Lil Uzi Vertがアートワークに使ったカルト宗教団体『Heaven’s Gate』はなぜ様々なアーティストに影響を与えたのか
Lil Uzi Vertがカルト宗教団体『Heaven’s Gate』を模したデザインの新作アートワークを公開した。『Heaven’s Gate』はこれまで様々なアーティストの作品の元ネタとなっている。なぜ宗教や宗教のシンボルはアーティストにインスピレーションを与えるのか。Geniusの記事で、レイクフォレスト大学の准教授であり、宗教学や『Heaven’s Gate』について研究しているBenjamin Zeller教授が理由を明かしている。
先日、Lil Uzi Vertの公開した新しいアートーワークが、90年代に集団自殺をおこない有名になったアメリカの宗教団体『Heaven’s Gate』のロゴを模したことで話題になった。その後『Heaven’s Gate』の残党が「今回のアートワークは明確な侵害である」とLil Uzi Vertに対して現在抗議中。
『Heaven’s Gate』は今までも様々なアーティストに元ネタとして使われてきた。Frank Oceanは『Heaven’s Gate』が1997年に起こした集団自殺事件の際に自殺した39人全員がスウェットを着て新品のナイキのスニーカーを履いて、紫のシーツの下で死んでいたことにインスピレーションを受けた。”Nikes”のミュージックビデオで紫のシーツの下で事件と同じナイキのスニーカーを履き横たわっているシーンがある。
2012年にリリースされたDjango Djangoの”Hail Bop”、2018年にリリースされたFall Ot Boyの”Heaven’s Gate”なども『Heaven’s Gate』を引用している。
Benjamin Zeller教授が、なぜ宗教団体のシンボルなどはアーティストの作品に使われることが多いのか答えた。「これまでアーティストは宗教や宗教のシンボルを様々な理由で使ってきた。シンボルの背景に隠された意味だったり、視聴者に想起させるためだったり、魅了だったり、異国文化への憧れだったりと理由はいろいろだ」と語る。
今回『Heaven’s Gate』がLil Uzi Vertのアートワークに対して抗議を起こしたのは過剰な反応なのか正当な反応なのか。Benjamin Zellerによると、「マドンナやレディー・ガガもキリスト教のシンボルを露骨に使っていた。ただキリスト教はアメリカで最も大きい宗派であり、歴史も長いため、マドンナやレディー・ガガが何と言おうと気にしない。しかしこれが新しい宗派や小さい宗教団体になるとややこしくなってくる」とのこと。『Heaven’s Gate』に限らず、どんな新しい宗派も勝手にシンボルを使われたら同じ反応をするようだ。
また「Heaven’s Gateは『自殺』や『UFO』や『彗星』などが連想される。キリスト教の十字架を見た時のイメージとはだいぶ違う」とのこと。国に馴染んでいるキリスト教より、『Heaven’s Gate』のような新興宗教団体のほうが連想するワードが独特である点も一つの理由なのかもしれない。
『Heaven’s Gate』は90年代当時、本当に強烈な印象を人々に与えた。自らを救済し彗星に魂を乗せるための集団自殺、禁欲のためのメンバーの去勢、シンボルなどのビジュアル。全員が履いていた新品のナイキのスニーカーや、紫のシーツなど一発で印象に残る要素がいくつも散りばめられている。「衝撃的なイメージは『Heaven’s Gate』メンバーが意図的に作り上げたものである」とBenjamin Zellerは説明する。集団自殺が大々的にニュースなどで放映され、その際にインパクトのあるビジュアルが人々に広まるよう周到に準備されていたという。
『Heaven’s Gate』の衝撃的なビジュアルと行動を見せられて、「人間離れしている」「狂っている」と思うように、これまで様々なアーティストがインスピレーションを受けてきたのかもしれない。
しかし、『Heaven’s Gate』をすぐ非人間的な扱いをしたり面白がったりするけど、皮肉なことに『Heaven’s Gate』のメンバーはすでに自分たちを人間だとは考えていない」という。自分たちは宇宙人であると考えていて、ただ地球を離れようとしていただけなのだ。「メンバーと話したが普通の人達だった。普通の人達だが、選択した道が私達からしたら狂ったように見えるだけだ」とBenjamin Zellerは最後に述べた。
結局Lil Uzi Vertは公開した『Heaven’s Gate』パロディのアートワークが、本当にリリースされるアルバムのジャケなのかどうかは不明。本当にあのままリリースすれば『Heaven’s Gate』からさらなる抗議を受けそうだ。
Benjamin Zellerのインタビュー全文はこちら。