【特集】ラップとゲームを巡る14の出来事
人気ゲーム『フォートナイト』上で開催され、全世界から1000万人以上のアクセスを集めたTravis Scottによるライブイベント『Astronomical』。巨大なTravis Scottがゲームの中を暴れ回るなど、ビジュアルの世界観の完成度は音楽好きもゲーマーも興奮させたのは間違いない。ゲームとラップシーンにとって画期的な出来事だったのは間違いないが、しかしこれ以前にもラップとゲームを繋げる出来事は起こっており、長い間の蜜月関係が結晶化したのがTravis Scottの『Astronomical』だったのだ。
今回FNMNLではラップとゲームの両方に精通するzcay氏に、極私的なラップとゲームを巡る14の印象的な出来事をピックアップしてもらった。記載されているのは、あくまで一例だが、これを読めばラップとゲームを巡る関係性の一助にはなると言えるだろう。
1. DrakeとNinjaと『フォートナイト』
2018年3月、人気ストリーマーのNinjaがゲストにDrake、Travis Scottを迎えた『フォートナイト』配信は当時のTwitchの同時視聴者数の記録を大幅に更新したが、もう一つのエピックな出来事はドレイクの通話音質を気にしたNinjaが、ゲーマー向けコミュニケーションツール「Discord」をDrakeにインストールさせたこと。
2. 03 Greedoによる早すぎたビクトリーロワイヤル
DrakeやTravis Scottに先んじて、音楽で『フォートナイト』を表現したのが、03 Greedo。彼は2018年7月に"Fortnite"という楽曲のビデオを発表し、茂みに隠れて何者かを狙い、満面の笑みでビクトリーロワイヤルを獲得する。
3. ダンスムーブと『フォートナイト』
仲間とダンスをしたり、敵を煽るために使う『フォートナイト』の「エモート」はさまざまなミームをモチーフにして有料販売されている。人気のエモート「HYPE」は、Blocboy JBのシュートダンスを、「Swipe It」は、2 Millyのミリーロックを無断で参照して訴訟となったが、短いムーヴそのものに著作権は認められないとして『フォートナイト』を運営するEpicGamesは支払いに応じなかった。この出来事について、ダンスをマネタイズしなかった黒人クリエイターを搾取しているとTwitterで批判したChance The Rapperは、その後に自身がホストを務めるどっきり番組で公式にフォートナイトとコラボし、マネタイズに成功した。
4. ゲームよりスキャミングなShittyBoyz
”Fuckフォートナイト、スキャミングが俺のデイリーチャレンジ”("Game Breaker"より)。ゲームにマンガ、プロレスにスキャミング(詐欺)。現代ティーンのボンクラカルチャーを散りばめたパンチラインの応酬で人気を集めるデトロイトのグループ、ShittyBoyzのBabytronはキッズにこう警告する。サムスンのスマホを買わないと手に入らない限定スキン「アイコニック」の導入代行詐欺に遭ったことのある日本のキッズにとってはリアルなライン。
5. Shordie Shordieの"FDP"は"Ride Wit It"
スキルフルなプレイヤーが、自身のプレイ動画を集めた「モンタージュ」を作成し、お気に入りの曲をBGMに使用すれば、その曲はゲーマーキッズにも浸透する。かつてプロスケーターのビデオで起こっていたようなことが、ゲーマーキッズの間にも起こっている。『フォートナイト』の人気モンタージュ”Ride With It”のBGMとして使われている、ボルチモアのラッパー、Shordie Shordieの"FDP"は、多くのフォートナイトのキッズはその曲名を、”FDP”ではなく、”Ride Wit It”と認識している。
6. ティーンプロゲーマーMongraalと世界のドリルミュージック
15歳のイギリス人プロゲーマー、Mongraal選手は、UKドリルを口ずさみながらゲームをプレイし、キレて台パンをし、ラーメンをこぼす。そしてそれを世界中のキッズが見守っている。UKドリルだけでなく、アメリカの最新ラップや、ライバルでチームメイトでもあるmitr0の勧めるダッチラップを聴くこともある。シカゴドリル、UKドリル、ブルックリンドリル、国境を越えた昨今のドリルムーヴメントの隠れたハブになっているのは、彼のようなティーンのストリーマーかもしれない。
7. YBN Nahmirと『Rock Band』
Xbox Liveでのオンラインコミュニティで披露したフリースタイルが、ラッパーとしてのキャリアの始まりとなったYBN Nahmirは、やがてゲーム用ヘッドセットでレコーディングを始めるが、ゲーム用ヘッドセットの音質に満足できなかった彼は、音楽ゲーム『Rock Band』に付属するマイクに靴下をかぶせて録音する方法を発見する。なお、YBN Cordae、YBN AlmightyjayもXboxで知り合った仲間で、「YBN」の表記もクラン名を3文字略称であらわす、クランタグの影響がうかがえる。
8. 自らのゲーミングチームを持つChief Keef
FaZe ClanとOffset、Lil Yachty、100 ThivesとDrakeなど、eスポーツのプロチームと人気ラッパーの接近が目立っている。しかし、その動きを何年も前から先取りし、なおかつ自分自身でやってみるのがChief Keef。彼は自前のゲーミングチームGlo Navy Gamingを持ち、所属選手を抱え、ゲーミングギアを販売し、大会を開催する。写真はChief Keefが主催した『モータルコンバット』の大会での記念撮影で、なぜだか彼は、枯葉に偽装するカモフラージュマスクを被っている。
9. ゲーム配信の先駆者Soulja Boy Tell'Em
Chief KeefともGTAオンラインで対戦イベントを開くほど仲が良く、音楽以外にもさまざまな点でキーフのお手本となっているのがSoulja Boy Tell'Em。彼は大のゲーム好きで知られ、自身のブランドを冠したゲームソフト800本入りのあやしいエミュレーター機も発売するほか、今でこそ珍しくなくなった、ラッパーによるゲーム配信についても先を行っており、すでに2008年の時点で、Soulja Boyは『Halo』の実況動画をYouTubeにアップロードしている。
10. Lil Nas Xの"Old Town Road"と『GTA』
『Grand Theft Auto』のディレクターモード(映画のようなシーンを撮影できる)やMODを使って、オリジナルのラップMVを作成する「GTAミュージックビデオ」シーン。
2019年、アメリカ最大のヒット曲となったLil Nas Xの"Old Town Road"も初期バージョンのオフィシャルビデオ(現在は削除)は、同じロックスターから発売された西部開拓時代版GTA『Red Dead Redemption 2』のゲームプレイ映像を使用しており、"Old Town Road"のバイラルヒットの初期には、この”GTAミュージックビデオ”の影響が垣間見える。
11. 『007 ゴールデンアイ』がトラップにもたらした影響
ツアーバスにNintendo64を持ち込み、仲間との画面分割対戦に熱中するWaka Flockaの真剣な顔つきを見れば『007 ゴールデンアイ』がその後のギャングスタラップ/トラップに与えた影響を伺い知ることができる。セレクトメニュー曲そのままのIndo Gの"Throw Them Thangs"、要塞面を弾き直した(?)Young JeezyのSoul Survivor"、PP7サイレンサーピストルの「ピシュッ」音、など音楽的な影響も沢山発見することができる。
12. Lupe Fiascoと梅原大吾の邂逅
格闘ゲーム『ストリートファイター』のプロゲーマーとして世界的に知られる伝説的な日本人選手、梅原大吾に礼をもって”センセイ”とリスペクトを示すのはLupe Fiasco。これは2016年サンフランシスコでの『ストリートファイターV』の発売イベントで開かれたエキシビジョンマッチ前の一幕で、なぜだか試合はLupeが勝利した。
13. Danny Brownと『ペルソナ5』
表向きはふつうの日本の高校生。だが真の姿は、腐った大人達を改心させる謎の集団「心の怪盗団」を率いる男「ジョーカー」。それがDanny BrownがTwitchで配信する学園ものRPG『ペルソナ5』のストーリー。このゲームには恋愛要素があり、どのキャラを狙っているのか訊かれたDanny Brownは「カワカミセンセイとヤリたいねぇ(笑)」と答えた。
14. Lil'Bと『シェンムー』
“俺はMODチップ付きのプレステも持ってる”とラップし、ゲーム好きとして知られるLil’Bが取り分けのクラシックと認定するゲームは、早すぎた名作ゲーム『シェンムー』。そんなLil’Bの『シェンムー』好きを知る欧州のファンは、彼に欧州版『シェンムー』へのサインをせがみ、Lil’Bがそれに応じたことで、Lil’Bは『シェンムー』にサインをした世界初のラッパーとなった。
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zcay