【インタビュー】Kohjiya 『KJ SEASON』| 楽しくないと続けられない

IOやKEIJUの作品に参加したことで注目されている気鋭のラッパー・Kohjiyaがミニアルバム『KJ SEASON』をリリースした。軽快なトーンの本作にはlj(MaisonDe)、Only U、同郷のYungFLXが参加している。今回は制作を軸に、Kohjiyaのヒップホップスタイルを深掘りした。

取材・構成 : 宮崎敬太

撮影 : 横山純

- 『Dividual Tape』以来となるミニアルバム『KJ SEASON』が完成しました。

Kohjiya - リリックでも言ってますが、この2年間ずっと曲を作り溜めてました。だから思ってたよりも反響が良くてすごく嬉しいです。友達や知り合いはもちろん、リスナーの人たちもいっぱい聴いてくれてる。しかもみんなの「好き」が特定の曲だけじゃなくて、9曲それぞれ分散してるのもありがたいなって思ってます。

- このタイミングでのリリースには理由があるんですか?

Kohjiya - 幸運なことに去年IOさん(“Racin’ feat. Kohjiya”)やKEIJUさん(“Family & Loyalty”)の作品に参加させていただけたので、絶対に前よりも注目されると思ったからこのタイミングにしました。

- IOさんやKEIJUさんとはどのように繋がったんですか?

Kohjiya - KANDYTOWNのメンバーと親交があるKORKさん(レーベル・ISLAND STATE主宰)が僕のデモを2人に渡してくれたのがきっかけです。KORKさんは地元の先輩で、自分がラップを始めた中学生くらいからずっと面倒を見てもらってます。

- IOさんとKEIJUさんに初めて会った時の印象は?

Kohjiya - KEIJUさんに初めてお会いしたのは、YOUNG JUJU時代にライブで長崎に来た時です。僕は10代で普通に客としてライブを観に行って、終わった後に話しかけて当時クルー(MADz’s)で作ってたCD-Rを「聴いてください」って渡したんです。そしたらすごく丁寧に「ありがとう」って言ってくれてめちゃくちゃ嬉しかったの覚えてます(笑)。

- 良い話!

Kohjiya - IOさんとは“Racin’”の制作で初めてお会いしたんですが、マジでかっこよかったです。良い意味で表裏がないと思いました。MVのイメージのまんまというか。僕はKANDYTOWNの大ファンなので内心ビビってましたけど、IOさんもすごく優しかったですね。ツアーにも帯同させていただいてめちゃくちゃお世話になったし、すごく勉強になりました。

- すごく早いタイミングでラップを始めたんですね。

Kohjiya - たしか小6だったと思います。「ヒップホップを知って、同時にラップを始めた」くらいの感じですね。あまり詳しく覚えてないんですけど、デカかったのはMADz’sのSHIÓLAが転校してきたことです。SHIÓLAはヒップホップダンスをしてて、その頃『高校生ラップ選手権』も流行ってたから、SHIÓLAとAURALに「ちょっと僕らもやってみようぜ」くらいのノリでした。

- 最初はどんなアーティストを聴いてたんですか?

Kohjiya - SHIÓLAがダンスで習ってたDasEFXとかM.O.P.とかですね。そこからZeebraさんとか日本語ラップも聴くようになりました。

- いろんなヒップホップに触れてきたと思うんですが、現在のスタイルにハマってきたのはいつ頃ですか?

Kohjiya - ここ1〜2年かもしれないです。自分はほんとにいろんなヒップホップが好きで、いろんなスタイルにチャレンジしてきました。作っていくうちに今回のアルバムみたくちょっと崩して乗せる感じが「得意分野っぽいぞ」「なんか調子が良いな」って気づいてきました。

- ちなみに地元・長崎にはヒップホップのコミュニティがあるんですか?

Kohjiya - はい。でも自分たちは地元のシーンにどっぷり入るというよりは、パーティーがあるタイミングに遊びに行かせてもらうようなスタンスでした。同い年でラップしてるのは僕ら3人だけだったので、SoundCloudで他の地方の人たちと繋がったりしてましたね。

- 未成年ですしね。

Kohjiya - 間違いないです(笑)。ラップを始めたばかりの頃はブーンバップっぽいアンダーグラウンドな雰囲気でしたけど、あれこれやっていくうちに『KJ SEASON』にたどり着いた感じです。

書き続けてないとダメなタイプ

- 『KJ SEASON』で最初にできたのは?

Kohjiya - “You”と“Evil Twin (feat.YungFLX)”が一番古いです。それこそ2年前の曲です。

- “Shine”には「2年寝かした歌詞が光り」というラインがありましたが、この2曲はリリックだけあったんですか?

Kohjiya - この2曲は完成してました。ミニアルバム用に録り直しましたけど。

- Kohjiyaさんはビートも作るんですか?

Kohjiya - ラップしかできません。僕は基本タイプビートです。

- 意外です!僕は“You”のメロディがすごく好きでした。

Kohjiya - まじですか。ありがとうございます。“You”に関してはオートチューンを強めにかけて遊んでる感じにしたかったんです。(オートチューンが)いい感じにかかるように声の出し方はかなり意識しました。

- リリックはどのように書いていくタイプですか?

Kohjiya - 日によって違いますね。一気に全部書くこともあれば、宇宙語で先に鼻歌を作って、ちょっとずつ日本語に書き起こしていくこともあります。自分は書き続けてないとダメなタイプなんです。ちょっとでもサボると書けなくなっちゃう。いや書けるには書けるけど、全然気持ちが乗ってないみたいな。2週間くらい書かないと書けなくなっちゃう。瞬発力とか、(ラップを書く)筋肉が衰えちゃう感覚ですね。

- “Evil Twin (feat.YungFLX)”の「違うルーツを持ってる日本人」というリリックが印象に残りました。

Kohjiya - 今は関東に住んでるんですけど、19歳で地元に帰省した時、お母さんからおじいちゃんが韓国人だって教えてもらったんです。お母さん曰くちっちゃい頃に話してくれてたらしいけど、僕は全然覚えてなかった。「そうなんだ。韓国の血が4分の1入ってんだ」と感じたのが“Evil Twin”のきっかけです。

- YungFLXさんを客演に招いたのはなぜ?

Kohjiya - 彼はアメリカ人とのハーフなんです。俺らお互いルーツは違うけど同じ日本人で、しかも僕とYungFLXは普段聴いてる音楽が違うのに「いいよね」というポイントは一緒なんです。性格も似てないけどなんか気が合う。「俺ら瓜二つじゃね?」みたいなことを話してるので、一緒に曲を作ろうと思いました。タイトルの“Evil Twin”は異なる双子の悪魔という神話からインスパイアされてます。

- “Rarri”にはljさんとOnly Uさんが参加されています。

Kohjiya - これもタイプビートで、見つけた瞬間に絶対作らなきゃって思いました。長崎から関東に帰ってきたタイミングですね。長崎でほんといろんなことがあったんですよ。迷子の犬を保護したり、飛行機に乗り遅れたり。“Rarri”で歌ってるほかにもいろいろあったので、これは自分1人でラップするよりわちゃわちゃしたほうが楽しいかもと思って、ljくんに連絡させてもらって、もっとエネルギッシュにしたいと思って、面識なかったけどOnly Uくんに連絡してみました。絶対ヤバいと思って。すごい気に入ってる曲です。

みんなが使ってないような言葉でラップする

- Kohjiyaさんはラップのボキャブラリーがユニークだと思います。読書をされるとか?

Kohjiya - いや、活字無理だし、映画とかも観ないす(笑)。マンガ、アニメ、YouTubeみたいな。

- 新しい表現の日本語が多いので、僕はてっきりすごい読書家なのかと思ってました。

Kohjiya - みんなが使ってないような言葉をテンポよくラップに入れることは、すごい意識してるかもしんないです。「止まらねえ」とか「増やす口座の0」みたいな言い回しも好きだけど、そればっかりなのはつまんないかなって。

- “KJ Season Freestyle”の「KJはリスナーを裏切らない」もKeep it realの新しい表現だと思いました。

Kohjiya - 僕、ほんとYouTubeをよく観るんです。曲をディグったり、MV観たり。あとコメント欄を見るのも好きなんですけど、たとえばJ. Coleの新曲が出ると「Cole never disappoints」ってコメントが必ずつくんですよ。 「絶対こいつ裏切らねえ」「やっぱ信頼できる」的なニュアンスの定番コメントなんです。そういうのを日本語にしてる人いないなと思って、「KJはリスナーを裏切らない」のラインが出てきました。

- でも歌うのに勇気がいるラインでもありますよね。

Kohjiya - いや昔から自信だけはあるんで(笑)。さらに言うと「やるしかない」って気持ちのほうがデカかったですね。

- “Reach Out Rich”はシリアスなセルフボーティングですね。

Kohjiya - この曲は割と最近作りました。半年前くらい。これもタイプビートです。

- 今回タイプビートじゃない曲はあるんですか?

Kohjiya - 基本全部タイプビートです。“DREAMIN’ BOI ISSUE”だけ弾き直してもらってますけど。

- 完全にラップで勝負してるわけですね。かっこいいな。

Kohjiya - いやいや……。タイプビートって無限にあって選びたい放題じゃないですか。しかも途中までトライして「やっぱやめた」みたいなこともできるし。1人で完結できるのがいい。人と関わって作ると相手のレスが自分の思ってたタイミングと違ったりして、そうするといいバイブスで書けなかったりする。もちろんこれからはプロデューサーの人と作っていきたいけど、作ってた当時はこのやり方が自分にフィットしてたんですよね。

- 個人的に“Childish”がすごい好きでした。

Kohjiya - このビート、ヤバいですよね。夜中に見つけてすぐフリースタイルで作りました。たぶん3時間くらいでできてます。

- ライター的には夜中に書いた文章を翌朝読み返すとめちゃ恥ずかしくてボツにすることが多いんですが、ラッパーの方はそういうのってあるんですか?

Kohjiya - 普通にあるっす(笑)。“Childish”ができた時「これめっちゃ変だけど、なんか面白くていいな」と思ったんですよ。でも翌朝聴いたら良い変か、悪い変なのかわかんなくなっちゃって。すごい悩んで、実はボツにしようと思ってたんです。けど周りの人に聴いてもらったら、「トリッキーな曲だけど、すごいハマる人には絶対ハマるから」ってアドバイスをもらったので採用しました。

- まさに僕はハマった人でした(笑)。事前にお送りいただいたKohjiyaさんの楽曲解説で“Shine”は「ガヤ入れる時が一番楽しかったです」と書かれていましたが、それはどういう意味なんでしょうか?

Kohjiya - この曲って「ボッボッボッ」ってガヤが入ってるじゃないですか。ビートを聴いて、最初にそこだけ決めてたんです。でもリリック自体はすごい時間がかかってる。ガヤにハマる2小節を書いては直しての繰り返しでした。ガヤのためにめっちゃ頑張った曲です。

- やっぱ発想が面白いですね。今回の作品ですごく難しかった曲や、制作が止まった曲はありますか?

Kohjiya - ないかも……。詰まったらもうやめちゃうんです。

- じゃあ作りかけの曲がいっぱいある感じ?

Kohjiya - ですです。で、その時の気分にフィットした2小節だけとか、ヴァースだけ書いたり。良いバイブスだったら全部書き上げたり。“Shine”に関しては絶対に入れたいと思ってたから、無理して一気に書くんじゃなくてコツコツ作っていきました。

- Kohjiyaさんはバイブスを重視してるんですね。

Kohjiya - そうです。僕、めっちゃ飽き性なんで楽しくないと続けられないんですよ。自分がのびのびできる状況を作るのが最重要事項です。

- 書けないタイムに入っちゃった時はどうしてるんですか?

Kohjiya - 書きたくなるまで書かないです。でも僕はMVを観るのが大好きだから、ヤバいのを見つけると「俺もこんなの作りてえ」ってなるし、それこそ近くにいるYungFLXと普段からデモを送り合ってるので、そこから刺激を受けて書きたくなることも多いですね。

僕が飽きてきたタイミングでなんかしら新しい動きが出てくる

- “DREAMIN’ BOI ISSUE”の「用意された輪を抜けて毎日雨に打たれた この街に生まれた俺らは知ってる晴れの日の空」というラインはどんな意味なんですか?

Kohjiya - 長崎ってすごい雨が降る街なんです。"長崎は今日も雨だった"(内山田洋とクール・ファイブ)という曲があるくらい。僕は小6〜中1でラップを始めて、高校時代はラップばっかりやってたんです。みんなとは仲良かったけど部活にも入ってなかったし。

- なるほど。普通だったら「決められたレール」みたいな言い方をしますけど、「用意された輪」になるとちょっと神秘的な雰囲気もあって面白いです。

Kohjiya - ありがとうございます。長崎は本当によく雨が降るんで、晴れのありがたさをわかってるんです。それをラップしてる自分のライフストーリーに重ねてみました。

- Kohjiyaさんがラッパーとして生きていこうと意識しはじめたのはいつ頃からですか?

Kohjiya - いやー、徐々にって感じですね。なんだかんだでもう10年近くラップしてるけど、始めた頃から漠然と「ラッパーとして生活していきたいな」とは思ってました。自分的には今回のミニアルバムがスタートみたいな感覚です。

- 飽き性のKohjiyaさんはラップは続けられたのはなぜだと思いますか?

Kohjiya - ヒップホップが飽き性だからじゃないですね。(トレンドの)サイクルが早い。僕が飽きてきたタイミングでなんかしら新しい動きが出てくる。僕はそういうのを発見するのが楽しい。

- 最近かっこよかったアーティストを教えてください。

Kohjiya - シンガーなんですけど、UKのNippaですね。フッドR&Bみたいな感じで超かっこいい。YouTubeのおすすめに出てきたので聴いてみたらすごい良かった。アップカミングな人っぽいけど、ディグるとUKのイケてるアーティストのプロデューサーとかスタイリストとかがみんな応援してる感じで。

- スタイリストまでディグっちゃうんですね(笑)。

Kohjiya - こいつとこいつが実は繋がってるとか、こいつ地元同じじゃんとかを調べるのがめっちゃ好きなんです。関係性オタクっす(笑)。アーティストの地域性とかも超楽しいじゃないですか。

- 日本で注目してるのは?

Kohjiya - Yokosquadですね。音源しか聴いたことないですけど超かっこいい。

KANDYTOWNとFla$hBacksがすべて

- 影響を受けたラッパーを教えてください。

Kohjiya - KANDYTOWNとFla$hBacksです。お手本というか、僕のすべてというか(笑)。

- 以前IOさんが“Tokyo Freeway feat. KEIJU”のメロディー作りを手伝ってもらったと話されていましたが、Kohjiyaさんがメロディー面で影響を受けたと思うアーティストを教えてください。

Kohjiya - いっぱいいるんですけど、Roddy Ricchからは色濃く影響を受けてます。あとYoungBoy(Never Broke Again)とOCTAVIAN。土臭い感じの人たちですね。

- ラッパーが作るメロディーみたいな?

Kohjiya - そうですね。それだとKEIJUさんです。

- それは今作を聴いててすごく感じました。僕もKEIJUさんが大好きなんですけど、あのすごさをうまく言語化できないんですよね。KohjiyaさんはKEIJUさんのどういったところがすごいと思いますか?

Kohjiya - KEIJUさんのメロディ感ってUSにはあまりない。ノリがアフロとかラテンに近い気がする。日本語のノペッとした感じでオートチューンをかけるなら、USの感じよりそっち系のノリのほうが相性が良い気がするんです。KEIJUさんはその答えをバチッと出しちゃった感じがします。

- すごい説得力っ。

Kohjiya - いや質問されたから頑張って自分なり考えて答えてみました(笑)。全然音楽のことなんてわかってないっすよ。

- 今後どんな作品を作られるのか楽しみです。

Kohjiya - 今回の『KJ SEASON』はちょっと極端で、アップテンポだったり良い意味で聴き流せる軽快な曲が多いんですけど、これまではバイブスがキツい時にハマるような曲が多かったんです。ラップって一方的だと思うんです。たとえば辛いことがあったりすると、ただ「うんうん」って頷いてほしいだけのことがあるじゃないですか。でも普通の対話だとそうもいかない。ラップは自分が思ってることを歌詞にして一方的に投げつけてる感じ。そうやって作った曲を良いと言ってもらえると救われるというか。

- なるほど。

Kohjiya - だから歌詞を深掘りして独自解釈してもらえたりするとすごく嬉しいです。楽しいことは自分で作れるけど、辛い出来事は予期せぬタイミングで起こるじゃないですか。でもラップ的な思考だと貴重なトピックでもある。今回の作品はポジティブな日記的なリリックが多かったけど、今後はまた違った、自分の気持ちを整理するために書いたようなラップもまた発表していくと思います。

Info

Mini Album「KJ SEASON」
LABEL:ISLAND STATE
Release Date:2024/2/7
Tracklist:
1:Kick Back  
2:DREAMIN’ BOI ISSUE 
3:Rarri (featuring lj and Only U)
4:KJ Season Freestyle
5:Evil Twin (featuring YungFLX)
6:Reach Out Rich
7:You
8:Childish
9:Shine
https://islandstate.lnk.to/KJSEASON

Kohjiya
Single「Josetsusha!」
LABEL:ISLAND STATE
Release Date:2024/3/6

 https://ISLANDSTATE.lnk.to/Josetsusha

#KJSEASON

SNSアカウント
Instagram:https://www.instagram.com/kohjiya
Tik Tok:https://www.tiktok.com/@kohjiya

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