ベースミュージックの祭典 Outlook Festival 2015 レポート Part.3

毎年9月第一週、クロアチアの西部アドリア海沿いの観光地プーラの城塞跡や、2000年前に建設された円形闘技場を舞台に開催される「サウンドシステムの祭典」ことOutlook Festival。ここにイギリスを中心に進化し続けるサウンドシステムカルチャーが育んだ、音楽やアーティストたちが一同に会する。

体力の限界への挑戦 - Outlook Festival 3日目

outlook festival 2015

Outlookも半ばを過ぎ、舞い散る砂埃で喉をやられたのか体調を崩してしまった。多くの人の声がでなくなっている。解熱剤と風邪薬をレッドブルを流し込んで気合を入れる。3日目、私はVOIDステージのJust Jamオーガナイズのパーティを手伝った。

Just Jamはかれこれ15年前からロンドンをベースに活動するビジュアルプラットフォームだ。UKのダブステップ、グライム、ガラージなどさまざまなアンダーグラウンド音楽のDJやMC達を、TimとBarryのスタジオに迎えて、DJやMCのライブを数台のビデオカメラで撮影し、その映像を様々な動画素材とコラージュしてインターネット上で配信してきた。DommuneやBoiler Roomのはるか前から活動しているオリジネイターたちだ。この日筆者は最前列のオーディエンスを捉えるカメラを担当した。

ここVOIDステージは名の通り、VOID Acoustics社のサウンドシステムによってデザインされたステージだ。最新のスピーカーシステムのincubusが、パワフル、ダイレクトでタイトなサウンドを提供していた。それは野外ではなくクラブの中にいるかと思わせるほどだ。「サウンドシステムカルチャー」という言葉から連想するような、オールドスクールでオーガニックさとは正反対に、銀色の膜で装飾されたステージに青と赤の強力なLEDライトを反射させ、宇宙感を醸しだしていた。VOIDの未来感あふれる見た目のIncubusのサウンドシステムをエンジンに、そのまま宇宙旅行が出来そうだ。

今晩の乗組員たちはJust Jamにゆかりのあるアーティストばかりだ。バッシュメント・サウンドのThe Heatwave、グライム勢からはElijah & Skilliam、Spooky、そしてOnemanやAmy Beckerら、ロンドンのDJたちだ。

午前0時からのThe Heatwaveは、ごきげんなダンスホールやソカなどのカーニバル・サウンドでニコニコにガンガンに踊らせていた。彼らはクロアチアのダンスホール・クイーン達を呼び入れショーケースをさせるなど、まるで先月末に終わったノッティングヒル・カーニバルがもう一度やって来たようだった。

最後は、おそらく嫌いな人はいないであろう、彼らの得意な90年代のダンスホール・チューンのメドレー・セグメントでみんな笑顔あふれる締めくくり。ElijahとSkilliamは自身のレーベルの曲やダブプレートを小気味よく掛け、要所要所で今年のOutlookアンセムのBBKの曲で大きく盛り上げたりと、ロンドンのグライムシーンを代表するレーベル・オーナーの貫禄を見せた。

 

次に登場したSpookyは東ロンドン出身の26歳のDJ。日本での知名度はそこまでないかもしれないが「どのグライムのDJのセットでも、彼の曲を一曲も入れずにプレイすることは不可能だ」と、まことしやかに噂されているほどのDJ/プロデューサーだ。今年は来日ツアーも果たしたSpooky。

彼は若くしてグライムの名プロデューサーであり、平日は海賊ラジオでDJをこなし、週末はイベントに引っ張りだこ。そして若手グライムMC、DJの兄貴分という、グライムシーンの至宝であり、このシーンが躍進したダイナモ的存在なのである。是非、インターネットに彼が毎晩アップロードする彼のラジオショーを聞いてみてほしい。

そして今晩のこのステージのベストアクト、いや今回のOutlookのベストアクトはSpookyだったに違いないと信じている。Spookyは、彼しか持っていないダブプレートたちを30秒に1曲くらいのペースで高速ジャグリングし、オーディエンス、ステージ脇で見ていたアーティスト達はもちろんエンジニア、JUST JAMクルーら全員に"My God…”と言わしめた。彼のプレイの終盤「もうコレ以上はやめてくれ」という意味なのか、最高の賞賛としてかどうかは分からないが、フロアからステージに向かって誰かのブラジャーが投げ入れられたということだけは書き記しておきたい。

Outlook Festivalに必要なものとは

正直なところ、投げ入れられたブラジャーを確認したところで、もう意識が朦朧としていた。4日目と後夜祭を残したところで体力の限界を迎えていた。他の媒体でPart2Styleの出演の様子をレポートしたが、気力だけでやりきったと思う。このOutlook Festivalを楽しみきり、レポートするには、尋常でないほどの体力が必要とされる。今年もし行く人がいれば伝えたい、マスクは必ず持って行ったほうがいい。Outlookの後、ロンドンで会ったアーティストやスタッフ、全員砂埃で喉がやられて、体調を崩していたから。自身にとっての初めての音楽フェスは、楽しみ切るほうにも一生の一度の覚悟と体力が必要ということを教えてくれた。

今年もOutlook Festivalはクロアチアのプーラにて開催される。ヘッドライナーにDamian 'JR Gong' Marleyら今年もそうそうたるアーティストの名前が連なっている。

OUTLOOK FESTIVAL 2016

ベースミュージックの祭典 Outlook Festival 2015 レポート Part.1
ベースミュージックの祭典 Outlook Festival 2015 レポート Part.2
ベースミュージックの祭典 Outlook Festival 2015 レポート Part.3

RELATED

【ライブレポート】yahyel | 新たなフェーズの始まり

ぎゅうぎゅうの渋谷WWW X。この日バンドは6/27に恵比寿 LIQUIDROOMで追加公演を行なうことをアナウンスしたが、それもそのはず、会場にはキャパシティMAXの観客が集まり異様な空気を醸し出す。

Jin Doggに1年間密着したYuji Kanekoによる写真展がBOOKMARCで開催

関西シーンを代表するラッパーのJin Doggに写真家のYuji Kanekoが約1年間密着し、撮影した作品を展示する写真展が、原宿のBOOKMARCで4/8(土)から開催される。

ヒップホッププロデューサーをテーマにしたCayo Imaedaの写真展がHELLRAZORのギャラリーで開催中

福岡を拠点に活動するフォトグラファー・DJのCayo Imaedaによる写真展『DAILY OPERATION』が、東京・三軒茶屋のスケートブランドHELLRAZORが運営するギャラリーRAZEで開催中だ。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。