少年と麻薬ディーラーなどとの交流を描いた2016年ベスト映画の1つ『ムーンライト』
2016年に最も批評家に好まれた映画の1つが『ムーンライト』だ。米タイム誌の企画「Top10 Everything of 2016」で映画部門1位に選出。同作は『ラ・ラ・ランド』と並びアカデミー賞最有力候補としての呼び声も高く、すでに第26回ゴッサム・インディペンデント・フィルム・アワー ドで作品賞など4部門受賞、NY批評家協会賞とLA映画批評家協会賞などでも数多くの賞を受賞している注目作だ。
ストーリーは、家庭では麻薬常用者の母親に育児放棄され、学校ではいじめに合っている少年シャロンが近所に住む麻薬ディーラーのホアン夫妻と、唯一の男友達であるケビンとの交流を通して 成長していく姿を少年期、ティーンエイジャー期、成人期の3つの時代構成で描いたヒューマンドラマだ。
予告編から真っ先に印象に残るのは、圧倒的な映像美だ。ブロンズに輝く美しい黒人の肉体や、 背景に映る透明感のある光の木漏れ日は、実は撮影後に全てデジタル加工されたものである。光の部分は、全て透明に加工してプロジェクターの光が直接観客に向けられるような仕組みになっ ており、肌も光が当たって反射している部分は同じく透明に加工されているのだ。
また、 肉体の影になっている部分は、自然界にはない青色で加工され、非常に美しいブロンドに輝く姿を描き出している。この技法は映像界に大きな衝撃を与え、今後このようにデジタル加工した映像作品が増えていくと予想されている。画面構成にも注目したい。ほぼ全てのカットが、まる でフォトグラファーが撮影したような美しいバランスで俳優たちが配置されており、頻繁にシンメトリーな画面作りをしている部分も監督の美学を垣間見ることが出来る。
この作品が撮影されるきっかけになった、奇妙な逸話がある。自らの体験を脚本に仕上げたタ ルラアルヴィン・マクリーニは、この映画の舞台となるマイアミにある753世帯の街、リバティースクエア出身だ。
そして、たまたまこの脚本に目を通した監督のバリー・ジェンキンスもリバ ティー・スクエア出身で年齢は1つ違い、同じ学校に通い監督自身も麻薬常用者の母親に育児放棄された経験をしていたのだ。このような偶然の重なりから作品が製作されることになったという。
セクシャリティや人種問題がテーマになっている今作はトランプ政権が議論の中心になっている現在、多くの人々が見て、理解されるべき作品だ。我々日本人には馴染みが薄い過酷で劣悪な状況の中で生きているアメリカ人が存在していることを知り、今のアメリカに起きようとしていることに目を向けていくべきだろう。こういった作品が世界の在り方を良い方向に変えていくことに期待 したい。「ムーンライト」は、日本では4月公開予定である。