【インタビュー】藤原ヒロシ | マッシュアップの新しい楽しみ方

最近、藤原ヒロシがブートレグリミックスを制作しているのをご存知だろうか? 筆者が驚いたのはBTS“Butter”とMarvin Gaye“What's Going On”をマッシュアップした“Butter Going On”。このタイトルからもわかるとおり、遊び感覚で制作されているようだが、その割にクオリティが異常に高い。選曲のアイデアも面白い。誰もが知ってるAとBだが、混ざるとAでもBでもないフレッシュな何かになってる。しかもそこにはピュアな音楽愛というか、初期衝動がある。これは一体どういうことなのか?筆者は現役のDJとしても活動するFNMNL編集長の和田哲郎とフォトグラファーの寺沢美遊に声をかけて、藤原ヒロシとマネージャーの原田公一のもとへ向かった。

取材・構成 : 宮崎敬太

撮影 : 寺沢美遊

- 最近面白いブートレグリミックスをたくさん発表していますね。

藤原ヒロシ - ちょっと前に安室奈美恵さんの“CAN YOU CELEBRATE?”のアカペラをハードディスク上に、発見したんです。あの曲がリリースされた当時にリミックスのオファーをいただいてて。その時に送ってもらってたんですよ。ちなみにその時に僕が作ったリミックスはボツになりました(笑)。まあとにかく家に安室さんのアカペラがあって、ふとなんかやってみようと思ったんですよ。遊びで。

- それがめっちゃダビーなリミックス“Can you C. (Gaften Mosaic)”ですね。

藤原 - そう。そこからハマっちゃって。ここ数年はプロのミュージシャンたちと一緒に音楽を作ることが多くて、無意識のうちにカチッとしたものというか、“ちゃんとした”音楽を作ってたのね。でも自分の中には不協和音だけど気持ちいい音楽が好きという気持ちもあって。軽い気持ちで安室リミックスを作ってたら、それを思い出したんですよ。こういうマッシュアップって、10年くらい前に流行ってたじゃない? 今ってどんな感じなの?

和田哲郎(FNMNL編集長)- 僕はヒロシさんのリミックス/マッシュアップ音源を聴いて、初期衝動的なところでDiploが2000年代にやってたHOLLERTRONIXというマッシュアップのシリーズを思い出しました。

藤原 - へー。今でもあるかな?

和田 - ライブミックスの音源を出してたんです。ピッチとかもズレてるけど、そこが逆にかっこいい。

藤原 - そうなんだ。ブレンドに関してはきっちりやりたいほうなんだよね。前の取材の時も話したけど、僕はディスコDJに影響を受けてるから。でも基本はサンプリング。自分で弾き始めるとなんでもありになっちゃうから。そこは意識してた。その上でライブミックスではできないことをやってみた感じ。

- 僕は2 MANY DJ’Sのバイブスにも近いと思いました。ちなみに荒井由実さんの“中央フリーウェイ”とThe Bee Geesの“Saturday Night Fever”もマルチを持ってたんですか?

藤原 - あれは原田さんに教えてもらったiZOTOPE RX10というソフトで分解したんです。普通に売ってるソフトで、それを使うとヴォーカルとかを簡単に抜き出せる。

原田公一(藤原ヒロシマネージャー) - ちょっと前に『ザ・ビートルズ:Get Back』という映画あったでしょ。あれを作る際にディズニーが当時の音源を完全に分離できるソフトを開発したんです。例えばドラムを叩いてる時に話してるリンゴスターの声だけを拾いたいみたいな時にそのソフトを使うと、AIがリンゴの声を認識して完全に抽出できるっていう。その技術を利用して最近出たのが『Revolver』の2022年ミックスなんです。今AIを使った音声分離技術はすごい発展してて。iZOTOPE RX10を使うとだいたいの音源は、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムくらいには簡単に分けられます。

オリジナルを聴いて鼻歌を歌ってみる

寺沢美遊(フォトグラファー)- だからBLACKPINKのマッシュアップも作れたんですね。私、“Pink Venom”のマッシュアップがすごく好きでした。

藤原 - あれ良いでしょ?(笑)ラップって比較的どんなトラックでも乗るんだよね。どうやってもそれなりに成立しちゃうというか。だからラップのマッシュアップを作る場合、ちょっとアイデアが必要で。これは、マッシュアップというよりリミックスかもですが。しかも“Pink Venom”ってオリジナルも素晴らしいじゃない? でも最近のヒップホップってどの曲にもオリエンタルっぽいムードがあるから、逆にあえてそれを全部取っ払ってみたら面白くなるかなと思ったの。ちなみにトラックの元ネタはThe O'Jaysの“For The Love of Money”。

和田 - 僕は“Shutdown”に驚きました。あれ“Planet Rock”とのマッシュアップですよね?

藤原 - そうそう。僕は昔からLatin RascalsとかDOUBLE DEE & STEINSKIとかがめちゃくちゃ好きなんですよ。当時、KISS FMの録音したカセットテープを取り寄せてめっちゃ聴いてた。このマッシュアップはそのへんからの影響が出てるかもね。不協和音なのに綺麗にハマるとアドレナリンが出る。ちょっと癖になってるね。

- ヒップホップの根幹にあるのはそういう音楽上の事故ですもんね。しかもその精神はパンクにもニューウェーブにも繋がってると思います。

藤原 - 不協和音になったり、キーが狂ってたりもするんだけど、そこがスリリングで面白かったりする。

- こういうマッシュアップはどれくらいで作るんですか?

藤原 - 映像込みで2~3時間かな。基本寝る前にベッドの上で集中して作ってる。で、寝落ちってパターンだね。曲を聴きながらなんとなく鼻歌を歌ってみるんです。宇多田ヒカルさんの"君に夢中"のマッシュアップはそのパターン。オリジナルが大好きで聴いてたらThe Beatlesの“Come Together”のベースラインが浮かんだんですよ。"君に夢中"に合わせて“Come Together”のベースラインを鼻歌で歌ってみたらいけそうだったからやってみたって感じ。どの曲も切ったり貼ったり伸ばしたり縮めたりは細かくやってはいますけど、一番はそこです。

- なぜ映像も作ってるんですか?

藤原 - 音源だけだとシェアしづらいんですよ。パソコン使ってない人にLINEで送ってもLINEのトーク内でしか聴くことができない。ファイルをiTunesなり、Spotifyなりに保存できない。YouTubeにアップすればURLが生成されるじゃない? そのために映像も作ってるんですよ。ちなみに年明けにJ-WAVEで2時間の特番をやります。20曲くらいかけるんで楽しみにしててください。

『J-WAVE SPECIAL JUN THE CULTURE DELUXE EDITION』

放送局:J-WAVE(81.3FM)

番組名:J-WAVE SPECIAL JUN THE CULTURE DELUXE EDITION

放送日:2023年1月9日(月・祝)

放送時間:18:00~19:55

ナビゲーター:藤原ヒロシ

番組HP:https://www.j-wave.co.jp/holiday/20230109_sp/

番組Twitter:@jwave_2019

シンプルなトラックでヴォーカルがどんどん歌い込むほうが好き

- え、でもあの音源ってラジオでかけられるんですか?

藤原 - 確かにひと昔前だったら厳しかったかもね。今回僕がやったことって誰でもできることなんですよ。あのソフトも普通に売ってるものだから。あとJ-WAVEってピストン西沢さんがライブミックスしてたでしょ?あれがアリならアリでしょって判断。権利処理ができればOKって感じ。

- NGな曲はあったんですか?

藤原 - ビートルズものとかは大丈夫ですかね?(笑)。

原田 - 結果、大丈夫になりました。僕は以前アーティストと楽曲の権利を扱う会社(株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ)にいたけど、ヒロシさんがおっしゃる通りiZOTOPEみたいなソフトがある以上、ギリギリ違法なことではないと思います。

藤原 - 基本的に配信で買った音源をソフトで4つに分解して、自由に使ってるってだけ。

- ヒロシさんがNike By Youを盛んに利用されてたのと同じ感覚ですね。

藤原 - そうね。音楽の新しい楽しみ方の提案です。

- YOASOBI"あの夢をなぞって"のマッシュアップは、個人的にオリジナルよりも聴きやすかったです。

藤原 - あれも友達から提案されて作ってみました。最初のビートはSoul II Soulの“Keep On Movin’”で、途中のピアノは50 Cent。

和田 - 今回のマッシュアップでヒロシさんはK-POPやJ-POPの音源を分解されたじゃないですか。そこで感じた傾向みたいのってありましたか?

藤原 - J-POPに関していうと、今トップに並んでるような音楽は全然面白くないと思う。なんでかっていうと、大抵はトラックに緻密で難しいコードを使ってて、そこに寄り沿うメロディを当ててるから。僕からするとそれが機械的に思えちゃう。インターナショナルなポップスのトラックはひとつのベースラインなり、コードなりで作っているんです。その上でヴォーカルのメロディがどんどん変わっていくのが面白い。僕はそっちのほうがより人間的だと感じるんです。

和田 - 確かにJ-POPがいかにテクニカルなことをしてるのかを解説する番組なんかが人気ありますもんね。

藤原 -(トラックで)テクニカルなことをすると(ヴォーカルの)メロディがそこにしか行けない気がするんですよ。海外のR&Bなんかはヒップホップみたいなシンプルなトラックで歌い込みますよね。僕はそういうほうがすごいと思うし、好みなんです。

NewJeansはすごく好き

和田 - K-POPはどう思いますか?

藤原 - K-POPもものによるけど、基本的にはインターナショナルなポップスだよね。中でもNewJeansはすごく好き。90年代のR&Bっぽい。あとラップじゃないっていうのも大きい。

- 僕は最初に“Attention”を聴いた時、Soul II Soulの“Keep On Movin'”を思い出したんですよね。

藤原 - そうそうそう。あとJanet Jacksonとかね。たぶん日本人がああいうのを作ろうとするとトラックの段階で面白いコードとか難しいコードを入れたくなっちゃうんですよ。実際、僕自身がそうだったから(笑)。日本の歌謡曲も好きだから、無意識のうちに入れちゃう。でもそれをやると“Attention”の感じにならない。もちろん歌謡曲が悪いって意味じゃなくてね。ただこのマッシュアップをやりはじめて、僕ももっと単純な作り方をしようと反省しました。

寺沢 - NewJeansのマッシュアップを聴いてみたいですけどね。

藤原 - NewJeansは難しいんですよ。すごく良くできてるから。あれにSoul II Soulみたいのを混ぜても普通になっちゃう。

- なるほど。だからYOASOBIとSoul II Soulは面白いんですね。

藤原 - そうそう。全然違うから。オリジナルのアニソンみたいな感じをあえて90年代のR&Bっぽくしたの。でもNewJeansにもトライしてみる(笑)。やるなら面白いことをしたいし。

- 昨今のJ-POPはなぜ緻密なコードばかり使うんでしょうか?

原田 - YOASOBIが直接影響を受けてるかどうかは別としても、00年代に出てきたフジファブリックとかあたりから音楽の作り方が変わったんですよ。変なコードを使ったり、変拍子を使ったり、曲がどんどん変わったり。あとやたらキメが多いとか。ポップスやロック、R&Bの歴史をしっかりお勉強してない、音楽的な教育を受けてない子たちが感覚的に作ってるからだと思うんですよね。

藤原 - 実際どうやって作ってるんだろう? 

和田 - 打ち込みで作ってるっぽいですよね。

藤原 - あー、なるほど。だから山口(一郎)くんとはやりやすいんだ。彼の音楽は弾き語りからスタートして、それをバンドでアレンジしていく作り方なんですよ。サカナクションはすごく凝った音だけど、根本にあるのはシンプルなコードなんです。だから“YMCA”みたいのにもぴったりハマるの。本人に聴かせたら笑ってた(笑)。

- お話を伺ってると日本のポップスは足し算型で、海外のポップスは引き算型な気がしました。一概には言えないですけど。

藤原 - そこは歌謡曲を聴いて育ったか、R&Bを聴いて育ったかの違いだと思うよ。日本でいうと筒美京平さんとか? 彼もきっとその当時のポップスに憧れて影響されてやってると思う。60年代のビートルズとかカーペンターズあたり。なんとなくだけど白人音楽だよね。そこにプログレとかの要素が混ざって今のJ-POPの基礎にある歌謡曲の雛形が出来ていったと思うんだよね。子供の頃に『ベストヒット USA』とかを観てたけど今思うと白人の音楽ばっかりでしたもん。たまにマイケル・ジャクソンが出てくる、みたいな。一方でアメリカはジェームス・ブラウンとかマディ・ウォーターズみたいな簡単なコードやベースだけの音楽を聴いてたわけじゃない? 

- そういう意味では僕らがさまざまな文献で読む以上に、ヒップホップの登場は革命的なことだったんですね。

原田 - それは間違いないと思います。

藤原 - それでも最初はなかなかメジャーになりきれない感じだったんですよ。ギャングスタラップが出てきて、パーティーミュージックからレベルミュージック的になってきて、だんだん大きくなってきた。

- てか、ヒロシさんのマッシュアップがクラブでかかったら絶対盛り上がるだろうなー。ヒロシさんはもうDJやらないんですか?

藤原 - やらない。僕、そもそもクラブって空間が苦手なんですよ。でもこの音源をただで配ったらDJの人たちはみんなかけてくれるかな?

RELATED

【インタビュー】JAKOPS | XGと僕は狼

11月8日に、セカンドミニアルバム『AWE』をリリースしたXG。

【インタビュー】JUBEE 『Liberation (Deluxe Edition)』| 泥臭く自分の場所を作る

2020年代における国内ストリートカルチャーの相関図を俯瞰した時に、いま最もハブとなっている一人がJUBEEであることに疑いの余地はないだろう。

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。