【インタビュー】Demonia | パンデミック以降のSoundCloudシーンを捉えるパーティー
2020年代、パンデミックに抑圧された現実に抗うように、ケレン味のある電子音をビートに変調された声でラップする新たなシーン――digicore――はSoundCloudを拠点とし、日本国内でも数多くのアーティストが登場している。
渋谷R-Loungeでこれまで四回開催されたクラブイベント『Demonia』は、SoundCloudで活躍する新世代のアーティストをブッキングし、インターネットにこもっていた熱をそのまま現場に放出させたように、満員御礼の盛況を博している。今回は当イベント発起人のinvoid、三回目の開催から運営に参加しDJも手掛けるfogsettings、グラフィックデザイナーで現役美大生のイトウアラタの共同主催者3名に話を訊き、シーンの過去や現在、そしてイベントを開催する意義について話を訊いた。
取材・構成・撮影 : namahoge
コロナ禍で加速したSoundCloudシーン
- まずはこのイベントがスタートした経緯について教えていただけますか。
invoid - 初回は2020年の9月頃ですね。そういえばSoundCloudの若い世代にフォーカスしたイベントって、やっている人が誰もいないなと思ったんです。それで僕と現在は関わっていないもう一人で始めました。当初、目標など全くなくて、ただコミュニティのみんなが集まれる場所がほしいなと思ったんですよね。イメージとしては「TOKIO SHAMAN」のような雰囲気になったらいいな、くらいの気持ちで。
- 2020年9月頃の時点で、SoundCloud上ではコミュニティができていたのですね。
invoid - ぼやっとした印象ですけどね。直感的に、新しい世代でかっこいい人が集まっているなあ、みたいな。
- 新しい世代というのは、初回から出演しているSTARKIDSやtrash angelsなどですよね。国内のhyperpop / digicoreのユースシーンを牽引するアーティストとも捉えられますが、ジャンルへの意識は最初からありましたか?
invoid - 線引きをするのが好きではないので、その意識は全くないですね。
fogsettings - 自分たちとしては、hyperpopというワードで区切らずにイベントをやっていきたいなと思っています。それこそニートtokyoでSTARKIDSのSpace Boyが「hyperpopというラベルは最悪だ」と言っていましたが、僕らも特定のジャンルを意識しているわけではないんです。いろんなものがごちゃまぜにミックスされている音楽が好き、というのがDemoniaの根底にはありますね。
イトウアラタ - 「SoundCloudまわりはだいたいhyperpop」みたいな、なんでもhyperpopとして扱われる風潮はあるよね。
- なるほど。では、hyperpopというラベルはともかくとして、2020年頃のSoundCloudシーンについて教えてください。
invoid - コロナ禍で「音楽を作ってみよう」という人が増えたんだろうなと思っていて。急に暇な時間ができて音楽を始めた人はすごく多かった印象があります。
- 以前trash angelsに取材をした時も、Amuxaxさんが「外出禁止で鬱っぽくなった時に音楽を始めた」と仰っていました。コロナ禍と現在のSoundCloudシーンは深く結びついてるのですね。
invoid - 少し遡ると、2018年くらいにはGokou KuytやSleet Mage、LEXなどがSoundCloudシーンの火付け役になっていますよね。その先行世代がいて、コロナ禍以降になってDemoniaに出ているようなアーティストたちが出てきたんじゃないかなと。
fogsettings - hyperpopと呼ばれる音楽性と近いのがその世代だよね。あとはYokai Jakiやrirugiliyangugiliといったハードコアなラッパーも同じ世代。Yokai Jakiは初回のDemoniaが初ライブでした。
イトウアラタ - 本人たちは括られることを嫌がっているかもしれないけど、Demoniaの演者っていろんなジャンルの早かった人たちという印象はありますね。僕はDemoniaに初回から出ているokudakunと高校が同じだったんですけど、かなり早い時期に「hyperpopって知ってる? 海外でキてるんだけど、日本でやっている人がまだいないんだよね」と言われたのを覚えています。SoundCloudでやっている人たちはガチだしコアだから、海外で始まったジャンルをいち早く国内に持ち込めているのかと。
- 新しい音楽をリニアに享受できる場所として、SoundCloudが機能している。
invoid - そうですね。今はそれぞれ再生数やフォロワーなどの数字が上がってきて、やりたい方向に研ぎ澄ませているように感じています。
ナードでアンチ・マッチョなヒップホップ像
- 皆さんの音楽遍歴はどういったものだったのでしょうか。
fogsettings - 僕は大学で軽音楽部に入っていて、日本のロックバンドや海外のメジャーなバンドをよく聴いていました。HIP HOPは全く聴いていなかったのですが、ある時友達からSoundCloudにあがっているTohjiの音源を聴かせてもらって。こんな音楽があるのかと、ヒップホップすごいなって驚いて、それから「TOKIO SHAMAN」周辺などのSoundCloudのラップを聴くようになりました。
イトウアラタ - 自分は高校にあがるくらいのタイミングでKendrick Lamarにハマって。"HUMBLE."が流行った頃だと思うんですけど、USラップヤバいなと。それから古い音楽も遡るようになって、2PacやNWAを聴いていました。
- ずいぶんと遡りましたね(笑)。
イトウアラタ - okudakunと学校が一緒だと言いましたが、SoundCloudは彼が教えてくれたんですよね。「実は有名ラッパーがストリーミングにアップしていない音源があがってるんだよね」って。それからGokou KuytやSleet Mageなどの国内のラップシーンも聴くようになって、今のDemoniaにも通づるような音楽にもたどり着いたという流れで。
invoid - 自分はいろいろあるんですけど、2014年頃のEDMブームで音楽にハマって。あとはゲームも好きなのでゲーム音楽とか、海外のロックやパンクも聴いていました。SoundCloudは地元の友だちから教えてもらって、最初はLEXを聴いてめちゃくちゃ食らったんですよね。それでSoundCloudでディグるようになっていきました。
- 3人とも「SoundCloudを誰かから教えてもらう」体験を共有しているというのは面白いですね。
invoid - やっぱりSoundCloudってまだまだアンダーグラウンドだから、誰かとシェアしたいって思うんじゃないですかね。
イトウアラタ - 特別感がありますよね。再生回数20回とか、よくわからない音楽がめっちゃある中で、いいものもあって。「俺、ディグってるわ!」みたいな。
invoid - 単純に売れようとしていない人たちも多いし、そういう人らって変態というか。コアな人たちが集まっているという感覚はありますよね。
- ヒップホップ、EDM、ロックとそれぞれ異なるルーツを持つ3人がSoundCloudの音楽にたどり着いたというのも、現在のシーンを映し出しているように感じました。その中でも、多く名前があがるところとして「TOKIO SHAMAN」周辺のアーティストがいますね。Demoniaを始めた当初に指標としていたとも仰っていましたが、具体的にはどのように見ていたのでしょうか。
invoid - TOKIO SHAMANに出ている人たちはみんな仲がいいというか、「TOKIO SHAMAN」として一つのモノになっていたなって。各演者がばらばらに組み上げていくんじゃなくて、全体としてイベントが作られていった感じというか。
イトウアラタ - めちゃくちゃわかります。それと、新しいヒップホップ像を作ったというのを感じています。スケートカルチャーとも違うし、バトルとも違うし。
- 新しいヒップホップ像ですよね。その文脈がDemoniaにも引き継がれているのでしょうか。
イトウアラタ - ネットラップの流れというんですかね。その意味では引き継いでいると思います。
fogsettings - インターネット感はやっぱりあって。現場よりもネット上の露出の方が多くて、実際にイベントに行かないと分からない空気がある。ある種神秘的なヴェールに包まれているような感じがあって、Demoniaにもその影響はありますね。
イトウアラタ - インターネット・ナードっぽさはあるよね。あまりヒップホップすぎない空気がいいのかなと思います。
fogsettings - ヒップホップらしすぎないというのはDemoniaに出演するDJにも言えて。ゴリゴリのドリルとかってあまり流さないんですよね。100 gecsやunderscoresといった、いわゆるhyperpopが多いんです。みんな好きな曲を流しているだけで、意識的にメインストリームのヒップホップを避けているわけではないと思うんですけど。僕もDJをする時はボカロやアニソンも流すし、dariacoreも流しています。
invoid - 僕自身、ニコニコ動画が好きだった人間で。ボカロも好きだったし、ナードが根底にあるんですよね。もともと、インターネットでしか話せない人と話せる場所としてDemoniaを開いたというのもあります。
ゴス/パンク系ファッションをまとうティーンズ
- ところで、Demoniaという名称はどういった経緯で決まったのでしょうか。
invoid - 名前ですか……。
イトウアラタ - 名前ね(笑)。
- 何かまずい質問でしたか(笑)。
invoid - いや、当時、注目されるとか続けていくとか全く考えずに始めたので、「そういえば名前決めないとな」と思って部屋で寝っ転がっていた時に、靴の箱に「Demonia」って書いてあったのを見つけたんです。
- 靴のブランドですよね。
invoid - それで「Demonia……? これでいいじゃん」って、すごく安直に(笑)。
fogsettings - だから今、Demoniaのリアクションを見るためにエゴサすると、真っ先に靴のDemoniaが出てくるんですよ。アルファベットでもカタカナでも、絶対に靴が出てくる(笑)。
invoid - マジで適当だったんですよね。
fogsettings - 名前を変えたいと考えることもあるんですけど、他の人たちからは「言いやすいし、覚えやすい」って言われるから変えづらくて(笑)。
- なるほど(笑)。でも、ブランドのDemoniaもゴスやパンクの雰囲気があって、Demoniaのトーンとも合っているように思います。
invoid - 実際に来てくれているお客さんにも、Demoniaを履いている人が多いんですよね。そういった面では、イベント名とファッションの雰囲気が合っているのかなって。
イトウアラタ - いや、偶然じゃん(笑)。
- ファッションについては今日聞いてみたいことの一つでした。前回のイベントに参加した時、ゴス系のファッションのお客さんがすごく多かった。「病み系」とか「ぴえん系」とも呼ばれるような格好だったり、顔に何本もピアスが刺さっていたり、髪色が派手だったり。
invoid - なんでなんでしょうねえ……。ゴスとパンクのファッションの流れはたしかにありますよね。
イトウアラタ - いろいろミックスされていると思うんですよね。サイズ感はグランジっぽいけど、グランジすぎるとカジュアルだから、クラブっぽい印象のメタリックなチェーンとか合わせたり、パンクっぽいトゲトゲのチョーカーを付けたり。
fogsettings - 演者にもお客さんにも多いのは、「Nevermind the XU」という原宿にショップがあるブランドですね。
invoid - トキマ系(TOKIO SHAMAN系)って名前もあったけど、ファッションでもその辺りの影響があるんじゃないかなと僕は思います。
fogsettings - ゴリゴリな感じじゃなくて、なにか神秘的な雰囲気があったのが、TOKIO SHAMAN周辺のファッションの独特なところですよね。あとはAVYSS周辺のイメージとかも、遠いようだけど近いかもしれません。
- イトウアラタさんの作るメタリックなグラフィックは、AVYSSのイメージとも通じるところがありますね。
イトウアラタ - もともと金属っぽいのが好きで、自分の中の師匠はGUCCIMAZEさんです。かっこいいなと思って真似していて、インターネットっぽいキラキラ感を合わせていたら、今の雰囲気になっていきました。メタリックなイメージはDemonia関係者みんな好きかもしれません。
invoid - 僕自身GUCCIMAZEさんが好きで、知り合いからアラタくんのことを教えてもらって。彼のデザインを見てピタッとハマったので、フライヤーを依頼するようになりました。
- なるほど。ちなみにお客さんの年齢も若いですよね。
invoid - 未成年が多いですね。だからデイイベントにしているし、オールナイトにしたら今の客層の半分くらいが来れないと思います。
- ナード的な要素を持ったティーンネイジャーがDemoniaに集まっていると。
fogsettings - 少なからず陽キャじゃないですよね。プレイヤーも、友達がいなくても音楽でカマすっていうカウンター的な雰囲気はあるので、お客さんも似た人が多いように思います。
invoid - 僕自身すごいインドアで、外出るのがほんっとに嫌いなんです。音楽は好きだけどイベントには行けない。そういう人混みが苦手なナードな人たち、インターネットを主軸に活動している人たちの居場所になればいいなって。
fogsettings - ここにいてもいいんだよって場所にしたいよね。
SoundCloudの壁を破りたい
- 5月8日にDemoniaの第五回が予定されていますが、これまで出演してきたアーティスト達の状況も変わってきています。例えばSTARKIDSがカルチャー系メディア『DAZED』に取り上げられたり、Tohji主催のパーティ「u-ha」にはDr.Anonのe5、トラックメイカーのlilbesh ramkoを中心としたSC RAMKO UNITEDなどが出演したり、様々な場所で活躍しています。もちろんそれぞれのアーティストの力によるものかとは思いますが、Demoniaがキャプチャーしているシーンが世間からの注目を集めつつある状況について、どのように考えていますか。
invoid - まず、今の状況になるなんて全く想像していなかったんですよね(笑)。こうなったらいいな、くらいは考えたりするんですけど、常にその想定の上の方で物事が進んでいっているような感じで、未だにあんまり実感が湧いていないというか。本当に軽い気持ちで始めたイベントがいろんな人を巻き込んでいって、今に至るという感じで。
イトウアラタ - やっぱり思っていたより早いスピードで注目を集めているなと感じています。自分たちもブッキングに関して、登竜門みたいな役割になりたいよね、と話すことがあって。まずは目玉になるようなSTARKIDSやrirugiliyangugili、trash angelsなどを呼んで、あとの枠で、売れていなくてもかっこいい人をステージにあげたい。みんなに見てもらって、上にあがっていけるようなスタートラインとしての枠を用意したいよね、という思いでブッキングしています。
fogsettings - 踏み台にしてもらって全然構わないと思っています。SoundCloudだけだと壁があるという風に思っていて。他のメディアを通した時に初めて上がっていけるような壁があるんですよね。
invoid - 今だったらRASENだったりニートtokyoだったり、SoundCloudで数字が伸びている人が他のところから引っ張られて、そこからリスナーが広がるという流れはある。
fogsettings - ラップスタア誕生とかもね。もちろんSoundCloudのアングラで広がりすぎない感じに居心地のよさを感じている人もたくさんいるんですけど、がっつり売れたい人にとっては限界があると思っています。
invoid - 今、LEXってめちゃくちゃ売れていますけど、LEXのファンでもSoundCloudを知らない人は全然いるだろうと思うんですよね。別にそれは悪いことでもなんでもないんですけど、知名度の壁みたいなものはあります。
- 閉鎖的な特性をもつSoundCloudシーンにおいて、Demoniaは登竜門としての役割を担っていきたいと。では最後に、これからの展望について教えてください。
fogsettings - 運営としてはもちろん売上も考えていかなきゃいけないんですけど、今のところは赤字にならなければいいかなと。自分自身、最初はDemoniaにお客さんとして来て影響を受けたということがあって。二回目のDemoniaのプレイヤーたちを見て、めちゃくちゃ食らっちゃったんですよね。同世代は就活をしている時期なんですけど、今はイベントやDJなどの音楽を中心にやっていきたいなと思っていて、そういう意味で人生が変わったんです。自分がそうだったように、一発食らわせるようなイベントにしたいというのが一番大きなところです。
イトウアラタ - 自分としては、繋がれる場所を作りたいというのが大きいですね。Demoniaのフライヤーを作ったことがきっかけで他の依頼を受けることもあって、そういうクリエイターが横で繋がることができたらいいなと。あと、ライブイベントだけじゃなくてメディアとしても広げていきたいです。理想はAVYSSみたいな。インタビュー映像とかも作っていきたいんですよね。AVYSSはAVYSSというカテゴリーとして信頼されているように思うし、Demoniaでも参考にしたいところです。
invoid - ライブについてですが、すでにR-Loungeのキャパがギリギリになっているから箱を大きくした方がいいんじゃないかと皆で話すこともあって。でも、運営するにあたっていろんな人に手伝ってもらわないといけなくなるだろうし、箱に見合ったお客さんが来るかどうか未知数というのもあって悩んでいます。
- 今より規模を大きくしていきたいと。
fogsettings - 今が壁を破るタイミングだとは思っていて。ずるずると同じ規模で続けることになっちゃいそうだし。全て手探りなので難しいところではありますけど、第六回は少し従来の形とは変えて行うかもしれません。
- 今後が楽しみですね。本日はありがとうございました。
info
2022年5月8日 16時〜20時
SIBUYA R-lounge 7F
ADV: ¥2500+1D
DOOR: ¥3000+1D