【インタビュー】藤田織也 "REAL U" | R&Bの中のフレックスを掲示したい
ヒップホップグループBleecker ChromeのメンバーKENYAとしても活動し、ソロシンガーとしても高い評価を受ける20歳のアーティスト藤田織也が、3rdシングル"REAL U"をリリースした。Matt CabとJAY’EDという2人のプロデューサーを迎えたこの楽曲は、2000年代のR&Bを彷彿とさせるミッドテンポのバラードチューン。
幼少期からR&Bなどに触れて育った藤田織也らしく、しっかりと当時のマナーを踏まえつつもアップデートされた"REAL U"の制作の背景についてや、ヒップホップとR&Bシーンの距離感などについて率直に語ってもらった。
取材・構成 : 渡辺志保
撮影 : 横山純
- "REAL U"はソロシンガーの藤田織也としては3作目となるシングルですよね。しかも、プロデューサーにはMatt CabとJAY’EDの2人が名を連ねている。この曲ができた経緯から教えてください。
藤田織也 - もともと、この曲のコンセプトが、”ゼロ(2000)年代のR&B”だったんです。USで2000年代の楽曲をサンプリングする曲が増えてきているという流れもあるし、2005年から2007、8年くらいのR&Bサウンドをリバイバルさせてみよう、と。当時、僕は幼稚園から小学生くらいだった。逆に、MattさんやJAY’EDさんはドンピシャの世代ですよね。僕自身が当時のサウンドを真似て表現するのもいいんですけど、当時がリアルな世代の方と一緒に作るのがすごくいいなと思って。JAY’EDさんにオファーしたら、向こうもすごく乗り気で参加してくださったんです。
- 制作するにあたって、具体的なリファレンスはあったのでしょうか?
藤田織也 - Ne-Yoとか、あと、僕が集中的に聴いていたのはThe ATL Projectっていうボーイズグループです。
- その頃に流行っていた音楽って、織也さんにはどのように聴こえるんでしょうか?
藤田織也 - 2001年生まれなので、ちょうど歌を習い始めたくらいの曲ですね。その年代の頃って、キッズダンサー、キッズシンガーの全盛期だったんですよ。僕の周りはダンサーやシンガーが多いんですけど、当時はおそらくみんな、そういう音楽を聴いて育っていたと思います。
- ある意味、リアルタイムで聞いていて身体にも染み込んでいる。
藤田織也 - はい。Ne-YoとかRihannaとか、Omarionとかがすごかった時代ですね。個人的に、こういう曲を作りたかった理由はもう一つあって。今の同年代の子って、そういう音楽を聴いていたっていうのをあまり表立って言っている子がいない気がするんです。ちょっと古い曲だから「ダサい」じゃないけど、なかなか言いづらいのかなって。でも、みんな、心の中では「あの時のあれって、かっこいいよね」って思っていると思う。だから、僕がもう一回あの頃のサウンドをリブランディングして持ってきたかった。そうしたらみんなもっと素直に、「いい音楽はいい音楽だ」と言えるんじゃないかって。
- Matt Cabさんとはこれまでにも一緒に制作を行ってきていらっしゃいますが、今回、JAY’EDさんも加わった3人での制作はどんな雰囲気でしたか?
藤田織也 - すごかったです。全員アーティストで全員シンガー、そして、全員プロデュースもするから、意見交換も楽しかったし、僕がどんなふうに彼らに映っているのかを知るのも楽しかった。僕、JAY’EDさんの曲は小学生の時にカヴァーして、Mattさんの曲は中学生の時に聴いていたんです。だからすごく面白いっていうか、変な気分でしたね。みんな、とにかくR&Bが好きだし。
- 曲作りのスタートは?何を糸口にして楽曲を完成させていったのでしょう。
藤田織也 - 最初のコンセプトの話をした後、ある程度、トラックの上ネタとビートが乗ったものを作ってからスタートしたんです。みんなでインプロヴァイズ(=即興)していくというか、メロディのフリースタイルをローテーションで歌っていって。みんな本気でやって、もうヤバかったですね。そうしたら、お二人が僕のメロディを新鮮だと思ってくれたみたいで、結構僕が作ったものが楽曲に採用されたんです。でも、その中にしっかり二人のエッセンスも詰まっている感じです。
- リリックも、三人でアイデアを持ち寄りながら書き上げていった感じですか?
藤田織也 - そうですね。コライトしていって。「当時っぽい表現だけど、今ならではのアイテムとか、若い子が好きそうなものってなんだろう?」って話し合って、そういう表現を散りばめていこうと。
- ”載せるストーリーにハート”とか、とてもフレッシュに聴こえました。織也さん世代のリアルさと、上の世代の魅力が同居しているリリックで。制作中に最もエキサイティングだったことは?
藤田織也 - それこそ、一緒にメロディを作ったり、同じ空間で歌って「これ、いいね」とか言ったりしている時間ですかね。本当に音楽を作っているなって感じましたし、JAY’EDさんが入ってくれたことによって、全く違うエッセンスが入りました。曲にピッタリのメンツだったと感じています。
- 片想いの切ない感じが、それこそNe-Yoばりの繊細さで描き出されているなと思って。
藤田織也 - アーティストにもよりますけど、最近のR&Bって今時のストレートなリリックが多い気がするんです。ヒップホップぽい人も多いので。2000年代半ばのR&Bって、90年代の雰囲気を引きずったファンタジー要素もあるし、ストレートさが今と違うっていうか…。今は軽く正直に言うって感じだけど、当時は本気で心から言っている感じがするんです。だから、"REAL U"にもそういう雰囲気をすごく入れたかったんです。
- 今年の4月にはBleecker Chrome(以下BC)としての1stアルバム『SEVEN THIRTY ONE』をリリースしました。BCのKENYAとして、そしてソロアーティストの藤田織也として、それぞれ違いは感じますか?
藤田織也 - 全然、違いますね。正直、去年や今年の頭まで、その「違い」をめっちゃ意識してしまっていたんです。だんだん、それが自分の中で「こうでないといけない」みたいにリミットをかけているような感じになってしまったんです。やっぱり、BCの方はいつもハードでいたいし、若い友達と一緒にパーティーできるような曲を意識しているけど、ソロではどちらかというと幅広い世代に聞いてもらいたくて。例えば、BCはみんなで聴くもので、ソロは1人で聴くもの、みたいに。
- ユニットとソロでは、リリックの言葉選びやメロディの作り方も異なりますか?
藤田織也 - 言葉選びは、全然違うかもしれないです。今後は"REAL U"みたいな曲でも、もうちょっとヒップホップぽい歌詞を使った曲があっても面白いと思うので、色々挑戦したいですね。でも今は、聴いて一発で分かるというか、一曲一曲が強いっていうアーティストを目指しています。
- BCとソロでは、ファン層も異なってきますか?
藤田織也 - 結構、違うと思います。BCは僕と同い年の子が多くて、hyoriくんがやっているイベント『BEAT CHILD』に来るような子たち。ソロはもっと幅広い方達かな。
- BCではラッパーのXinさんとユニットとして活動していますが、今の日本の音楽シーンにおけるヒップホップとR&Bの距離感みたいなものって、どのように感じていらっしゃいますか?アメリカの潮流と比べると、両者が結構離れているんじゃないか?と感じることもあるんです。
藤田織也 - そこは結構、真剣に捉えています。これは別に他のアーティストを冒涜する意味合いはないんですけど、日本のR&Bっていうとアーバンなものというか、玄人っぽいものが多いっていう印象を受けるんです。ジャムセッション的なものというか、FKJ的なものっていうか…。そういう意味でも、ヒップホップと仲良くできるシンガーがいないと思っているんです。露骨な言い方をすると、Ty Dolla $ign的なシンガーがいないというか。だから、自分は、ちゃんとヒップホップに足を突っ込んでいるシンガーでありたいです。そこのシーンからもリスペクトしてもらえて、僕からもリスペクトし合えるっていう関係性は、大事にしていきたいし、ずっと考えていることですね。
- そのスタンスってとても大事ですよね。例えば、ラップという表現方法はとても分かりやすいじゃないですか。でも、R&B的なアプローチとなると、日本では分かりにくいというか輪郭がぼやけてしまうところもあるのかな、と。
藤田織也 - R&Bシンガーとして脚光を浴びるポイントがアメリカとは違いますよね。でも、僕の周りにもR&Bを歌っているシンガーはたくさんいて、そういう子たちは海外のリスナーの方が多いんですよ。だから、もっと世界にアプローチしていける可能性はみんな秘めていると思います。そんな中で、自分はストリートを忘れずにやっていきたい。LEXくんとか凄いじゃないですか。彼ってすごく”It boy(イット・ボーイ。話題を集める存在)”的というか。だから、僕もシンガーとしてそういう存在になれたらいいなとも思います。ヒップホップってフレックスが分かりやすい気がするんですよ。それに、ファッションも分かりやすい。「R&Bの服って何?」って言われたら、正直、思い浮かばないんです。だから、自分がもうちょっとR&Bの中のフレックスを提示したいんです。それに、ストリートの中でも、もっとシンガーに憧れる人が増えてほしいですね。2000年代って、それがすごくあった気がします。
- 確かに、2000年代ってクラブのショーケースでも、ラッパーのライブに混じってもっとR&Bシンガーの方がいたような気がします。ラッパーとシンガーの境界線みたいなものは、どう捉えていますか?ジャンル的な縛りというか。
藤田織也 - 僕も、ちょっと前までラッパーと言われることがあって、「どう見えてるんだろう?」と思うこともあったんです。でも、どちらにも見えるんだったら、それはそれで利点だな、と思うようにもなって。ラッパーに出来なくてR&Bシンガーに出来ることって、ハーモニーとか面白いリフやフェイクを入れることなんですよね。だから、そういうところを意識して楽曲内に入れるようにしています。Brent Faiyazとかはまさにそれの最高峰って感じで、めちゃくちゃ上手い。自分はR&Bが本当に大好きだから、「これ、Jodeciがめっちゃ歌ってたよね」とか「これ、Ne-Yoが入れてたね」みたいなメロディ・ラインをめっちゃ入れるようにしています。アメリカのR&Bを聴いていても、トラディショナルなものを絶対入れてくるっていうか、そこはすごく顕著だと思う。それも、すっごくクールに、”知ってる人が分かればいい”くらいの入れ方なんですよね。それと、僕はずっとR&Bを聴いて育った人間だから、どのジャンルを歌っても、R&Bのエッセンスって絶対出てくるんですよ。
- 今回の"REAL U"はミッドバラード調の定番R&Bという感じですが、次やその先に用意しているのはどんな楽曲ですか?
藤田織也 - デモはもうたくさんあって。もっとダンス系のR&Bもあるし、もっとオルタナティブなものもあります。BCだと出来ないものもたくさんあるので、そういう楽曲をたくさん用意しています。
- ちなみに、プライベートではどんな音楽を聴いていますか?
藤田織也 - これは前からなんですけど、New Editionをめっちゃ調べているんです。New Editionに関しては、ずっとBobby BrownとRalph Tresvantが好きだったんですけど、最近はMichael Bivinsがヤバいなと思っていて。彼、プロデュース能力もすごいんですよ。Another Bad Creationってボーイズグループを発掘したり、Boyz II Menを手がけていたり。そのあたりをめっちゃ聴き始めています。あと、最近のアーティストだとVollyのアルバムがよかった。Vollyのことは、彼がKing Volly名義の時からずっと好きで。Brent Faiyazのアルバム『WASTELAND』も、最近のR&Bにはないオルタナティヴな感じがあるし、すごく切ないストーリーもあって、よかったです。Bryson TillerとDiddyの"Gotta Move On"もヤバかったですね。この曲、2018年くらいからデモが上がってて、Bryson Tillerのセカンドアルバムに入る予定だったはずが結局お蔵入りになっちゃって、Diddyのプロジェクトとしてリリースされたみたいなんです。僕的には結構面白かった。
- そうした音楽の趣味を共有できる仲間は周りにもたくさんいますか?
藤田織也 - そうですね、SAFEやKayCyyとか、そこら辺が好きな友達はめっちゃ多いです。この間、BCとしてドクターマーチンのパーティーに出たんですけど、そこでは結構、色んな若い人とコミュニケーションを取ることができたんです。「もっとこういう機会が欲しいです」とか言ってくれて。そのイベントでは、僕の友達がDJとしてKen Carsonの新しいアルバムを掛けたりしていて、それで乗っている子もいて。会話っていう会話はしなくても、「俺、これ知ってる」っていう感じでみんなで盛り上がるっていういい雰囲気が出来上がっていましたね。
- 織也さんがロールモデルにしているアーティストやクリエイターはいますか?
藤田織也 - 音楽的には、Kanye Westがやっぱり好きです。
- Kanyeもいろんなフェーズを経てきていますが、彼のフェイバリットアルバムを挙げるとしたら何ですか?
藤田織也 - 難しいな…少数派かもしれないけど、『The Life Of Pablo』が一番好きです。メンツも豪華だし、あのアルバムで結構ヒップホップが好きになった。当時、NYに住んでいて、まさに街中があのアルバムに包まれていたという感じでした。でも、根本的に影響を受けているのは『808s & Heartbreak』だと思います。僕が影響を受けているアーティストがみんな、『808』に影響を受けているんですよ。The WeekndもTory LanezもPARTYNEXTDOORや6LACK、Bryson Tillerも。BCの音楽も、メロディラップとかオートチューンの使い方とか、『808s』の延長線上にあると思っています。
- アーティスト活動を通して、同世代のリスナーに一番伝えたいメッセージなどは意識していますか?
藤田織也 - 伝えたいことは、結局、"楽しい"という感情ですかね。初期衝動みたいなものを一番大事にしたいです。今って、どうしても否定から入るものだったり、SNSのせいで人の顔を伺ったりということが多くて。でも、それを跳ね除けて、リスクを負ってチャレンジするってことが大事だし、もともとはみんなそうだったと思うんです。僕が音楽を始めたときも、結局いろんな人からーー親は否定しなかったけどーー否定されることもあったんですけど、本当に「俺はこれだ」みたいに突き進んでいって、今がある。”今、どれだけ揶揄されても、5年後とかになれば大丈夫だから”ってマインドでもっと貪欲になってほしい。””いつかじゃなくて、今、できることがある”っていうことを音楽やその他の活動で示していきたいです。例えば、僕はKanye Westの"Power"を聴いていると、自分がすっごい主役になったような気分になれるんですよ。聴く音楽によって、自分が主人公になれる。自分の音楽でも、みんながそうなってくれたら嬉しいし、そうなったら、多分正解だと思うんです。それと、僕たちはブランクジェネレーションなので、もっとみんなでアイデアを持ち合ってやれたらなって思います。もっと、若い人たちが活気あっていいなじゃないかって。
- 今後、シンガーとしてだけではなく、クリエイターとして他分野の制作もしてみたい、などの思いはありますか?
藤田織也 - 服とかも作っていきたいし、水面下では「友達とメディアを作ろう」みたいな話をしていて、映像などもいじったりしています。歌だけに限らず、作り続けていきたいですね。
- 最後に、ソロアーティストとしての今後の活動について聞かせてください。
藤田織也 - この後も、まだシングルを切っていこうと思っていて、ゆくゆくフィーチャリング作品やEPを出したいなと思っています。今、アメリカから帰国しているYung Xanseiによるプロデュース楽曲もあるので、それもこれからリリースしていければと。ストリート感のあるシンガーがメジャーのフィールドにいることってとても大事なんじゃないかと思っていて、そういう意味でも僕自身がゲームチェンジャーになれたら嬉しいです。
Info
3rd Digital Single
「REAL U」 2022.7.29 Release