【インタビュー】Minchanbaby | 活動終了について

Minchanbabyがラッパー活動を終了した。突如SNSで発表されたその情報は驚きをもって迎えられたが、それもそのはず、近年も彼は精力的にリリースを続けていたからだ。詳細も分からないまま活動終了となってから数か月が経ったある日、突然「誰か最後に活動を振り返ってインタビューしてくれるライターさんやメディアいないかな」というポストが投稿された。すぐにDMを送り、話を聞くことになった。インタビューには長年お世話になったというFNMNL編集部の和田さんも同席し、Minchanbabyの深い胸の内を明かしてもらった。

元々MINTのMCネームで2000年頃にクルー加入、その後2004年からソロ活動を開始。一度ラッパーとしての引退宣言をするも、改めてMinchanbaby名義で2017年からリスタートを切った。クルー時代から含めると、トータルでの活動期間は実に25年ほど。その間、継続的にリリースを重ね、スタイルも臨機応変に変化させてきた。活動初期からあったライミングへのこだわりを基軸としつつ、サウスへの傾倒、フリーダウンロードやインターネットカルチャーへの反応、さらにトラップ、エモラップ、ポップパンク、ハイパーポップ……と、常にいち早く時代の空気をキャッチし自作に反映してきた嗅覚と柔軟性は、他に類を見ない。とりわけ、粗悪ビーツのプロデュースと強度高いラップによって陰鬱さを描いた『たぶん絶対』(2017年)は、国内エモラップの代表作として歴史に名を刻んでいる。

そんなMinchanbabyが、なぜ突然活動を終了したのか? 真相を語ってもらった。

取材・文:つやちゃん

Minchanbaby - 以前よりも自分の中では踏み込んでいるし、気持ちとしてはだいぶ深いです。

Minchanbaby - う~ん……順を追って話すと、まずはコロナが大きかった。あの時って、皆でなんか変なバトンまわしてごまかしてたり、あるいは何もしなかったり、一部では家やスタジオでライブ配信する人もいて、まぁそれぞれのやり方で自分を納得させてましたよね。自分は、そこでシングルをたくさんリリースしたんですよ。キャリアがある程度長いラッパーとしては珍しいくらいに、作って出してというのをとにかく繰り返した。当初は世の中のリリースも少なかったのでけっこうプレイリストにも選んでもらった。その後コロナが落ち着いて通常に戻る中で、でもその頑張りが評価されないし繋がっていかなかった、というのが大きいです。そうやって色々振り返ってると……コロナの時ってトイレットペーパーがなくなるだのお好み焼きの粉が売り切れるだの色々起きて、あれって結局なんやったんやろ? って思う気持ちも生まれてきた。いや、ほんとあれって何だったんすかね。色んなことで皆が騒いでた中でも、自分はけっこう淡々と頑張ってたんですけど……。

Minchanbaby - 曲制作やライブで誰かからオファーの声がかかるとかかな。でもその中でも、『知ってた』(2022年)は5曲全部が客演のEPで、それについては声をかけてもらえて嬉しかった。ただ、そのEPが、自分の中ではもっと聴かれると思ったんですよ。言い方はアレですけど、全員が自分よりも売れているラッパーの方たちで、全曲MVも作った。ビートももちろん厳選した。売れにいったんです。そうやってたくさんお金もかけていただいたけど、でもストリーミングもビデオの再生数も予想より一桁少なかったんです。それに、あえてリリックも通常よりシャバく(薄く)したんですよ。誰が歌っても成立するような、Minchanbabyが歌わなくてもいい内容にした。すごくパーソナルな内容は入れなかったし、そうやって自分の中でもあえて挑戦してみたんですけど……それがむしろ良くなかったのかな。

Minchanbaby - 聴く方はそんな設定知らんしね。今まで聴いてた人はダメだったのかも。まぁその分、新規のリスナーは増えましたけど。でも、その後にリリースした『FALL OUT GIRL』(2022年)や『青春』(2023年)はもう何をやってもダメ、という感じでした。再生数も反応もかなり厳しい。それではっきりと気づいたんです、これはもうMinchanbabyはオワコンなんだなと。

Minchanbaby - 新しくて面白いことをしてるな、という聴き方をしてくれる人はいますけど、それってやっぱり一部の人じゃないですか。業界の人とか、アーティストの人とか。自分は元々、歌詞を書くのが遅いんですよ。本当はどちらももう一年くらい早く出したかったんですけど、でもそれで早く出したから変わってたかというと、そんなこともないかなと。

Minchanbaby - アーティストは皆そうだと思うんですけど、やっぱり直近のものを聴いてほしいし評価してほしいんですよね。だけど、それが相当厳しくて。客演があった『知ってた』と比較すると、直近二作はもうかなり厳しかった。Minchanbabyという存在に対してついにドンと大きなバツマークのハンコがつかれる感じでした。あぁ、さすがにこれはもう終わりだなと。

Minchanbaby - 10代~20代のラッパーとやってることは変わらないと思うんですけど、やっぱりおじさんっていうのがバレてるのかな。そうやって色々考えてると、『知ってた』の時に、もう自分ではなくて若い人に歌ってもらってた方が良かったんじゃないかとも思います。やっぱりもう、Minchanbabyがだめなんですよ。

Minchanbaby - そう。結局、一つのことを地道にずっとやり続けている人の方が評価されると思うんです。同じことを貫き通すってめちゃくちゃ苦労する時もあるけど、最後は報われる。ずっとメンフィスのラップをされているDSXTX(D-SETO)さんとか、最近また注目されていますよね。たぶんしんどい時期があったと思うんですよ。ずっとブーンバップをしている人たちもそうですよね。サウスが来てトラップが来て、しんどい時期もあったはず。でも今また若い人がブーンバップをやっているじゃないですか。自分は飽き性だし、新しいことをしたいのでそれができなかった。新作が出る度に前のリスナーを切っていってたんだと思います。『たぶん絶対』(2017年)とかは高く評価していただけたので、ああいうスタイルをずっとやっていったらよかったんでしょうけど。でも、自分の場合はそれができない。

2017年、『たぶん絶対』の頃のアーティスト写真

Minchanbaby - そもそも最近はラップらしいラップもしてなかったですしね。こんな言い方は良くないかもしれないけど、自分の場合、聴いている人のために曲を作ったことなんてないんですよ。とあるアーティストさんが、ライブでどんな曲をやってほしいかをインスタライブで訊いてから決めるって言ってて、めちゃくちゃびっくりしたんです。これがジェネレーションギャップなのかなと思った。そのあたりについては、自分はもう古い考え方なのかもしれない。

Minchanbaby - やりたいですよ。というか、ダブルネームでのコラボとかは今までも全体のまとめやお金まわりのこと、歌詞の手直しも含めて、それに近いことはやってきてるので。でもまぁ……別にネガティブな話ではなく、現実問題として、それも売れてないとだめなんですよね。Minchanbabyの色が濃すぎない作風になって以降も、べつに歌詞提供のオファーは来なかったし……。そういうことを色々考えていくと、結局は……言ってしまえば人望のなさに尽きると思う。

Minchanbaby - そう、人望(笑)。

Minchanbaby - 昔から、本名の自分もMinchanbabyとしての自分も、人が集まってくるような人じゃないんですよ(笑)。お二人とも色んなラッパーを見ているだろうし、それはなんとなく分かるでしょ? いるじゃないですか、自然と人が集まってくるラッパーって。ライブでリハやってても、歌い終わって気づいたらなんかふぁーっと皆が集まってるみたいな。すごく大事な話してるわけじゃないのに、なぜか皆が周りに吸い寄せられて話に花が咲いている感じ。すれ違ったことしかないから詳しくは知らないけど、DJ CHARIさんとかが持っている陽のオーラというか。そういう人望が自分はなかった。

Minchanbaby – そうなんですよ。

和田 - 時代の変化も大きいように思いますけどね。以前は国内のヒップホップシーンもそこまでゲームが巨大化してなかったですけど、ここ数年はそれがかなり加速しているじゃないですか。誰と誰がフィーチャリングするとかもそうだし、増え続けるサブジャンルに対してリスナーが興味を失ってるところもありますよね。

Minchanbaby - それは、サブジャンル同士でリスナーが分かれてるって感じですか?

和田 - 分かれているし、そもそもサブジャンル自体に興味を持っている人自体が少数派なのかなと思います。

Minchanbaby - あぁ、なるほど。そういう感じなんですね。

Minchanbaby - そうか。逆に、メインストリームのヒップホップはリスナーが多いんですか?

和田 - USと日本でも状況は違うと思うんですけど、日本の場合はヒップホップに大衆的なキャッチ―さも求められるようになってきている印象ですね。そこに、例えばジャージー(クラブ)の要素が加わった曲を聴いてカッコいいなと思ったとしても、そこからジャージーをもっと掘って聴いてみようとはなかなかならない。

Minchanbaby - そうなのか……。自分は、それこそ『POP YOURS』みたいな大きいフェスに行く人もオルタナティヴ系のヒップホップのイベントに行くし、その境界はなくなってきているのかと思っていました。そういうわけでもないのかな。自分が広く見すぎているだけなのか……。

和田 - 分断はありますよね。

Minchanbaby - でも自分は、それでいいと思ってるんですよ。全然違う色んなジャンルのフェスがあっていいし、そもそも自分のことをラッパーと思ってないようなラッパーも最近多いじゃないですか。ヒップホップって言わないでください、みたいな。そういうの見ると、いつもニヤニヤしながら「いいねぇ」って思う。そういった人が増えるのはいいなと感じていたんだけど……。

Minchanbaby - valkneeさんとかは、そういった細分化されたオルタナティヴなヒップホップをまとめているような立ち位置なんじゃないですか? なんであのポジションに自分がいないんやろって思ってるんですけど(笑)。

Minchanbaby - そうなんですか。ああいったオルタナティヴなヒップホップって、もうメインストリームのヒップホップと双璧をなすくらいの大きさなのかなと思ってました。

和田 – そうですね。単純に数字で見ちゃうとやっぱり全然違いますね。

Minchanbaby - あぁ、そうなんですね。ちょっとオルタナな人が出ても、よく分からないとか知らないって感じなのかな。あと最近、そもそも知ってる曲じゃないともうお客さんが乗ってくれないんでしょ?

Minchanbaby - ですよね。そうなると、やっぱりもうMInchanbabyはだめなんですよ。

Minchanbaby - 今ではもうやらないけど、90sのNYヒップホップはずっとちょろちょろ聴いてはいます。でも、自分のラップの核というとやっぱりサウスからトラップなんでしょうね。その時期の自分が評価されていたというのもありますけど。USにうまく対応できてるね、みたいな。そう考えると、自分の中ではトラップが一番大きかったのかな。研究して練習して、というのもやってました。どう跳ねるか、オンで乗せるか、三連フロウ、などなど。それが、自分本来のネガティブでダークなところとうまくマッチして評価されたんでしょうね。

Minchanbaby - そうだと思います。やっぱりサウスのノリなんですよね。

Minchanbaby - 以前はそうでしたね。最近も、韻は踏んでいるけどもうちょっと柔軟というか。J-POPの人がゆるく踏んでるのに近い。

Minchanbaby - なるほど。だとしたら、もしかするとその不器用さやズレというものが大きく出すぎるものに手を出してしまったのかもしれないです。『FALL OUT GIRL』とか『青春』とか、その不器用さやズレが気持ち悪くなっちゃうレベルじゃないですか? やるならもうちょっと馴染めよ、というか。リリックは自分なりに薄めてるかもしれないけど。

2020年ごろのアー写

Minchanbaby - お二人に訊きたいんですけど、正直、Minchanbabyは大人しく普通にラップやっておけばよかったのに、って感じですか? 『たぶん絶対』のあの感じをベースに、ドリルとかやったりして(笑)。でもまぁ、やれよって言われてもやらなかったと思いますけど。とは言え、ポップパンクにしろハイパーポップにしろ、自分が好きなサウンドを自由にやり過ぎたのかなという気はするんです。売れてる人って、それを我慢してるってことなのかな。自分の場合、他人への助言はできるんですよ。「声質から考えるとこっちのサウンドが合ってるからこれやりなよ」ってすぐ言える。でも、自分のことになった途端に全然分からない。それに、自分が色々なことを自由にやる中でも助言してくれる人が誰もいなかった。それも含めて、人望のなさなのかもしれないですね。一人でやることの限界だった。

和田 - 逆に、なぜドリルはやらなかったんですか?

Minchanbaby - シカゴドリルまではいけたんですよ。めっちゃ暗いトラップのノリで聴けるじゃないですか。でもUKに渡ってNYに戻ってきて、ノリが変わってきた。あれにはワルが必要。悪さ自慢をしないと、あのビートには合わない。自分が上下ジャージ着ても、コスプレにしかならないし。

和田 - なるほど。それを聞くと、やっぱりMinchanのヒップホップへの距離感のつかみ方って凄く批評的な気がしますね。

Minchanbaby - それ、磯部(涼)さんにも昔言われました。MINTを辞めるって発表した時、磯部さんが「とにかく批評的なラッパーだった」ってポストしてて。そうやって、ヒップホップを俯瞰で見るというのも良くなかったのかな。

Minchanbaby - だから、本当はそれくらい良い意味で馬鹿というか、何も考えずドーンといける人がアーティストなんだと思います。自分は、何に関しても一回ごちゃごちゃ考えるタイプなので。「今これカッコいいやん!やるっしょ!」とも、「俺はこれしか知らんからこれだけやる!」ともならない。

Minchanbaby - 自分の場合、新しいサウンドだなと思ったらちゃんと調べて、まだ英語の解説記事しかないような場合もそれを翻訳して読んで、起源を知って理解してから手を出すタイプなんですよ。

Minchanbaby - 自分は、学生時代から女性の方が仲良しが多かったんですよ。女の子と遊ぶ方が楽しかったし、友達も多かった。逆に男の子といる方が、ちょっとしんどかった。だから、リスナーとしても女性のアーティストを意識的に聴いてます。でも、USのお尻大きい女性ラッパーたちになるとちょっと苦手なんですよね。以前、女性アーティストを中心に組まれたイベント『desktop』に出させてもらった時も、自分のそういう文脈を分かってくれてるんだなと思って嬉しかったです。あと、ちょっと話がずれますけど、同じ嫌なことをされたとしても女性の方が許せるんですよ(笑)。既読スルーされても、女性だったらまぁいっか、みたいになる。西海岸のギャングっぽいノリ、運動部の縦の序列、反社のこわい感じ、そういうのは全部苦手です。学生時代から、自分はずっと浮いてるんですよ。よく男の子がやってるような、誰かの家にたまったりとかもしたことがない。

2022年『FALL OUT GIRL』の頃のアー写

Minchanbaby - ラップって、情報量がめちゃくちゃ多いじゃないですか。それに、めちゃくちゃパーソナルなことを大声で言える。でもふんわりとルールもある。何でもありだけど枠組みもあるという、そういう音楽って他にないと思うんですよ。最近は歌の割合が多くなってきて、そうなるとラップほど個人的なことを歌えなくなる。それも良くなかったのかもしれない。

Minchanbaby - そんなカッコいいものじゃないですけどね(笑)。でも、自分はラップやってなかったら童貞やったと思うんですよ。引きこもって、もっと早く死んでたんじゃないかな。ラップやることで、人付き合いが増えて色んな人と知り合うことができたし色んな経験ができた。こうやってインタビューを受けたりするのもそうだし、ビデオの撮影一本とっても色んな人と一緒にやることができたし。

Minchanbaby - なんとなく曲制作はまったり続けてます。あと、歌詞提供はもちろん、プロデュースやA&Rもやりたいです。事務作業も好きだし、裏方の仕事もしたい。トークイベントとかお喋り仕事もしたいし、何かしら音楽関係にはしがみついていたい。

Minchanbaby - たくさんいますよ。挙げていきますね。 

GOKURAKU SSS

$ugarplanet

Godzilla East

Ccn

Wemma 

Mephisto

Dayun

Kanna

Kysho Ichie

Crystal Tea

X TAMAMO X 

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