【featured】リディム・ムーブメント - 北アメリカ、ジャマイカ、ヨーロッパ、アフリカをつなぐ新しいグローバルな音楽の形 -

FEATURED  2016.11.29

by 和田哲郎

「ジャマイカでは1つのリディム(Riddim)の上で、みんな曲を作るんだ」とは、”Hotline Bling”をヒットさせた直後のDrakeがFaderの2015年のインタビューで答えたコメントだ。

”Hotline Bling”と新鋭D.R.A.M.のスマッシュヒット"Cha Cha"の類似を、Drakeはジャマイカのダンスホールカルチャーを例にとって、説明したのだ。

それから1年が経ち、2016年の世界の音楽シーンは様々なリディムで覆い尽くされているような状況になっている。ジャマイカのダンスホール・リディムはもちろんのこと、USはアーバンミュージック、UKではグライムとダンスホールの融合、、またはアフリカン・ディアスポラたちによるアフロビーツなど、世界各地で、新しいサウンドが生まれている。ここではそれらのムーブメントを総称してリディム・ムーブメントと呼んでみたい。

この2016年のトレンドは、どのように形成されていったのか?昨年のMajor Lazerのギガヒット”Lean On”もその要因の一つだろう、Rihannaの”Work”もDrakeの”One Dance”も、Justin Biberの”Sorry”も、そしてコテコテのEDMユニットだったThe Chainsmokersの放った”Closer”はその決定打だったかもしれない。

こう書くと、このリディム・ムーブメントがEDMのように欧米だけで起こり、それが全世界に波及して、EDMのように消費されていっただけのように感じるかもしれない。Sean Paulのように「DrakeやJustin Biberはジャマイカのダンスホールシーンに敬意を払っていない」と怒るのも納得してしまう。確かにトロピカルハウスなどのシーンを見るとそういった傾向はあるだろう。

しかし事態はSean Paulが思っているよりも、もっと複雑だ。このブームはアメリカだけで起こったわけではないし、アメリカとジャマイカの間、さらにはアフリカ、そしてイギリスを中心としたヨーロッパも、それぞれのシーンが独自の動きをしながら、時折、各地のアーティストが交錯し、相互作用を起こしながら成長していったまさにグローバルでローカルなムーブメントなのだ。

Drakeからアフロビーツへ

2015年のDrakeに戻ろう。”Hotline Bling”のリリース2週間前にDrakeはUKのアーティストSkeptaとともに、1曲のリミックスチューンをSoundCloudで公開している。原曲はナイジェリアでStarboyという愛称で親しまれている、大人気アーティストWizkidが2014年にリリースしたアルバム『Ayo』に収録されている”Ojuelegba”。

 

 

Wizkidは従来のFela Kutiに代表されるようなアフロビートとは区別された、ダンスホール・レゲエやヒップホップに影響を受けた、アーバンなアフロビーツと呼ばれる新しいカテゴリーの代表的なアーティストであり、Drakeの今年の大ヒット曲”One Dance”にもフィーチャーされることとなった。

Wizkid
Wizkid

ちなみにアフロビーツという言葉には、アフリカだけではなく、ヨーロッパやアメリカ大陸に渡ったアフリカ系移民が作ったサウンドという意味も含まれているとFaderで紹介されている。しかし中には様々な影響を受けて成立したアフロビーツとアフリカで生まれた音楽を一緒に捉えるべきではないとする意見も主張されている。

Drakeが”Ojuelegba”に、ピンときた時点でこのグローバルなムーブメントの登場を予期していたかはわからない。しかし”Ojuelegba”の、シンプルでありながらも、ポリリズムを含んだトラックの構成に、未知の可能性を感じるのは、不思議な話ではないはずだ。

そして事実アフリカから、さらに各地に散ったアフリカ系の移民たちによって、昨年から今年にかけて新しいリディムを持った曲が続々と生まれている。例えばWizkidと同じナイジェリア生まれで、現在はガーナを拠点にするアーティストMr Eaziの昨年の楽曲”Skin Tight (feat. Efya)”のもつ、メロウさには驚くばかりだ。この曲にはUSのモダンなR&Bがもつメロディーが、ソリッドな形で取り込まれている。

 

 

さらにそのMr Eaziと、ガーナ生まれで6歳からイギリスで育ったアーティストEugyのコラボチューン、”Dance for Me”はどうだろうか。この曲ではトロピカルハウス的な味付けがされつつ、リズムには絶妙な遊びが施されている。

 

 

ガーナを現在も拠点にするアーティストJoey Bにも目を向けてみよう。Joey Bは2014年にリリースされたアップリフティングなキラーチューン”Tonga (Feat. Sarkodie)”で知られている。

 

そのJoey Bの今年のシングル”U x Me”はDrakeが”Ojuelegba”から受けた影響を元に”One Dance”を作ったように、ガーナから見事な”One Dance”へのリアクションとなっている。”Tonga”でみせたようなパーティー的なスタイルから、Drakeのような内省的なフロウをJoey Bは披露している。

 

グローバルなヒット曲のカバーもしっかりとアフリカのアーティストによって行われている。ナイジェリアの人気アーティストBurna Boyは、Rihannaの”Work”のカバーを行っている。落ち着いたテンションながらも、渋いBurna Boyのボーカルが印象的な好カバーだ。

 

 

アフロビーツのアーティストはEugyのように、アフリカ出身でありながら、イギリス、はたまたアメリカなどに移り住み活躍しているアーティストも多くいる。ロンドン出身で、ナイジェリアで育ち、高校卒業後にアメリカに渡ったAyo Jayのような例もある。彼が昨年リリースしたシングル”Your Number”はスマッシュヒットとなり、Fetty Wapがリミックスに参加、そして今年に入り”Your Number”1曲だけでメジャーとの契約を勝ち取り、さらにChris BrownやKid Inkが参加した別のリミックスも作られることになった。シンプルでキャッチーなメロディー、ポリリズムやダンスホール・レゲエの要素が入ったリズムを持ったこの曲は、まさに現在のハイブリッドなムーブメントの代表といっていいだろう。

 

 

逆にアフリカにとどまったまま、Jay Z率いるRoc Nationとの契約を果たしたアーティストもいる。アフロビーツシーンのBeyonceと呼ばれるTiwa Savageだ。Korede Belloに客演した”Romantic”などで、その存在感を見せつけているTiwa Savageは見事Roc Nationとマネジメント契約を結んだ。Tiwaはこの契約に際して自身のこれまでのサウンドのスタイルを変える必要はないとRoc Nation側から説明を受け、「彼らはアフロビーツのムーブメントを信じている。だから私もとてもエキサイトしているのよ」と話している

 

 

アフリカ系移民が作り上げる新しいイギリスのシーン

アフリカ系移民のアーティストという文脈では、アメリカよりもイギリスが彼らの活躍の舞台となっている。例えば”Lean & Bop”のヒットなどで知られる東ロンドンのMC J Husや、ナイジェリア生まれで、2001年にイギリスに移り住んだMoelogoがいる。Moelogoの”Penkele”はKing Sunny Adeの同名曲をサンプリングしつつも、アフリカやアメリカのアーティストにはないダークな沈み込むベースラインサウンドがエッセンスとして加えられており、UKらしいアフロビーツサウンドの開花を感じさせる。またJ-HusはグライムMCとして活動し、Moelogoもグライムのアーティストたちと共に活動していることが、他の地域のアーティストとの差異を生んでいる。

J-Hus

 

 

Abysmal Loungeを毎週配信しているDJのStupid Kozoに教えてもらった、NewAgeMuzikのようなユニットもイギリスには存在する。4人組の彼らもまたナイジェリアをルーツに持つユニットであり、今年リリースされたシングル”Da Beat”ではミニマルかつ陶酔的なメロウサウンドを作り上げている。彼らはFACTの記事で「私たちはUKのサウンドとアフリカのサウンドを融合させて、自分のサウンドを作りたいと思っている。その融合されたサウンドはほぼすべての人に共通するものだ。私たちはグローバルになりたいんだ」と自分たちの目標を話す

 

 

NewAgeMuzikの言葉が示すように、このリディム・ムーブメントは、USやUKなどのグローバルなマーケットを持つ音楽と、ローカルな音楽が相互作用しながら、グローバルの音楽のトレンドを作っていく新たな原理を示しているのかもしれない。

USのヒップホップがアフリカの都市にインターネットを通じてほぼ時差なく届けられる。そのおかげでアフリカのローカルなアーティストも、USサウンドを自らのプロダクションに取り入れ、地元のシーンに沿ったものとして昇華できる。これまでならローカルとみなされていたアフロビーツというフォーマットも、USのヒップホップシーンに届く機会が増える。そしてアメリカのサウンドもそれに影響されて、変化する。確かにこうした動きには、市場や資本の大小や、文化的盗用の問題などネガティブな側面もつきまとうが、このムーブメントは確実に現象として起こっている。

話が少しそれたが、イギリスではこういったMCたちだけではなく、様々なレーベルがリディムの実験を行っている。さきほど紹介したJ-Husの”Lean & Bop”のリミックスも行っているBok BokとL-Vis 1990によるレーベルNight Slugsはその代表的なレーベルだろう。そのBok Bokによる”Lean & Bop”のリミックスは、原曲にDJ Mustard的なフレーバーを注ぎ込み、現在のムーブメントの流れを顕在化させたすばらしいリミックスだ。

 

 

Night Slugsからは、Jam Cityもアブストラクトなリディムチューンをリリースしている他に、謎のアーティストDJCがインダストリアルで無骨なリディムチューン"C100"をリリースしている。

 

 

さらにインダストリアルな方向性を追求してゴシックなどとも接近しているのが、KamixloやEndgameなどを擁するクルーBala Clubだ。ダンスミュージックという領域を超えて、ノイズなどとも接近するダークさを兼ね備えたこのクルーからは、KamixloやEndgameがアジアツアーを行うなど、世界中から高い注目を集めている。

 

Night SlugsやBala Clubなどが、これまでのリディムになかった異質な要素を加えたサウンドを多くリリースしているのに対して、マンチェスターのクルーSwing Tingは、UKのダンスミュージックカルチャーの流れをふまえつつも、フレッシュなリリースを行っている。例えばPelican FlyやGoon Club Allstarsで活動するプロデューサーSamenameの別名義と言われているFlorentinoによる、ラテンなどの要素も織り込んだカーニバルなリディムや、MCのFoxによるミニマルなダンスホールチューンをリリースするなど、Swing Tingはロンドンのシーンとも距離を取り、独特の進化を遂げている。

彼らはFNMNLのインタビューに対して、現在の世界のダンスホールムーブメントに対し「クールだと思うよ。Rihannaがダンスホールをやったり、Drakeの新しいアルバムにPopcaanが客演したりしてる。DrakeにはPopcaanがどういうシーンから来たのかとダンスホールって事を世間に広めて欲しいね。新しいマーケットが生まれて、新しいオーディエンスがもっとダンスホールに興味を持ってくれると思う」と話してくれている

 

 

今年の大ヒットチューンDrakeの”One Dance"はもとよりイギリスと大きく関係している。”One Dance”はUKファンキーのクラシックチューン、Kylaの”Do You Mind”のCrazy Cousinzによるリミックスを、ピッチを遅くしてサンプリングしている。そのプロダクションにはグライムDJのLogan Samaも手を貸しているとの逸話もある。

UKファンキーはハウスやUKガラージ等とともにアフロサウンドに大きな影響を受けているジャンルだ。つまりDrakeは”One Dance”1曲で、ジャマイカ、イギリス、そしてアフリカの3方向に目配せしているのだ。さすがDrakeらしい、いやらしいまでの配慮だ。

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