ベースミュージックの祭典 Outlook Festival 2015 レポート Part.2
毎年9月第一週、クロアチアの西部アドリア海沿いの観光地プーラの城塞跡や、2000年前に建設された円形闘技場を舞台に開催される「サウンドシステムの祭典」ことOutlook Festival。ここにイギリスを中心に進化し続けるサウンドシステムカルチャーが育んだ、音楽やアーティストたちが一同に会する。
文・写真 横山 純
ボートパーティ、そして朝まで続くサウンドシステムの祭典
Outlook Festivalの朝は早い。前日深夜遅くまで前夜祭を楽しんでいたにも関わらず、正午からボートパーティが始まる。ボートパーティは、さまざまなオーガナイズ・チームによって企画された3時間ほどのDJ・クルーズ・パーティだ。お客さん達はOutlook本祭とは別に、お気に入りのアーティストたち、レーベルが企画したボートパーティのチケットを予約する。人気のボートパーティは数カ月前から即完売だ。
アドリア海の果てしなく高い空の下、サウンドシステム満載の船に仲間たちと乗り込む。ほとんどのボートパーティのチケットは当日までに売り切れており、プレスパスを持っていても乗り込むことはできないほどの人気だ。
筆者は、2014年のRBMA JAPANにも参加し、今年凱旋公演を行ったロンドンのグライム・プロデューサーMumdance、そしてMumdanceと”Take Time”を発表した南ロンドンの若きグライムMC、Novelist、彼のバックDJも務めるGrandmixxerらによるボートに乗り込んだ。
MumdanceとGrandmixxerが1時間ずつDJプレイした後、Novelistが1時間ほどのライブを行った。天候にも恵まれ、そしてロンドンからの乗客がほとんどだったように見える船上は、ロンドンのクラブの熱気にも負けない、狂喜乱舞のフロアと化していた。Mumdanceの"Don't get lemon"やMumdance feat. Novelistの"Take Time", Grandmixxerの”ERA"など、彼らのエクスクルーシブチューンなどが投下されるたびに、小さくない船が左右に激しく揺れた。
3時間のクルーズを終えて船着場に帰ってくると、同じ時間に出港していた船も帰港しようとしており、お互いのオーディエンスが負けじと声を張り上げ、そしてお互いにエールを送り合い、ピースフルな雰囲気の中で下船。それぞれ夜に備えてキャンプサイトに帰ったり、次のクルーズの順番待ちへと戻っていった。
私は写真撮りながらはしゃぎまくっていたせいか、下船後かなり疲れていたのに気づき、もうしばらくは動きたくない…と思っていたものの、JUST JAMが監修するビーチ・ステージのストリーミング配信を手伝うことになっていたため、休憩する間もなく船着場からダッシュで現場に向かった。
Outlookの数あるステージの一つビーチ・ステージは、夜のスタートを待ちきれないオーディエンスたちが夕方前から多数集合する名物ステージだ。砂浜のステージは、さながら海の家のイベントだ。この日、ロンドンのJUST JAMチームが、KIKO BUN、NORMAN JAY、DJ HATCHAのショーをOutlookのオフィシャルDailymotionアカウントから生中継していた。そのストリーミングをカメラマンとして手伝った。
KIKO BUNのショットライブの後、レジェンドNORMAN JAYが1時間半ほどプレイ。Specialsの"Ghost Town”からドラムンベースの曲を繋げたりと、イギリスのオール・グッド・サウンドシステム・ミュージックのメドレーのようなセットを披露し、夕方を心地よく盛り上げていた。
その後のダブステップのゴッドファーザー、DJ HATCHAのオールドスクール・ガレージセットで、ビーチ・ステージのフロアの黒山(?)は、アドリア海の穏やかな波とは正反対に、歓喜の声を上げながらうねり続けていた。DJ HATCHAの後にプレイしたUK GARAGEのドン、DJ EZでフロアが更にどうなったかは説明する必要がないだろう。
ある海外のサイトのOutlookのレポートでは、この日のビーチステージはベストアクトの一つに数えられているのだから。ビーチサイドでは音楽を泳きながら聞く人、砂のフロアに足を取られながら半狂乱で踊る人、夕日がアドリア海に落ちていくのを眺めながらチル・アウトする人、それぞれがOutlookの初日の夜を待ちきれない様子だった。
ビーチ・ステージの配信撤収作業を終えた後、Outlookの2番目に大きいステージ、The Clearingステージに向かった。イギリスの二つのグライム・レーベル――ButterzとKeepinitgrimey――が今晩、Clearingステージをオーガナイズしていた。ButterzのElijah&Skillam、DJ Logan SamaがFlowdan、Killa P、Novelist、Stormzy、Jammz、P Moneyらの新旧グライムMCたちをサポートしながら、数千人をロックしていた。
イントロが流れるやいなやモッシュのためにオーディエンスが輪を作る。モッシュが起こるとさらに砂埃は舞い上がり、野外ステージにも関わらずLEDのレーザーがスモークを通過したかのように、一閃夜空に向かって伸びていく。
グライムが生まれて15年ほどが経ち、アーティスト、オーディエンスの世代交代も進んだ。10代、20代のMCたちが2000年代に生まれたトラックでラップし、同年代の数千人のオーディエンス熱狂している。誰が想像しただろう。ハックニー出身の23歳のJammz、21歳のStormzy、18歳のNovelistは一切怯むこと無く、堂々と自身のクラシックを披露した。
この夜には他にもダブステップのレーベル"DEEP MEDI"やバッシュメント・サウンドクルーのTHE HEATWAVEのステージが行われていたが、それらのことは一切考えないようにしながら、グライムを思いっきり楽しんだ。
Outlook Festival 2日目
プーラの日中は、30度近くまで気温が上がり、風も吹いてカラッとしているものの、日差しもキツくかなり暑い。ボートパーティに行かないオーディエンス達は、夕方まで寝るか、ビーチで泳いでいる。2日目の昼、OutlookのメインステージことThe Harbourのサウンドチェックの様子を見学させてもらった。
サウンドチェック用の曲が流れては止まり、エンジニアは微細な調整を続けていた。そこでHyperDubのボス、Kode 9が何故か無人の救護室にいるのを見つけた。近寄って様子を見たところ、彼は調子が悪いわけでもなさそうなので声をかけてみた。ボートパーティのためのボートを日陰で待っていたそうだ。去年まで東ロンドン大学で教鞭を取っていたが、その職を辞して、音楽に専念するということだ。今晩Deep Mediのステージに出演するから来てね、と声を掛けてもらい、彼と船着場で別れた。
The Harbourは5000人以上の観客を収容するステージだ。今晩はこのステージに、ヘッドライナーの中で一番楽しみにしているKing of DancehallことBeenie Manが出演する。彼はジャマイカのダンスホール・レゲエのアーティストで超超超有名ではあるものの、UKのベース・ミュージックで、しかも若いオーディエンスの前で、どのようなパフォーマンスを見せるだろう、オーディエンスはどのように彼のショーを受け止めるのだろうか?というようなことがちらっと頭をよぎった。
しかしJurassic 5があれだけの熱狂で受け入れられたことを思えば、自分が心配するようなことでもないだろう。船着場の岩の上に寝そべりながらサウンドチェックの様子を眺めていた。
今晩のThe Clearingステージは、”DMZ10”と称したダブステップの生き字引的パーティの10周年記念ステージだ。Kode9はDistanceとPinchのB2Bの後、二番手として出演。自身のクラシック"9 Samurai”のセルフリミックス、そして”9 Drones"からスタートし、JUKEを交えながら、最後はフェスティバルらしく、The Bugの”Poison Dart ft.Warrior Queen”で大盛り上げして〆た。
後ろ髪を引かれるようにしながらThe Clearingを後にした。自分的ベストOutlook飯のファラフェルサンドを頬張りながら、メインステージに向かった。到着した時はちょうど、ARAABMUSIKがバキバキに飛ばして、数千人のオーディエンスたちがガン踊りしていた。ヨーロッパのオーディエンスは時間配分や体力配分などを考えずに、気に入ったら踊りまくるから、つられて踊ってしまう。フロアで誰かわからない人と一緒に踊っていたら、いつの間にかFlatbush Zombiesが始まっていた。
彼らのステージングはオーディエンスに負けじと精力的で、ステージの上からステージ下まで駆け下りて、ステージ袖を通ってまたステージの上に現れることを繰り返し、その度に観客は盛り上がり、最後はオーディエンスをサーフィンしながら歌うわで、大いに沸かせていた。
ステージ脇では、次に出演する2015年に来日を果たした東ロンドンのグライムMCコンビ、Newham Generalsが待機していた。アーティストや関係者たちは、このコンビが雰囲気の中ライブうまくできるのか、と心配していたように見えたが、その心配をよそにD Double EとFootsieの二人はひょうひょうとしていた。持ち時間が15分だけだったのが残念だが、バックDJのLogan Samaが彼らのクラシックをテンポよくジャグリングし、2人は万雷の拍手で見送られた。
Newham Generalsのショットライブの後は、アメリカでのツアーを終えたばかりのSkeptaや2014年にMOBOの最優秀グライムアーティストに選ばれたStomzyらを擁するBoy Better Knowが1時間のショーを行った。Stormzyの"Know Me From"、"Shut Up”、Skeptaの"That's Not Me"、"Shutdown"そして、出演は叶わなかったメンバーのJmeのヒット曲"Man Don’t Care ft.Giggs”をBBKのメンバー、オーディエンスみんなで歌った。
そのBBKのステージは、2015年のOutlookのハイライトに数えられるだろう。これらBBKの曲は毎晩、どのステージでも繰り返し掛けられ、DJ達は歌詞をそらで歌えるオーディエンスに何度もリワインドを要求された。間違いなく2015年のOutlookアンセムはBBKが独占していた。
BBKが見事なショーを見せた後は、お待ちかねBeenie Manの登場。彼のバンドメンバーがイントロを演奏しBeenie Manが登場するだけで割れんばかりの歓声で湧き上がるフロア。スターだ!クロアチアのプーラに似合わない、きちんと仕立てられたロックスターのタイトなセットアップのスーツに、リーゼントで決めてやって来たBeenie Manは一際輝いていた。
歓声で湧く観客を舐め回すようにじろりと見やりながら黙って股間に手を当てる。声にならない叫び声が止まらない。そしてステージ横では、イギリスのアーティストの見本市のように微動だにせず名だたるアーティストがステージを見上げる。まるで子供に戻ったかの様な目でスターを見つめていた。
バンドメンバーのタイトなリディム生演奏をバックに、自身の名曲メドレーを披露。Bam Bamリディムから2000年代前半のダンスホール、そして2012年の大ヒット曲"Drinking Rum & Redbull"まで、Beenie Manでダンスホール・レゲエを総ざらいという感じだった。まだまだ42歳ということで、その若さにも驚かされたのだが、それ以上に自分たちの世代はBeenie Manの曲をほとんど歌えてしまう世代であり、Beenie Manはもはやグローバル・ポップ・スターであるということを痛感した。
最初から最後までそらでBeenie Manの歌詞を歌っていたグライムDJのSpookyや、いとこと一緒にはしゃぐJammzを見て、グライムアーティストたちにとってダンスホール・レゲエのトップランカーは憧れの存在なのだなと感じた。UKのグライムから見たJamaicaのダンスホール・レゲエへの愛は一体どのような感情なのだろうか。不思議だ。ロンドンで、グライムのアーティストたちがあんな目をしてるのを見たことがなかったから。Beenie ManはBob Marleyの"Redemption Song”をカバーし、最後に新曲を披露。ビシっとステージのフィナーレを飾った。
予定より少し遅くなって午前4時頃から始まった、マンチェスターのDubphix & Strategyのメインステージでのショーは、Beenie Manの見事なライブショーの後もなんのその、The Harbourという巨大なメインステージを、たちまち熱狂渦巻くマンチェスターのローカルクラブのダンスフロアに変貌させた。
Dubphixが自身の曲やマンチェスターの盟友Chimpoらの曲を「これはどうや、これはどうや」と矢継ぎ早に繰り出しながら、Strategyがフリースタイルをかまし、客席を煽る。マンチェスターのMC Skittlesを飛び入りゲストに迎えるなど、「クレイジー・マンチェスター・ベース・エレクトリック」と筆者が勝手に呼ぶ、パワフルな地元の勢いで完全にThe Harbourをロックした。
思えば、Outlookの初日からアーティスト受付の場所で初めてマンチェスタークルー達と出会った時から「来たぜ来たぜー!ジャパンクルー!」とハイテンションでハグし合ってから、会場で彼らと出くわすたびに、ハグを求められ抱き合ってきた。数年来の友人かと思ってしまうような彼らの人なつっこっさと、気が狂ったように激しく喚きながら踊り続ける文化は、どうも地続きであるとしか思えない。
ベースミュージックの祭典 Outlook Festival 2015 レポート Part.1
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