ヒップホップの魂を受け継ぐ、韓国の新星ラッパーYunBインタビュー

熱い盛り上がりが続く韓国のヒップホップシーンのなかで、高い人気をほこるレーベルがPaloaltoが主宰するHi-Lite Recordsだ。オーセンティックなサウンドと先鋭的なもののバランス感を巧みに取り、幅広い層から支持されている同レーベルに最近加入したのがNY育ちのラッパーでビートメーカーのYunBだ。

A Tribe Called QuestやBig PunなどNYの街が育んだヒップホップを聴いて、育ったYunBは、その精神を受け継ぎつつも韓国を拠点に本格的に活動を開始した。バイリンガルを操る、注目の新鋭に話を聞いた。

取材・構成 和田哲郎 取材協力 YonYon(BRIDGE)

- ラッパーとしてもプロデューサーとしても活動してますが、どちらを先に始めたんですか?

YunB - ラップを中学生から初めて、トラックメイクは高校生の時から始めました。ラップは中学の時に仲よくしていた、友達同士で定期的にフリースタイルをする同好会みたいなものをやっていて、いわゆるサイファーを遊びで始めたのがきっかけですね。当時はA Tribe Called QuestやBig Pun、Big L、Fat Joe、昔のJay ZやNasとか、オールドスクールじゃないけど、正統派のヒップホップの大御所ラッパーに憧れてましたね。韓国のラッパーは大学入ってからチェックするようになったね。生まれはアメリカなんだけど、中学の時に一時的に韓国に戻っていたけどインターナショナルスクールみたいなところにいたし、高校はアメリカに戻っていたりしたので、環境的に韓国の歌を聴くチャンスはなかったですね。

YunB

- 大学に入って初めて聞いた韓国のラッパーは誰でしたか?

YunB - Dynamic DuoやDrunken TigerのTiger JKに大きな影響を受けましたね。例えばTiger JKもカリフォルニア生まれで、その後韓国に来て、彼も第一言語も英語だけど、韓国に帰ってきて韓国語でラップして、ちゃんと成功している姿はとてもリスペクトできる姿だなと思っていましたよ。

- YunBも最近Hi-Liteからリリースした曲では韓国語でラップしてましたよね。

YunB - 韓国語のラップを聴き始めたのは大学からなんですが、高校生の頃から、韓国語でラップするのを自分なりに挑戦はしていて、ただ当時は韓国人のラッパーもあまり聴いてなかったし、自分の家だけで録音してました。でも人前で見せたりとかYoutubeやSoundCloudにあげることに対しては、すごい怖かったから封印してましたね(笑)。Hi-LiteのオーナーのPaloaltoさんに、自分で録った韓国語のラップを聴かせたときに、元々韓国語でラップしてきた人とは違う独特のフロウがあるというか、イーストコーストのラップをしてきたフロウだけど、韓国語としても不自然じゃないと言われたんです。そのときに初めて自信がつきました。

 

- 韓国語でラップするのが怖かったというのは、どういう理由で怖かったんですか?やっててしっくりこなかったから?

YunB - 高校のときはアメリカに住んでいたから、当時韓国でどういうスタイルが流行っていて、リスナーがどういうのが好きなのかというのを把握できてなかったんです。だから自分なりにやったラップが、人に受け入れられるものなのかが怖かったんですよね。韓国の市場で、韓国のレーベルに所属したということは、今後韓国語でラップし続けなきゃいけないということなんですけど、Paloaltoさんは、とりあえず韓国でデビューはするんですが、YunBの持ち味は英語のフロウだから、英語の曲も徐々に露出できるように、韓国だけじゃなくて将来的にはアメリカのラッパーとフィーチャリングしたりというプランも考えているみたいです。サイドプロジェクトとして海外でのプロジェクトも展開させてくれるみたいなので、それもHi-Liteに入りたいという動機の1つですね。

- ラッパーとして2ヶ国語を使い分けるというのは難しくないですか?

YunB - やっぱり韓国語でラップを考えるのは、英語で考えるよりも不自由で、英語だったら自然に頭に浮かぶんですけど、韓国語のリリックを書くときは、最初は英語と韓国語ごちゃ混ぜで考えて、ちょっとずつ韓国語に直していったりとかしなきゃいけないんですよね。でもこれは克服しなきゃいけない課題なので、1バース目は英語と韓国語で混ぜて考える、2バース目は韓国語だけで韓国語だけで考えるって努力はしてますね。今デビュー曲"Runaway"のPart.1とPart.2が出てるんですが、Part.2に関しては韓国語の比率が多くなってますね。その曲に関しては1バース目から韓国語がメインになるように努力しましたね。

 

- 大学で哲学を勉強したということですが、リリックに哲学の影響はありますか?

YunB - 哲学を勉強する上で、様々な本を読みますし、何かのお題に対して答えを求められることが多いと思うんですけど、常に物事を考えて、そこから答えを導き出すというのを学校でひたすらトレーニングを受けたから、それが歌詞を考えるときも、自分が見つけた答えが歌詞になって、それを聴いた人の手助けになるようなものを作っていきたいと思ってきたし、今までもそういうものを作ってきたと思いますね。

- 90年代のラッパーのスタイルに影響をされたというのと、今のリリックの話は通じるものがありますよね。今の多くのラッパーとはスタイルが違いますよね。

YunB - そもそもヒップホップの原点は黒人が自分の意思を自由に表現する唯一の方法だから、そういう原点をまずリスペクトしたいし、最近の曲に関してはヒップホップといえど、ヒップホップの精神を貫いてないというか、そういう面とは僕は差別化したいと思っている。

- トラックメーカーとしてもソウルやジャズのサンプリングを多く使っているのも、そういう部分と通じるものなのでしょうか?

YunB - 60年代のソウルやジャズ、ファンクなどがすごい好きで、小さい時から聴いていたんです。トラックメイクを始めた頃はサンプリングを多用していたんだけど、今はSoundCloudも著作権が厳しくなったりするのもあって、レーベルからもなるべくオリジナルでやってほしいと言われているので、最近はしてないですね。"Runaway"のビートもサンプリングはしてないです。Soulectionとかにも最近は影響されていて、自分からディグしたわけじゃないけど、友達と遊ぶときとかに流れてたミックスがSoulectionだったりして、自然に入ってきたんだ。

- Hi-Liteというレーベルについてのイメージを教えてもらっていいですか?

YunB - Hi-Liteについての僕の印象は、元々のヒップホップカルチャーもリスペクトしているし、その上で今の時代に合った新しい音楽に挑戦させてもらえるレーベルというイメージです。所属しているアーティスト含め、スタッフの方達もヒップホップの文化を守ろうという意思がある人たちなので、すごいいい会社だなと思います。

- 今の韓国のヒップホップシーンについてはどう思いますか?

YunB - 韓国では、ヒップホップというジャンルがアンダーグラウンドではなくて、メインストリームに近いくらい区別がなくて、多くの人がヒップホップを聴いてるんですけど、その中で自分がちゃんとしたアーティストとして活動できるのは、すごいいいタイミングですね。今ヒップホップがメインになってきているタイミングで、自分がヒップホップを基盤にした新しい音楽を発信していくいいチャンスです。TVのCMすらもヒップホップのアーティストをフィーチャーしたりとか、韓国のヒップホップシーンの中でもちょっとした変化があって、最近はトラップやベースミュージックがヒップホップシーンの中で流行ったり、今年に関してはSoulectionだったりソウルフルなビートが少しずつ浸透してきたりしている。そういうシーンの状況と、今自分が作っている音楽とマッチするから、それもいいタイミングですよね。CrushとかDeanとかZion Tといった有名なアーティストも、もちろんそういったビートを取り入れているし、まだレーベルと契約していない無名のアーティストでも、そういうソウルフルなサウンドをビートを作ってる人は多いんですよね。

- SoundCloudなどにいるアーティストでオススメのアーティストはいますか?

YunB - 今年のULTRA JAPANにも出演していたIMLAYだね。IMLAYはソウルフルなプロダクションというよりは、もっとハイブリッドなトラップとかカワイイ感じのフューチャービートとかを作っているんですけど、自分で聴いているのはソウルフルな音楽だったりするんですよね。トラックを聴くとテクニカルな面でも優れているし、細かい作業をしっかりやっているんですよ。

- 今後、どのようにグローバルに自分の活動を広げていきたいですか?

YunB - 基本的には韓国とアメリカをベースに活動していきたいですね。やっぱりこれまでNYで生活をしていたのは、すごい大きな意味があって、そこで出会った人たちとか、仲良くしてもらった友達がアートやファッションの分野で活動しているから、その友達からのサポートも今回のデビューで得られやすくなりました。その例としてアメリカのヒップホップサイトMass Apealで、僕のミュージックビデオが紹介されたんですけど、それもNYで出会った友達の紹介があったからなんです。そういうチャンスが今後もっとあるはずだと考えているし、韓国とNYを通してもっとグローバルになれるチャンスはあると思いますね。

- 今は韓国のヒップホップシーンはとても好調ですが、あえて今のシーンに課題があるとすれば教えてください。

YunB - そもそもヒップホップが韓国に広まったのが、アメリカのそういう黒人文化がかっこいいという点があったからだと思うんですけど、今みたいなポピュラーになった時点で満足するのではなくて、先ほども言いましたけどヒップホップは自分の文化とか自分の意思を表現する道具なので、今後の韓国のヒップホップは韓国の文化と融合して、韓国独自の文化として発展していけたらいいなと僕は思います。例えば韓国のヒップホップシーンの中で、韓国独特の文化をリリックにしているラッパーもいて、あまりにもアンダーグラウンドだったし、若いリスナーには伝わらなかったということがあったんです。

最近いいなと思った曲はBeenzinoの"January"という曲で、歌詞が韓国の文化をちゃんと表現しているんですよね。その曲にはヤン・ドングンというラッパーがフィーチャリングされていて、ヤン・ドングンは韓国の文化を伝えてきたアンダーグラウンドのラッパーだったんですが、Beenzinoにフィーチャリングされることというのが、今後の課題に対しての1つのきっかけになっていて、それは僕は嬉しいですね。歌詞はそういう歌詞なんですけど、ビートはすごい今風でそれが新しくてすごいいいなと思ってます。韓国のラップの今の傾向としては、今のアメリカの流行りを真似してる人たちが多いという話をしましたけど、ラッパーというのは自分の人生を表現するべきだから、そういう曲に出会ったときは僕はとても嬉しいんです。

 

- 最後に今後の予定を教えてください。

YunB - 今はEPの準備をしていて様々なアーティストとコラボする予定です。それをリスナーには楽しみにしておいてほしいですね。

___________

YunBは今週末12/10に開催されるLAの注目レーベルHW&Wのオフィシャル・ショーケースで再来日を果たし、パフォーマンスを披露する予定だ。

Info

 

HW&W

 

HW&W & BRIDGE Present's HW&W JAPAN TOUR

12.10.2016 (SAT)

22:30-LATE

clubasia (Shibuya)

www.clubasia.jp

WITH FLYER: ¥2500/1D別 DOOR: ¥3000/1D別

Special Guest from HW&W_

Gravez
Fwdslxsh
DrewsThatDude
Bahwee

Guest_

YunB (Hi-Lite Records / Korea)
Yukibeb (Soulection / Tokyo)
MARZY (PROPERPEDIGREE / Tokyo)

Line up_

ShioriyBradshaw
DaBook
YonYon
DJ YEN
EGL

has (FLIGHT TOKYO)
obon (FLIGHT TOKYO)
electric candy sand (dos・ing)
Steffen¥oshiki (dos・ing)
Shin (dos・ing)
Jayda B. (BaeTokyo)
NACOCAMELLIA (BaeTokyo)
mnz (BaeTokyo)

103i (yesterday once more)
きなり
Ryoma Noguchi
TaE (Tokyo Einstein)
Gaku
なぎ

【HW&W Recordings】

http://huhwhatandwhere.com

【BRIDGE】#bridge_asia

http://bridge-asia.tumblr.com

【Special Thanks】

#flighttokyo

#wearedosing

#baetokyo

 

RELATED

【インタビュー】JUBEE 『Liberation (Deluxe Edition)』| 泥臭く自分の場所を作る

2020年代における国内ストリートカルチャーの相関図を俯瞰した時に、いま最もハブとなっている一人がJUBEEであることに疑いの余地はないだろう。

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

【インタビュー】LANA 『20』 | LANAがみんなの隣にいる

"TURN IT UP (feat. Candee & ZOT on the WAVE)"や"BASH BASH (feat. JP THE WAVY & Awich)"などのヒットを連発しているLANAが、自身初のアルバム『20』をリリースした。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。