2人のラッパーのカミングアウトとトランプのアメリカ

以前FNMNLでも報じたが、Chance The Rapperの弟でラッパーのTaylor Bennettは、彼の誕生日である1/19に自らがバイセクシャルであることをツイッターでカミングアウトした。

Taylor Bennett
Taylor Bennett

「俺の誕生日は明日(1/20)なんだけど、来年はもっと自分をさらけ出して、同じ問題を抱えているひとを助けたいと思ってる。」というツイートから始まり、「俺は自分がバイセクシャルの男性だと認めるよ。そして、2017年もゲイコミュニティーを公にサポートし続けていくよ」という言葉で締めた一連のツイート。Taylorは自らの性についての告白し、LGBTコミュニティと自分がともにあることを世間に表明した。

そして、時を同じくして1月20日、アトランタのラッパーで"Tuesday"のヒットなどで知られるiLoveMakonnenもツイッターで自らがゲイであることを告白している。

Makonnenは昨年行われたXXLのインタビューでも未だにゲイバッシングが根強いヒップホップシーンを批判していた。その際Makonnenはヒップホップシーンの人間はゲイバッシングをするのに、ゲイのデザイナーが作る服を喜んできていることを根拠にゲイバッシングの無意味さを語っていたが、このインタビューの際はMakonnen自身はゲイであるとは公表はしていなかった。

iLovemakonnen
iLoveMakonnen


「一人のファッションアイコンとして、他の人のクローゼットについて語ることはできないけど、僕は自分自身についてだけは語れるよ。そして今はそれを話す時なんだ。」

「みんな突然のニュースが好きだから、ここで古いけど一つニュースを話すよ。僕はゲイなんだ。僕はいま自分の人生についてみんなに話したよ。みんなもきっと自分の人生を送っていけるはずさ。」

iLoveMakonnenはこれらのツイートと同じ内容を「Thank you for letting me be myself.❤ (自分自身でいさせてくれてありがとう)」というコメントとともに、Instagramにも投稿した。

Thank you for letting me be myself.❤

A photo posted by Red Dragon Makonnen (@ilovemakonnen) on


2人のラッパーが同じタイミングでカミングアウトしたというニュースであるが、このタイミングの一致は偶然だとは言えないかもしれない。

というのも、この日1/20はドナルド・トランプの第45代大統領の就任式が行われた日であるからだ。これまで幾度に渡り、マイノリティに対して暴言を吐いてきたトランプの就任式を前に、LGBTコミュニティからは多くの不安の声が上がっていた。以前FNMNLのこちらの記事でも報じたが、就任式の前日には反LGBT思想を持ちことで知られる新副大統領のマイク・ペンスの自宅前で、LGBTを支援する団体がダンスパーティーを行ったことなども報じられた。マイク・ペンスはインディアナ州の過酷な反LGBT的「信教の自由」法に署名したり、LGBTのための「コンバージョン・セラピー」(性的指向を変える治療)を支援してきたことも知られる政治家だ。

また、トランプの大統領就任直後に、連邦政府のサイトからオバマ政権がこれまで重視してきたLGBTや地球温暖化の問題などに関するページ項目が削除されたことが報じられたり、トランプ大統領がLGBTに対する差別を容認する大統領令を準備しているも報じられるなど、LGBTコミュニティの不安を煽るような知らせは続々と届く一方だ。

オバマ政権下では、性的多様性の認識が進みLGBTだと自分を認識している人が史上初めて1000万人を超えた。元々はLGBT嫌悪的な風潮が強かったヒップホップシーンでその風向きがゆるやかに変わり始めたのもオバマ政権下だ。

例えばOdd FutureのTyler,The Creatorは過去に自身の歌詞が同性愛差別や女性蔑視でも非難されているが、クルーの中にSydやFrank Oceanという存在もおり、その後LGBT差別を行う白人至上主義団体を批判するTシャツをリリースしている。

また昨年のビッグヒット"OOOUUU"で知られるYoung M.AはLGBTであることを公言しているが、自身はLGBTであることを売りにしているわけでもないので自分をLGBTラッパーやフィメールラッパーとは呼ばないでほしいとも語っている。これはYoung M.Aというラッパー自身のタフさを象徴するエピソードでもあるが、社会の側がこうした発言を受け入れる土壌になっていなかったとしたら、Young M.Aはここまで言い切れたのだろうか?

トランプの大統領就任を目の前に、カミングアウトを行なったTaylor BennettとiLoveMakonnen。この2人のカミングアウトのタイミングの一致は偶然ではないだろう。これから訪れる、マイノリティへの寛容が失われていくことが危惧されるアメリカ社会への憂いと、今こそマイノリティが団結しなくてはならないという意志、そしてそれをあえてLGBTが不利なヒップホップシーンから言うことで周囲の人々に勇気を与えること、彼らのカミングアウトからはそうしたものが感じられる。

そしてこのように、長年ヒップホップの世界ではあり得なかったような、アーティストによるゲイ/バイセクシャルのカミングアウトが受け入れられるようになった土壌こそが、オバマ政権下でLGBTへの受容が進んだことの象徴だともいえる。しかしそのあとでこのような極端に反動的な新政権が誕生してしまったことはなんとも皮肉だといえるが、新政権下で、これまで築き上げられてきたこの土壌をアーティストたちが守り、より育てていってくれることを切に願う。

(辻本秀太郎・和田哲郎)

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