【インタビュー】空音|10代で作ったイメージは10代のうちにぶっ壊す

ファンタジックなリリックを温もりのあるフロウでラップする“Hug feat.kojikoji”がTikTokにハマり、SNSで大きなバズを起こしたティーンエイジラッパー・空音。約半年で2枚のフルアルバムをリリースした勢いそのままに、新曲“scrap and build”を10月21日に発表した。この楽曲は若手の注目プロデューサーであるyonkeyが手がけたトラップチューン。自身の持つメロウな印象をがらりと塗り替えるこの曲で、空音は切っ先鋭いテクニカルなラップを披露する。なぜこのタイミングで新たなイメージの楽曲を発表したのか、その胸の内を聞いた。

取材・構成:宮崎敬太

トラップでスキルフルにラップして「Hug」のイメージをぶっ壊す

- 新曲“scrap and build”はこれまでの空音さんのイメージを覆す内容ですね。

空音 - 僕の今の代表曲は“Hug”ですからね(笑)。そのイメージを覆す、いい意味で尖って、同時にカッコよさも出るような曲を作りたかったんです。yonkeyくんとは前作『19FACT』でも何曲か一緒にやっていて。お互い何か面白いことをしたいねとは話していたんです。

- トラップのビートは空音さんが注文したんですか?

空音 - はい。トラップのビートでめちゃくちゃスキルフルにラップする曲がやりたいと伝えていました。そしたらこれが送られてきて。yonkeyくんはストックをまとめて送ってくるのではなく、いつもしっかりと作り込まれた1曲を投げてくれます。今回は夜中に届いたんですけど、テンションが上がってすぐにパラ(データ)をもらって2〜3時間で最後まで書き上げました。

- むっちゃ早い(笑)。

空音 - BASIさんと作った“月ひとつ”もこんな感じだったんです。ある日、BASIさんからTwitterのDMでLINEのQRコードが突然送られてきて。ほとんど面識がなかったからびっくりして、すぐに連絡したら“月ひとつ”のトラックが送られてきました。仕事できる人は返信も早いと聞いたことがあったので、その時は15分くらいで書いて、即レックして送り返したんです。BASIさんとやるなら、それくらいのスピード感と力量がなくちゃダメだろって勝手に思い込んでいたとこもあったので(笑)。今回もそういうノリで一気に書いちゃいましたね。あと単純にトラップのビートだから言える言葉があって、僕自身にも言いたいことがあったからパッと書けたというもありますね。

- 言いたいこととは?

空音 - それは最初の「俺が何回作っても言っても/HIPHOP通らしい/難しい奴うっさいよ/好きな物の為に他を落として語るだっさいよ」に集約されてますね。

- 直球ですね。エゴサするんですか?

空音 - しますします(笑)。TikTokからバズって有名になった、それだけで叩かれてるんですよ。僕は、ポッと出のスキルもない、ヒップホップを知らないラッパーだと思われてるみたい。そういう人って全然ディグってくれないから、すごいスキルフルなラップをしたweek dudusの“That's that feat. 空音”とかは知らない。批判するならせめてもうちょっと曲を聴いてよ、とは思います。

- 急激なブレイクには批判がつきものという部分はありますよね。

空音 - はい。批判は僕にとって燃料なので、フラストレーションを抱えたりはしません。ポジティブに受け止めて、より良い曲を作る。“scrap and build”はその中から生まれました。これまで作ってきたイメージをぶっ壊して(scrap)、作り直す(build)。あとこういう曲を19歳から20歳になる今やっておきたかったというのもありますね。

- 空音さんはチルラップの枠で語られることが多いと思いますが、そのことについてはどのように感じていますか?

空音 - “Hug”のイメージが強いので、そこは仕方がないと思っています。でも僕自身はいろんな音楽を聴いているので“scrap and build”みたいな面もある。出来上がったイメージを壊すことで、新しいものを作る。一歩先の創造性というか。自分のベストにとらわれず、壊し続けて、常に新しいゴールテープを切りたい。それを繰り返すことでラッパーとして強度が上がっていくはず。塵も積もれば山となるというか。“scrap and build”はその最初かなって。

普通の生活をしてきた一般人は何をラップすべきなのか?

- “scrap and build”は空音さんのバックグラウンドを感じさせる曲でした。そもそもはどのようにキャリアをスタートさせたんですか?

空音 - 地元である兵庫県の尼崎で、circle 6の仲間たちと音楽を始めました。ちなみにクルーの名前は尼崎の市外局番06に由来しています。でも尼崎はヒップホップよりレゲエが盛んな街なので、大阪のTRIANGLEというクラブで活動していました。直接の繋がりはないですけど、フリースタイルのシーンでも活躍されてるCIMAさんが所属するBOIL RHYMEというクルーとかいろんな人たちが出ていました。アングラな小箱ですけど、尼崎でやっていた僕からすると憧れの場所で、初めてステージに立った時は感動しましたね。

- 比較的年齢の近い大阪の同世代、例えばWILYWNKAさんと共演することはありましたか?

空音 - BASIさんや唾奇さんのような共通の知り合いはいるんですが、直接ご挨拶したことはないですね。いる場所が違う感じ。WILYWNKAさんのようにヒップホップに根ざしたカッコいい活動をしている人たちがいる一方で、僕みたいなのもいるってところが大阪の面白いところだと思います。

- 「僕みたいなの」とはどういうことでしょうか?

空音 - ヒップホップというと困難な状況からラップひとつで這い上がることで夢を見せるイメージがあると思うけど、僕は普通の家庭で生まれ育っているんです。しかも、いわゆるヒップホップの先輩みたいな人もいなくて。自分なりにいろいろ模索していたら、ある日突然“Hug”がバズった。ヒップホップは地元カルチャーと結びついている音楽だけど、僕にはそのバックボーンがない。数少ない仲間はいたけど、基本的にはひとりでコツコツやってきました。だから自分のリアルをどうやってヒップホップに落とし込むか、何を曲にして伝えればいいのかはかなり悩みましたね。何もない人がヒップホップをやろうとすると、まず何を言えばいいか悩むって誰かが言っていました。僕もそんな感じです。曲のトピックになるような経験なんてしたことないし、誰かを傷つけることも言いたくないから、とにかくスキルを磨くことにしたんです。

- 「プラチナ ダイヤ サファイア ルビー じゃなく 無価値な石 輝かす Me」ということですね。

空音 - 僕はこのラインの通り、道端の石ころでした。でもしっかり磨くことで光らせることができた。悪いこともしてないし、フリースタイルのシーンも馴染めない。でもヒップホップを愛している、僕みたいな人も少なくないと思います。僕は去年まで高校生だったけど、その段階で音源の収入がバイト代を上回っていました。先生からは「音楽で食べていくのはしんどいで」と言われたけど、僕はストリーミングに可能性を感じていました。このストーリーなら僕でもリスナーに夢を見せられるなって。大阪には年功序列とまでは言わないけど、「若いから通用しない」という暗黙の了解があるように感じます。でも僕は実力が第一だと思うので、当然僕も先輩たちにどう見られているのかは気になるけど、才能があるのに出てこられない子がいるのはもったいない。そういう子たちを勇気づけたいと思っています。

自分の中のリアリティを振り絞ってリスナーに夢を見せたい

- ヒップホップは日本で確立されたけど、いまだに悪い人たちの音楽という印象が強いですよね。

空音 - 僕らの世代は何がリアルなのか、みんなそれぞれ一生懸命調べて模索していると思います。でも知識として理解するのと実践するのは全然違くて。自分の中のリアリティを振り絞って音楽を続けていけるかってところが大事で、僕は自分のリアルを見つけてラップに落とし込めたと思います。SNSでヒップホップが広まるのは素晴らしいことだと思うけど、同時に自分を含めた若いラッパーたちが、みんなそれぞれ自分のリアルを追求していないと、本当のヒップホップが何かわからなくなってしまうと思います。

- 今回一緒に制作したyonkeyさんも同世代ですよね? ヒップホップシーンのことについて話したりしますか?

空音 - シーン云々ではなく、単純にミュージシャンとして舐められたくないねという話はしました。僕らはこれからも音楽で食べていくと覚悟を決めているから、海外の音楽を聴いている人も振り向かせるような力量を今19歳の段階で持っておくべきだなって。

- 海外の音楽ということで言うと、最初にラップを乗せたビートがZion-Tの“No Make Up”なんだとか。

空音 - このビートを知ったのは、唾奇×HANG “Ame feat. MuKuRo”がきっかけでした。“Ame”は僕にとって理想の曲。こういう音楽をやりたいって思ったんです。自分の心を包み隠さず歌うけど、聴き手を傷つけない。唾奇さんはすごくハードな人生を歩んできているけど、彼の曲を聴いてるとポジティブになれる。それで調べてみたら、この曲のビートがZion.Tの“No Make Up”と同じだと知って、インストを見つけて自分でもラップを乗せてみたんです。この曲をきっかけに韓国のヒップホップにはまって、Sik-KやDEANも大好きになりました。韓国のヒップホップのクオリティは群を抜いていると思います。フロウ、グルーヴ感はもちろん、被せやガヤのような細かいところまでよくできている。中でも僕が一番好きなのがDPR LIVEです。自分が新しい曲を作る時の基準にしています。いつか出会いたいんですよね(笑)。

- ほかにフィールしてるアーティストを教えてください。

空音 - 日本で一番好きなのはSweet Williamさん。あとChance The Rapperですね。“Angels (feat. Saba)”の和訳を読んで泣いてしまったんですよ。彼の地元であるシカゴは治安が悪い街だけど、彼はこの曲で子供たちに夢を見せることが第1だろっていうことを歌ってるんです。僕はそれがヒップホップの一番大事なところだと思います。僕も尼崎出身なので、強く共感しました。

- 12月には3枚目のフルアルバムをリリースするそうですね。

空音 - はい。今回出した“scrap and build”はアルバムの1曲目。自分のバックボーンを振り返るような内容で、後半は全然違う雰囲気になっています。僕はいろんな人たちの生活にふと入り込めるような音楽を作りたいんです。ヒップホップ好きはもちろん、ポップスが好きな年齢層の人にも聴いてもらいたいと思っています。

Info

空音 配信シングル「scrap and build」

発売日:2020 年 10 月 21 日(水)

URL: https://jvcmusic.lnk.to/scrapandbuild

※ストリーミングサービスおよび iTunes Store、レコチョク、mora など主要ダウンロードサービスにて配信中。

※音楽ストリーミングサービス:Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Music Unlimited、AWA、KKBOX、Rakuten Music、RecMusic、Spotify、YouTube Music

アーティスト名:空音 (読み:ソラネ)
タイトル:『TREASURE BOX』 (読み:トレジャーボックス)
発売日:2020 年 12 月 16 日(水) ※配信のみ 12 月 15 日(火)リリース

収録曲:後日発表
■通常盤:CD

品番:VICL-65440

POS:4988002894857

価格:¥2,500+ 税

■ビクターオンラインストア限定盤:CD+T シャツ

品番:NZS-825

POS:4988002894864

価格:¥4,200+ 税

予約 URL:https://victor-store.jp/item/156190

※ストリーミングサービスおよび iTunes Store、レコチョク、mora など主要ダウンロードサービスにて 12 月 15 日より配信開始

※音楽ストリーミングサービス:Apple Music、LINE MUSIC、Amazon Music Unlimited、AWA、KKBOX、Rakuten Music、RecMusic、Spotify、YouTube Music

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