【対談】森雄大 (neco眠る) × VIDEOTAPEMUSIC | エキゾと日常の接点
来る2022年6月11日(土)、Shibuya Spotify O-EASTにて、neco眠る × VIDEOTAPEMUSICのツーマン・ライブが行われる。2022年は、neco眠るは結成20周年、VIDEOTAPEMUSICは初の全国流通アルバムだった『7泊8日』リリースから10周年の節目とも言える年。これまでもさまざまなイベントやロケーションで同じ舞台に立ってきた両者だが、純粋なツーマンは初の実現となる。
エキゾと日常の溶け込み方を一貫して追求し、視覚を強烈に喚起するダンス・ミュージックを作り続けてきた両者。実はneco眠るのリーダー森雄大とVIDEOTAPEMUSICは同い年の完全同世代だった。neco眠る登場にVIDEOTAPEMUSICが受けた衝撃や、無意識のうちに両者をつないでいたロボ宙&DAUへのリスペクトなど、2人の話はお互いへのシンパシーと共に伝わってくる。何より、まだSNSで可視化される以前の2000年代の混沌から現在への流れをひもといてゆく興味深いものになった。
取材・構成 : 松永良平
- neco眠るとVIDEOくんの直接の出会いというのは、2010年代に入ってからですよね。
VIDEOTAPEMUSIC - 僕は、リスナーとしては直接出会うよりも前からneco眠るを聴いていました。2000年代後半くらいの自分の生活に、めちゃくちゃ入り込んできた音楽ですね。当時、大阪のZUINOSINとかあふりらんぽとかを聴いていた流れで知ったと思います。2009年のフジロックや新代田FEVERなどでライブも見ましたね。neco眠るも「どうやら同世代っぽいけど、すごいかっこいいな」と憧れの目で見てました。かたやその頃の僕は段ボールを叩いて宅録をしていて(笑)
- 僕はneco眠るのファースト『ENGAWA BO-YS PENTATONIC PUNK』(2008年)が出るときに森くんと初めて会って取材しました。でも、あの時点では新世界Bridgeとかから生まれた、いわゆる「関西ゼロ世代」と呼ばれていたシーンはすでに終わり頃というか、その混沌を受け継ぐバンドとしての自覚が森くんにあって、結構興味深かった記憶です。
森 - そうでしたね。
VIDEO - 森くんたちはもうちょっと若い世代だった?
森 - ZUINOSINのメンバー2人は僕の通ってた専門学校の先輩で、憧れでしたね。身近にそういう先輩たちがいっぱいいて、追いつき追い越せでやってました。東京に同世代のバンドがいるとかも知らなかったし、周りのことしか見えてなかった。
VIDEO - 東京で最初にやったライブはなんだったんですか?
森 - 東京初ライブは2007年くらいかな。マカロニレコードと関西勢との企画で、六本木にあったSUPER DELUXEで一緒にライブをやった。ミドリやホアン海(YTAMO、西川文章)も出てたと思います。SUPER DELUXEってお客さんがみんな床に座って見てたけど、僕らはもう音楽的に今のスタイルになってたから「お客さん、座ってんなー」と思ってましたね。当時、僕は客席に対して後ろ向いてギター弾いてたんですけど(笑)
VIDEO - 後ろ向きでギターを弾いているのはすごく印象的でした(笑)
森 - でも、後ろ向いて弾いてた視線の先に「1人だけめちゃめちゃ笑顔で踊ってるやつがおるな」と。それがミヤジ(宮崎岳史/2010年代前半に南池袋ミュージックオルグ店長)やったという。
- へえー! ミヤジくん、全然変わってないですね(笑)
VIDEO - 僕もミヤジと初めて出会ったのはSUPER DELUXEでしたね。
森 - そのあと、ミヤジが話しかけてくれた。大阪に共通の知り合いもいた繋がりもあって。東京でいちばん最初に僕らを発見してくれたのはミヤジですね。
VIDEO - ミヤジのイベント(『Hold on me!』)にneco眠るが出たときの映像がYouTubeにありますよね(2009年8月1日、江ノ島OPPA-LA)。あの映像とかもよく見てたので印象に残ってますね。
森 - SUPER DELUXEで、もう1人話しかけてくれた人がいたんです。その人が、『CHAMPION BASS』ってイベントをやってたDJ YAHMAN。当時の僕らはもう少しダブ色が強かったこともあって、その翌年のイベント(『CHAMPION BASS Vol.27』2007年8月3日、渋谷ROCKWEST)に呼んでくれました。その翌日にミヤジのイベント『Hold on me!』(2007年8月4日、江ノ島OPPA-LA)に出て。
VIDEO - 僕がちょうどneco眠るを気になりはじめたのがそのくらいです。フライヤーとかで東京でも名前を見るようになってきた。
- さっき、当時の森くんは後ろ向いてギターを弾いていたという話がありましたけど、確かに僕が初めてライブを見た2008年頃でも「伊藤くん(伊藤コーポレーション/ベース)のバンドかな」と思うような印象が強かった。あと、森くんの初取材のときに「オオルタイチの弟でBIOMANという子がいて、彼がバンドに入るかも」みたいな話を聞いたこと思い出しました。
森 - あの時点ではまだBIOMANが正式メンバーになってないくらいかな。
VIDEO - メンバーは今に至るまで結構変わってますよね。休止していた時期もあったり。
森 - セカンド(『EVEN KICK SOY SAUCE』2009年)の後、ドラムが抜けた時期に一回休止してましたね。
- 2010年以降から新メンバーでサード『BOY』(2014年)を制作しはじめるまでの数年ですよね。でも、カクバリズムとの関わりは結構早くからあった印象です。二階堂和美さんをフィーチャリングして、カクバリズムから7インチ「猫がニャ~て、犬がワンッ」(2009年)を出してたし。
森 - そうですね。角張(渉)さんとは、僕らがファースト出す前くらいから知り合っていて。
VIDEO - どういう出会いだったんですか?
森 - 当時、僕らがリリースしていたレーベル、デフラグメント(de-FLAGMENT)の宮城(健人)さんと角張さんはもともと知り合いだったんですよ。角張さんが大阪のsunsui(現・COMPASS)でDJしたとき、僕らが近所のSTOMPでライブやってたので見にきてくれたのが最初かな。
VIDEO - デフラグメントといえば、ロボ宙&DAUの超名盤『Life Sketch』(2006年)も出してます。
森 - 最高。ロボ宙&DAUが初めて大阪でやったときは、neco眠る企画で呼んだんですよ(「neco眠るpresents SPLAY16」2007年4月30日、新世界Bridge)。
VIDEO - VIDEOTAPEMUSICとneco眠る好きな人は絶対好きになりますよ。日常的な風景とエキゾチックなムードが両立してて、ローファイで滲んだ音像で、柔らかいアタックで、そんな感じの音楽にラップを乗せるというやり方があるんだというのは、本当に衝撃的でした。ロボ宙&DAUから完全に影響を受けて、『7泊8日』でも「ポリネシアン観光センター」という曲でセケンシラズ(cheektime温度)さんと共に自分自身でもラップを乗せてみたんです。そしたら、逆にロボさんもその曲を聴いて「こういう音にラップを乗せる人がいるんだ」って思って興味を持ってくれたみたいで、その後現場で会うたびに話すようになり、ロボ宙&VIDEOTAPEMUSICで7インチ「サイエンス・フィクション」(2021年)をリリースしたり。こないだもロボさんと九州ツアーをしましたが、ライブでもお互いの曲に参加し合うような絡み方に発展してきてますね。
森 - 僕がロボ宙&DAUを聴いた頃は、ファーストの録音をはじめてたくらいですね。大阪にロボ宙&DAUを呼んだとき、制作途中の僕らのデモを渡したら、それを川辺さんやBoseさんに渡してくれて、そこからいろいろ広がった。
VIDEO - neco眠るもロボ宙さん発信だったという。
森 - ロボさんの存在はめちゃくちゃでかかったですね。あと、デフラグメントだったらスピードイル『How To Feel The Empty Hours』(2004年)も好き。
VIDEO - その2枚を僕も当時すごい愛聴してました。レーベル的にもすごく気になってたし、neco眠るもその周辺なんだなという認識がありました。
- その時期の記録って、SNS以前というか、mixi中心ですよね。当時はクローズドだったからそんなに広く知られてないし、その後もあんまり語り直されてもいないから、あらためてこうやって掘り返すと面白い。で、ここまではVIDEOくん視点のneco眠るだったけど、森くんはVIDEOTAPEMUSICはいつどのように知ったんですか?
森 - 『7泊8日』(2012年)を買ったのが最初かな。いわゆるゼロ世代以降みたいな感じで僕らはやってて、ドラマーが辞めてしばらく休止してるときにパッと横を見たら、oono yuuki bandとか東京に同世代で面白いことやってる人たちがいっぱいいるんやなと気がついた。そんな時期にVIDEOくんも知ったんです。もちろん同世代感もあったし、自分もやりたいようなことをやっていて、「めちゃいい!」と思いましたね。ローファイな要素もあって、センスもいい。うまく言えないけど、スッと入ってきた。
VIDEO - サウンドの要素的にもneco眠ると僕は共通項が多い。音色だけで言ってもピアニカ、シンセサイザー、スプリングリヴァーブとか重なるところが多い。
- neco眠るがファーストを出したときも、めちゃくちゃ踊れるけどエキゾ感についてもみんな言及してました。「ENGAWA(縁側)」みたいな言葉のチョイスとかで日常と異界のつながりが意識されていて。
森 - (『7泊8日』は)日常にある「路地裏エキゾ」みたいな、自分の好きなところが詰まってる音楽でしたね。
- 「路地裏エキゾ」という表現は言い得て妙で、確かに両者に通じてる。そのうえで、違いを考えてみると、VIDEOTAPEMUSICの音楽と映像のミクスチャーは見えている景色と異界の境界線がトロンとぼやけていく感じ。neco眠るの音楽は、日常にわけのわからないものが飛び込んでキャッキャしてる感じ。
VIDEO - neco眠るをあらためて聴くと、ダンスミュージックとして盛り上がるライブの印象に引っ張られがちだけど、すごく風景描写のある音楽だなと思っていて。「プール後の授業」(『EVEN KICK SOY SAUCE』収録)みたいな曲は、本当にその風景が思い浮かぶし、そういう描写に僕は惹かれるところが大きかった。あと、neco眠るってご飯の曲、すごく多いですよね。
森 - 確かに、僕らは食べ物の曲めっちゃ多い(笑)
VIDEO - 「ドラゴンラーメン」「すごく安い肉」(ともに『BOY』収録)とか(笑)。僕は「ドラゴンラーメン」が好きすぎるんですよね。もう「ドラゴンラーメン」としか言いようのない曲で、いつも聴くたびに爆笑しながらも最高だなーと思っています。
森 - ラーメンの曲は2曲あって、"ドラゴンラーメン"と"学食のラーメン"(『ENGAWA BO-YS PENTATONIC PUNK』収録)。
VIDEO - ラーメン同士の差異化を図れてるのもいい(笑)。僕の新曲にも"Funny Meal"があるけど、そういう食べ物ソングがいっぱいあるっていうところも、自分の目の前にあるものから楽曲のモチーフを見つける感じでめっちゃ共感するし、先を行かれてたなって思ってます。
- エキゾ的、風景描写的というワードが挙がりましたけど、ダンスミュージックとしての意識もお互いの音楽には共通してると思うんですが。
VIDEO - (neco眠るの)ライブのダンサブルな感じは、最初からあったんですか?
森 - 最初はレゲエ色、ダブ色が強くて、もっとゆっくりで重い感じやったかな。ライブをやっていくなかで変わっていったし、それがめちゃデカいですね。
VIDEO - 風景描写みたいな感覚も、すでにあった?
森 - それは最初からあった。もともと僕も宅録で曲をずっと作っていて、それをバンドでやってみたというところがある。
VIDEO - 発展の仕方としてはお互いに近いところがあるのかもしれない。今振り返ると、ダンスと風景描写の両立みたいな意味でも、僕もneco眠るみたいな音楽をやりたかったんだなとすごく思いますね。
- たまたまneco眠るの場合は新世界Bridge周辺のライブができる現場が近くにあって、そこでの反応も含めて盛り上がっていくというのが最初にあったということですよね。
森 - そうですね。
VIDEO - でも、ダンスミュージックに振り切ってしまわない、というところも意識としあったんですか?
森 - うん、それはやっぱり、自分が「イエー!」みたいな人間じゃないところが大きいと思う。どこか「恥ずい」というか、ずっとステージでも後ろ向いてたわけだし(笑)
VIDEO - ステージで自分を見てほしいわけじゃない、みたいな。
森 - それはめちゃある。
VIDEO - 僕もそうですね。見てほしいのは映像で「僕は見なくていいんで」みたいな。
森 - 僕らにとっては、VIDEOくんの映像の代わりが伊藤くんのアクションじゃないですかね(笑)
VIDEO - そうかも! 「(自分ではなく)伊藤くんを見ててくれ」みたいな(笑)。僕もステージに立ちたくて音楽をはじめたわけじゃないですからね。絵を描いたり、平面作品を作ったりすることの延長みたいな音楽だったし。かといって、ライブの現場ではみんなにも楽しんでほしい。あとは恥ずかしいからこそ、みんなも踊ってぐちゃぐちゃになって、誰もステージを見なくなればいいのにとも思う。僕の今のライブのフォーマットも、そういったいろいろな感情のせめぎ合いみたいなところで作り出したようなところがあるから、そこでもneco眠るに近いものは感じます。
森 - めちゃうれしいです。
- そんなneco眠るも、今年20周年じゃないですか。
森 - 長いですよね。
VIDEO - カクバリズムも20周年だし、実は歴史の長さでは一緒ということですよね。すごい。
森 - ちょうど僕が高校を出た年にはじめてるから。VIDEOくんと僕は同い年やんね?
VIDEO - 僕は音楽を作ってはいたけど、人に聴かせはじめるのが遅かったんですよね。neco眠るは同い年くらいなのに、本当にすごく先にいるバンドだし、大先輩目線で見ちゃいます。
- でも、メンバーのキャラクターでもあるんだけど、neco眠るは大先輩バンドみたいになってないですよね。縦の関係を作らないあり方が、今考えたら先駆的だった気がする。なぜか親しくなれてしまう。
森 - 「20年やっててこれかい!」みたいなね(笑)。でも新曲はずっと作ってて、なんとか新しいアルバムは20周年のうちにと思ってます。今は僕とBIOMANと栗原(ペダル)くん、(おじま)さいりちゃんの4人それぞれ曲を作ってるから、みんなで手分けして作ってる。メンバー共有のDropboxにはひたすらBIOMANの曲がどんどんアップされてるけど(笑)
VIDEO - 曲を4人が作れるってすごいうらやましいですね。僕はずっと1人で作ってるから、1曲作るのに半年くらいかかったりする。
森 - 今はメンバーも東京と大阪に分かれて住んでるし、曲も宅録で別々に作ってるから、バンドなのにあんまりバンドの良さを活かしきれてないというジレンマもあるけどね。でも、11日も新曲を1曲やるつもりです。
- VIDEOくんとの共演はこれまで結構あるけど、11日は初めてのツーマン?
VIDEO - 沖縄でのスリーマン(neco眠る/VIDEOTAPEMUSIC/CASIOトルコ温泉、2018年2月17日、沖縄OUTPUT)とか、『ライブ・イン・ハトヤ2014』(2014年2月1~2日、伊藤温泉・ハトヤホテル)とか、結構いい場所でも対バンさせてもらってきました。
- 今回のSpotify O-Eastは会場の規模もいちばん大きい。LEDの大型スクリーンもあるから、VIDEOくんの映像も楽しみだし、DJでDonuts Disco Deluxe(スチャダラパーANI、ロボ宙、AFRA)が参加するというのも大きいんじゃないですか?
VIDEO - お互いにロボさんやスチャダラパーと共演した音源があるし、そもそもロボ宙&DAUが大好きだし。
- そういえば、VIDEOくんはneco眠るのMVを撮ったことはないですよね? 今年、neco眠るは20周年のニュー・アルバムを出すつもりなんでしょう? そのタイミングで新しいMVをVIDEOくんがディレクションする機会があったら、この対談もやった甲斐がある。何より、11日のライブが楽しみです。せっかくのツーマン・ライブだし、何か一緒にやったりします?
VIDEO - 今のところ特に何も予定してないですね(笑)。でも、ロボさんがお互いの演奏に参加するとか?
森 - 僕らの曲(「ひねくれたいの」neco眠る feat. スチャダラパー+ロボ宙/2017年)でもANIさん、ロボさんはいるし、VIDEOくんがBoseさんのパートでラップしてくれたらいいかも(笑)
VIDEO - いや、それは無理です!(笑)
Info
Spotify O-EAST presents
neco眠る x VIDEOTAPEMUSIC
2022.06.11(SAT ) at Spotify O-EAST
OPEN:17:30
START:18:30
CHARGE: ADV 3,500YEN(+1D) , DOOR 4,000YEN(+1D)
LIVE:
neco眠る
VIDEOTAPEMUSIC
DJ:
Donuts Disco Deluxe (ANI from スチャダラパー, AFRA, ロボ宙)
FLYER:増田薫 (思い出野郎Aチーム)
FOOD: adda x ボタ
TICKET:https://w.pia.jp/t/necovideo/
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