【インタビュー】Skaai × uin 『BEANIE』| オレはこれだけやってるぜ。みんなはどう?

2020年、SoundCloudでの楽曲発表を契機に、『ラップスタア誕生2021』での活躍をステップとし、人気マイクリレー企画『RASEN』への参加や大型ヒップホップフェス『POP YOURS』への出演などまさに破竹の勢いでこの2年間を疾走した新進ラッパー、Skaai。そんな彼のホームプロデューサーとして1stシングル“Period.”からタッグを組み、個人名義としてもプロデューサー/DJのKMが主宰するコンピレーション『Monday Beat Cypher Mixtape』への参加で注目のビートメイカー、uin。

今年9月に発表されたSkaaiによる初のEP『BEANIE』では全楽曲のプロデュースをuinが担当、ふたりのタッグによる現状の到達報告が開陳されている。本稿ではEPを完成させたばかりのSkaaiとuinに、本作がどのようにして作られたのかを訊く。気を吐く駿才ふたりにとって日本のヒップホップ、そして世界はどのように映っているのだろうか。

取材・構成: 高橋圭太

撮影: 盛島晃紀

 - まずはいちばん最初にふたりが出会ったときの話から伺いましょうか。

Skaai - 去年の10月後半ぐらいにはじめて電話で話したのが最初ですね。きっかけはTioっていうシンガーがいるんですが、彼がSoundCloud経由で各々とつながっていて。“Skaaiとuinは話が合うんじゃない?”っていう感じでつなげてくれたんですよ。最初は3人で電話で話しましたね。

uin - Tioくんは神戸に住んでいて、自分は新潟。で、当時はSkaaiくんが福岡だったっすね。彼はすごいディガーなんですよ。知り合ったのは2年前くらいかな。自分がSoundCloudで楽曲発表を始めたころからチェックしてくれて。

Skaai  - ぼくがSoundCloudに最初に遊びでアップした”Cigarette”って曲があったんですけど、まだ再生回数9回ぐらいのときにTioが“聴きました”ってDMくれて。そのときに彼から“本気で音楽やったほうがいいですよ”みたいなアドバイスをもらって、音楽業界のことを全然わからないからいろいろ教えてもらおうと思ってちょくちょく連絡を取りだしたんですね。

 - すごいですね。“Cigarette”をどうやってみつけたんでしょうね。

Skaai - ぼくがTwitterで韓国ヒップホップのオタクアカウントをやってて。Tioも韓国ヒップホップが好きだから、そこをディグしてるうちにぼくのアカウントが出てきたらしいですね。当時は自分で記事とかも書いてたから、それを読んで“コイツ、音楽作ってるらしい”ってなったみたいで。

 - 去年、3人での電話ではじめてふたりの交流がはじまるわけですが、最初はどんな話をしたんでしょう。

Skaai - 当然好きな音楽の話になるんですが、uinとは好きな音楽の感じが近かったですね。初対面なのにけっこう聴いてるアーティストがかぶってて盛り上がった記憶があります。

uin - たぶんTioくんは普段聴いてる音楽の感じが近いってことをなんとなくわかってたんでしょうね。話題に挙がったのはSabaとかSmino、Joey Bada$$だったりJ. Cole……あとJIDの話もしたか。

Skaai - そうだったね。でもuinのほうがビートメイカーとかにも詳しくて。

 - そこからリモートでのやり取りを繰り返して、実際にふたりが対面したのはいつごろだったんですか?

uin - 11月に大阪でTioくんを交えてはじめて会ってますね。最初の電話をした1ヶ月後ぐらい。3人の中間地点が大阪だから、会って3人で曲作ってみようって感じで。

Skaai - ”Period.”を3人でリリースしようってなったんだよね。TuneCoreでリリースするんだけど、ひとりだと不安だから、みんなでいっしょに画面見ながら手続きしようよって話をして。あと、まだジャケットもできてなかったんで、Photoshopでいっしょにやってもらったり。

uin - 懐かしいね。電話で知り合って、その1週間後には”Period.”はほぼできてたんですよ。自分は当時、ラッパーの友達がいなくて、ビートを提供するひとがいなくて。それでもビートはずっと作ってたんで、Skaaiくんにストックのビートをいくつか送って。そしたら15分後ぐらいにはフックが返ってきた。そのときにSkaaiくんとはウマが合うかもって思ったっすね。実際、すぐなかよくなったし、音楽以外の話でも盛り上がれる。だからこそいっしょにやれてるという感じはありますね。

 - ではおたがいの……uinさんから見たラッパーとしてのSkaaiさんの印象、逆にSkaaiさんから見たビートメイカーとしてのuinさんの印象を教えてください。

uin - 単純になんでもできるラッパーだと思ってます。自分自身もいろんなタイプのビートを作るから、どんなビート渡してもかましてくれそうと思えるのは安心感がある。

 - いろんなスタイルのなかでも“これはSkaaiに合うな”っていうビートの感じが明確にありますか。

uin - 合うスタイルというより、合うBPM帯があるっすね。110BPM前後とか、140BPM前後とか、それぐらいの速さが本人としてもやりやすいんだろうなっていう印象は感じます。とはいえ、ここ最近は基本的に彼からの提案を受けて作りはじめることが多いですね。自分から提案したのは”Period.”と”Nectar.”ぐらい。今回のEPでオレからビートを提案したのってあったっけ?

Skaai - ないかも。でも、自分が伝えるのはあくまで世界観とかイメージなので、そこからuinの色でビート作ってもらうってパターンが多いかな。uinはビートメイカーとしての基礎体力があると思ってて。偏差値がすごく高いというか。

 - それは具体的にどういう部分でしょう?

Skaai - uinもなんでもできるビートメイカーなんですよ。たとえばリファレンスがあったら、それに近いものを簡単に作れるっていうか。それぐらいのスキルがあるので、こちらで世界観を提示したら、ちゃんとその世界観のものを作ってきてくれる。それってすごくスキルが高いと思ってます。あと、これは自分のなかの感覚なんですけど、ビートがすごくミルキーっていうか……自分で思わない?

uin - ミルキー?

Skaai - カクカクしてないというか……流れるような、でもしっかり形はあって、掴めそうで掴めない淡さみたいなものがあるんですよ。

 - 自分では思い当たらない?

uin - 言われて思ったのは、オレって高域が強い曲があまり好きじゃないんですよ。だからEQとかを目視するとハイが丸い曲が多いと思う。それがミルキーな感じに思ってくれてるのかなと。それこそさっき挙げたSabaとかSminoみたいなアコースティックなトラップが好きなのも関係あるかなと思います。

 - プロデューサーとしてSkaaiさんの声やリズム感などについてはどのような特徴があると思いますか。

uin - いい意味でまとまりがないっていうか。印象としてはいろんなところに飛んでいく感じがしてますね。だからこそワンループのビートで渡しても飽きないようなラップをするし、それが多彩で、かつカッコいい。

 - なるほど。では、ヴァースはいかがでしょう。これまで共作していくなかで、好きなSkaaiさんのヴァースはあったりしますか?

uin - ”FOR ME”って曲で“結びなおすバタフライ/使う安い画材”っていうラインがあるんですけど、“使う安い画材”って渋いなって。しっかり情景が浮かぶというか。あと”I TASTE YOU”の“あら、いいもの/ナイスなマルボロ”とか。カッコよくてワードチョイスがウィットに富んでますよね。英語も多いから深いところまで全部は感じ取れてないかもしれないけど。

Skaai - ぼくは逆にuinのアイデアの豊富さにビックリしますけどね。自分は飽き性なのか、展開が多くなるというか、1曲のなかで物語の起承転結を感じてもらいたいっていう意識がある。そういう自分に対して、uinは“この8小節が終わったらこういう展開にしよう”っていうアイデアを出してくれる。それがいい感じでマッチしてる気がします。

 - 本作でもビートチェンジや展開がだいぶありますね。これこそ共作の強みというか。

uin - そうですね。制作期間にこの時代にタイプビートでやらない意味みたいなことは考えました。毎回、自分はだいたいワンループのビートをSkaaiくんに渡すんですよ。そこで彼にラップしてもらって、そこからいろんな展開を考えます。感覚でいうとリミックスに近いのかもしれない。

 - さきほど、Skaaiさんからイメージの共有があってそこからスタートするって話がありましたが、もうすこし詳しく作業工程について伺っていいですか?

uin - このEPに関してはだいたいがリモートでの作業でしたね。“FOR ME”なんかは例外で、大枠をSkaaiくんの家で作ったりしましたが。それ以外の曲は電話しながら作ったり。かすかに聴こえるスマホの音質悪いマイクでビート聴かせて“そこちょっとちゃうかも”ってやり取りをしながら。

Skaai - ”HOMEWORK”に関してはロジックを開くところからLINEしてたっすね。今年の元旦に“あけましておめでとう”って電話してて、ふたりとも寝れないからそのまま通話しながらできた曲。次に控えてるライブに向けて、持ち曲が当時あまりなかったので作った感じでしたね。でも、こういうノリではじめる制作を通してuinへの信頼感が高まったと思います。ぼくはuinしかビートメイカーを知らなかったけど、ほかにもっといいひとがいるとも思わなかったですね。もともと自分は他人と仕事をするのが苦手で。だから彼との作業みたいに、いっしょに密に仕事ができて、なおかつ楽しく充実している経験というのが稀だったっすね。

uin - でもたしかに自分が思い描いているものを作るのは自分がいちばん早いっていうのはあるよね。

Skaai - これまで自分が働いてきたところって効率とか論理を重要視する職場が多かったんですよ。それ自体は自分も賛成だったし問題ないんですけど、自分が“ここをもっとがんばりたい”って部分をある程度は非効率だから切り捨てないといけないというか。でもそういうふうに無駄を排除して効率化を目指していくことに自分としては葛藤があったんです。でもラッパーとしての仕事は主観を優先して、非効率をどれだけ沼に落とすかっていう作業じゃないですか。それは自分にすごく合ってたんだなと思うし、自分の主義に合致することでもあったっていう。

 - そして、そんなSkaaiさんのスピード感と趣向にフィットした相棒とも出会い。

Skaai - uinがいなかったら1stシングル出せたのかなっていまでも思いますよ(笑)。

 - さて、EPの話に戻りましょう。『BEANIE』を制作するにあたって、Skaaiさんが当初イメージしてた作品の全体像はどんなものでしたか?

Skaai - EPに関しては、はじめて出すまとまった作品だったので挑発的な作品にしようというイメージがありました。最初はよりコンセプトを定めて作るのがベストだと思っていたんですが、そこを突き詰めてしまうとあまりに時間がかかりすぎる。煮詰めて、煮詰めてといった感じで作ろうとしたら2年ぐらいかかっちゃう気がして。なので、とりあえずいまの自分が奏でられるすべての音楽性を1枚に全部込めて、プレイリストアルバムみたいにしようっていうのがスタートラインでした。歌も歌うしラップもするし、みたいなところで。聴いてもらえばわかると思うんですけど、すべて曲調がちがうんですよね。最初はガツガツラップもするし、”I TASTE YOU”みたいに歌う楽曲もあったり、そんで最後はシリアスな感じで締める、みたいな。多様な作品にしようというのは最初から頭にあったんじゃないかな。

uin - そういったイメージは制作の最初の段階から共有してもらってましたね。ただ途中までは好きなものを作っていって、その先はその曲たちをどうまとまった形に落とし込めるかということになっていきましたね。すでにできた曲のあいだをどう埋めるか。なので後半はパズル的に欠けてる部分を埋めていくということを意識しました。

 - 最初にできたEPの屋台骨的な曲はなんだったんでしょう?

uin - ”HOMEWORK”と”FLOOR IS MINE”かな。

Skaai - そうだね。あ、でも今回の作品においては”BEANIE”が異端児的な曲かもしれません。全体的にスムーズに聴ける曲が多いなか、”BEANIE”はちょっとトゲがあるというか。そういう印象もあって1発目に持ってきたというのもあるね。

uin - ふたりのなかでイケイケ系の曲を1曲作ろうって話になって。

 - 本作のところどころでケンカを売りにいってる歌詞がありますよね。その矛先は全方位で、最終的には自分にも切っ先が向いてるという。こういったリリック群はどんな背景で書かれたのかなという興味があります。

Skaai - アーティストならアートがしたいじゃないですか。かつ、だれもやっていないことをやることが大前提だと思うんです。とりあえず自分はまだだれもやっていないことをやってるっていう自負を持たないといけないっていうのがあって、その自信の表れが今回の作品に出てるというか。リリックのトゲに関しても、ヒップホップっていう枠組みのなかで自分が勝負しているっていうのもあって、“オレはこれだけやってるぜ。みんなはどう?”っていう姿勢からきてるんだと思います。

uin - ケンカを売るっていうより“おまえらはどうなの?”っていう話をしたいんだよね。

Skaai - そう。自分の母国語は日本語で、日本語でラップをしたいという気持ちがすごくあって。同時に将来的には日本だけにとどまる必要はないと思ってもいて、じゃあどうすれば日本語を使ってグローバルに聴かれる作品が作れるかってことを考えなきゃいけないなと。自分はこういうマインドで作ってるっていうのが、曲を聴けば伝わるだろっていう。その意味では“みんなは日本だけでいいの?”っていう気持ちの表れなのかもしれない。

 - Skaaiさん自身、ドメスティックなシーンに対してガッカリすることもある?

Skaai - ……半々ですね。自分は日本語を知ってるからこそカッコいいって思える作品もめちゃめちゃあるんですよ。ただ、それだけがヒップホップだと思ってるひとが日本には多い気がして。たとえば日本ではめちゃくちゃ有名でかっこいいアーティストでもサブスクの月間リスナーが数万みたいなことがあるじゃないですか。でもアメリカではパッと出てきた若手のラッパーでさえ何十万、何百万の月間リスナーがいる、みたいな事実を目の当たりにしたときに、やっぱり市場が狭いなと思っちゃったんですよ。だからこそ自分がこれから傑作を残すのであれば、それは世界における傑作でありたいなと思っていて。

 - 本作でそういった心情が顕著に表れているのは”BEANIE”ですね。この曲のフックで歌われている“最後笑うのはme or scene”というラインが印象的ですが、ここでいう“シーン”はどこを指しているんでしょうか。

Skaai - これはさっき話した通り、国内のシーンですね。

 - 自分としては戦ってるという意識がある?

Skaai - 戦うというよりも、この曲を書いていた時期は、自分自身が国内のシーンに飲まれてしまうのか、そういった場所から一歩次のフェーズに進めるのかっていうことをよく考えていたんだと思います。若手なら若手なりにデカい夢を持ちたいなって気持ちもあって。

 - ではUSのラッパーと日本のラッパーのグレードの違いってどんなところだと思いますか?

Skaai - クリエイティビティじゃないですかね。それと同時にオリジナリティを追求してるアーティストが多いと思います。“この曲はコイツにしか作れない”って思わせられるのが本当のアーティストだなって気がするし。その数が多い気はしています。

 - 国内シーンの一般的なイメージとして、どうしてもマスを狙っていかないと上がっていけないっていうジレンマがありますよね。ことUSではニッチなプレイヤーでも、キャラクターとして売れればおのずと楽曲も売れる。言ってることのユニークさだったり、オリジナリティの一点突破でステージを上げることができるおもしろい文化だなと思っているんですが、その点に関してはSkaaiさんはどのように考えていますか。

Skaai - そうですね。でも反面、日本は日本ですごくおもしろい国だと思うんですよ。日本には素晴らしい感性があるなと日本で育った人間として思うので、それをどうにかして自分のクリエイティビティに昇華できないかなと考えてます。ただ、アメリカの音楽が日本にも輸入されることはあっても、その逆は稀じゃないですか。聴かれる環境は整っていても、なかなか日本の若手が作った曲がアメリカには拡がらない。どうプレゼンするかの問題でもあるかなと思ってます。

 - その意味で現状のSkaaiさんの課題はなんでしょう。

Skaai - 課題は単純に曲数がないこと。あと、これまでは音楽を音楽としてしか見れていなかったところかな。作品はすべてつながった物語だと思っていて。さっきおっしゃっていたアーティストのキャラクターの話もそうで、音楽自体には関わりはないんだけど、とはいえアーティストのしゃべりかたやファッションがおもしろいと思って興味を持って聴くわけじゃないですか。そこにアーティストの物語があると思うんです。作品を作るにあたってその文脈が必要だと思うんですよね。だから作品ひとつとっての物語でもいいし、ぼくの生まれた環境やどう育ってきたかを物語として包含してもいい。これから物語をどう作っていくかっていうのが課題だとなと思ってます。

 - なるほど。では、おなじ質問をuinさんにも伺いたいと思います。日本国内のシーンと世界への意識という点をどのように考えていますか?

uin - ビートメイカーに関して言えばそこまで遜色ないと思ってますね。国内でもUSのトップチャートに入っててもおかしくないようなビートはたくさんあると思う。ぼく個人の意識としては、たとえば自分のビートが海外のプレイリストに入って“日本のヒップホップってこんな感じ?”って思われないように、イメージする水準を高く持たなきゃなとは常々思ってますね。

 - 言語的な縛りがないぶん、ラッパーよりビートメイカーのほうがよりリーチが効きますよね。そういった点を踏まえて、あえて国内とUSのグレードの差を挙げるならどのような部分だと思いますか。

uin - 最近思っているのは、自分が好きなUSのヒップホップってすごくシンプルなんですよね。とことんシンプルで、なんならだれでも作れるんじゃねえかとも思えるような。でもビートを作ってみてわかるのは、それはやっぱりだれにでも作れるようなものじゃないんですよね。強度というか。今回のEPでも自分としてはシンプルな、耳で聴いて入ってる音がほぼわかるような曲が多い。ストレートに音色とかで勝負するんだっていうのは考えながら作っていました。

 - シンプルを突き詰めたうえで、いまの自分のビートの武器はどんなところだと思いますか。

uin - 上ネタですね。ドラムのグルーヴに関してはまだまだ勉強が必要かなと思うんですけど、上ネタに関しては自信がありますね。

 - たしかにすでに”Period.”の段階で、のちにつがっていくuinさん独自のコード感があるような気がします。さて、『BEANIE』の客演陣についても訊かせてください。本作にはBIMさんとDaichi Yamamotoさんが参加していますが、おふたりはどういった経緯で参加したんでしょうか。

Skaai - BIMくんとはだいぶ前から”FLOOR IS MINE”をいっしょに作ろうって話をしていて。本当はただシングルでリリースしようと思っていて、EPに収録するって決めたのもギリギリでしたね。単純にEPにこの曲が入ってたら盛り上がるなっていうのがあって。BIMくんには本当にお世話になったっていうか……

 - それこそ『RASEN』での共演もありましたし。

Skaai - みんな『RASEN』で交流がはじまったって思ってるけど、その前にBIMくんから連絡してきてくれて、いろいろよくしてくれたので、自分のはじめてのまとまった作品に参加してもらえるってのは感慨深いな。

uin - もう兄貴だよね。

Skaai - Daichiくんはぼくがもともと好きなアーティストというのもあって。境遇とかも含めて似てる部分が多いなっていうのを勝手に感じていたので、いつかいっしょにできたらいいなって。そう思ってる矢先にDaichiくんからDMがあったんですよ。“いっしょに曲やってみませんか”っていう内容だったので、ふたつ返事で“やりましょう!”って返して。そこからちょっと時間が空いたんですがお願いすることができました。

 - “FLOATING EYES”でのDaichiさんのヴァースは人間味あふれるというか、いろんな葛藤を正直に吐露したものになっていましたね。

Skaai - しかもこれ、最初にDaichiくんからこういう内容で送ってきてもらって。曲を作る前のミーティングで話したときに、音楽家としてこれからがんばっていきたいけどどうしたらいいかわからないっていう葛藤を後輩のぼくが書いて、Daichiくんが先輩として励ますようなリリックで、という話をしたんですよ。それで送ってきてもらったものを聴いたら“先輩も悩んでる!”みたいな(笑)。“こんなこと思ってたんだ”ってインパクトと同時にちょっと感傷的になりましたね。

 - ただ、これはある意味で数年後にSkaaiさんがぶち当たるかもしれない壁でもありますよね。先んじて先輩が転ばぬ先の杖を差し伸べてくれたのかもしれません。

Skaai  - たしかに。そこまで見据えて書いてくれたのかもしれませんね。若いラッパーはこれからもガンガン出てくるでしょうし。自分だって新人と言われるけど、もう25歳なので。

 - 先輩といえば、本作のミックスとマスタリングを担当したのはuinさんのビートメイカーとしての先輩であるKMさんですね。

uin - Mary Joy Recordingsの肥後さんが今回のミックスとマスタリングの話をしたときにKMさんを提案してくれて。これから自分でミックスやマスタリングをできるようになれたらいいなと思うので、KMさんの仕事を近い場所で見れるいい機会でした。ベースや音圧にKMさんならではの感じというものがあるんですよね。おたがい使っているのもロジックだし、作業を見させてもらって“こうやったらこういう音になるのか”ってことが勉強できた本当に貴重な体験でした。

 - KMさんのミックスとマスタリングの作業を間近で見て、重要だと感じた点はどのようなところでしょう。

uin - 音圧の部分で“ここはこれぐらい上げておかないとヒップホップとしてカッコよくならないんだな”ってことを改めて認識できたと思います。

 - uinさん自身、これまで聴いた作品で音響空間として参考にしたアーティストはいますか?

uin - ミックスの質感だとMonte Bookerが好きですね。knxwledgeもすごく好きです。いまの時代、鳴りとか質感でも自分の特徴が出るのかなと思ってて。そういう意味でいま挙げたふたりはすごいなと。

 - uinさんから見てSkaaiさんの声の取り扱いかたについてどう考えているのかも訊きたくて。Skaaiさんの声の特徴を引き上げるにはどうすればいいのか。

uin - Skaaiくんはミドルロー……中域の低い部分がキレイに出てますよね。ただ、いろんな声を出したりもするので一概には言えないですけど。でもヴォーカルについては基本的にはあんまりいじらないようにしてるっすね。逆に声と帯域的にぶつかっちゃうような音は変えたりするときもあるので、Skaaiくんの声を優先しているのかもしれない。

 - Skaaiさん自身は自分の声やラップの響きかたを客観的に見て、どんなラッパーだと思いますか?

Skaai - そこに関してはなかなか客観的に見るのはむずかしいな……。ただ響きやフローを考えるにあたって、今後の目標は言葉を減らすことかなと思っていて。いまはマックスで言葉を詰めてるんですよね。現状、それこそがラップだと思ってるからやってるんですけど、もっと音楽を音楽として扱いたいなっていう気がしてる。バランスとして言語に偏ってしまうのはもったいないと思っちゃう気がします。言語ってやっぱり世界を区切るものじゃないですか。たとえば自分が“これはリンゴです”って言っても、それが赤いリンゴなのか青いリンゴなのかっていうのは言わないとわからないし。それよりももっと純度の高いイメージで伝えたいってことは考えてます。そういうことを考えると、今後どんどんラップから離れていっちゃう気もしなくはないなと。でも自分はラップが好きなので、別軸でそういう作品も作りつつ、ラップは続けていくとは思いますが。

 - その意味で現状考えうる理想とするラップはどのようなことだと思いますか?

Skaai - 自分にとって理想的なラップはなにかに対して不満を持ってるときに使う手段だと思ってます。反抗であったり、許せない気持ちだったり、怒りを表現するときにはかならずラップを使う気はしますね。

 - ではuinさん。現状考えうる理想のヒップホップビートは言語化するとどんなものだと思いますか?

uin - ミニマルだけどカッコいいと思えるものがいちばん純度が高いと思っていますね。いかに情報量を削って、メロとコード感と音色だけでカッコいい曲にできるかっていう勝負じゃないかと自分は感じるっすね。

 - ありがとうございます。最後に『BEANIE』以降の展開をどう考えてるのかを訊いてインタビューを締めようと思うんですが、おふたりはどうお考えでしょう。

Skaai - ぼくはよりコンセプトをがっちり決めたアルバムを作ろうと思ってます。それもちょっと変わったアルバムにしたいと思ってて。すでにあるアルバムの形式みたいなものに囚われないというか、曲単体をどれだけ聴かせるかって方向性にはならないようにしようと思っていますね。アルバムだったらアルバムを通しての世界観が提示できるような……まだ模索してる途中なんですが。

uin - プロデュースワークもしたいし、自分名義での作品も作りたいです。あとは音楽をどれだけ長く続けられるかっていうところの挑戦ですね。続けるために自分の好きな音楽を作る、みたいな。Skaaiくんとはこれからも関わりあっていくだろうし、クルーでの動きも考えてます。これまでの関係もキープしつつ、どんどんほかのステージでも動いてみたいかな。つねにおもしろいヤツらだなと思われていたいです。

Info

Artist: Skaai

Title: BEANIE

Release Date: 9/21/2022

Label: Mary Joy Recordings

https://skaai.lnk.to/BEANIE

Tracklist

1. BEANIE

2. FLOOR IS MINE (feat. BIM)

3. HOMEWORK

4. I TASTE YOU

5. FOR ME

6. FLOATING EYES (feat. Daichi Yamamoto)

All track produced by uin

Mix & mastering by KM

Artwork design by Kasumi

Photography by cherry chill will.

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