【メールインタビュー】CIRRRCLE|「日本とか世界とか関係なくボーダーレスに」

東京・LAを拠点に活動する「ハッピー・ヒップホップ」ユニットCIRRRCLE。シンガー/ラッパーのAmiide、ラッパーのJyodan、ビートメイカーのA.G.Oの三人からなるCIRRRCLEは、それぞれに多様なバックグラウンドを持ちながらポジティブなバイブスを発信すべく、グローバルなシーンで目覚ましい活躍を見せている。

そんなCIRRRCLEが、3月に最新EP『BESTY』をリリースした。トラップやR&Bをポップに消化し独自の音楽性を見せる彼らに、活動のきっかけからEPの制作、それぞれに伝えたいメッセージなどについて話を聞いた。

取材・構成:山本輝洋

 - 三人が一緒に活動を始めたきっかけや経緯を教えてください。

Amiide - Jyodanと自分は、元々仲良くて、ちょくちょく一緒に音楽を作ったりしてたんですけど、3人が全員同じ場所にあつまきっかけになったのはAnderson .Paakの初来日ライブの時。

A.G.O - そのライブをきっかけにCIRRRCLE結成きっかけと当初から一緒にサポートしてくれてるオチマリとAmiが出会って、その後僕に紹介してくれたんです。僕は一人で曲を作ってSoudcloudにあげていたんだけど、その一つにAmiが歌をのせてくれたらすごくしっくりきて。そのままの流れでJyodanにも入ってもらってラップしてもらったらものすごく良いグルーブが生まれたんですね。それをきっかけにまずは作品をリリースしてみようと、CIRRRCLEとしての活動がスタートしました。

 - CIRRRCLEは日本とLAという二つの場所を拠点に活動されていて、JyodanさんがLA、AmiideさんとA.G.Oさんが東京に住んでいるそうですね。普段の楽曲制作はどのようなプロセスで行われているのでしょうか?

A.G.O - もともとは全員東京に住んでいたのですが、JyodanがLAに移ってからは各々自宅で制作・レコーディングしてオンライン上のやり取りだけで仕上げることが増えました。具体的には僕が出したビートのアイデアにJyodanがメインテーマやフックを乗せて、Amiがリリックを膨らませていくというパターンと、逆に2人が簡単なビートを作ってリリックを先に送ってもらって、そこから僕がサウンドのアイデアを広げていくパターンの2つがあります。これまでリリースした楽曲はちょうどこの2つが半々くらいですね。それぞれ違う視点からいいと思うアイデアを交換するので、毎回発見があります。

 - 例えばAmiideさんはレズビアンであることを公言されていて、またJyodanさんは日本にいる際に見た目だけで職質を受けると別のインタビューで話していらっしゃいましたが、多様なバックグラウンドを持っていることへの理解がここ日本に十分にあるとは言えないですよね。その中でご自身たちの多様性を「ハッピー・ヒップホップ」としてポジティブな形で発信しようと思ったのはどうしてなのでしょうか?

Amiide - 自分たちがマイノリティな故に、自分たちのことを怒りで直接的に表現しても多くの人に共感を持ってもらえないと思ったんです。「レズビアンでカミングアウトできない苦しさ」はレズビアンの人たちにしかわからない。「日本で15年以上過ごしたのに、見た目が黒人でドレッドをしているというだけで職質を受ける」っていうことも、その境遇にいる人にしかわからない。自分とJyodanでさえ、お互いの苦悩は想像するしかできないし、同じ歌詞を書くことはできない。でも、この二人にも恋愛の話だったり、メンタルヘルスの話だったり、共通点はあって、その共通点は二人だけじゃなくて全世界の人が共感できるものだったりする。だから、自分たちはそれを歌う。で、A.G.OがFeel Goodなビートでみんなにお届けする。

 - 今回収録されている楽曲のトラックはGoldlinkやAmineやtobi louといったラッパーたちのトラックと共通するものも感じる、キュートでポップでありながらハードに踊れるようなものですよね。具体的にビートの面で影響を受けたアーティストやレファレンスなどがあれば教えてください。

A.G.O - もともとはSoulectionなどのLAビートシーンやシカゴのヒップホップシーンの影響でビートを作り始めたので、自然とハードに踊れるビートになりがちです。その根っこの部分と自分たちのキャラクターや伝えたいテーマを考えたときに、より素直でキャッチーな内容に落とし込んで、今のサウンドが出来上がっています。挙げていただいている3人のアーティストからも間違いなく影響を受けていますね。

Amiide - “Dance Wit U”は、Party Pupilsみたいにクラブで盛り上がる感じ作りたいよねって感じだったよね。

A.G.O - そうそう。ビートの初期の名前も“Club Anthem”だったくらい(笑)彼らのDJセットを見る機会があったんだけど、お客さんそうだけど本人たちがめちゃくちゃ楽しそうで。

Amiide - あと、Second Loveに関しては、Jyodanが三拍子の曲をやりたいって言ってて、A.G.O君が普段作らないようなエモいビートを作ってくれたんだよね。そこから自分はいろんな三拍子の曲を探して歌い方とか考えました。

A.G.O - そう。ジョーダンは結構ロック方面とかヒップホップ以外のジャンルからレファレンスを持ってくるから慣れていなくて苦労することもあるけど、その分毎回新鮮なサウンドが生まれてますね。

 - 2曲目の“Too Late”はポップなトラップチューンですが、同時にJyodanさんのバックグラウンドであるパンクのエッセンスを取り入れたそうですね。ギターのサウンドやJyodanさんの歌い方はパンクのテイストも感じるものですが、Jyodanさんとパンクとの間にはこれまでどのような繋がりがあったのでしょうか?

Jyodan - 自分とパンクの繋がりは、高校時代にドラムをやっていて、その時Fall Out BoyとかBlink182、Paramoreとかを演奏していた。これらのバンドが頂点にいた2006年を思い起こさせるような音楽を作りたいと思っている。

 - 3曲目に収録された“Under Pressure”ではAmiideさんとJyodanさんのそれぞれの視点から一種「高嶺の花」的な女性への片思いのような感情が歌われています。6曲目の“Second Love”でも「バレンタインにFaceTime越しにパートナーに別れを告げられる」といったエピソードが歌われていますが、このようなリリックのインスピレーションは実際の体験から得られるものが多いのでしょうか?

Jyodan - ほとんどの曲が実体験を歌っている。身の回りで起こっていることを書くほうが自分にとって簡単だから。でも女の子の名前は、歌詞に入れないようにしている。

Amiide - 自分も一人の女の子から10曲くらい書いちゃうくらい、リアルを書いてるかな。もちろん誇張したり、Jyodanの体験から自分の過去の体験を結び付けて書いたりもするけど。バレンタインの時にFaceTimeでフラれたのは、実際の出来事。Skypeだったかもしれない…(笑)。ちょっと覚えてないけど。

- CIRRRCLEの楽曲はどれもポップでキャッチーでありながら、同時に3人が感じるフレストレーションや身近な悩みのようなトピックも歌われています。例えば4曲目の“TYO”のリリックは東京という街の良い面と悪い面がユーモラスに歌われていますが、この曲のアイデアはどういった体験から生まれたものなのでしょうか?

Amiide - あんまり自分の中で悪い面を書いた覚えはないのだけど、3ヶ月に一度くらい日本が耐えられなくて出たくなる時があって、その時期に書いたからバレてるのかも(笑)。ちなみに一度書いたリリックを完全に書き直したんですよね。彼女に渋谷を歩いてきなさいって言われたりしながら。でも色んな国を旅すると、やっぱり東京って最高だなってなる。その最高だなって思うところを歌詞にしていった。息が苦しくなっても、「OK OK OKです」って思える東京。東京がHOMEなんです。

 - 現在は新型コロナウイルスの影響でライブや移動などが困難な状況ですが、生活や三人での制作にはどのような変化がありましたか?また自宅ではどのように過ごされているのでしょうか?

Jyodan - Call of Dutyを友だちとオンラインでプレイすることが多い。あとは、ドイツにいる両親と話したり。もちろん新曲も書いてるよ。

Amiide - 家では、健康に気を使った料理をしたり、なんだかんだポジティブに過ごしてます。でもゲームもそろそろ飽きてきたかなって感じ。しばらく、制作意欲が下がっていたのですが、最近また書きたい欲が出てきたと思う。コラボしたいっていう海外のアーティストとビデオコールして、お互いのこと知り合って、曲作りの方法を共有したり、今後も楽しみって感じ。

A.G.O - 意外と家から出ないでいると曲のアイデアが煮詰まってくるので精神的に気負いすぎないように、『どうぶつの森』とか、アニメ、映画とか音楽以外のことにも結構意識的に時間を使ってますね。

 - CIRRRCLEのYouTubeチャンネルで今月アップされた『Tiny APT Concert』(注:CIRRRCLEが楽曲制作をしているスタジオ(家)からお届けするライブ映像。
米NPRの人気企画『Tiny Desk Concert』から着想を得て、かつ結成当時のA.G.Oのアパートがあまりにも狭かったことからこれをもじって命名された。)
もリモートでのライブとなっていますね。リモートでのライブを行った際のエピソードや、大変だったことなどはありましたか?

Amiide - Jyodanも自分も動画撮影には慣れてるし、レコーディングも編集も自分たちで出来ちゃうから、特に難しいって思ったことはないかな。彼女にロゴを作ってもらったり、iPadを借りてサムネイルにイラストっぽいのを足して可愛いくしたり、地味だけど新しいことを学べたから面白かった。

A.G.O - ライブの代わりにはならないけど、アーティストの自然体の姿が見れるおもしろいコンテンツだってことがわかったので、今後ライブが普通にできるようになってからも続けて行きたいと思いました。

 - 最後に、日本だけでなく世界規模で活動されていく中でCIRRRCLEとして今後はどんな存在になっていきたいですか?また、次の作品に向けての動きや構想などがあればそちらも教えてください。

Amiide - 日本とか世界とか関係なくボーダーレスに、自分たちの曲を聞いてくれる人が増えたらいいなって思う。今はとにかくライブが恋しい。

A.G.O - ここまで人種もバックグラウンドも異なるメンバーで一つの音楽をやれているチームって世界を見渡しても少ないと思う。特に国内においてはマイノリティのことも含めて特定の価値観に縛られがちだけど、全く背景が違う人が一緒に活動することは全然普通のことだし、むしろおもしろいってことを活動を通して伝えられたらいいですね。またメンバーが多彩な分、国も文化も言語も関係なくアーティスト同士でつながっていくきっかけの存在になりたいと思っています。

Info

CIRRRCLE「TYO」[DIGITAL]
DIGITAL | 2020.03.18 Release | DDCB-12365_SG1 | Released by Suppage Records | SPACE SHOWER MUSIC
https://ssm.lnk.to/CIRRRCLE_TYO

||| CIRRRCLE「BESTY」|||

CIRRRCLE「BESTY」
CD / DIGITAL | 2020.04.22 Release | DDCB-12365 | 2,000Yen+Tax | Released by Suppage Records | SPACE SHOWER MUSIC
1. BESTY 2. Too Late 3. Under Pressure 4. TYO 5. Dance Wit U 6. Second Love
https://ssm.lnk.to/cirrrcle_besty

RELATED

【インタビュー】maya ongaku 『Electronic Phantoms』| 亡霊 / AI / シンクロニシティ

GURUGURU BRAIN/BAYON PRODUCTIONから共同リリースされたデビュー・アルバム『Approach to Anima』が幅広いリスナーの評価を受け、ヨーロッパ・ツアーを含む積極的なライブ活動で数多くの観客を魅了してきたバンド、maya ongaku

【インタビュー】Minchanbaby | 活動終了について

Minchanbabyがラッパー活動を終了した。突如SNSで発表されたその情報は驚きをもって迎えられたが、それもそのはず、近年も彼は精力的にリリースを続けていたからだ。詳細も分からないまま活動終了となってから数か月が経ったある日、突然「誰か最後に活動を振り返ってインタビューしてくれるライターさんや...

【インタビュー】Tete 『茈』| 紫の道の上で

長崎出身で現在は家族と共に沖縄で生活するTeteは、今年3枚の作品を連続でリリースした。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。