【インタビュー】e5 × nyamura | 私たちが「わからせ」なきゃ

世界のベッドルームを一直線に接続するSoundCloud。その玉石混交の音楽のるつぼから、ヒップホップ的な自己主張とナード的な感性がないまぜになった、若く鮮烈な音楽シーン──digicoreと呼ばれている──が誕生している。

こと国内において注目されているのは『Demonia』という渋谷を中心に開かれるデイイベントだ。FNMNLではこれまでにオーガナイザーのインタビューや、初回から出演するlazydollとokudakunへのインタビューを敢行してきた。規模を拡大する『Demonia』は渋谷R-LoungeからCIRCUS Tokyoへと規模をスケールアップさせ、加熱し続けている。

さて今回は、第六回の『Demonia』が開催される前日、出演のために東京に訪れていたe5nyamuraによる対談を企画した。

女性三人組クルー・Dr.Anonから脱退してソロ活動を展開するe5は、精力的に同世代アーティストとのコラボ曲をリリースする、シーンを牽引する存在だといっていいだろう。また同様にnyamuraも多くのコラボレーションを行いながら、アニメやゲームといったサブカルチャーをあけすけに引用しつつ独自の世界観を築き上げているアーティストだ。

そんな両名を招いて、それぞれの音楽遍歴の接点であるボーカロイド、メインストリームのヒップホップ、「わからせ」というカルチャー、hyperpop、そして女性アーティスト目線のユースシーンについてなど、様々な話題についてざっくばらんと語ってもらった。

取材・構成・撮影: namahoge

千葉と兵庫、サンクラとボーカロイドを架け橋に

 - まずはお二人の出会いから聞かせてください。

e5 - インスタじゃない?

nyamura - なんだっけ? でも、お互い知ってはいたよね。

e5 - サンクラで活動してる女の子って数が少ないのでお互い把握はしていたんですけど、界隈が全然違ったので関わるタイミングもなくて。

nyamura - e5ちゃんはかっこいいとこにいたよね。

e5 - そう(笑)?

nyamura - クロスジヒトリ(現Xgang)とかのさ。

e5 - ちょうどHAKU FiFTYくんと曲出してたね。私がnyamuraさんを知った時は、とにかく可愛いなっていうのが第一印象で。可愛い曲で活動していて、本当に謎めいていたんですよ。投稿も少ないし、情報が足りなすぎて何の人なのか分からなくて(笑)。

nyamura - 情報が少ないのは、インスタのリアアカ作ったことなかったんさ(笑)。あれが初めてのインスタだったから分かんなかった。

e5 - 可愛い子だけどどの界隈で何やってる子なのかもわからないし。

nyamura - 別に何もしてなかったよ(笑)。

e5 - こんなにかっこよくなっていくとは思いもしなかったから、ギャップというか、「まだいく?」ってくらいかっこよくなって。

https://www.youtube.com/watch?v=Yd_ITXjKOZU

 - ちなみにお二人はいつから音楽を始めたんですか?

nyamura - 2年前くらいですかね。

e5 - 私も同じくらいで、2020年の2月頃です。

nyamura - 売れんの早いね。

e5 - ありがと(笑)。nyamuちゃんも。

nyamura - 私は普通だけど。

 - それぞれ始めたきっかけを教えていただけますか?

nyamura - その当時付き合っていた元カレがサンクラとか聴く系だったんですけど、アオイチヒロの"esper forget"っていう曲が好きで、私もMV込みで「オタクや、めっちゃいいな」と思ったんです。で、なぜかその時に「これ私にもできるんじゃないか」ってふと思って。それで友達にタイプビートの探し方を教えてもらって、やってみたらポッとできちゃった。それから調子に乗って作りつづけていたんですけど、e5ちゃんとか他にすごい人もいるんだなって気づいて、私ってしょうもない存在だな……ってなって、今ではめっちゃ謙虚に音楽作るようになりました。

e5 - 最初調子乗ってたの?(笑)

nyamura - だいぶ(笑)。だって、最初の動機が「私にもできんじゃね」っていう調子の乗り方だから。今はもうほんとだめ。

e5 - (笑)。

 - e5さんはいかがでしょう?

e5 - 私はボカロPのじん(自然の敵P)さんが一番最初からリスペクトしている人で、当初はボカロPになりたかったんです。それからじんさんがギターとか楽器も自分でやっているというのを知って、小6の時にギターを買って。ずっと独学でやっていたんですけど、バンドも組んでみたいなと思って軽音楽部のある高校に入ったんです。でも当時ヒップホップが流行っていて私も韓国ラップをよく聴いていたというのがあって、友達からタイプビートやGarageBandの使い方を教えてもらって作ってみたら止まらなくなって。結局バンドも辞めて、高校も辞めて、今です(笑)。辿っていくとじん(自然の敵P)さんが原点にありますね。

 - キャリアの起点にはボーカロイドがあると。

e5 - そうそう、nyamuraさんと初めて電話した時に、お互いに全然ヒップホップを聞いてこなかったよねっていう共通点で盛り上がって。「ボカロしか聞いてないよね」みたいな。

nyamura - 2020年の11月とかかな。わりと長いよね。

e5 - Dr.Anon始める前だったかな。

 - ボーカロイドについては後に伺うとして……どうして電話することになったんですか?

e5 - 私が一方的に仲良くなりたいなって、タイミングがあったら絶対話したいなと思っていたんですよ。だから電話できるタイミング探していて。

nyamura - そうなんだ。

 - それから二人で遊ぶこともあるんですか?

e5 - いや、そうでもないかな。

nyamura - 東京とは遠いしね、お互い。私は兵庫だし、e5ちゃんは千葉だし。

e5 - ライブがある時以外は東京や大阪に出てこないので、今日みたいにリハに一緒に入ったりとか、ライブの後に一緒に遊んだりとか。

 - そういう時って何をして遊ぶんですか?

e5 - みんなでガヤガヤ集まってひたすらダベって。特に何してるわけでもないかも。あ、でも一回「歌舞伎町のトー横を見学しに行こうぜ」って言って、「こんな感じね〜」って例の界隈を見学したことがあって(笑)。

nyamura - 結構普通のことしかしてないね。

e5 - それも、思ってたよりすごくなかった。もっと凄まじいことになってるかと思った。

nyamura - いや、日によるらしいよ。でも今その話はしないか、ごめん。

 - (笑)。いわゆるトー横界隈とは距離を感じているんですか?

nyamura - 友達に繋がってる人にはいないですけど、リスナーにはめっちゃ多いらしいですよ。

e5 - わかるわかる。

nyamura - インスタとか見たらすぐ分かるよね。でも、私は作ることが楽しいだけだから……。インスタの反応が来たら見にいくけど、どんな人に聞かれたいっていうのはあんまり考えていなくて。トー横も一種の文化だと思うんで、現代の若者文化の一つとして共通している何かはあるのかもしれないです。

e5 - 共通点があるとしたら、ボーカロイドの影響を強く受けてる人たちの界隈である点だと思います。トー横とか、地雷系とかのカルチャーは。TikTokを見ていてもボカロ曲を使っている人多いじゃないですか。そういうところでは近さを感じますね。

左: e5 右: nyamura

ヒップホップっていうより、タイプビート

 - ボーカロイドからの影響が共通しているお二人とのことですが、nyamuraさんはどういう経緯でボカロ音楽を聞き始めたのでしょうか?

nyamura - 小学校2年生の時に、まらしぃという人が「千本桜」のピアノを弾いてる動画を見たんですよ。

e5 - めっちゃ上手いやつだよね。

nyamura - そう。それで「千本桜」が初音ミクだって知って、IAっていう別のボーカロイドの「六兆年と一夜物語 」っていう曲を知って、カゲプロを知ったんですよ。カゲプロはIAが多いから。

e5 - 最初にnyamuraさんと盛り上がったのもカゲプロの話でした。

nyamura - カゲプロは中二病チックだけど物語性があって、幼い私はむっちゃ好きになっちゃって。小説まで読んでて。オタクです。

 - お二人の世代では、ボカロを好きな人ってどんな人が多かったですか?

nyamura - オタクです。

e5 - ラノベ読んでる男の子とか。でも、中学に入った頃から「千本桜」をきっかけに流行りだして。「太鼓の達人」にも採用されていたし、ゲームが好きな子とかは結構聞いていたと思います。そういう人が給食の時間に校内放送で流すこともあったし(笑)。

nyamura - あとさ、ファミマが初音ミクとコラボしていた時期があるんだよ。

e5 - あったあった(笑)。

nyamura - ミクが公式に入店BGMを歌ったりとか、ミクのザンギマヨおにぎりが発売されたりとか、「ぽっぴっぽー」の野菜ジュースが出てきたりとか……ごめん、こんな話して(笑)。世代だけどさ。そこらへんから初音ミクが世界に浸透していたよね。

e5 - 私、テレビニュースで「ボカロ縛りのカラオケ」の映像が流れてたのも見た。OLたちが集まってボカロしか歌わないっていう(笑)。

nyamura - やろうよ、私たちも(笑)。

e5 - やろ(笑)。

 - ちなみに制作していてボカロ音楽の影響を感じることはありますか?

nyamura - 私、曲作っている時の記憶がないから……。ボーカルの音数が多いっていう傾向はもしかしたら影響があるかもです。

 - (笑)。e5さんはいかがでしょう?

e5 - ファーストEPに「HAZARD」っていう曲があって、それはじん(自然の敵P)さんの「デッドアンドシーク」っていう曲の弾いてみた動画を見て、使われている音を全部MIDIにして、細かくぶつ切りにしてからキー変更をして作ったんです。好きなボカロの曲のコードを見て作るっていうことは多いんですよ。それぐらいボカロを意識していて。

 - なるほど。ここでやはり気になるのは、ボカロをはじめとしたナードなカルチャーが基底にあるお二人とヒップホップの接点です。Demonia主催者へのインタビューでも「ヒップホップらしすぎない」という言葉が出てきましたし、lazydollくんとokudakunのインタビューでも「ラッパーと呼ばれたくない」という話題になりました。そうしたヒップホップのステレオタイプとの距離感についても伺いたいです。

nyamura - 私にとって重要なのは、ヒップホップっていうよりタイプビートですよね。探す時にはラッパーの名前で調べるので。私が使うのはOliver Francisとか、shinigamiとかですけど、ヒップホップっていうと普通に分かんないですね。陰キャだからクラブとかも行けないし。

e5 - 私たちとの共通点ってトラップビートを多く使うことくらいで。でも、韻を踏むカルチャーは面白いなと思っています。もちろんJ-POPにだってある、ラップだけのカルチャーではないですけど、飽きずに聴かせるための手法だし、リリック書いている時も韻を意識することで言葉が限られてくる。ピンポイントにいい表現が浮かぶんですよね。

nyamura - ナチュラルに耳が「いい」って思えるのって、韻なんですよね。それも、固くなくていい。脚韻だけでいい。まとまりがある方が耳にすんなり入ってくるから。

 - ラップがやりたいわけではなく、あくまで音楽を届けるために韻を踏んでいる。

e5 - 音楽が好きということの延長にラップがあるかもしれないです。たとえば、バトルのカルチャーは全然わからないんですよ。

 - お二人のような方がいる一方で、『Demonia』周辺の人に話を聞いていると、意外なことにバトルやフリースタイル出身の方がいるというのが個人的にすごく面白いなと思っています。

nyamura - BHS Svveとかそうだよね。めっちゃラップうまいよ。

 - そうだったんですか。

e5 - 私が思うのは、ヒップホップというか、ラップのカルチャーに手を付けるのが早かった人たちがサイファーやバトルを通っているんじゃないかと。まだトラップが流行っていない時期、日本語ラップがゴリゴリの日本語ラップだった時代に興味を持った人たちというか。そういう人たちも自分で音楽をやりたくなって、最終的に近いところにいるんじゃないかなと。

 - それは面白い視点ですね。ちなみにオルタナティブなヒップホップ像の1つとして「TOKIO SHAMAN」がありますね。vol.9にはお二人も出演されていますが、いかがでしたか?

e5 - 釈迦坊主さんが「新しいカルチャーを取り入れたい」というので新しいサンクラシーンから私たちを呼んでくれたと思うんです。で、私たちは私たちで、そっちの世界に行くのが怖いというのと、わくわくの両方があって。受け入れてもらえるのかという不安と、逆にそういう場所で分かってもらえたら面白いなっていう意味で。結構怖かったよね、最初。

nyamura - うーん……怖かった。

e5 - そうだよね(笑)。

nyamura - トキマはめっちゃ緊張して、「ダメだ歌えない」と思ったから靴を脱いでみたんですよ。裸足になって。そしたら家みたいでちょうどよくて。これなら歌えるなって。

e5 - 普通緊張してたらできないけどね(笑)。

ナメられてる女の子に歌ってほしい

 - 今年に入ってからお二人の共作「WAKARASE GAKI」をドロップしていますね。その制作に至る経緯を教えてください。

https://soundcloud.com/user-460016211/wakarase-gaki-e5xnyamura

e5 - nyamuraさんが「わからせガキ」っていう言葉を普段から使うんですよ。

nyamura - 「わからせガキしよや〜」って(笑)

e5 - それを電話してる時に聞いて、なにそれって(笑)。勘違い系に理解させることを「わからせガキ」って言うそうなんです。で、最近勘違いしてる奴が多いから「わからせガキ」する曲作りたいんだよねって話になって、めっちゃかっこいい曲を作ってナメさせんのを止めようと。

 - どこから出てきたワードなんですか?

nyamura - 女の子じゃないですか。ナメられるんですよ、すごい、至るところで。箱でもそうだし、友達関係でもそうだし、話していて「はあ?」って思うこともたくさんあるし。相手が誰であってもキモいし、しょうもなと思ってて、絶対わからせてやった方がいいなって。語源については、私、エロゲとかエロ同人誌がめちゃくちゃ好きで趣味でずっと見てるんですよ。普通に綺麗だから。そこに「わからせ」っていうジャンルがあって。

e5 - そうなんだ。

nyamura - 屈服させるって意味なんですけど。それで、勘違いしてる奴を「わからせ」るのは私がやることだなと思って「わからせガキ」ってずっと使っていて。そしたらe5ちゃんに「なにそれ!」って言われて(笑)。

 - 「WAKARASE GAKI」のリリックは男性に対する痛烈なディスになっていますね。由来である男性向けアダルトコンテンツの「わからせ」の対象が性別反転しているのが面白いなと思います。

e5 - 普通にさ、ナメられてる女の子に歌ってほしくない?

nyamura - うん。あとちゃんとラッパーに刺さったのがよかったなと思う。みんな「俺のことかと思った」と言っていて。全員考えさせるために作ったんだよって。

e5 - 男の子のラッパーも「食らった」って言ってた。

 - ラッパーに対するラインで特に強烈だと感じたのは、e5さんの「パチこきエモ」というパンチワードでした。

e5 - サンクラのエモラップってかっこいい曲も全然あるんですけど、流行って増えたじゃないですか。それで聞いてみると、胡散臭いフレーズが多すぎるなと思って。たとえば、リリックで「君だけ」って言っていても実際は遊んでるラッパーがほとんどで。かっこよくねえなーって。

nyamura - それはマジでそう。

e5 - 「オンリーワン」とか言って、女何人いるんだよって(笑)。

nyamura - ちょうどこの曲を作った時、腹が立っていて。その時期に身の回りの友達のラッパーから女癖が悪い話を延々と自慢されたんですよ。ほんとにいろんな人に。自慢げに言うことなのかなって思って。それ自体が悪いとまでは思わないけど、わざわざ言わなくてもいい。

e5 - そういう人に限って酔ってるエモっぽい曲作ろうとするからダメなんだよね。中途半端だからムカつく。

nyamura - そういう曲を書かないか、上手く隠すかの二択をとってほしくて。そのクソでかい矛盾はバレた時恥ずかしいじゃないですか。で、いつか必ずバレるし。

 - そんなラッパーに「わからせ」ようと。

e5 - ラッパーに限らず、女の子を小馬鹿にしてる男の人って結構いるので。

nyamura - ほんとに。

e5 - そういう奴らに私たちのことが分かるはずなくて、聞いてくれるのはかっこいい奴だけでいいと思っているので。よく分かんないやつは"WAKARASE GAKI"を聴いて勘ぐって離れてくれっていう(笑)。攻撃であり自衛であり、自己主張であり。

 - なるほど。最近ではフィメールアーティストをフィーチャーした『desktop』のようなイベント(第二回ではnyamuraさんが参加)も注目されていますが、Demoniaなどのユースシーンにも女性アーティストは少ないですよね。

e5 - 最近増えてきているような気はします。でも、カワイイ系の曲をやりたかったらアイドルの方が向いているのかもしれなくて。女の子でも思考を尖らせてリリックにできる人じゃないとナメられるんですよね。尖りのある女の子が生き残れる世界というか。私はnyamuraちゃんについても、アンビエントみたいな曲でもリリックがめっちゃ尖ってるところが好きです。あと、acapulcoもかっこいいですね。

nyamura - 明日来るらしいよ。

e5 - えっ、マジで。

nyamura - めっちゃ呼んだんだよ。

 - (笑)。特にe5さんはリリックに闘志を感じます。

e5 - 戦士です(笑)。

 - ちなみに特に尊敬する女性アーティストっていますか?

e5 - 私、Dogwoodsさんが本当に好きで。

nyamura - かっこいいよね。

e5 - ほんっとにかっこいい。ライブ見に行っても、ゾーンに入りきっててお客さんにビビる様子が一ミリもないし、ボーカル自体のよさもあるし、フロウもいい意味で気持ち悪い。他で聞いたことない感じというか。独自のキャラクターもあるし、本当にリスペクトしています。私も「e5でしか聞けない」というオリジナルなアーティストになりたくて。

 - なるほど、nyamuraさんはいかがですか?

nyamura - 日本じゃないですけど、Alice Longyu Gaoですかね。

e5 - うん、かっこいいよね。破壊的。

nyamura - めっちゃ好きですね。何でもありだなって思うんですよね。概念を壊しているというか、音楽より芸術に近い感じ。私もそれを目指していて。「聞く芸術」に近い何か。

 - Alice Longyu Gaoは日本のアニメや音楽の影響も公言しているし、たしかにnyamuraさんと親和性を感じるかもしれません。ところでhyperpopも聴くんですね。

nyamura - 全然聴きますよ。でもhyperpopだから聴くとかじゃなくて、全体として好きかどうか、自分にはできないことをやっているかどうかで音楽を聞いているかもしれないです。

e5 - その人の表現方法がたまたまhyperpopだったから聴いてるみたいな感じだよね。自分の好きな人が別のジャンルでも聞くだろうなって。

nyamura - なんだっけあの人。韓国の、"hyperreal"の子。

e5 - Jvcki wai。

nyamura - そう、Jvcki waiで初めてhyperpopを聴いたかな。

e5 - 私、始めの頃意識してたから似てるって言われてた。実際タイプビート使ってたからね。

nyamura - あと私、宇多田ヒカルがめっちゃ好きで。エヴァQの主題歌になった"桜流し"で歌っている「あなた」という言葉が自死した母のことを指しているって知った時、ヤバいなって思って。この人の不幸は桜流しに見えているんだねって思って。各々が家で抱えている問題はあると思うんですよ、たとえ両親が揃っていたとしても。その問題を綺麗な音で、自分のしたい表現で曲にできるっていうことを宇多田ヒカルから学んだんですよね。

 - nyamuraさんのリリックはかなりご自身の辛い過去も題材にされていますね。

nyamura - 基本的に自分の家庭環境とか人に言いたくないんですけど、これを音楽にできるんだって知ってから、挑戦するようにしています。

ドン・キホーテのようなDemoniaが壁を壊す

 - 明日(9/10)の『Demonia』は会場がスケールアップしてCIRCUS Tokyoとなりましたね。

e5 - そうですね。もう脱退しちゃったんですけどDr.Anonとして参加したのが初めてで、ソロで出演するのは明日が最初です。Demoniaにはこれからも何かしらの形で参加したりSNSで広めたりなど、私にできることがあれば協力したいし、もっと有名なイベントになってほしいです。だから今回で箱が大きくなったのもすごく嬉しくて。

nyamura - もう270枚とか売れてるらしいよ。

e5 - え、マジ!すごいね。

 - こうして大きくなっていく中で、否応なくメインストリームのヒップホップとの接点も増えてくるかと思うのですが、その辺りはどうお考えですか?

e5 - 『Demonia』が大きくなっていくことで、「ヒップホップはこうじゃなくちゃ」っていうカルチャーを壊していくこともできるんじゃないかと思っていて。新しい音楽……ラップに限らずアンビエントもハイパーポップもあるし、なんでもアリな空間が大きくなっていけば、壁が壊れると思うんですよ。そういう点でもDemoniaが流行る事自体「わからせガキ」かなって(笑)。たとえば「ヒップホップ警察」っているじゃないですか。

nyamura - ニートtokyoのコメント欄見るとマジでそうだわ。うさんくせー。

 - 特にミソジニーを内面化してしまったようなキッズは大きな問題ですよね。

nyamura - 私自身、音楽をやっていて「そういう系ね」みたいな反応されることが多すぎるんですよ。そんな差別することないのになって思うことが多いです。ヒップホップが好きな人ってニートtokyoにコメントするようなキッズだけじゃないって分かっているけど、自分としては一番理解されづらい人たちと思っていて。プレイヤーがリスナーを選ぶのはご法度だと思うから、無理に近づこうとは思わないけど、聞いてくれたらいいなあくらいの距離でいいんですよね。

e5 - 私としては、その人らに変に気を遣うことなくわかってもらうのが理想ですね。「自分たちが間違っていたのか?」って思ってもらえるくらい、新しいものを押し込んでいく。誰でも楽しめる場所で、いろんなものがあって面白いですよねって場所になればいい。専門店じゃなくて、ドン・キホーテでいいじゃん、っていう(笑)。

 - たしかに『Demonia』はドン・キホーテ感があるかもしません(笑)。

nyamura - 『Demonia』が一般的なヒップホップのイベントと大きく違うは、DJタイムで人がはけないところだと思うんですよ。普通、バーカン行ったり外に出たりするじゃないですか。『Demonia』はDJタイムでバカみたいに盛り上がってて。

e5 - わかるわかる(笑)。

nyamura - オーガナイザーがDJだからってのもあるし、『Demonia』自体に来てる層が若いながらにめちゃくちゃ音楽が好きだからっていうのもあると思う。いわゆるヒップホップだけじゃなくて。

 - お二人にとって、Demoniaのような空間が広がることが理想であると。

nyamura - あのー、結構喧嘩するんですよ、私。

e5 - なんの話(笑)。

nyamura - 『Demonia』も男の子しか演者がいなかった回があったんですよ。それで運営のfogsettingsとDiscordサーバーで喧嘩したこともあって。

e5 - そうなの?

nyamura - 「お前は男尊女卑なんだよ!」ってめちゃくちゃ言って(笑)。フェミニスト警察みたいなことを私がしまくったんです。でもそれって、本当の意味でhyperpopみたいなところがあって。性的マイノリティの人が活躍する音楽という側面もあるじゃないですか。『Demonia』は出てる演者もhyperpopやっている人も多いし、だから、本当の意味で性差のないコアなところに近いはずだと思う。

e5 - うん。そういう意味でも『Demonia』が誰かが憧れて目指す場所になったらすごく面白いかなって。昔から根付いているヒップホップがもっと色づいて変わっていったら嬉しいし、自分たちも音楽をやりやすくなるし。それを見て影響を受けた次世代がもっと面白いものを作れるかもしれないし。そういう時代を作れるようになったら一番いいですね。

ステージを降りてから鳴らす音楽

 - ところで、最初にSoundCloudにたどり着いたのはどういう経緯でしたか?

e5 - 私の場合はGokou Kuytくんがすっごい流行っていて。サブスクでは聴けない曲がサンクラに残っているというのを知って、Gokou Kuytくんがフォローしている人とかフィーチャリングしている人を辿っていって、コアなところに入っていったらlazydollとかに辿り着いて(笑)。Xgangの₩くんもその頃繋がったり。繋がりたての頃はみんな全然知名度なかったけど、やることやって上がっていってるんだなって思います。

 - nyamuraさんはいかがですか?

nyamura - それこそ元カレが聴いてた"esper forget"のためにサンクラ入れたんですよ。

e5 - その話かわいい(笑)。

nyamura - すごくいい曲なんだよ、永遠に(笑)。それからyunxaくんとか、siyuneetとかtrash angels周りを聞くようになって、めっちゃいいなあって思って。Gokou Kyteくんとかは逆に知らなかった。

 - 今ではe5さんはSpotifyやApple Musicに配信していますが、nyamuraさんはSoundCloudだけに配信していますね。

nyamura - サブスクに配信するなら、ちゃんとスタジオでRECしたいい音質で出したいなと思っているんですよね。サンクラって嫌でも音質が落ちるから。

e5 - でもサンクラの良さってさ、音質にこだわる人が集まる場所じゃなくて、センスと面白さだけを重視する人が集まる場所ってところだよね。今できた曲をすぐアップすることもできちゃうし。そのラフさが面白いなって。

nyamura - それこそ私は全部スマホで作っていて。RECもミックスもスマホ。打ち込みもできるはできるんですけど、ガレバンだと音がチャチくて。それがめっちゃ嫌やから、実際に弾いた音を直録りすることもあって、めっちゃ音悪いんですけど、まあこれもサンクラの味やなって。何でもありってことにしています。

 - e5さんはLogicでビートを作られていますが、トラックメイクの観点はどのように考えていますか?

e5 - 技術不足な点はたくさんあるんですけど、だんだんスキルがついてくればいいかなって、ひとまず自分のセンスに任せてトラックを作っていますね。あと将来的な話ですけど、私は音楽が本当に好きなので、自分がプレイヤーじゃなくても続けていきたいんです。自分がステージから降りても、プロデューサーとして携われるようにトラックメイクも頑張っていて。今の段階で何かしら音楽周りの人と繋がって、人生で一番関わるものとして音楽をやっていきたいなと思っています。

 - 将来的には自分でラップをしていなくてもいいと。

e5 - 今って、悔しいと思う気持ちで書くことが多いんです。でもそれっていつまでも続くものではないと思っていて。ある程度目指した場所に辿り着いたとしたら、悔しい気持ちもなくなっちゃうじゃないですか。悔しいバイブスには賞味期限があるんだって自分では思っていています。それが続く期間でしかプレイヤーはできないかなということが理由ですね。

 - 大変お若いのにそんなことを考えているんですね……。事前の印象からすると意外でしたが、そもそもボカロPを目指していたというお話があったので少し腑に落ちるところもあります。nyamuraさんからも将来的な展望を教えていただけますか?

nyamura - 私が一番尊敬しているのが、梶浦由記さんという音楽プロデューサーなんですよね。『魔法少女まどか☆マギカ』とかのサウンドトラックをやっているような方なんですけど。実はライブする度に梶浦さんのサントラをサンプリングしていて、使わなかったことが一度もないくらい……すごすぎて、言葉にできないんですけど、本当に異次元で。だから、そういう曲を作れるようになりたいというのが一番強いです。

 - nyamuraさんもプロデューサー志向であると。

nyamura - 歌うことは好きだけど、人に歌ってもらうことも好きで。いいなって思った人に「私が提供したって言わないで」って言って曲を渡したこともあります。そもそも曲を公開することにあんまり意義を見いだせないんですよ、私。作るのは楽しいし、作れればそれでいいというのがあって。だから将来的に仕事にしたいかっていうと難しいですね。ただ会社から発掘はされたいです。

 - 新人発掘的なことですか?

nyamura - 事務所契約っていうよりは、ゲーム会社とかから。だからゲーム関係の人からフォローされたら絶対返してる。「来たわ!」って思って(笑)。

 - なるほど(笑)。お二人とも目指す方向が似ているようで、意外とそうでもなかったり。

e5 - 音楽っていう共通点だけでこれだけ仲良くなるっていうのは面白いですよね。目指していくところは違っていても、一緒に作ったらいい曲できちゃうし。

nyamura - 音楽っていうより、私は人として尊敬しているっていうのがめっちゃでかいかも。

e5 - え、ありがとう(笑)。でも人として好きじゃなかったら関わりきれないっていうのはある。

nyamura - マジでしっかりしてるよ。私の一個下でしょ。私今年二十歳だよ。ヤバくない?

e5 - ヤバくないよ(笑)。あ、そういえば、私たち一回縁切ってるんですよ。

 - え、お二人が?

e5 - そうです(笑)。でも喧嘩したとかじゃなくて、お互いに勘ぐって「嫌われているんじゃないか」と思って、どっちがきっかけか忘れたけど、SNSを切っちゃって。数ヶ月しばらく喋ってなくて。

nyamura - あったわ(笑)。

e5 - お互いの周りの人間関係がぐしゃぐしゃしていたのも原因にあったんですけど、やっぱ可愛いから新しい投稿ないかなってインスタをずっとチェックし続けるっていう(笑)。

 - 気になってはいたんですね(笑)。

e5 - で、共通の知り合いが繋げてくれて。

nyamura - 誰だっけ?

e5 - Amuxaxだよ。それで三人で通話して久しぶりに喋って、「お互い勘ぐっていただけだね、ごめんね」って仲直りして、っていうことがありました(笑)。

nyamura - 若気の至りだよ(笑)。

 - これからは仲良くしてください(笑)。本日はありがとうございました。

RELATED

【インタビュー】JAKOPS | XGと僕は狼

11月8日に、セカンドミニアルバム『AWE』をリリースしたXG。

【インタビュー】JUBEE 『Liberation (Deluxe Edition)』| 泥臭く自分の場所を作る

2020年代における国内ストリートカルチャーの相関図を俯瞰した時に、いま最もハブとなっている一人がJUBEEであることに疑いの余地はないだろう。

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。