【インタビュー】Daichi Yamamoto 『Radiant』 | 自分から発光する

夕方から突然の大雨に襲われた6/9の恵比寿LIQUIDROOM。開演直前に飛び込むとこの日の主役Daichi Yamamotoを待ちわびる観客の熱気がフロアを満たしていた。まずはバンドメンバーでありトークボクサー/プロデューサーKzyboostのソロライブがスタート。Phennel Kolianderも参加し、メロウかつファンクネスを感じるグルーヴはウォーミングアップというには贅沢すぎる30分間だった。

Kzyboost & Phennel Koliander

Daichi Yamamotoのライブは、まるでスーパーカーのような加速でスタートした。新作の冒頭を飾る"Drain"から一気に"ヤバいな"(Kaneee)、"One Way"とバンガーでフルスロットルに持っていき、"Expressions"(STUTS)、"Yamamoto"(ACE COOL)と客演曲で畳みかけ、CFN Malikを呼び込み"F1"で速度計を振り切った。

CFN Malik

有坂美香とBobby Bellwoodのコーラス隊も参加した"Doors"で振り切ったテンションをクールダウンさせつつ、自由に楽曲を奏てていく。もちろんトラックがメインとなっているので、自由に構成を組み替えることはできないのだが、コーラスとトークボックス、そしてDaichi Yamamoto自身のボーカルワークにより、ライブで聴くDaichi Yamamotoの楽曲はよりダイナミックで迫力も感じることができる。

有坂美香&Bobby Bellwood

そして今回のライブで最も印象的だったのは、ワンマンライブだから体験できる全体の流れだった。1曲、1曲がぶつ切りではなく、一本の線として繋がっていき、熱量も積み重なっていきラストで最高潮のテンションを迎える。充実したライブ体験の後日に行ったインタビューも、ライブの話から始まった。

取材・構成 : 和田哲郎

撮影 : Yuki Hori

- 先日のワンマンライブの手応えはどうでしたか?フェスなどのイベントとは流れの組み方が違ったというか、やっぱりDJのPhennel Kolianderさんだけじゃなく、コーラスの有坂美香さんとBobby BellwoodさんやKzyboostさんもいることで全体の構成の良さがすごく感じられ。リハもかなり重ねたのかなと想像しました。

Daichi Yamamoto - 今までのやり方とそんなに大きく変えず、みんなで喋って構成を決めていきましたね。手応えは、ぶっちゃけ自分の中で「もっといけたな」とか「あそこもっとこうしたかったな」とか結構あったんですけど、終わってみたらみんなよかったみたいな感じになったんで、まあそういうものか、って感じで。

 - ご本人的にはもっとやれることがあったと。

Daichi Yamamoto - 声のコントロールのこととか、まだもっと練習した方がいいなとか。集中が何回か途切れたんで、体を動かしたりしながら戻していって。そういうの込みで面白かったっちゃ面白かったです。でも、練習量という意味では、練習の仕方も変わって、個人練習も増えていて。少し調子悪くてもある程度いけるようにはなってきたかもしれないですね。

- Daichiさんのライブって、"One Way"とか、今回の作品だったら"F1"のようなテンション高めな曲を前半に入れている印象があるんですけど、意識的にやってるんですか?

Daichi Yamamoto - 確かに。そこは意識的ですね。最初の方で一回上げといて、上げたテンションのままでいこう、みたいなのは結構あります。

 - それはお客さんのためですか? それとも自分のため?

Daichi Yamamoto - 両方ですね。最初にサラッとした曲をやったライブも過去にあって、それはそれでゆったり始まって好きなんですけど、でも最近はこのパターンですね。わーって声出してもらって、一回温めるみたいな。

 - 個人練習は一人でスタジオに入ったり?

Daichi Yamamoto - そうです。スタジオ入って何回か通しでやったりするのにプラスして、ボイトレ。前は通ってたんですけど、今はYouTubeのチュートリアルでやってみよう期間に入ってて。いろいろやってます。

 - YouTubeにそういう動画があるんですね。

Daichi Yamamoto - 練習用のプレイリストみたいなストックを作って。なので、リハでライブっぽくラップするっていうよりかは、淡々と歌ってボイトレをちゃんとやって、で、当日のテンションにそれをプラスするみたいな。「もう歌いたくないわー」、「もういいや」ってなるまでずっと歌うみたいな(笑)。あとその時間で楽器を練習したりします。息抜きプラス音感とか鍛えられたらいいなっていうのでやってるんですけど、ちゃんと力になっているかはわからないです(笑)。

 - 以前と比べてライブに対しての印象は変わりましたか? 昔から好きでした?

Daichi Yamamoto - ライブ嫌いでしたね、ずっと。「しんどいなー」みたいな。でも前よりかは前向きに捉えられてて。ライブが苦手な理由が何個かはっきりとあって、すごく面白くないって思ってたのが「カラオケ感」。そういうのがだんだん壊れてきて、それはメンバーのおかげだったり、構成だったりそういうのもあると思うんですけど、その部分だけでもなくなってきたのが楽しさに繋がってる。

 - 前回のワンマンライブぐらいから、Daichiさんのパフォーマンスのバイブスがすごく前向きに変わってきたのかなというのは感じていて。

Daichi Yamamoto - はい。ですね。

 - そういったライブの変化が、作品に対してフィードバックすることってありますか?

Daichi Yamamoto - 「ライブでこういうサビだといいな」というのが制作の時にも入ってきてるなっていうのは今回あります。書き切らないみたいな。サビをガチって作るよりかは、抜く部分とかを作ってトラックが持っていく瞬間とか、全部言葉にせずに〈Do Ra Ta〉とかを入れるみたいな。そういう意識が頭の片隅にあった。

 - ここから作品について聞いていければと思います。前作『WHITECUBE』の時のインタビューも制作が辛い時期で、辛いままなんとかやり切ったっていうことを仰っていて。それが継続していたという感じだったんですか?

Daichi Yamamoto - も、あると思います。ずっとあるんだろうなっていう感じもありつつ。でも、作品を作ってる時間自体は別にそんなにしんどくなかったんですけど、作り終わるぐらいからけっこうしんどかったっていう感じでしたね。

 

- JJJさんからビートをもらって"Everyday People"を作ってそこを契機に変わっていった?

Daichi Yamamoto - 変わろうと思ってとかでもなかったんですけど、Jさんに対しての信頼がやっぱり強いっていうか。Jさんとのやりとりの中で「これかっこいいじゃん」ってなったら「もうこれでいいよ」みたいな。それがすごい救われたんだと思う。今になって思うと。

 - それが時期的にはいつぐらいですか? 2022年?

Daichi Yamamoto - 2022年の年末ぐらいにビートもらって、その辺から。"Everyday People"はもっと前ですけど、作品用のビートはたぶん2022年の年末ぐらい。

 - "Everyday People"はもともとシングルで出していたバージョンからアフロバージョンが加わってるじゃないですか。あれはもともとあったわけではなくて、この作品用に新しく付け加えた?

Daichi Yamamoto - あれはライブでやってたんですけど、Jさんから"Everyday People"のパラデータをもらった時に、なんでか分かんないんですけど、ピアノだけ聴こうと思ってピアノのループ聴いてたらそのフレーズを思いついて。もうシングルで出してるし、でもレコーディングしてみようかと思って録っておいて、Jさんに聞かせたら「いいじゃんこれ!」みたいになって(笑)。でも、自分は別に出さなくてもいいかなと思っていたんですよ。その時期に読んだインタビューで「リリースするためだけじゃなくて、自分のためだけに曲を作る」みたいな話をしてるアーティストがいて、自分もそういう感覚で書いてみようって感じだったんで、ライブだけでやってリリースしなくていいかなと思ってたんですけど、「出そうよ、いいじゃん!」って言ってもらえたんで「出します」って。

 - あのラインは他と比べるとストレートなラインじゃないですか。だからこそ、この作品の全体の意味が凝縮されてる感じがするのかなって。

Daichi Yamamoto - 確かに。入れてよかったかもしれないです。

 - 時系列的に聞ければと思うんですけど、"Everyday People"の最初のバージョンが2022年に出てたんですよね。その後に取り掛かったのはどの曲になりますか?

Daichi Yamamoto - どの曲だっけな。でも同時進行で書いてました、何曲か。"Doors"……でも"Athens"だったような気がする。

 - ちなみに今作のビートは全部JJJさんですけど、他にもJJJさんからビートをもらっていたんですか?

Daichi Yamamoto - そうですね、何個かもらってます。

 - その中から選んだのがこれらのビートだったっていう。

Daichi Yamamoto - でも、全部のビートで書いてました。全部のビートに大体6割ぐらい書いてて、「これ詰めたいな」ってやつを完成まで持っていって、っていう感じでやってました。

 - 自分はアーティストじゃないから分からないですけど、プロデューサーからビートをもらって全部書くって結構すごいことなのかなって思うんです。それぐらいJJJさんのビートがDaichiさんに合ってるというか。

Daichi Yamamoto - 「JJJさんのビートはリリックがちゃんとしてないとダメ」って、別にJさんが言ってるとかじゃないですし、リリックで深いことを言わなきゃダメとかじゃないですけど、ちゃんとラップが座ってないとビートに負けちゃう気がしてて、そういう意味で自分も6割から上へ、時間かけてちゃんと書くエネルギーになったのかなって。なので必然的に10まで持ってかないとリリースできないみたいな(笑)。

 - 自分にハードルを課したと。でも今作のビートも、最近のJJJさんのビートって本当にシンプルだし、隙間も多いから「ラップがちゃんと座ってないと」というのはまさにですよね。

Daichi Yamamoto - だからそれが面白かったですね。

 - 最初に話が出たんで"F1"からいければと思うんですけど、この曲はアルバムの中だとかなりアグレッシブなも楽曲だと思うんですが、元々いつぐらいからあった曲でしたか?

Daichi Yamamoto - たぶん去年の頭か、2年前の年末とか。書いてる時にフィーチャリングのCFN MALIKに入ってもらいたいなと思って、でも結構寝かしたんですよね、その後。MALIKが京都か大阪に来るタイミングがあって、そこで一緒にスタジオ入って……あ、そうだ、JUMADIBAくんのライブでMALIKが京都に来てたんだと思います。で、ライブの後に、スタジオにめちゃくちゃ遅れて来て、それが初対面だったんです(笑)。でも、会ったらめっちゃいいやつで。「来る途中の地下鉄で書いたんです、もうちょっと書くんで待ってください」って言って15分くらい経ったら「もういけるっす」ってなって、バーって録っていって、みたいな感じで。マジすごいなって(笑)。

 -以前、Daichiさんにおすすめのアーティストの名前を聞いたらMALIKの名前を出してましたよね。

Daichi Yamamoto - そうですね。それとMyghty Tommyも。

 - かなり早い印象があって。その時も聞いたかもしれないですけど、どうやって探してるんですか? 

Daichi Yamamoto - 探してるっていうか、たまたまですね。アルゴリズムが出来上がってました(笑)。MALIKはYouTubeで、Myghty Tommyはラップスタアの応募動画をバーって見てた時にかっこいいと思って、それでフォローしてました。

 - その次にできた曲は?

Daichi Yamamoto - たぶん"Athens"かな。"F1"、"Athens"、"Drain"は多分序盤だったような。で、"Doors"。"ガラスの京都"が後半だった気がします。

 -"Athens"は"Everyday People"ともつながるテーマの曲ですね。

Daichi Yamamoto - そのうちギリシャ好きな人からなにか言われそうですけど(笑)。まあ、とても面白かったんです、旅行自体は。それこそ都会を離れた時に、すごいいい国だなって思ったんですけど。で、行って、メモみたいなのがあったんでそれ帰ってからそれで作ったみたいな。

 - 今作は60点から100点に持っていくのにじっくり時間をかけたとのことでしたが、1曲あたりにかける時間はかなり伸びているんですか?

Daichi Yamamoto - あー、寝かす時間が伸びたかもしれないです。"Athens"も最初歌だけで、録る時間は30分とかだったかもしれないですけど、何日かして聴いた時に、書いた方がいいかもってラップ入れて。でまた何日かして、後半KzyboostさんとBobby Bellwoodさんにコーラス入れてもらった方がいいかもってなり、録ってまたみんなで聴いて、「最後もう一個いけるんちゃう?」っていうのが段階的にあって。それに全部同時進行だったので、"Athens"の歌を入れた後に"Drain"のサビだけ書いて置いといて、みたいな感じで進めていました。

 - 寝かして客観的になるということが大事だと思うんですけど、その作り方がいいなと思ったのは今作からですか?

Daichi Yamamoto - そういう瞬間は前にもちょくちょくあったかもしれないですけど、前はもっと「1日でやりきらなきゃ」みたいな追い込みスタンスだったんです。それから、「寝かしてる間も作ってないわけじゃないかも」って思い始めて。散歩してる時も自分が気づいてないだけでどっかで考えてるんだろうなって思ってから、手をつけない時間も作ってるから大事かも、って思い始めて。それで気づいたらそういう作り方になってました。いつからだろう、でも、自分が気に入った曲は結構そういう書き方が多いかもしれないです。"Everyday People"も1回書いて何日か寝かした後に、ごっそり変えていて。今1バース目になってる部分は本来2バース目に出てきたんですけど、聞き返してみてやっぱ頭に持ってこよう、2バース目を書き換えよう、みたいになって。寝かして客観的に聞くみたいなことが、ここ最近徐々に多くなってきてます。

 - その時って別にずっとその曲を聴いてるっていうことじゃなくて。

Daichi Yamamoto - ではないです。

 - その時期にできたのは"Drain"も同じ。

Daichi Yamamoto - "Drain"もたぶん近いタイミングで書いてました。

 - 今作のタイトルの『Radiant』、日本語訳すると「輝く」という意味ですけど、なんでこのタイトルなんだろうと思ったら、"Drain"にも出てきますし、「輝く」という単語がいろんな曲の歌詞に出てくる。タイトルから先行してつけていたわけではないですか?

Daichi Yamamoto - どっちが先か自分もわかんないですけど、めっちゃ多いんですよね。でも、去年「gr(l)owing season」っていうタイトルのツアーをやったんです。それを決めたのが2年前の年末だったんですよね。「輝く」と「成長」みたいなテーマでツアーやるっていう中で曲を作ってたんで、相互効果というか、お互いに影響し合いながらそういう曲になってたのかもしれないんですけど。でもそれは意識的に「自分から光る」みたいな切り替えがテーマだったんで、待ってるっていうよりかは、それで『Radiant』にしようみたいな、その後また変えて。

 - 誰かに注目されて光るということじゃなくてっていう。

Daichi Yamamoto - そうですね。光に照らされて光ってるんじゃなくて、自分が発光してるイメージでいこうと。ガンガンポジティブバイブスっていう曲でもないんですけど、でも、そういう意味でのポジティブな感じで。

 - リリックについても聞きたいんですけど、"Drain"だとワンバース目の最初がかさぶたの描写で、かさぶたの視点になっているのがすごく面白いなと思っていて。"ガラスの京都"も虫の視点みたいなものがありますが、こういう視点変更って、やっぱり面白いなって思って。ここはなんでかさぶたが出てきたんですか?

Daichi Yamamoto - 最初に〈排水溝に流れてく〉っていうのがずっと頭に残ってて、排水溝に流れるもんってなんだろうってところから、汚れとかが出てきて自分の過去だったりトラウマだったりいろんなものをシャワーで洗い流すというので、かさぶたは過去の傷が剥がれてシューって排水溝に流れてるみたいなところからでした。

 - 普通ただ比喩として書くならかさぶただけで違うラインに行っちゃうんですけど、そこで〈水に乗って下水道まで加速してく〉みたいなところまで書いて表現が続いてくっていうのが面白いなというか、ハッとさせるじゃないですか。その光景がちゃんと想像できるような感じになっていて。

Daichi Yamamoto - ありがとうございます(笑)。

- そういう歌詞の繋がりみたいなものはすぐ出てくるものなのか、寝かしている時に考えているのか。

Daichi Yamamoto - どっちもあります。すぐ出てくる時もあれば、出てきても語呂が全然合わない、みたいな時とかもやっぱあったりして。そういう時は寝かして言い換えたりとか短くしたりとか。時と場合によるかもしれない。1バース目はもっと長かったんですよね。めっちゃ続いてて、でも〈シャワーを浴びて〉のあとスラスラ出てきたかもしれない。

 - 全体的に今作は1バースを長めにラップしてますよね。

Daichi Yamamoto - そうですね、でもこれでも短くしました。"Find A Way"とかもっと長くて(笑)。でもJさん入るから自分これぐらいにしといた方がいっかって、短くしたりとかしてます。

 - リリックは一度出てくるともうどんどん出てくるみたいな感じ?

Daichi Yamamoto - かさぶたに関して書き始めると8小節ぐらい出てきちゃって、結局16じゃ収まんないなってなって収めようとしたり。逆に12でいいやみたいな時もあったり。そういう意味ではあんまり16に縛られてなかったかもしれないです、今回。

 - 一つのフレーズについてもバースが長くあって、それを凝縮していくみたいな。

Daichi Yamamoto -"Drain"は結構そうだったかもしれないです。1バース目は倍ぐらいあったんですけど、でもそれもJさんがワンループのビートで送ってくれてたんで、自分で構成組むみたいな、自由度が高かったというか。「ここまでで言い切らないとダメ」っていうのがなかったんで、そういう作業になったかもしれない。

 - 次が"Doors"ですか?

Daichi Yamamoto - その辺だったと思います。"Doors"をやってる時に"Find A Way"ができたような感じが。その辺も近かった気がします。

 - "Doors"は扉をテーマにしてすごく悲しいことと新しい出会いが両方あって、この作品っぽいなって思ったんですよね。暗いこともあるけど前向きさもあるみたいな。しかもこれ、ラブソングじゃないですか。

Daichi Yamamoto - そうですね(笑)。

 - 扉っていうテーマはすぐ思いついたんですか?

Daichi Yamamoto - どうだったんだろう……後から自分でも役に立つしメモっとけばよかった(笑)。でもサビから書いたような気がしますね。たぶん扉っていうのが先に出てきて、で、昔から「1個のテーマで曲書きたい」っていうのがずっとあって、なかなか上手いことできてなかったんですけど、今回やっぱ挑戦したいなって思って。ドアを軸に書こうみたいに途中からだんだんなってきて、書いてAndlessを一緒にやっているA&Rのマサトさんに送ったら「甘い、いいやつになろうとしてる」って言われて(笑)。それが1個ターニングポイントになったかもしれないです。この作品の中で、「そうだ、いいやつになろうとしちゃダメだわ」と思ってもう1回書き直して、「もう赤裸々に書こう」みたいな、サビだけを活かしてガラッと書き換えてみたりして。

 - じゃあ最初はもう少し抽象的だった?

Daichi Yamamoto - そうですね、抽象的だし、「愛っていいじゃん」みたいなそういうヤワさがあったんですけど、もっとつっこんでいろいろ考えてみようってなって。自分がよくないところもわかってるけど人のせいにしたくなる部分とか、そういうのをひっくるめて書いてこうみたいな。

 - その指摘が核心的だったんですね。

Daichi Yamamoto - 「うわヤバい、ダサいなたしかに」って(笑)。

 - 次は"Find A Way"ですかね。この曲はDaichiさんの抱えてるストレスみたいなものが一番シンプルにあらわれていて、感情で言うとどの方向で書かれてる曲なのかなっていう。

Daichi Yamamoto - 他の作品をガーって詰めて何回も書き直してってやってる時に、そういえば"Find A Way"のビートを手つけてないなと思って、パって開いて。この曲だけはほぼ一発で終わったんですよ。その日にわーって書けて、これも今の倍は言わないまでも長いバースだったんですけど、でもバースもサビも書けてみたいな、どうしようみたいな。で、どっかのタイミングでJさんに送ったら、「俺やるんだったらこれがいい」ってなって、Jさんもわりとすぐ書いてくれて。それこそ1曲だけ急に書けるみたいなのが、アルバムを作っててたまに起きるんですよ。これ何なんだろうと思ってて、2、3日前にSZAのインタビュー見てたら同じことを言ってて。SZAはそれを「パレットを洗う」って言っていて。いっぱい絵を描いてパレットがぐちゃぐちゃになってる時に、一回パレットを洗うために全然忘れてたビートとか適当なビートをかけて歌うと、それがめっちゃヒットした曲になるんだって。「めっちゃその感覚だわ」と思って。書くつもりもあったんですけど置いてただけで、でもサクッと書けました。

 - なんでそんなにサクッと乗れたんですかね? 心情の変化なのか、もう少し技巧的な部分の変化なのか。

Daichi Yamamoto - いやあ、何も考えてない時の方がいいんだなと。作らなきゃって思って書いてる時より、本当に息吸って吐くぐらいのテンションであんま深く考えずに書く方がいいものになるんだろうなって。今回はそのどっちかだなと思っていました。詰め切るか、ポンって書いて終わりか、みたいな。

 - でも、この曲のリリックも簡単にさらっと書けるようなリリックには見えないです(笑)。

Daichi Yamamoto - 記憶にずっとあったからかもしれないです。1作目2作目を書く時に避けてたものを今回書いたんで、そういう意味で全体的に早かったのかもしれないです。もう言うこと決まってるし。

 - 具体的なシーンが結構出てくるじゃないですか。これはもう結構事実というか。

Daichi Yamamoto - そうですね。これ出した時に友達から「自転車乗ってるやつ蹴ったってあれのこと?」って言われて、「そやで」みたいな(笑)、「逆によく覚えてるな」みたいな話をしてて。

 - このフックの声は全部Daichiさんですか?

Daichi Yamamoto - 自分です。

 - これまであんまりチャレンジしてこなかったタイプのボーカルじゃないかという気がして。

Daichi Yamamoto - 確かにそうですね、そう言われてみれば。軽いフックにしたいなっていうのがあって、だからなるべく動いてないというか、淡々と、みたいな、それぐらいのところから書いた気がしますね。フックもそれですんなり書けた気がします。

 - Jさんのバースも、Daichiさんのバースを受けて怒りの感情が入ってる気がしていて。改めて、ビートメーカーとしてではなくてラッパーとしてのJJJというのは、Daichiさんはどう見ていますか?

Daichi Yamamoto - 言葉を選ぶスタイルは自分と結構違うなって思いますよね。自分には絶対できないっていうか。言葉の意味の飛び具合とか、「そっからそこに行くんだ」みたいな。やっぱ自分は繋げて考えるんで、まずそれがすごいかっこいいなっていうのと、言葉の乗り具合みたいなのもすごい独特だなと思ってて、かっこいいですね。Jさんのワンマン見た後に「言葉が美しい」って誰かが言ってたんですよ。それめっちゃそうだなと思って。英語ももちろん入ってきてるんですけど、それをひっくるめて日本語きれいだな、みたいな。書き方っていうか。それが好きです。ビートもそうですけどラップも引き算で、一行一行飛んでいく、その「ない部分」を想像させるっていうか。

 - すごくパーソナルなことなんですが、聞けちゃうのは、やっぱすごいなって思います。じゃあJさんのバースはもう聞いた瞬間OKっていう。

Daichi Yamamoto - 「あざまーす、最高です!」って。

 - で"ガラスの京都"。これも一曲一曲にテーマをっていう話で言うと、京都をテーマに作りたかったってことってことなんですかね。

Daichi Yamamoto - そうですね。最初から京都をテーマに1曲作りたいなって思ってて、ビートを聴いて、「これな気がする」っていうところからスタートしました。

 - これもかさぶたのくだりと同じく、虫がいきなり出てきていて。1バース目の後半を最初聴いた時に、なんで〈羽で跳ね返して〉って言ってるんだろうと思っていたら、虫になってる描写なんだっていう。

Daichi Yamamoto - 虫になりました(笑)。

 - これはなんで虫が出てきたんですか?

Daichi Yamamoto - 結構前なんではっきり覚えてないんですけど、書いてる途中、誰かから来世とか前世の話、「カルマを積む」みたいな話をめっちゃ熱弁されて、「うん、なるほど」みたいなことがあって。それを信じるか信じないかとかは別で、そういう考え面白いよなって思いながら書いていて、たしかカルマが先にパッて思いついて。「普通に京都のこと書いてもな」ってところから、来世の話とかを考えた時に、虫が京都に帰ってきて、昔話をする体で書いたらいいんじゃないか、みたいにだんだん書きながら変わっていって。で、サビで「バーズンバーズンバーズンバーズン…」って口ずさんだ時に「あ、Bugsや!」と思って(笑)、虫だわっていうのが、同時に起きた気がします。

 - ヒップホップ的な固定概念でいうと、地元のことって「自分として歌う」みたいな部分があると思うんですけど、それをあえて視点を変えて歌っていることがすごく面白いし、虫としてのラインが続いていくのもリアリティがありますよね。ワンシーンをいろんな角度から描くのはDaichiさんは好きなんですか?

Daichi Yamamoto - 「好きなんだけど自分は得意じゃないな」と勝手に思ってたんですけど、それが「どうも気のせいかもしれない」と思い始めて(笑)。自分で言うのもあれなんですけど。そういえば"上海バンド"も友達の視点で書いたなって思って、そうやって考えると結構人の視点で書いてるかもって。去年"Sol"ってシングルも出したんですけど、それも自分っていうよりかは高島屋の社員の視点で書いていて。

 - 高島屋の社員の人の話を聞いて書いたんでしたね。

Daichi Yamamoto - だったんで、なんか好きなのかもしれないですね。そういえば今思い出したんですけど、これ作る前に全く別のEP作ってて、完全にボツったんですけど、それは全部自分じゃない視点で書いてるやつだったんです。それは友達の視点で一枚作ってみようと思って。結局途中まで作ってやめちゃったんですけど、でも、好きなんだと思うんですよ。

 - 完全に誰かになりきるってできないし、その中でたぶん、たとえば〈瓦屋根から飛び上がった盆地〉とかって、Daichiさんの中にそういう印象がないと出てこないものでもあるじゃないですか。そこら辺の融合のされ方みたいなのがすごい面白いなって。絶対、自分の感情とか記憶とかが入ってくる部分なのかなっていう。

Daichi Yamamoto - そうですね、自分の中の「虫ってそういうもんだろう」みたいなのがあるんだと思う。

 - で、最後の"OTO"っていう感じですかね。

Daichi Yamamoto - その前に"interlude"があって、それは去年のリハの音源ですね。

 - "interlude"は元々入れる予定だったのか、つなぎ目がいるなっていう感じで入れたのか。

Daichi Yamamoto - リハの音源聞いた時に「これいいじゃん」って思って。リハだったんで続きは結構あるんですけど、ここで切って"Everyday People"行ったら気持ちよさそうと思ってやったらいい感じだったんで、入れとこうって思って。

 - リハの音源を聞き返すことがあるんですか?

Daichi Yamamoto - いやあんまりなくて、しかもそれ別にゲネっていう感じでもなくて、ただ普通にリハしてたのになぜか誰かが録ってたんですよね。で、それで聞いてみたいな感じで。

 - 最後の"OTO"は、いったら音楽のこととかを。

Daichi Yamamoto - 最後はハッピーエンドじゃないですけど、光のある方に向かうイメージでやりたいなと思っていて、そのビートだけオーダーしたってわけでもないんですけど、そういう感じで作りたいんですよねって話はしたかもしんないです。で、別のビートで書いてた曲があったんですけど、その曲のバースはところどころいいワード出てんなと思って、そのバースどっかで使おうと思って、何個かバースはめてったらこれハマるかもなってなって、そこからそのテーマで膨らませました。

 - テーマ自体は確かに重いんですけど、音楽的な聴き心地でいうと、全体そこまで重さみたいなのは感じないんですけど、これがあることでより次に繋がっていくような、そういう曲になってるのかなっていうのは思います。ここでも〈体が発光するBaby I’m ready〉と言ってますね。

Daichi Yamamoto - 確かに。それはもう最後の段階だったんで、「入れよう」っていう感じでした。

 - あと〈ダイヤモンド〉というワードも複数の曲に出てきます。それもやっぱりアルバムタイトル『Radiant』の「輝く」と。

Daichi Yamamoto - そうですね、だと思います。"F1"でも言ってて、あれは後付けで書いたんですけど、攻撃的なこと言ってるけどアルバムに入れるつもりだからテーマとして紐づけようみたいな感じで。なんで攻撃的なんだろうみたいな(笑)。

 - これまで避けてきたテーマと向かい合って作品が作れたっていうことは、どうでしたか?

Daichi Yamamoto - ずっといつか書こうってどっかにあったものだったので、できて良かったけど。最初それで変わると思ってたんですけど、何も別に変わらなくて、でもそういうものかって。「みんなそうやって生きてくよな」って感じでした。すぐに何かが変わるっていうよりは、ちょっとずつちょっとずつ、もしかしたらトラウマはずっと残り続けるし、なくすっていうよりか「どう付き合っていくか」みたいな方に考え方がだんだん変わってきたというか。

 - 今作と今作の制作で向き合ってきて、その付き合い方を覚えたという感じ?

Daichi Yamamoto - でも作品は関係ないのかもしれなかったです。作ることとか出したことを自分で無理やり関連付けようとして、それで消化されるものがあると思ってたんですけど、別になくて。「音楽は音楽か」ぐらいのテンションになったというか。そういう意味での軽さみたいな、そんな深く考えてないっていうか。

 - まあ……そうですよね。

Daichi Yamamoto - そうなると綺麗だなと思うんですけど。

 - 批評とかだと、何かを書くことで消化したみたいなことって言われるけど、実際の人生においてはそれって残り続けるものだから。

Daichi Yamamoto - そう言うとそれっぽく聞こえるというか、わかりやすいですよね。「消化されました!」って。でも、絶対どっかにずっと残り続けていくと思うので、あんまそこを期待しないでいこうっていう。変に期待しちゃった分、「なんもねぇじゃん」みたいな(笑)。

 - まだツアーもやってるしまだ次のこととかは考えられてないとは思うんですけど音楽的にやりたいこととか次のイメージみたいなものはあったりしますか?

Daichi Yamamoto - 作ってます!今は書いては寝かして、書いては寝かしてってやってて、まだ何をどうするかも決めてないしっていう状況なんですけど、とりあえず手は動かし続けとこうっていう感じで、あんまり深く考えずに書いて、後で聞き返して。その作業が今回すごい楽しかったんで、そういう風にやっていこうっていう意味で作り続けていて。

 - 自分の得意なプロセスができたっていうのはめっちゃいいですね。

Daichi Yamamoto - 休むことができるようになったのかな。寝かして考えるみたいな。

 - ちなみにツアーの追加公演で、これまでの自身の単独公演では最大規模のライブが決まりましたけど、そのあたりの環境の変化とかっていうのはどう受けとめたんですか? シーン自体の流れとか。

Daichi Yamamoto - 自分は別に何も思ってなくて……何でもネガティブに考えちゃうんで、来なかったらどうしようとかは思うんですけど、でもそんなに「でかくなったから」とかはないですね。でも、こないだの東京もそうだったんですけど、いい意味であんまり何も感じなくなったっていうか。悪いのかもしれないですけど(笑)、変に「ああやらなきゃ」っていうよりかは、結果がどうとかあんまり考えなくなったのかもしれない。なのであんまり気にしてないのかも。

 - 前は結構じゃあでもそれこそ他人からじゃあどう見られるっていう部分でもあるじゃないですか。ライブとかも。

Daichi Yamamoto - だから、自分が満足したかしてないかを大切にしようって思ってます。「良かった」って言ってもらえるのももちろん嬉しいんですけど、自分の中で「良くなかった」って思ってたら「良かった」って思うまでやりゃいいか、みたいな。

 - ありがとうございます。

Info

<ツアー概要>
全公演共通URL :
Zepp Shinjuku オフィシャル最速先行先着
6/9(日) 20:00〜 6/15(土) 23:59
https://eplus.jp/daichiyamamoto/

2024年10月5日(土)※追加公演
会場:Zepp Shinjuku
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
価格:オールスタンディング前売り6,000円(税込・D別)

2024年7月19日(金)
会場:福岡 BEAT STATION
時間:OPEN 18:30 / START 19:30
価格:オールスタンディング前売り5,000円(税込・D別)
問い合わせ:lit info@lit2021.jp

2024年7月20日(土)
会場:熊本 NAVARO
時間:OPEN 19:00 / START 20:00
価格:オールスタンディング前売り4,500円(税込・D別)
問い合わせ:spoon spoonkumamoto@gmail.com

2024年9月13日(金)
会場:札幌 cube garden
時間:OPEN 18:45 / START 19:30
価格:オールスタンディング前売り5,000円(税込・D別)
問い合わせ:Andless live@andless.net

2024年9月14日(土)
会場:仙台 darwin
時間:OPEN 17:00 / START 18:00
価格:オールスタンディング前売り5,000円(税込・D別)
問い合わせ:Andless live@andless.net

備考:小学生以上有料/未就学児童無料(保護者同伴の場合に限る)

作品概要 :
Artist : Daichi Yamamoto / JJJ or Daichi Yamamoto & JJJ
Title : Radiant
Label : Andless
Date : 2024.05.15(水)
Cat # : Andless-005
URL : https://linkco.re/cFapcdaD

Track List:
M1. Drain
M2. F1 feat. CFN Malik
M3. Find A Way feat. JJJ
M4. Doors
M5. interlude
M6. Everyday People - Afro
M7. ガラスの京都
M8. Athens
M9. OTO

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