からわりとビートがあるっちゃあるとは思うんですけど、それをさらにやろうと。

uku kasai - もう直感な気がしますね。もともと好きなアーティストがそっち寄りだったのもあって。Jamie XXとか。

uku kasai - たしかにそうですね。やったことがないからやってみよう、というのもありますが、大きいのはベルリンで体験した「ドゥンドゥンドゥンドゥン」と持続するテンションだったので。

uku kasai - そうですね。でも時間が経つと薄れていくので、シンプルなダンスミュージックじゃなくなって、今みたいな形でリリースすることになったんだろうと思います。

uku kasai - やっぱりクラブで育ってないことが滲み出るんだなって、作っていてわかったので。途中どこかのタイミングでtomadさんに音源を聞いてもらった時に、「あんまりよくない」みたいな話になって、だったら自分の要素をちゃんとグッと出してみようかなっていう気持ちになりました。

uku kasai - 今考えると中途半端なものだったなと思います。中途半端っていうか……あんまり誠実じゃない感じ。

uku kasai - 適当に作っても変わんないじゃん、みたいな。うーん、でも、あんまり音楽やる気じゃなかったのかもしれないですね。

唯一無二から〈二つでも本当〉

uku kasai - 「やってみたいと思っていたのなら、やればいいじゃん」って自分に思ったんです。たとえば“製図”でずっと鳴っているベースは、聞く人が聞けばtofubeatsさんが打ったのかなって思うかもしれないですけど、あれは自分が打っているんです。今までの自分だったらやらなかった雰囲気だと思うんですけど、でも、「似合わなくてもやりたいならやってみよう」という気持ちがありました。これまで「自分はこういう人間だからこうじゃなきゃ」って固定して生きてきた部分があるんですけど、世の中との向き合い方がすごく柔らかくなって、っていう自分自身の変化がわりと反映されているのかな。

uku kasai - いや、制作をはじめた頃にはそういう意識があって。最初にできたのが“hibye”なんですけど、それはベルリンにいる頃には作り始めて、私が主催するイベントをやった時にはデモができていて……去年? 一昨年?

uku kasai - はい。私、本当にライブでMCをしたことがなかったんですけど、そのイベントは主催したし今日は喋んなきゃみたいな意識があって。その時に出たのが、「似合わないってことはない」みたいな言葉でした。そもそもクラブに来ない人も来てほしい、という気持ちで開催したイベントでしたし、その日も「人生で初めてライブに来ました」という方がいて、感慨深くなっちゃって。

uku kasai - あの日来てくれた人たちに嘘をつきたくない、みたいな気持ちはずっとあったかもしれません。

uku kasai - 親しい人で、あんまり音楽を聞かない人に、自分の曲だって言わずに聞いてもらったことがあったんですけど、想定していた以上にウケがよくなくて。その出来事があってから、音楽が今までと全く違うバランスで聞こえるようになったんです。

uku kasai - うーん……自分の「変に尖ってやろう」みたいな気持ちとか、そういうものももう要らないなって思って。やっぱり親しい人から全然思ってもいなかったことを言われた時、さすがに普通に落ち込むっていうか、世界の見え方がガラッと変わって、「なにをやってきたんだ」みたいな時期になったんです。音楽聞いてもなにも感じないな、みたいになって、制作もなにも進まなくなりました。今考えれば、見える世界が広がって、それに戸惑っていたんだと思います。

uku kasai - たまたまマルジェラの「Artisanal」というファッションショーを見たら、もう涙止まらん、みたいになって。自分は服に詳しいわけじゃないんですけど、そのファッションショーがすごく面白くて、「似合う/似合わない」と言っていたこととも繋がってきて。ジャケットの写真を服にしたのも、そういった経緯からなんですけど。

uku kasai - 響いた瞬間は「これが響いてるんだ」と思いながら響いてたわけではなく、直感的なものだったんですが、あとから思い返してみると、自分が感じたのは「誇り」でした。それがすごく美しいと感じて……すみません、曖昧な話で。

uku kasai - そうだと思います。自分がいいと思っているものを真面目に突き詰めて作っていけば、いいということが伝わるんじゃないか、っていう希望もそこにはありました。というのも、私が普段からファッションショーを見るような人間ではないのに面白さが伝わってきたし、それってきっと、「突き詰める」という点ですごく優れているからなんだろうって。

uku kasai - そうですね。ここは要らない、ここは要らないと削ぎ落とす作業になりました。自分の中ではわりとスッキリとした感じになったなと思っています。

uku kasai - ええっ、意識してなかったです。もう完全に無意識ですね。デモ段階から長さ自体はそんなに変わらないですし、そもそも前のアルバムをそんなに短いと思って完成させていなくて。

uku kasai - 前は歌詞を先に書くことが多かったんですけど、今はあんまり言葉で言いたいことがなくなったというか……「2番のために歌詞を書く」とか不毛だな、みたいな。それは1stの時からあって、だから尺が短いのかもしれないですけど、今はもっと、必要な言葉の数が少なくなっているように思います。

それと、意図して歌を減らしたい気持ちもありました。どこか「自分はインストじゃ戦えない」という気持ちがあって、どうにか声とトラックを組み合わせることでオリジナリティを作り出そう、みたいな意識があったと思います。

uku kasai - その生存戦略が今はなくなった、という感じです。というか、それは優先されるべきではないな、と。

uku kasai - オリジナリティを出さなきゃいけないという意識って不要だな、みたいな気がして。3曲目の“Silver”の歌詞で〈二つでも本当〉と言っているんですけど、ずっと今まで生きてきた中で、「唯一無二であるものが最も優れている」みたいな意識がずっとあったんです。それより「あるべき姿、純粋になりたい姿を目指すことの方が重要なんじゃないか」みたいな。

uku kasai - みんなに「いい」って言ってもらいたいわけではないんです。難しいんですけど、本当に邪念なく、今自分が「いい」と思うものを求めて、こういう形になりました。

「ピカーン」というより、「じゅわーん」みたいな

uku kasai - 今作については、自分の手癖じゃないフレーズを取り入れたいという意図がありました。実は同じような手法で作ったのが、1stアルバムの“ライズ”という曲のピアノの部分で、サンプルと自分の演奏を組み合わせて作っています。あの曲は「めちゃくちゃウケが悪いだろうな」と思ってたら、そんなこともなくて、好きだと言ってくれる人も多かったので、シンプルに好評だったことはやってみようという気持ちもあり。それをもっと拡張したら、もっと面白いことができるかもしれないっていう意識で、今回も全面にわたり取り入れています。

uku kasai - ごちゃごちゃですね。サンプルをそのまま貼っつけているとこもあるし、切って組み合わせているものもあるし、サンプルに合わせて自分が弾いているものもあるし。

uku kasai - 今回は特に、自分の歌もサンプルだったんじゃないか、みたいにしたくて。それから7曲目の“製図”については、tofubeatsさんにも「サンプルみたいな感じにしてください」とお願いしていて。

uku kasai - 「ダンス」を軸に作ると決めた時から、このアルバムでtofubeatsさんとご一緒したいという意識がものすごくあって。私にとっての「部屋で聞いてたダンスミュージック」って、そのはじまりがtofubeatsさんだったんです。だから、このタイミングじゃないとダメだって思って、HIHATTの周年イベントが終わったあとに声をかけたら「全然いいですよ」と言ってもらえて……その後、パソコン音楽クラブさんが「tofubeatsさんに何年越しにやっとお願いした」と言っているのを見て、「やっちまった」と思ったんですけど(笑)。

uku kasai - 言われてみれば、という気持ちと、そうお願いしたからそうなったな、という気持ちが……

uku kasai - それはtomadさんにも言われました。

uku kasai - だんだん他のアーティストと関わったり、考えに触れたりするなかで、「自分はこうはなれないかも」と思うことが増えてきて。遠いところでも近いところでも、漫画の主人公みたいな雰囲気の人っているじゃないですか。それでなんというか、自分のなりたい姿というものを考えるようになったんです。“製図”でtofubeatsさんが歌っているのは〈いつでもそっと光る 足元のSta(rs)〉という言葉です。「ピカーン」というより「じゅわーん」みたいに光っている、ひとつひとつの欠片を拾っていく感じでもいいんじゃないかな、と。

uku kasai - 音楽でも、自分自身のことでも、まだ認められていない部分が多いです。なので、ちゃんと誠実に作っていきたいと思っています。

uku kasai - “v<”を作った時はものすごい怒ってて、なんで怒っていたかはあまり言いたくないんですけど、気づいたらああなってたっていう。その怒りを反映させたわけじゃないんですけど、ほぼ1日ぐらいでデモができた曲で。あんまり時間かかってない気がします……記憶違いで嘘言ってたらすいません。

また、“ほつれて”と“ack”は、シンプルに自分が通して聞いた感覚で「もうビートお腹いっぱいだな」みたいな感覚になったのでああしていて。“ack”も最初のデモの時はビートがあったんですけど、消しました。

今作ではずっと一貫して、「これはこうだ」みたいな決めつけをなくそうという思いがありました。入れてやろうと躍起になるのも違うし。

uku kasai - そうですね。「それでいいや」みたいな気持ちもありつつ、部屋にたぐり寄せていくような……本当は最後の曲“hibye”を1曲目に持ってくる想定で始めたアルバムだったんです。“hibye”は9月に主催したイベントを体現したような曲だと自分では思っていて、そこからスタートして物語が進んでいくはずだったんですけど、あれを1曲目にすると、どうしても続きが作れなくて。今の自分にできる外界との向き合い方みたいなものは、あの時の開き方が限界なんだな、あれがマックスなんだなっていう感覚があって。マックスを最初に持ってきたら、そりゃ制作を進むわけもなくて……なので、もう“hibye”を最後にして、開けた雰囲気で締めようと。たぶん前作も1番最後はそんなに暗い感じじゃなかったと思うんですけど、するっと明るく終わるのがわりと好きなんです。

uku kasai - シンプルに機材を触ってみようという気持ちですね。Ableton Live用のコントローラーを買ったので、それを使っていこうかなと。それと今朝、ドラムマシーンみたいなやつが届いていて、それもあります。歌に関しては、生の自分の声と音源やサンプルを突き合わせるような作業をライブでやってみてもいいのかな、と最近考えていました。

uku kasai - 真面目に制作を……あ、ふたつ、今頭の中で考えているやりたいことがあって。ひとつは自分の声をサンプルとして使うこと。わりと昔からやっていて、今回だと“ほつれて”で実践しているんですけど、それを全編にわたってやってみたい。もうひとつは、家にある実機のシンセサイザーを使ってみたいです。今年は体調が激悪なんですけど、一度救急に運ばれた時に、「あれまだ使ってない」みたいな気持ちになったので、使いたいなと。

uku kasai - 気持ちとしては「まっすぐいたいな」と思うんですけど、でも、もうたぶん、ある種の少年漫画性みたいなものは、継続してできない気がしています。それでも、「突き詰める」ということはちゃんとやっていきたいなと思っています。

uku kasai - 基本的にビートが好きなので、それが完全になくなるってことはないかなと……でも、わかんないです。いきなり全部アンビエントみたいなことになるかもしれない。

uku kasai - 全く同じことはやらないかなと思います。

Info

Album title:Lula
Artist:uku kasai
Release date:2024/11/13(水)
https://linkco.re/Fbam9EXd

Track list:
1.Lula
2.Clouds
3.Silver
4.v<
5.ほつれて
6.ack
7.製図 w/ tofubeats
8.hibye

Mixing:Kazuki Kimura, uku kasai
Mastering:Rei Taguchi (Saidera Mastering & Recording)
Art direction : eve lantana
Photographer : hyogakangori
Support:CANTEEN

2024/12/05 THU 21:30–23:30
uku kasai「Lula」release live @DOMMUNE

LIVE:uku kasai
DJ:illequal

イベント詳細は以下URLよりご確認ください
https://www.dommune.com/streamings/2024/120502/

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