【Rappers Update Vol.2】Jin Dogg

FEATURED  2017.09.14  FNMNL編集部

体重を乗せてぶん殴るようなラップ。そこからは衝撃と共に、彼が抱えている痛みが伝わってくる。

ここ数年、ネットで次々と楽曲を発表してきたJin Dogg。もちろん、そういった印象を受けるのは、筆者が彼の地元である大阪から遠く離れた場所に住んでいるからで、ただ、数々のヴィデオから垣間見ることの出来るそのラップをする姿は充分に魅力的だった。暗いビートに乗って、関西弁で捲し立てるストリートの物語。繊細そうだが、怒らせたらただではすまなそうな雰囲気。攻撃的かつ内省的。それは、いわゆるトラップ・ミュージックの日本における解釈としても飛び抜けているように思えた。

そして、先日、ようやく体験することが出来たJin Doggのライヴは、先のイメージにさらなるリアリティを持たせる素晴らしいものだった。さらに、我々はこの、まだまだ未知の部分も多いラッパーにインタヴューをする機会を得た。待ち合わせたピザ屋に着くと、Jin Doggは大きな身体で、少し照れくさそうに握手をしてくれた。

取材・文 : 磯部涼

写真 : 横山純

- 1990年生まれ、出身地は大阪の生野区ですよね。

Jin Dogg - おー、知ってるんですね。やばい、やばい(笑)。

- 2016年4月に発表したミックステープ『1st High』では、日本語、韓国語、英語のトリリンガルでラップしていますが、生野区ということは、地元はコリアン・タウン?

Jin Dogg - そうです。今は鶴橋に住んでいて、実家は隣の桃谷にありますね。働いてるのもそこの朝鮮市場です。

- コリアン・ジャパニーズの何世にあたるのでしょうか。

Jin Dogg - 僕は3世です。おとん側が在日で、おかんは韓国から来たひとですね。

- ラップを始めたのは2011年ということで、21歳頃から。最近のひとにしては遅目のような。

Jin Dogg - ライヴとかレコーディングを始めたのがその頃で、それまでは遊びみたいな感じ。ヒップホップは小5から聴いてはいて、ちゃんと音楽をやりたいけど、自分には手が届かないことだと思ってました。……順を追って話すと、日本で生まれて、10歳で韓国に渡って、あっちでは日本人学校に通っていて。その後はオーストラリアに留学、また韓国に戻ってアメリカン・スクールに入学。で、そこで友達が英語でフリースタイルをしてたのを聞いたんですね。それをめっちゃかっこいいなと思ったのが、ラップをやってみようと思ったきっかけ。

- 韓国に居た頃はどんなラッパーが好きだったのでしょうか。

Jin Dogg - やっぱり、当時、流行っていた韓国のラッパーで、例えば、Deepflowとかめっちゃ聴いてましたね。あと、日本のラッパーも少しは知ってましたよ。韓国のヒップホップ・ポータルサイトに、〝Japanese〟のコーナーがあって、そこにZeebraさんが載ってたりしたんで。でも、デカかったのは、OZROSAURUSの"Rollin’ 045"ですね。あの歌は喰らいました。「これが日本語ラップなんや!」って。

- 最初、ラップを始めた時は何語で?

Jin Dogg - 英語では全然出来なくて、韓国語でやってました。そのうち英語でも出来るようになりましたけど、日本語でリリックを書き始めたのは随分あとです。見よう見まねでやってみたら出来て、自分でもびっくりしましたもん。

- 話を聞いていると、10代の多感な時期に様々な土地に住んだ経験が、トリリンガル・ラップの下地になっているんですね。

Jin Dogg - 高校生の頃はこのまま韓国で暮らしていくんだろうと思ってましたからね。それが、アメリカン・スクールをさぼっていたら退学になってしまって。18歳で日本の高校に転入するんです。

- その歳で戻ってくると馴染めない感じはありませんでしたか?

Jin Dogg - 高校ではそういう感じもありましたけど、地元の奴らが優しくしてくれたんで。生野だから、みんなルーツが同じじゃないですか。昔は10人中8人が在日で、日本人の方が少ないぐらいですよ。境遇を理解してくれたし、色々と教えてくれたし、寂しい思いはしなかったです。

- 転々とした末に生野のコミュニティに受け入れられ、そこが地元になった。

Jin Dogg - いい奴らばっかりですよ。たまに右翼の人たちが来たりもしますが。

- ヘイト・デモ?

Jin Dogg - ええ。もうないですけど。

Jin Dogg

- 初めての作品である2012年3月発表のEP『Welcome to Bang Bang I.K.N』は、今とスタイルが違いますよね。

Jin Dogg - その頃はもうバッチバチのG・ファンク。Snoop Doggがめっちゃ好きだったんですよ。〝Jin Dogg〟もそこから。

- 〝Jin〟は名前?

Jin Dogg - いや、韓国にジンドッゲ(진도견/珍島犬)っていう伝統的な犬がいて。その綴りを〝Dogg〟にしました。

- バイリンガルになっているわけですね。

Jin Dogg - でも、もう名前変えようかなって思っていて。

- えっ?

Jin Dogg - 〝Jake Yoon〟にしようかなって。普段、友達にはJakeって呼ばれてるんで。

- せっかく名前が浸透してきたところだと思うので、もったいないですよ。

Jin Dogg - そうですかね。じゃあ、あと何年かはJin Doggで(笑)。

- ちなみに、2015年からYoutubeで大量に楽曲を発表し始めますが、EPと少し間が空いているのは何故でしょう。

Jin Dogg - その間は色々あって。わはははは!

- 出張?

Jin Dogg - いや、むしろ謹慎っていうか、家でおとなしくしとこうって。理由はしょうもないことですけどね。何て言うか僕に色々と問題があって、しばらくは自粛してました。

- では、それを清算して、2015年から本格的に活動が始まったと。

Jin Dogg - ええ。戻るタイミングで『1st High』を出したんです。その頃、Radooくんと出会ったことも大きいですね。最初はイベントで誰かに紹介してもらったんですけど、後日、彼が大阪でやってる<Blue Very Studio>っていうレコーディング・スタジオに遊びに行ったんです。そこでつくった曲が良かったんで繰り返し通ってる内に、Radooくんともむっちゃ仲良くなって、「一緒にレーベルせえへん?」と盛り上がって……。

- それがHibrid Entertainmentですね。

Jin Dogg - はい。レーベルというか、クルーみたいな感じなんですけど。Radoo君は、今はYoung Yujiroっていう名前でやっていて、あとはDJ Bullset、ビートメイカーで映像やDJもやるWarkarさんがメンバー。で、それまでは、普通にレコーディング・スタジオを予約して、当日までにきちんとリリックを書いて、というつくり方だったのが、RadooくんはいつでもBlue Very Studioにいるし、遊びに行った流れで曲がつくれるようになった。そのやり方が性に合ったんだと思います。

- また、初期にはG・ファンクだった音楽性も、『1st High』ではトラップ・スタイルに変わっていますね。

Jin Dogg - その頃はまたコリアン・ラップを聴いてましたね。Keith Apeが〝It G Ma〟(2015年1月)でブレイクしたじゃないですか。それ以前から好きだったんですが、ヒップホップなのにエイジアンな感じをめっちゃ出してるなと思って、気になったんです。他にもOkasianとか。彼らはコリアン・ラップの中でも異質で、目立っている感じがありましたね。

- Okasianの登場でコリアン・ラップが一気にモダンになったと言われますよね。つまり、韓国経由でトラップを知ったと。

Jin Dogg - そうですね。あとは、DJ GeorgeがA$AP Rockyを聴かせてくれて、格好いいなと思ったんです。そうしたら、そういう奴らが目立ち始めて、Young Thugが〝Stoner〟(2014年2月)を出して。自分が選ぶビートも段々とそっち寄りになっていった。

Jin Dogg

- いま、端から見ていると〝関西トラップ〟とでも言えるような動きがあるように思うんですが。

Jin Dogg - でも、ひとは少ないんですよ。僕らしかおらんっていうくらい。若い子で格好いいのもちょくちょくおるんですけど、スポットが当たってない。

- でも、CZ Tiger、Young Coco、Willy Wonka……勢いのあるラッパーが多いですよね。

Jin Dogg - Tigerは、もともと、TORNADOってグループをやってて、そこの相方(DEE)が生きてた頃から仲良いですよ。Cocoも14歳くらいの頃から知ってます。タカちゃん(Willy Wonka)も13歳から。

- みんな遊び始めるのが早いんですね。

Jin Dogg - あの頃(2010年前後)は特にそうだったと思います。すごかったですよ、クラブに子供がいっぱいいて。みんな、それぞれいい感じにあがってきてますよね。だから、もっとひとが増えてくれたらなって。

- 『1st High』にはMonyHorseも参加しています。

Jin Dogg - Monyは大阪に来た4~5年前とか、毎日、僕の実家に来よるんですよ。仕事終わったら、速攻、電話かかってきて、「ジェイク兄どこおるの?」って。

- また、関西以外のラッパーだと(同席していた)Kid Nathanとの共演が多いですよね。個人的に、Jin Doggのラップにはまったのは"CURSE BOYZ"のヴァースを聴いたことがきっかけでした。

Kid Nathan - オレも知り合ったのはそのちょっと前、去年の10月くらいですね。〝Purple Magic〟のヴィデオを観て、かっけえと思って、すぐに連絡取って。

Jin Dogg - あざまーす(笑)。そこから東京にも行くようになりました。以前は呼ばれる当てもないし、Nathan君がほんま架け橋になってくれた感じですね。

-〝Curse Boyz〟はクルーの名前でもあるんですか?

Kid Nathan - 一応、そんな感じですね。誰が決めたってわけじゃないけど。

Jin Dogg - ムーヴメントみたいな。広まっていったらいいなって。

Kid Nathan - 福岡とか秋田とか色んなところから集まってるんですよ。大阪は若い子が育ってるけど、東京は上の人たちが多すぎるから、あまりポッと出られない。だからこそ、ムーヴメントとして見せていけたらいいですね。

Jin Dogg

- 話を戻すと、2015年から楽曲制作のスピードが上がったのは、行きつけのスタジオが出来たためだと。

Jin Dogg - 最近は少し頻度は少なくなりましたけど、以前は1週間に1度は僕の歌を録る日がありましたからね。

- レコーディングの際、楽曲は事前につくっておくんですか?

Jin Dogg - ビートは決めておいて、スタジオに行ったらそれを聴きながらリリックを書いて録ってみて、ちゃうかったらなしで、良かったらそのままで、というつくり方です。

- ラップは過剰にライミングにこだわるのではなく、関西弁を生かした、話していているようなスタイルですよね。

Jin Dogg - 下手くそなんですよ、僕。踏むのも努力するんですよ。でも、めっちゃダサくなるんですよ。「こんなん、オレ言わんやん」みたいな。

- その自然体な感じが凄く良いですけどね。

Jin Dogg - あ、マジですか。

- ECDも「言葉がびしびし入ってくる」とツイートしていました。僕の場合はまず声に惹かれて。ちょっと裏返ってる。

Jin Dogg - わはははは。僕、声も悩みやったんですよ。「何か高いな、オレの声」みたいな。「みんなダミ声でかっこいいのにな」って。

- "魑魅魍魎"(Kid Nathan feat. Jin Dogg, Cold Rose, KilVVicious)のヴァースも、裏返るのを気にせず勢い良く、テンション高く通すじゃないですか。

Jin Dogg - あれは一気に録りましたね。で、聴き返して「やり直す」って言ってたんですよ。でも、Nathan君が「これの方がいいんじゃない?」と言ってくれて。

Kid Nathan - あれは普通にバズるなって思ったんですよ。でも、頑なに「録り直したい」って言ってたよね。

Jin Dogg - 確かにマスタリングしたものを聴いたら、「あ、ええやん」ってなった。あれで知ってくれたひとも多いみたいで、あんなにバーンといくとは思わなかったですけど。

- そういった自分のラップの良さに気付いたのは最近?

Jin Dogg -  実はまだよく分からない。わはははは!今も模索中です。何と言うか、飽き性なんですよね、自分。唯一続けてるのがラップなので。ただ、ラップでも「こういうビート飽きたな」とか「次はこういうビートでやってみようかな」とか、サイクルがめっちゃ早い。だから、これからも変わって行くと思うんです。今はトラップだけど、もしかしたら、次は歌を歌うとか、4つ打ちでやるかもしれないし。

- Young Coco〝ユメ〟のヴァースが好きなんですよね。トラップだからドラッギーなことについて歌う、という範疇を越えて、トラウマみたいなものが象徴的に表現されているような気がして。

Jin Dogg - あれは〝色〟がテーマだったので、自分の経験から色があるものを思い出して入れていったんです。コップでプクプク浮かんだ紫色の泡……とか。まぁ、ほんまに何も考えへんで、バーって書いた感じ。

- 先程の話にもあったように、ほとんどフリースタイルのノリでラップを録っていると思うんですが、ただ、時折そこから悩みというか苦しみというかモヤモヤしたものが浮かび上がってきますよね。

Jin Dogg - 僕、繊細なんですよ。体大きいんですけど、ガラスのハートなんですよ。だいぶナイーヴ。で、ビートによって思い浮かぶことってあるじゃないですか。だから、押し殺してたことをビートが思い出させてくれるんやと思う。「そういえば、あの時あんなことがあったな」みたいな。

- 人見知りですか?

Jin Dogg - 結構、人見知りですね。

- ラップって人と会ってなんぼみたいなところも。

Jin Dogg - まぁ、あるっすよね。人に会うのは嫌いじゃないですよ。仲良くなるのが難しいかな。

- 今、一緒にやっているひとたちは?

Jin Dogg - 仲いい人ら。仲悪かったら関われないですもん。「なんでこいつとつくらなあかんの」ってなる。だから、インスタに〝#Teamtomodachi〟って入れてるんですけど。

-  "家族"という友達について歌った楽曲もありますが、そういえば、トラップをやっていても言葉使いが綺麗ですよね。"家族"でも、「男友達はみんなブラザー/女友達はみんなシスター」とか、女性にもちゃんと敬意を払ってるじゃないですか。

Jin Dogg - 僕、あんまそういう(言葉使いが汚い)ものは好きじゃないんですよね。ビッチはビッチですけど、人によるじゃないですか。

- CURSE BOYZを名乗りながらも、カース・ワードを使わない。

Jin Dogg - 英語では使ってますけどね。日本語になるとほんまに強めの言葉になっちゃうんで、聴く側が不快になると思うんですよ。

- 〝家族〟と言えば、お子さんもいるんですよね?

Jin Dogg - はい。今、1歳5ヶ月。可愛いっす。普段は市場の仕事が終わって、家に帰って、息子の風呂の手伝いをしてからスタジオに行きますね。

- 夜が更けてからが音楽の時間。

Jin Dogg - そうですね。スタジオで用事をして、夜中、家に帰って、また朝の10時くらいから仕事。

- カタギですねー。

Jin Dogg - 何を言うてるんですか!(笑)バッチリカタギですよ。

- (Tシャツの袖から見えていた刺青を指して)柄の意味を教えてもらえませんか?

Jin Dogg - (袖をまくりながら)これは、天下五面っていう5つのお面を組み合わせる柄で、25歳の時に入れたんです。和彫りが良いなと思って。ちょうど、音楽に復帰しようって頃やったんで、堀師のひとに「縁起がいい柄はないですか?」って聞いたら、「天下五面なら好きなお面の柄が選べる」と教えてくれて。(柄を指しながら)これは音楽の神様の弁天さん。で、ひょっとこさん、恵比須さん。あとは、河童さんとダルマさん。河童さんは怪物にもなれる。ダルマさんは7回転んでも8回起き上がる。

- しかし、話を聞いてると凄く真っ当なひとなんですね。

Jin Dogg - いやいや、実は最近なんですよ。こんなんなったのは(笑)。

- ラップを聴いていて、もっとフリーキーなひとをイメージしていたんですが。

Jin Dogg - 正直、今でも頭の中はそんな感じなのかもしれませんね。でも、プライヴェートは普通の人でいたいんで。

- ビートと向き合うと、普段は抑えているものが吹き出してくる。

Jin Dogg - そうですね。ラップではいつも思ってることを、言えないことを言いたい。仕事の時に言ったらお客さんが来なくなっちゃいますからね(笑)。

- では、今後のリリースやプロジェクトについて教えて下さい。

Jin Dogg - もうすぐ、『2nd High』っていう2枚目のミックステープが出ます。このシリーズは3枚まで出して、その後、アルバムをつくりたいって考えてますね。ちなみに、今回は日本のアーティストとどんどん知り合っていく中でつくっていったので日本語が多いんですけど、韓国のラッパーとやった曲も入ります。色んな言葉でラップするのは、色んな国の人達と繋がりたいから。今、日本のラップも面白くなってきてるものの、やっぱり、コミュニティがちっちゃいですよね。会いたいと思ったひととは、結構、すぐ会えちゃうっていうか。やっぱり、その枠を越えて活動していきたいなと。とりあえず、アメリカで本場のモッシュピットを体験したい。

- 生野の幼馴染みたちはJin Doggを聴いているんですか?

Jin Dogg - 聴いてくれてますね。Youtubeで観て、「お前のライヴえらいことになってるな」「ロックみたいやんけ」って。ヒップホップを普段聴いてるわけじゃない奴らにも響くのは嬉しいですよ。

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Mixtape 『2nd High』近日リリース

 

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