【インタビュー】Aru-2 & 日本横丁 『Little Heaven』|能動的・開放的

6/10(水)にビートメイカーとしての活動を中心に、近年はシンガーとしての才能も発揮しているAru-2がフルアルバム『Little Heaven』をリリースした。これまでに自身名義やコラボレーション作品を数多くリリースしてきたAru-2。本作には親交の深いKID FRESINO、Campanella、JJJ、ISSUGIという強力な客演陣が鋭いラップを放ちつつも、Aru-2による開放感のあるビートそして暖かいボーカルが外の陽気に誘ってくるような作品になっている。

2017年頃からのライブパフォーマンスに対する能動的な気持ちの変化から、ボーカルを自身の作品に組み込んでいったAru-2の1つの到達点といえる作品について、『Little Heaven』のクリエイティブディレクターを務めたKazuhiko Fujitaこと日本横丁も参加してインタビューを行った。

取材・構成 : 和田哲郎

撮影 : Cho Ongo

 - アルバム『Little Heaven』、まずはリリースおめでとうございます。

Aru-2 - ありがとうございます。

 - 今の状況だからかもしれないですけど、聴いていると外に行きたくなるような開放感があって、そういうムードがすごく気持ち良いなと思いました。アルバムをリリースしようと決めたのはいつ頃からなんですか?

Aru-2 - 制作自体は2018年から2019年にかけて作ったアルバムで。その前に自分のソロで『A H O』を出して、それは物凄く自分の内側に向けた作品で。それを作り終えたので、次はもっと外側に向けた作品を作りたいなと思って。そうなると自分一人で作るよりも自分と関わりのあるラッパーの人たちに客演してもらいたいなと思って作り始めました。

 - クリエイティブディレクターとして横丁くんに入って貰うのも最初から決まってたんですか?

Aru-2 - 途中からレーベルのスタッフに相談して横丁さんと一緒に制作するのはどうですかって言ってもらって。それで一緒にやることになりました。

 - 横丁くんとしてはその話が来た時はどうでしたか?

日本横丁 - いやもう、「すぐやろう」みたいな(笑)JJJのバックDJをやってもらってるんで、Aru-2にはよく会ってたんですよ。「横丁さんにジャケとか諸々のアートの方のディレクションをお願いしたい」みたいなことを言われて、それで正式に決まったって感じでしたね。

 - 二人の関係はいつから?

Aru-2 - 3年ぐらいだと思います。それこそJさんのバックDJの現場で横丁さんと知り合って、って感じです。

日本横丁 - アメリカにいた頃から名前は知ってました。佐々木(KID FRESINO)とAru-2がアルバムを出したときに「誰なの?」みたいな話をして、「同い年でビートメイカーのやついるんですよ」って訊いてて。でも普通にちゃんと会って一緒にいるようになったのは3年前くらいですね。

Aru-2 - 2017年ぐらいかな。

- さっき『A H O』の話が出ましたが、歌というか声が楽器として使ってましたよね。今回も声が楽器の一つとして使われている曲もあれば、もう少し歌詞のラインがちゃんと出来てて歌っぽくなってきてるのが変わってきているところだと思うんですけど。歌に対する気持ちの変化もありましたか?

Aru-2 - そうですね。『A H O』をリリースする前ぐらいから、ライブでただビートを流すことに満足がいかなくなって。もっと別の表現をライブでしたいなと思って、それでマイクで歌うようなライブパフォーマンスをするようになって。それで制作もどんどん歌ものの曲が多くなって、っていう感じですね。今回の『Little Heaven』は『A H O』と比べてもっと分かりやすい歌の作品を作りたいなと思って、意識的に作りました。

 - NF Zesshoさんとの『AKIRA』をリリースしたときのインタビューで、「歌詞は2行くらいだからすぐ書ける」と言っていましたよね。今回もそれは変わらない?

Aru-2 - 変わらずですね。歌詞を書くことに悩むことは無くて。作ったビートをずっと聴きながら、その時思ってることだったり自然と言葉が出てくる感じですね。

 - 曲作りのプロセスとしては、まずビートを作って、そこに歌詞をはめていくって感じなんですね。

Aru-2 - そうです。詞が先の曲は一切無くて、全部普段から曲を作っていく中で「この曲はアルバムに使いたいな」っていうのを決めて、それに歌詞を書いて歌を乗せていくって作業ですね。

- なるほど。今回のアルバムを作るにあたって、どういう曲を入れたいと思っていたんですか?

Aru-2 - 今までの自分の音楽の延長線上の作風はもちろんあるんですけど、プラスアルファで乗りやすいというか、踊りやすい曲も入れたと思うし。後はラップが入るような曲も入れたいなと思って作りました。

 - 個人的には“Hentai Nipponjin”から“Sex High”ぐらいの流れが気持ち良くて。

日本横丁 - めっちゃ分かるっす。

 - 結構パートごとに流れがあるじゃないですか。それは並べてみて決めた?

Aru-2 - そうです。出来上がった曲を並べて、自然とそういう流れになっていったっていう感じなんですけど。“Hentai Nipponjin”から“Sex High”まではライブでみんな乗ってくれたり、ちょっと踊ってくれたり、動き回る曲になったら良いなと思って並べました。

 - 『AKIRA』のインタビューの時に「ライブをもっとやっていきたい」って言ってて。ライブに対する意識はいつ頃から変わっていったんですか?

Aru-2 - ビートライブに飽きてマイクで歌のパフォーマンスをするようになってから変わっていって。ビートライブだけだと機材の中と音の中だけでしかなかったんですよ。お客さんのことも気にしてないし、ずっと機材で音流しながらいじってノッてるっていう、ただそれだけだったんですよ。ライブに対して「楽しい」って気持ちはありましたけど、それよりも家で音楽を作る方が最優先だった。でもマイクパフォーマンスをするようになって、マイクを持つとお客さんの顔が見えるようになるんですね。「こういう表情で聴いてくれてるんだ」っていうのも分かるようになったし、それからお客さんやライブに対する意識も変わったというか。パーティ自体も、ライブをさせてもらってること自体も大切に思えるようになったんですよね。

 - そういう意識になったきっかけのパーティとかはあるんですか?

Aru-2 - 2017年からそういう意識に変わっていったんですけど、2016年の12月に沖縄に呼んでもらったことがあって。その時に初めて沖縄でライブさせてもらうから、ライブするだけじゃなくて少し長めに滞在したいって思って。ラッパーの切刃がパーティを主催してくれたんですけど、一週間ホテルとってくれて。ライブして、一週間もホテルとってもらったことも今まで無かったんで、ちょっとでも恩返ししたいって気持ちで沖縄に滞在してる間に『nangok ep』って作品を作って。それは自分でMacBookのマイクで声を録音して歌も混ぜた作品なんですけど、そこから徐々に開放的になっていった感じがします。それまでは人に対してもあまり積極的に関わっていきたいって気持ちは無かったんですけど、そこから人と出会うことが楽しくなっていったというか。そういう変化がありました。

 - 横丁くんと会ったときはどちらかと言うと開放的なムードになっていた?

Aru-2 - だと思います。

日本横丁 - よく喋りましたよ(笑)変なことばっかり言ってるけど。

Aru-2 - 最近変なことは減ったっしょ?(笑)

日本横丁 - 最近は減ったかも。ちょっと落ち着いてきたかもしれない(笑)

 - 出会った時の印象はどんな感じでしたか?

日本横丁 - 「めちゃめちゃ変なやつだな」って。いちいち、一個ずつ正していきたいなって感じでしたけど(笑)「自由だな」と思いましたね。メンタル的には近くて、「いつでも何か作っていたい」って感じのメンタルだから、制作のことについて話してる時はめちゃめちゃ話合うんですよ。スムーズに、いつ会って何をやってこうしよう、みたいな。でもめちゃめちゃ変なことばかり言ってますね。特に自然のことに関しては。

Aru-2

Aru-2 - 動物の話?

日本横丁 - ずっと動物の話されてるんですよ。「いや、動物は別に好きじゃないから」みたいな(笑)

Aru-2 - 動物は良いと思うけどな。動物っていうか、生き物は好きですね。

日本横丁 - 全般的に強いよね。

Aru-2 - 一個覚えてるのは、Jさんと横丁さんと電車乗ってるときに、「電車に乗ってるとジンベエザメに寄り添ってるコバンザメの気持ちになりませんか?」って問いかけたら、「何言ってんの?」って。

日本横丁 - 急に言い出すんですよ。Jも僕も「え?」みたいな(笑)

Aru-2 - 電車がジンベエザメなんですよ。

日本横丁 - それに乗ってる僕らがコバンザメって言いたかったんだと思うんですけど、「何言ってるの?」っていう(笑)

Aru-2 - 大きな揺れに対して、自分も寄り添って動いてて。

 - 感覚的には理解できる感じはありますね。

Aru-2 - よかった(笑)

日本横丁 - でもそんなこと考えないじゃないですか。みんなで普通に楽しく会話してたのに、急に「あの~、ちょっと...電車に乗ってる僕らって、なんかジンベエザメについてるコバンザメみたいじゃないですか?」って急に言い出すんですよ。

Aru-2 - 脈絡が無いのか...

日本横丁 - 「...え?どうした?」みたいな(笑)

Aru-2 - 自分で独特だとは思ってないし、自分の中では普通なんですけど...

日本横丁 - 感受性はめちゃくちゃ豊かだと思いますよ。小さいことに気がつくから。

Aru-2 - 自分の内側のことばかり考えてるとすごく窮屈なので、他の動物とかの気持ちに寄り添ってみたり、それについて考えてみたりするのが好きなのかもしれないですね。

 - 「自分のことばかり考えてると窮屈」というのは面白いですね。でも、前は結構自分のことだけを考えてたんですよね?

Aru-2 - それしか考えられない時期が凄く長かったですね。

 - それはなんでだと思いますか?

Aru-2 - なんでなんだろう... 今でも自分にそういうところはあると思うんですけど、

日本横丁 - 家にずっといたからじゃない?

Aru-2 - うーん、でも今でも家にはいるけど。

日本横丁 - 趣味が制作じゃん。僕もそうだけど、ずっと作ってると人と会わない時期みたいなのがめちゃくちゃ長くなっちゃうから。

Aru-2 - そうかも。

 - 横丁くんもそうなってた時期はありましたか?

日本横丁 - 今は使い分けられてて、外に仕事に行くときはちゃんと出来るけど、家にいるときは他のこと考えられないというか。ずっと集中してやっちゃうから、やっぱり内に篭ってるなとは思いますけどね。

日本横丁

 - それこそ“Hentai Nipponjin”で言ってるように、「自分も変態だけどあなたも変態だよね」みたいな。

Aru-2 - みんな変態だと思います、基本的に。みんなどこかしら変だよね、っていうのは絶対に思いますね。

 - それがやっぱり、感受性が強いところでもあるのかなと。

Aru-2 - そうなんだろう...普通なんですけどね(笑)

 - 2018年から19年にかけて作ったということですけど、ゲストを入れる曲についてはどういう風に進めていったんですか?

Aru-2 - まず一心不乱に曲を作ることに集中して、出来上がった曲を聴いて、ずっと聴き続けていった先に思い浮かべたラッパーが身の回りにいたんで、その人たちに「お願いできますか」って曲を聴いてもらって、制作を進めていった感じですね。

 - 楽曲のイメージだったり、「こういうリリックを書いて欲しい」っていうことを言ったりはしたんですか?

Aru-2 - いや、全然無かったです。曲をデータで書き出すときに仮タイトルを付けちゃうんで、その名前から連想してみんなやってくれたのか定かでは無いんですけど、そこは自由にやってもらいました。自分から「こうしてください」っていう要求は一切無く。

 - じゃあラップが乗って返ってきたものに対してもディレクションみたいなことはせず?

Aru-2 - 特に。自分から言うほど「ここがちょっと違うんで」とかいうのは一切無かったんで。バッチリなものを返してくれました。

 - 良いラッパーの条件はどういうものだと思いますか?

Aru-2 - ビートのグルーヴをちゃんと乗りこなせるっていうのは基本だと思うんですけど、プラスアルファで、言葉に刺があるかどうか、というか。ラッパーの言葉って、突き刺して欲しいんですよね。だから刺々しい言葉というか、言い切ってくれるというか。「こうなんじゃないかな」っていうボンヤリしたものじゃなくて、自分の歌の場合はそういう言い回しが多いんですけど、ラッパーは言い切ってくれるというか。そういうラッパーが好きですね。

 - 確かにAru-2さんの歌は包容力があるというか、表現的に丸い物が多いなと思って。でもラップに対してはそれと真逆だと。

Aru-2 - 姿勢が違うと思うんですよね。歌はこうかもしれないけど、ラッパーは訴えかけにいって欲しいというか。

 - なるほど。その流れで訊くと、良いシンガーはどういう物だと思いますか?

Aru-2 - 好き好きだと思うんで「こうあるべき」っていうのは無いんですけど、自分が好きな歌い手っていうのは...なんだろう、疲れた時でも聴ける歌でありたいというか。「この歌は今聴けねえよ」みたいな歌い手の人とかもいっぱいいるんで、そうじゃなくて、どんな状況でもどんなシチュエーションでも聴ける歌を歌える人。すっげえボンヤリしてるけど。でも、歌に関してはあまり無いのかもしれないですね。

 - なるほど。例えばビートメイカーで自分が歌ったりラップする人もいると思うんですけど、リファレンスしてるアーティストとかも特にいない感じですか?

Aru-2 - この人、っていうのはいないですね。それよりも、自分の中で湧き上がってきた物を形にしてるって感じなんで。聴いてきた人はもちろん沢山いるし、D'Angeloを一番聴いたと思うので、ボーカルのハーモニーとかは凄く影響を受けてますね。日本のシンガーは割とリリックに添った歌い方が基本だと思うんですよ。型が決まっちゃってるというか。でもD'Angeloとかは型にはまってないというか、「何その発声の仕方」みたいに自由に歌を形にしてるんで、自分もそういうのが好きでやってます。

 - さっきから話を聞いてたり、あとはリリックを読んでも「前に進みたい」というか、「体をより自由に使いたい」みたいな欲求があるのかなって思ったんですけど。

Aru-2 - そうですね。そういう気持ちしかないかもしれないですね。

日本横丁 - そういう気持ちしかないんだ(笑)

Aru-2 - そうなれてない生活を送ってるというか、「前に進めてないな」って思うことの方が多いし、体を全然使わずに作業しちゃったりとか、作業してなくても一人で部屋で考え事したり。そういう時間から抜け出して、前に進んで行動していきたいという気持ちは強いですね。

 - 普段運動とかってやったりするんですか?

Aru-2 - 全然しないんですけど、ライブやパーティを出来なくなっちゃって、ちょっと公園を走りに行ったりとかはしてました。3周ぐらいして(笑)

 - もっとフィジカルを使うのが好きな人なのかと思ってました。

Aru-2 - 全然そうじゃないんですよね。運動音痴だし、運動は全然習慣になってないんですけど。普段パーティで遊んでるときはノリノリで過ごしてますね。

 - 横丁くんはアルバムの中でどの曲が好きですか?

日本横丁 - ビデオ切った“Sen”は思い入れがあって。撮影の時のことをめちゃめちゃ思い出します。だから 凄く好きなんですけど。後、“Hentai Nipponjin”は一番良いなと思って、DJでもかけたいなと思うし。後はJが入った”Little Heaven”なんですけど、イントロでAru-2のことを「アキラ」って言ってるんですよ。Jと二人でいるときに「俺、Aru-2のことアキラって呼びたいんだよね」とか言ってて、めちゃめちゃいいなと思って。「アキラ、Aru-2」って入るんですけど、めちゃめちゃいいなって。

Aru-2 - 何の話し合いをしてるんだ...(笑)

日本横丁 - 凄い気に入ってる。聴くたびに笑うじゃないけど、ちょっと微笑む(笑)

 - 実際に「アキラ」と呼ばれたことはあるんですか?

Aru-2 - いや、全然...音楽関係者の人から言われたことはないんですけど、Jさんは初めてかも。その後ヒデオ(仙人掌)さんとかもメールで「アキラ~」って書いてきたり(笑)俺も嬉しかったっすね。曲もめちゃくちゃお気に入りで。

 - “Sen”が思い入れあるというのはビデオ撮ったから?

日本横丁 - っていうのもありますね。アルバムを聴くときって、僕一番最初の曲と最後の曲って通して聞いてる中でちょっと違う感じがするんですけど、そういうのもあったりとか。“Sen”はシングルのジャケやったり、Aru-2の次に一番聴いてると思うんで、思い入れはありますね。

 - ビジュアルの話になったので、今回はアルバムのジャケットとシングルのジャケットでデザインにも2つの方向性がありますよね。

アルバムのジャケット

日本横丁 - デザインをやってほしいって頼まれた時に、方向性としてAru-2が作ったコラージュの作品と、Aru-2の近辺で撮られた写真をベースにデザインしていこうって話になって。それから選んでいったんですよ。写真はポラロイドで手で撮られたフィルムの感じだったり、コラージュも写真を手作業でハサミで切って貼って作るやり方をAru-2はしてたんですよ。

シングル"Go Away"のジャケットはAru-2によるコラージュに日本横丁がデザインを加えた

Aru-2 - 写真を切って貼って、出来上がったやつをiPhoneで写真撮ってデータ化する。

日本横丁 - そういうのがあったから、それで僕が手作業で絵を描いたりしたらバランスが取れすぎるというか、カッチリしすぎるから。Aru-2のビートってそういう感じでもなくて、Aru-2が持ってるリズム感があるから、もう一つ違う要素を入れたいなと思って、今回は完全にパソコン上でのデザインをしようと思ってこういう形になったんですよね。いわゆるスクエアだったり長い棒だったり決まった形を使いながら、そこにAru-2が持ってる自然の部分を入れるみたいな感じで作りました。

シングル"Sen"のジャケット。ポラロイド写真に日本横丁がパソコンでデザインを加えた

 - このポラロイドの写真も横丁くんが撮った?

Aru-2 - いや、これは僕の彼女が静岡にいて、静岡で撮影してた写真ですね。お家と外と。

 - これもプライベート感があって。シングルの"Little Heaven"の右側はAru-2さんによるコラージュですが、左側は?

日本横丁 - 僕の手描きです。それはマウスで描きました。敢えてペンタブとかじゃなくてマウスで描いたんです。今回シングルのために20枚ぐらい作ってるよね?

Aru-2 - うん、10枚は超えてる。

日本横丁 - 凄い枚数の中からAru-2に選んでもらって。黄色と黒が気に入ってたよね。

Aru-2 - そうそう。

日本横丁 - 基本ラインと、Aru-2が作ったものの組み合わせだったり。このジャケはGoogleとかで画像検索した時に、どっかが権利を持ってて薄く文字が出て使用出来ないやつがあるじゃないですか。あれを意識してるんですよ。そこから着想を得て、前に出てくるように薄い色じゃなくて赤にしてやりました。黄色はAru-2が気に入ってて。写真にも入ってたりしてたので「そうしよう」って。ちなみに背景のコンクリートは家の壁です。

Aru-2 - 先にこのアルバムのジャケットと後のデザインを作ったんですけど、その後シングル用のジャケットを一緒に作って。最初に出来上がった写真のデザインは黄色と黒のイメージが強かったんで、その方向性で行きたいなって思ったんですよね。コラージュ自体は4、5年前ぐらいに作った作品で、今出してもらったやつは僕がバンコクで2ヶ月暮らしてたときに路上で雑誌を見つけて、おっちゃんに「How much?」って聞いたら「お前ジャパニーズか?」って言われて「Yes」って言ったらタダでくれたもので作っていて。中ジャケのコラージュもバンコクで作った物と日本で作った物があるんですけど、それも全部フリーペーパーだったり、お金がかかってないというか、ゴミになるような素材で価値のある物を作りたいと思って作ってましたね。

 - コラージュっぽい感覚ってビートメイクとも近いですよね。

Aru-2 - 共通すると思います。

 - 素材を使うサンプリング的な面もあるし、それを自由に新しい図に当てはめるみたいな。ビートを作ってるときと描いてるときは同じ感覚を感じたりしますか?

Aru-2 - 作業的には凄く共通する部分が沢山あるんですよ。例えばサンプリングでゴミみたいな100円のレコードを使って新しい価値のある物を作るっていうのと、そういうフリーの素材でコラージュを切って作って作品にするっていうのも凄く共通すると思うんですけど、作ってる最中の意識としては全く別物で。音楽を作ってるときはその世界に没頭してる感じなんですけど、コラージュを作ってるときはもっと俯瞰した視点で作業しているというか。コラージュを作ってるときは人と会話してても作業できるんですけど、音楽作ってるときは会話なんて出来ないから作ることに集中しようって感じなんで、意識は別々なんですけど。でも共通する部分はもちろんありますね。

 - 今って同棲してるんですよね?じゃあ音楽作ってるときは話しかけられても...

Aru-2 - 話しかけないようにしてもらってる感じですね。気を遣わせちゃってる感じだと思うんですけど。僕が作業してるときは向こうも好きなことしてるんで。

 - じゃあ作ってるときは今の感じと全然違う?

Aru-2 - 違うと思います。

- 彼女のことを歌ったような、女性のことを歌った曲もありますよね。

Aru-2 - 個人に向けて歌ったわけじゃないですね。もっと人の普遍性というか、多くの人が共有出来るトピックを歌ってる感じだと思うんですけど、もちろん彼女を含めたっていうのもありますし、彼女から影響を受けて言葉に出来た曲も沢山あると思いますね。

 - さっき軽くミュージックビデオの話になりましたけど、今回のディレクターのJun Ohinataさんはどうやって?

日本横丁 - Ohinataさんは普段映画とかドラマの方をやってる方で、株式会社分福っていう、是枝裕和さんや『永い言い訳』の西川美和さんとか優秀な人が多い会社でプロデューサーや脚本をやってる方なんですけど。前にSTUTSの“Changes”のミュージックビデオ撮影のときに初めて会ったんです。その時はBanri Kobayashiくんにディレクションをやってもらったんですけど、その時にアシスタントディレクターみたいな感じで入ってもらってて、凄く良かったのでずっと仕事一緒にしたいなと思ってて、今回お願いしました。アシスタントディレクターで山本さんって方と、Banriくんに入ってもらってます。

 - “Sen”のビデオの場所はどこなんですか?

日本横丁 - 三浦海岸。

Aru-2 - 良いとこだったな。撮影してるときにOhinataさんが画を考えてるときカッコよかった。

日本横丁 - ...変なことを急に(笑)

Aru-2 - カッコいいんですよ。めちゃくちゃ男前で優しくて。

日本横丁 - 貸スタジオなんですけど、あんなのスタジオじゃないよね。大きい家(笑)個人的に貸してるのかも分からないですけど。

Aru-2 - 浜辺とかも私有地だったし。良いロケーションで撮影してもらって。

 - 画面の分割のアイデアも面白いなと思って。

日本横丁 - アシスタントで入ってもらった山本さんが綺麗な画をめちゃめちゃ撮ってきてくれて。泣く泣く使ってないですけど、それだけで何か作りたいぐらい綺麗な画ばっかり。

 - それは別で素材を撮ってもらってた?

日本横丁 - そうですね。撮ってきてもらいました。

Aru-2 - コロナの影響もあって撮影する時間をあまり取れなかったんですよね。

日本横丁 - 大変だったもんね。アイディアはOhinataさんが考えてくれました。

Aru-2 - 今までこういうビデオって観たことなかったんで、凄く気に入ってますね。嬉しいです。ヒップホップのビデオって型が決まってるじゃないですか。

日本横丁 - そういうのじゃない方がいいなと思ったんですよ。車の前で、とか。そういう曲でもないし(笑)リップシンクが自然な画を撮れる人を探してて、それでOhinataさんに頼んだって感じですね。いかに自然に見せるかっていう。

 - 派手に見せるとかってことじゃなくて、日常の中に溶け込んでる感じですよね。Aru-2さんの音楽とも紐づく物なのかなっていう。曲自体は毎日のように作ってる感じですよね?

Aru-2 - そうですね。昨日の夜も作ってたし、毎日作ってますね。

 - 今回のアルバムを作ってから、意識の変化とか、実際に作る物も変わったりしましたか?

Aru-2 - うーん、そうですね。変化はもちろんあるんだけど、言葉にするとなんだろう...能動的な楽曲が増えたかもしれないですね。部屋で座って聴くっていう音楽じゃなくて、移動してる時に聴きたくなったり、運転してる時に聴きたくなったり。外で聴きたくなるような音楽性に変わっていってる感じはしますね。

 - DJでも結構ハウスっぽい曲をかけてた印象があリますね。今回も“Sex High”で四つ打ちっぽい曲があって。前のインタビューを読むと「自分のビートはあまりダンスミュージックとして意識してない」って言ってましたよね。

Aru-2 - 言ってたんですか?じゃあ変わったんですね(笑)

 - 元々ビートミュージックを作ってた人が作るハウスって独特の癖というか、タイム感があって面白いんですよね。

Aru-2 - カッチリしてないというか、独自のグルーヴ感がありますね。

 - 四つ打ちの曲とかも増えていったりしていますか?

Aru-2 - 四つ打ちとして作ってる訳じゃないですけど、そういうダンサブルな曲は増えてますね。

 - そこで自分が聴いてる音楽に変化があったりはしますか?

Aru-2 - それはあまり無いかもしれないですね。好きな物はあまり変わらないんで。自分が作ってる物と聴いてる物の関係性というか、「今聴いてる物に影響されて作ってる」って感じではないので。あまり聴いてる音楽は変わらないかもしれないですね。

 - 二人は音楽の話はするんですか?

Aru-2 - 聴いてる物は違うと思う。

日本横丁 - 制作の時に「Aru-2はDrake聴くの?」って聞いたら、「ほぼ聴かないけど好きな曲はあるよ」って言ってた(笑)

 - やっぱりラップは普段から聴いてる感じしないですよね。

Aru-2 - そうですね。ラップはあまり...聴かないことはないですけど、圧倒的に歌物やインストを聴いてることが多いですね。

日本横丁 - そういう印象だな。

 -  二人は何について話したりしてるんですか?

日本横丁 - なんだろう...

Aru-2 - 改めて問いかけられると何だろう...

日本横丁 - 真面目だからずっとデザインの話とかしてない?後、Aru-2が知らない「こういうやり方あるよ」っていうのを永遠に喋ってない?「こういう風に切り貼りするんだよ」とか。

Aru-2 - 横丁さんが教えてくれてる。技法とか。『TERRACE HOUSE』の話もするけど。

日本横丁 - その話もしますね(笑)ただ、Aru-2が観てるシーズンと僕が観てきたシーズンは全く違うんですよ。ギリ被ってない(笑)

 - 共有してる訳じゃないんですね(笑)

日本横丁 - ただ、どういうことかはお互い知ってるから。でも、変なこと言うから注意してるみたいな。「何言ってんの?」か、「それダメだよ」って感じな気がします。

Aru-2 - 最近のアーティストに対する苦言みたいなのを横丁さんに聴いてもらってて、「そういう話仕事帰りの彼女に話しちゃダメだよ」って。

日本横丁 - 疲れて帰ってきてるのに帰ってきたら愚痴言われて、最悪だなって(笑)「なんて同棲だ!」って。

Aru-2 - 「たしかに考えられてないな」って。色々教わってますね。

日本横丁 - 印象に残ってるのそれか...

Aru-2 - 「それは違うよ」っていうのをすっぱり言ってくれるんで。

 - ちょっとアルバムとは関係無い質問です。聴かれ方の問題だと思いますけど、今ビートミュージックって「ローファイヒップホップ 」みたいに言われるじゃないですか。作業してるときのための音楽としてのビート、みたいな。作ってる側の人にとってはローファイヒップホップだろうがビートミュージックとしての音楽だろうが意識の変化は無いと思うんですけど、ローファイヒップホップ について考えたことなどはありますか?

Aru-2 - あれは、作ってる側は最初そういう意識で作ってないと思うんですよ。そもそもは。それが「これってローファイヒップホップじゃん」って取り上げ方がネットのメディアやリスナーの中で作られていって、そういうジャンル分けをされていったと思うんですけど。今そういう括りの音楽を聴いてみると、そもそもローファイですらないというか。ただのありふれたインストのビートものっていうのが大概で、それはそういう風になったんだから特に思うことはないんですけど、流行ったことで「ローファイヒップホップ」っていうのを銘打って活動してるアーティストは感心しないですね。ヒップホップを信条として掲げるのは良いと思うんですけど、ただ流行っただけのジャンルに乗っかっていくアーティストっていうのは全く面白味を感じないですね。

 - アルバム以降に能動的な音楽を作ってるっていうのが、そういう状況と逆を行ってて面白いと思ったんですよね。

Aru-2 - そうですね。反発していきたいですね。

日本横丁 - そうなんだ。

Aru-2 - 抵抗していきたい。音楽で。

 - 6月にアルバムが出て、いつライブハウスやクラブがオープンするか分からない状況ですけど、今後の予定などはありますか?リリパなども決まってないですよね。

Aru-2 - この状況だと決められないですね。

 - でもクラブとかへの寄付のためのアルバムもリリースしていて。今のこの状況に対して思うことはありますか?

Aru-2 - アーティストは自分の力でどうにか生活出来るように動いていくしかないと思うんで、それは個人個人の問題だと思うので特に無いんですけど。でもパーティする場所が一回無くなっちゃったら取り戻せないと思うし、パーティに来てくれてた人も、場所が無くなっちゃったら戻ってこないと思うんですよ。変わりが効かないから、クラブに限らず個人の飲食店もそうだと思うんですけど、そういう掛け替えの無い場所を守っていきたいなと思いますね。

 - 横丁くんはどうですか?

日本横丁 - 個人的に困ることは無いですけど、僕は映画をよく観るんでミニシアターの基金には寄付しましたね。

 - クラブもそうだけど、ミニシアターも大変ですよね。

日本横丁 - 大変だと思いますね。自分がやれることはやって、さらに人のことも考えられたらやろっかな、みたいな感じですけど。

Aru-2 - 出来る限りでいいから動いていきたいですね。

 - ありがとうございました。

Info

■アーティスト:Aru-2
■アルバムタイトル:Little Heaven
■リリース日:2020年6月10日(水)
■品番:DDCB-12981
■販売価格:2,400円+税
■仕様:CD・紙ジャケットダブル / 配信
■レーベル:DOGEAR RECORDS / AWDR/LR2
https://ssm.lnk.to/littleheaven

■トラックリスト
1. Soundwave
2. Animal
3. Listen Up
4. Hentai Nipponjin
5. Get Funky
6. Sex High
7. Go Away ft. Kid Fresino & Campanella
8. Bye My Bad Mind ft. Issugi
9. Slowmotion
10. Little Heaven ft. JJJ
11. Swim
12. Sen

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