【鼎談】荒谷翔大(yonawo)× 鈴木真海子(chelmico)× Skaai | 「俺らで何かできたら良くない?」って盛り上がったのが“tokyo”のきっかけ

yonawoは今年から関東のとある街の一軒家でメンバー全員が共同生活している。通称「yonawoハウス」。バンドが制作している間、スタッフが手料理を作っていると、友達のミュージシャンがお酒を持って遊びに来てセッションが生まれる。そんなふうに“tokyo feat. 鈴木真海子, Skaai”が生まれた。今回は「yonawoハウス」にお邪魔して、荒谷翔大(Vo)、鈴木、Skaaiに制作秘話を訊かせてもらった。

取材・構成 : 宮崎敬太

撮影 : 横山純

私からするとみんなと友達になった日

- 素敵なおうちですねー。

荒谷翔大(以下、荒谷)- ありがとうございます(笑)。

Skaai - おばあちゃんの家みたいというか、実家感というか、地元の友達の家感というか。

鈴木真海子(以下、鈴木)- 居心地良すぎていつも飲み過ぎちゃう(笑)。

- みなさんは同世代?

荒谷 - うん。俺は97年生まれ。

Skaai - 俺も。

鈴木 - 私は96年です。

- もともとはどういうつながりなんですか?

荒谷 - 真海子さんとは俺たちが福岡にいた時から仲良くて。Skaaiはめちゃくちゃラップ好きの友達からオススメされたのがきっかけ。聴いてみたらめちゃくちゃかっこよくて。しかもタメで九大(九州大学)。そんなラッパーおるんやって(笑)。インスタをフォローしたらフォローバックされた、みたいな。

Skaai - うん。でも俺は普通にyonawo知ってたよ。福岡で有名だもん。

荒谷 - でもがっつり遊ぶようになったのは東京に来てからなんだよね。初めて会った時に「俺、上京するんよね」って言ったら、Skaaiもするって言ってて。「じゃあ遊べるやん」みたいな。付き合い自体は長くないけど、関東に来てからはかなり濃密に遊んでるよね。

Skaai - こっちに引っ越してくる時、(斉藤)雄哉がミニバンに荷物乗せて一緒に運んでくれたんですよ。お返しに焼肉奢って。そういえば真海子さんと初めて会ったのもここだ。びっくりしたもん。入ったら「鈴木真海子おる!」って(笑)。

荒谷 - 言っとったやろ?

Skaai - 言っとったけどやっぱ実際にいるとさ。だって俺、あの日全然顔見れてなかったやろ?

鈴木 - うん。

Skaai - 緊張してた。

鈴木 - 全然わからんかったよ(笑)。あの日は荒ちゃん(荒谷)に呼び出されたんですよ。「なんか適当に音楽やろっか」みたいな感じで集まって、飲んで食べて、楽しくなった流れでインスタライブして。酔っ払ったノリからセッションが始まって。私からすると、みんなと友達になった日って感じ。

荒谷 - そうだよね。それまでも仲良かったけど、あの日からめっちゃ仲良くなった。俺はSkaaiもこっち来たし、真海子さんを紹介したくて。それで「インスタライブしよう」って2人を呼んだんです。そしたら思ってた以上に楽しくて。「俺らで何かできたら良くない?」って盛り上がったのが“tokyo”のきっかけなんです。

一発目は近い距離の人が良かったから2人がばっちりやん

- “tokyo”はバンドとして初めて客演を迎えた曲ですね。

Skaai - 客演入れるの初めてなんだ?

荒谷 - そう。実はメンバーやスタッフと「客演入れた曲もやりたいね」って話してて。一発目は近い距離の人が良かったの。だったら2人がばっちりやんとなって。

鈴木 - 私もいつかyonawoと一緒に曲作りたいなって思ってたから、先にオファーしていただけて「ラッキー」って感じでもありました(笑)。てか光栄でしたよ……。

Skaai - ね。俺もすごく嬉しかった。

荒谷 -(笑)。3人で作るならテーマは「東京」がいいなと思ったんです。トラックは雄哉が作ってたんです。俺が聴いた段階ではフィーチャリングとかも考えてない状態だったんですけど、3人の雰囲気に合いそうだなと思ってとりあえずテーマと一緒に2人に投げました。ダメなら別のにしようみたいな感じだったけど、めっちゃすぐできた。

鈴木 - Skaaiくんが早かったよね。

Skaai - うん。ビートもらった日の夜か、次の日くらいには書いて送った。yonawoハウスに初めて来た日のバイブスをヴァースに込めたんだよね。あの感覚を忘れたくなくてさ。みんなとセッションしてるつもりで書いたからかなりナチュラルな自分が出てると思う。「もしリリースできなくてもいい思い出になればいいなあ」くらいの気持ちで書いたんだよ。ガチで遊びの延長というか。

荒谷 - 初めて来た時、Skaaiは終電逃してここに泊まったんだよね。

Skaai - そうそう(笑)。

鈴木 - 実はリリックに関しては一切擦り合わせてないんですよ。順番とかも。「東京」ってテーマだけがあって、あとは3人個々に書きました。私は最初どういう東京を書けばいいかわかんなくて。上京してきた2人に合わせた東京なのか、私なりの東京なのか。それでSkaaiくんに「ヴァース書いたら送って」って連絡したんです。そしたらすぐ送られてきて。それを聴いて、私の感覚でナチュラルに書けばいいのねとなりました。

- 東京出身の鈴木さんからすると、逆に「東京」というテーマは難しかったんじゃないですか?

鈴木 - 意外とそうでもなくて。ちょっと前にiriが野田洋次郎(RADWIMPS)さんと“Tokyo”という曲を作ったんですね。あの曲は「東京って嫌われがちだけど自分は結構好きなんだよね」ってテーマで。iriは神奈川県の逗子市出身で、良くも悪くも東京について考えたことがなかったみたいなんですよ。だから制作してる時「どうしようかなぁ」とちょっと悩んでたんです。私も東京の西のほうの出身で。めちゃめちゃ都会のシティガールでもないし、田舎でもない中途半端なところにいた。だからiriの感覚がすごくわかったんです。iriの話を聞いてから「私ならどういう『東京』を書くかな」ってずっと考えていたので、方向性が見えてからはすぐに書けました。

荒谷 - 真海子さんも早かったもんね。

yonawoハウスで音楽で遊んでた頃の自分に戻ってこれた

- 僕は逗子市の隣の鎌倉市出身なので、鈴木さんの「特別偉大な夢もないです」「今日も東京に包まってる」というリリックにすごくリアリティを感じました。

鈴木 - その近くも遠くもないとこからずっと東京を見ていたんです。あと私には歳の離れた兄がいて。私が中高生の時、すでに都内で頻繁に遊んでたんですよ。私は東京ってキラキラしたとこだと思ってたけど、兄の姿を見てると「実際は別にそんなこともないのかい?」って思うようになって。

Skaai - なんで?

鈴木 - 東京って刺激的じゃない? でもそれに当てられてるだけっていうか。言ってることとやってることが伴ってない感じがしたの。しかもそういう人ってすぐ「なんか面白いことしようよ!」って言ってくる。あとめっちゃ夢語ってくる(笑)。私は10代から兄越しにそういう人たちをずっと見てたからか、東京に住んでても将来の夢なんてなくて、毎日ご飯食べれて、寝れてたらいいやって思ってた。

Skaai - へー。ちょっと関係あるかもだけど、この前Westside GunnとThe Alchemistが渋谷のクラブに来てさ。著名人ばっかりでびっくりしたんだよね。ひとつのクラブに人が集まってくる感じは東京ならではだなって思った。

荒谷 - わかる。福岡にもそういう場所はあるっちゃあるけど、規模は全然小さい。

Skaai - 真海子さんはそういう情景をヴァースに散りばめて、最後は「東京に包まってる」で締めるじゃない? 聴きながらすごいイメージできるんですよね。いろんな感情があるけど、最終的にはこの街にいるんだっていう。すごいリリシストだと思ったな。

- 擦り合わせてないのに、テーマのコアが共有できるのは面白いですね。やたらと「なんか面白いことしようよ!」と言ってくる人は「東京」の用法用量を間違えてるとも言えるし。

荒谷 - 確かに(笑)。俺は自分が思う東京をそのまま歌詞にしました。福岡にいた頃は、地方と東京のギャップってそんなにないと思ってたんですよ。情報なんていくらでも手に入るし。でもやっぱり実際にこっちに来ると、やっぱり全然違うんですよね。

鈴木 - 例えば?

荒谷 - こうやって集まることだよね。コミュニケーションはリモートでもできるようになったけど、東京に住んでる真海子さんと気楽に会って、同じ空気を吸って何かすることはこっちにいないとできないじゃない? リモートが発達して逆にフィジカルの重要性が浮き彫りになった感覚があるな。

Skaai - それすごいわかる。東京は会える人の数が全然違う。あと早い。

鈴木 - 早い?

Skaai - 歩くスピードが早くて、他の人に興味ないっていうか。福岡はまだ緩やかだった気がする。

荒谷 - そうね。俺の体感でしかないけど、福岡のほうが緩いと思うな。前に進んでるけど、忙しない。だから一回ごとに立ち止まらないと自分が無くなってしまうというか、押し流されてしまうような恐怖感もある。そういうのって福岡の頃はなかった。

Skaai - なかったね。そういう意味では、俺にとってyonawoハウスでのセッションはすごく貴重な体験だった。ラップを始めて、業界に入って、東京に来て、ガツガツ仕事してた時にここに来て。かつての俺にとって音楽は全部遊びだった。でも今は仕事。だからyonawoハウスで音楽で遊んでた頃の自分に戻ってこれた。

-「振り向く好奇心に身を任せて繋ぐマイクやけに輝く」というラインにはまさにそういう感覚を感じました。

Skaai -「振り向く」には自分的に一回立ち止まるって意味で、「好奇心」は遊びの感覚。「繋ぐマイク」っていうのは、ここでセッションした時、1本のマイクで荒ちゃんと歌ってたから、その情景を思い浮かべながらリリックに埋め込んだっていう。

荒谷 - 初心を忘れないって大事だよね。

2人の力を借りて初めて言い切る歌詞を書いてみようと思えた

鈴木 - 私は荒ちゃんが「俺の東京」って言い切ったのがすごく好きだった。荒ちゃんが東京に来てから実はちゃんと話してなかったじゃない? みんなでわちゃわちゃはしてたけど。しっかり話したのは福岡にいた時だったし。だから荒ちゃんのヴァースを聴いて「なんか思うことがあったんだろうな」って思ってたの。そしたら最後を「俺の東京」で締めて。東京でがんばるってなったんだなって覚悟みたいなものを感じた。

荒谷 -(ワーナーの)川副さんがアドバイスしてくれたんだよね。「生々しいものがあってもいいんじゃないか」って。川副さんも東京に来て出会った人だし、その言葉に影響を受けつつ、俺はこれまで言い切る歌詞を書いてこなかったから、今回は2人の力を借りて「やってみよう」と思えた。

Skaai - 生々しさはあったな。俺も上京組だからさ。東京にはいっぱいアーティストがいて切磋琢磨する相手がいるのはいいけど、自分に課すプレッシャーもどんどん強くなっていく感覚があったから。でも同時に「星屑なのさ」みたいな表現は荒ちゃんらしさだと思ったな。荒ちゃんのラップが新鮮だったし。

鈴木 -「ギンギラギンに」も荒ちゃんっぽいよね。

荒谷 - 昔の東京感は入れたかったんだよね。その流れだと「薬をたくさん」ってワードは大貫妙子さんの「くすりをたくさん」へのオマージュです。あの曲がめちゃ好きで。

- 改めて擦り合わせないのが不思議なくらい調和してますね。Skaaiさんが「衛生管理」という言葉を使ってたり。

荒谷 - そうなんですよね。僕も特に説明してないのに、この感覚を共有できてたのはすごく嬉しかったです。

- あとYouTubeに「a hold me tight(阿呆みたいに)だったらおしゃれすぎませんか?」というのコメントがありました。

荒谷 - それはちょっとかけてます(笑)。

Skaai - むしろ最初はそっちで書いてたんだよね。

荒谷 - うん。あと「Why」も方言の「わい(一人称)」を意識してたり、言葉遊びはちょこちょこしてます。

目指せ武道館スリーマン!

- MVも撮影されたんですよね?

鈴木 - それぞれの東京って感じで画面が3分割されてるんですよ。

Skaai -(撮影日は)雨だったねえ……。でも徐々に晴れきて。俺はスエットシャツにベストみたいの着てたから、めちゃくちゃ暑かった。それしか思い出せないくらい暑かった(笑)。

荒谷 - 耳真っ赤やったもんね。

鈴木 - あとさ、みんなでトイレ我慢したじゃん。一番最後に全員が集合するシーンを撮ったんです。カメラマンの方はすごい遠くのビルの上から望遠レンズで私たちを撮ってて。細かい指示は私たちの側にいるアシスタントの方を通じて電話で伝えてくれてたんですね。私たちは撮り始める前に「トイレ行きたいね」なんて話してたけど近くになかったんですよ。そしたらなんか撮影が始まっちゃったんですよ。しかも10回くらい撮り直して。その間、みんなずっとトイレ我慢してるんですよ(笑)。あれが一番楽しかったな。

荒谷 - しかもそのシーンは光の具合が他と全然違ってたからボツ……(笑)。

Skaai - バスで待ち時間に大富豪したよね。

鈴木 - たばこ賭けてね(笑)。

荒谷 - バスの待ち時間が暇だったから俺が歌い出したら、真海子さんにも伝染してみんなで歌ったじゃん。のもっちゃん(野元喬文)は鬱陶しそうな顔してたけど(笑)。あれ超楽しかったけど、すぐ忘れちゃったんですよ。

鈴木 - トイレ我慢してたら忘れちゃったんだよね。

荒谷 - そう。我慢しすぎて。でも次の日、真海子さんが思い出して。わざわざボイスメモに録って送ってくれた(笑)。

鈴木 - これで一緒に曲作ろうってなったんだよね。

- “tokyo”は単なる共演というだけではなく、3人にとってものすごく意味のある1曲になったようですね。

Skaai - はい。友情です。

鈴木 - 私は音楽を作ることへの刺激にもなりましたね。chelmicoはバンドじゃないので、お酒を飲みながら、楽しい感じでセッションしながら曲を作ったことがなかったんです。Skaaiくんじゃないけど、この感じは忘れちゃいけないと思いましたね。あと同世代でやれたのも大きい。今の感覚の音楽のあり方でやれたっていうか。

Skaai - うん。ありのままの自分で入っていけたし、俺も2人をすんなり受け入れられた。実は人と曲を作るのがあまり得意じゃないんです。自分のエッセンスを曲に組み込むためには、めちゃくちゃ綿密に擦り合わせないと完成形に持っていけない。だけど今回はすごくスムーズだった。最初から絶対いい曲になるってわかってた。ホッとする曲だし、一生聴けるし、歌い続ける曲だと思う。

荒谷 - この曲でそれぞれの東京観を表現しつつ、同時に一緒に生きてるって面を出せたと思うんです。2人は戦友みたいな感じ。みんな悩みつつも向き合ってる。曲の中でそこが見えたのが、これからがんばっていく上でエネルギーになりましたね。あと仲間が増えた喜びも得られました。

鈴木 - なんか嬉しい! これからもがんばってやっていきたいと思います!

荒谷 - 来年はまた違う“tokyo”があるかもね。それぞれが成り上がった歌になってるかも(笑)。

Skaai - 目指せ武道館スリーマン!

Info

■yonawo 「tokyo feat. 鈴木真海子, Skaai」 

タイトル: tokyo feat.鈴木真海子、Skaai
リリース日: 2022年7月27日(水)
フォーマット: Streaming / DL
レーベル: Atlantic Japan
各配信サービス: https://yonawo.lnk.to/tokyo

Recorded by Yuya Saito
Mixed by Satoshi Anan
Masterd by Tsubasa Yamazaki (Flugel Mastering)

Cover Designed by Yabiku Henrique Yudi

RELATED

【インタビュー】5lack 『report』| やるべき事は自分で決める

5lackが今月6曲入りの新作『report』をリリースした。

【インタビュー】BES 『WILL OF STEEL』| 初期衝動を忘れずに

SCARSやSWANKY SWIPEのメンバーとしても知られ、常にアクティヴにヒップホップと向き合い、コンスタントに作品をリリースしてきたレジェンドラッパー、BES。

JOHNNIE WALKERによる『THE WALKERS IN TOWN 2024』にJJJ、NEIなどがライブで、DJでVaVa、Skaai & uin、セク山などの出演が決定

4月に開催されるジョニーウォーカーのカルチャーイベント『THE WALKERS IN TOWN 2024 presented by JOHNNIE WALKER』の追加出演者が発表となった。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。