【対談】audiot909 & mitokon | 南アフリカ発の新たなダンスミュージック「Amapiano」の魅力とは?

南アフリカでは現在、「Amapiano」という新たなダンスミュージックが爆発的な流行を見せている。南アフリカのダンスミュージックといえばダークで呪術的なサウンドを特徴とするGqomがベースミュージックのファンを中心に流行を見せたことも記憶に新しいが、AmapianoはGqomとはまた異なる独特のドラムパターン、「ログドラム」なる独自のパーカッションやシェイカー、またメロウなキーボードを用いた浮遊感のあるサウンドを特徴とする。

この全く新しいダンスミュージックについて、今回は日本でいち早くAmapianoについての情報を発信し幡ヶ谷Forest Limitでパーティ『TYO PIANO』を開催、Free Soulで知られる橋本徹や水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミを招いたイベント『Amapiano Life』を予定しているDJ・トラックメイカーのaudiot909氏、TYO GQOMのメンバーであるmitokon氏の両名に話を聞いた。記事中で触れられた楽曲の動画や、最後に掲載するaudiot909選曲によるプレイリストと合わせて、Amapianoの歴史や魅力、今後の展望を伝えることが出来れば幸いだ。

取材・構成:山本輝洋

 - まずFNMNL読者の中でAmapianoというジャンルを聴いたことがある人も限られてくると思うんですが、お二人の方からどのような音楽なのかざっくりと教えていただけますか?

audiot909 - ビートハウスが南アフリカで独特の進化を遂げた形態といいますか、KwaitoやBacardi(注:どちらも南アフリカの伝統音楽とハウスに影響を受けたダンスミュージック)の流れを汲んで進化した、今南アフリカで爆発的に流行っている音楽という理解です。

mitokon - 元々南アフリカって、本当にハウスミュージックがかなり長く盛んなんです。そこで色々な進化をしていった結果というか、その途中経過がAmapianoという認識ですね。その途中にはGqomだったりKwaitoだったりがある中で、今の時点でたどり着いているのがAmapianoです。

- なるほど。発展の途中にあって、今はこういう形に一回落ち着いているということですね。音楽的な特徴で言うと、パーカッションのリズムパターンやメロウなキーボード、裏打ちで入ってくるチャントなどにあると思うんですが、そういう形のダンスミュージックに進化した経過はどんなものだったんでしょう?

audiot909 - どこから説明すればいいんだろう...

 - 南アフリカのダンスミュージックは結構長い歴史を持っていますからね。

mitokon - Amapianoって、私の印象では跳ね感がある音楽という印象があって。その跳ね感の元がBacardiとSghubu Sa Pitoriっていう音楽で。BacardiとSghubu Sa Pitoriは同じ時期に同じ感じで出てきてる音楽で、Bacardiの中心人物であるDJ MujavaとDJ Spokoが源流になっているように思います。特にWarpからリリースされたDJ Mujavaの“Township Funk”がきっかけで南アでもそのような音楽が流行って、さらに同時期にKwaitoがもっとメインストリームにあったんです。Kwaitoはアメリカから入ってきたハウスのBPMを落としてベースを強く入れたり、南アの独特のパーカッションやドラムを詰め込んで、現地の言葉でラップを入れたような音楽で。やっぱりKwaitoが下地にあるのかな、と言う感じがありますね。

audiot909 - SpotifyにあるKwaitoのプレイリストを聴いてみると「あー、なるほどな」という感じがしますね。Kwaitoって結構範囲が広い音楽ですよね?

mitokon - 広いですね。Kwaitoも色々な進化をしているので。メインとしては110ぐらいのAmapianoと近いBPMで、凄く跳ねるビートがメインという感じです。

 - 僕が初めてAmapianoを知ったきっかけはaudiotさんのツイートだったんですが、お二人がAmapianoを初めて認識したのはいつ頃ですか?

audiot909 - 自分はmitokonさんのツイートですね。Thebelebeってアーティストの“Calm Down”という曲を聴いて「なんやこれ!?変すぎるだろ!」ってなって(笑)

mitokon - あれは凄く面白かったですよね。Thebelebeは新鋭アーティストで、凄く面白いと思って呟いたのをaudiotさんが拾ってくださって。

audiot909 - 本当に聴いたことなくて。「なんでこんなにLowがスカスカなの?」って。で、ベース入ってきて「こんな感じなの!?」って。

 - 音色が凄く面白いですよね。特徴としてはキックが凄く小さくて、かと思えばサブベースで持っていく、という。

audiot909 - 後はやっぱりログドラムですよね。ログドラムを最初に取り入れた曲って、多分Kwiish SAのですよね。

mitokon - ログドラムは本当に、南アでも今まであんまり無かった音だと思います。“Gong Gong”はヒット曲で、あの曲がきっかけでみんな取り入れた感じだと思います。

audiot909 - YouTubeで公開されているAmapianoのドキュメンタリーでもKwiish SAが登場しますよね。

 - あのドキュメンタリーもカルチャーとして成立してきてる様子が分かるものになっていて面白かったですね。

audiot909 - 面白いのが、Amapianoは2015、6年から出てきたんですよね。House Afrikaのコンピの第一弾が2016年なんですけど、最初の頃はログドラムを使っていなくて。Vol.1、2、3が2016から2017の間に出てたんですけど、4が少し空いてるんですよ。2019年になったらログドラムが入るようになっていて、「ああ、なるほど」って。Kwiish SAのアルバムが2018年の末頃に出ていて、この辺りで多分ブレイクスルーがあったんだろうなって。

mitokon - そうですよね、その辺だと思います。私もAmapianoを知ったのが去年の1月頃だったんですけど、単語としてAmapianoという言葉はその前から見てたんです。でもジャンルとしては認識していなくて。南アのヒット曲をずっと追ってると、「これがAmapianoだったんだ」っていうのをそこで始めて知って。

audiot909 - mitokonさんが少し前に解説してくれていましたが、あれってそもそもズールー語と英語を組み合わせた造語なんですよね?

mitokon - 「Ama~」っていう単語は凄く沢山あるんですけど、「Ama」っていうのは接続詞なんですよね。「Piano」の複数形になる言葉らしくて。「Ama」は「I」って単語にも置き換えられて、「Ipiano」とも言うんです。Gqomとも同じで、「Piano」を表現するときに、ズールーや他の民族の言葉として「Ipiano」、ジャンル名としては「Amapiano」と言ってるんじゃないかって。

audiot909 - 最初期の曲、2016から2017年に出ていたものはHouse Afrikaのコンピを聴いていると、キーボードをフィーチャーしている曲が多いんです。キーボードを弾ける人が強かったんだなと、Kabza De SmallやMfr Soulsの曲を聴いても分かるんです。でもログドラムが出てきて以降はVigro Deepを筆頭にヘビーに寄る人が出てきて、最初はピアノメインの音楽だったのが、ログドラムの出現によって段々意味合いが変わってきたように思います。

mitokon - 最初に鍵盤楽器を使っていたという点で、Amapianoと呼ばれていたんだと思います。そこから進化していって、よりヘビーでパーカッシブな音楽に変化してきて。ジャンルの中でどんどん進化している最中っていう気がします。

audiot909 - 半年後にはどうなっているんだろう、って思います(笑)

 - 変化しているのが凄く分かりやすいジャンルですね。Amapianoが世界的に認知され始めたのは、やはり昨年が境目になるんでしょうか。

mitokon - やっぱり去年な気がします。現地でも普通にヒットチャートに乗るようになったのは2018年の後半からなんですけど、2019年に一気にきたと思います

audiot909 - 明らかにリリースが増えてますよね。

mitokon - Gqomとかもそうなんですが、元々小さなコミュニティやタウンシップで始まったのがどんどん大きくなって。今Amapianoで特に人気があるアーティストがKabza De SmallとDJ Maphorisaなんですが、DJ Maphorisaという人は元々ハウスやアフロビーツの有名なプロデューサーなんです。2012、3年頃から国内でも有名な人とコラボしたり、ナイジェリアのWizkidとコラボしたり、それこそMajor Lazorと一緒にやったりプロデューサーとして大きくなっていったんですよね。Maphorisaという人は凄く嗅覚が鋭くて、GqomもそうなんですがMaphorisaがやり始めて一気に国内に広がったという流れがある。Maphorisaはあるジャンルを凄くポップにして、それを広げる役割の人というか。それが凄く上手い人なんですね。Amapianoも、その前のGqomもそうなんですよ。

audiot909 - Gqomでもそんなに重要人物なんですね。

mitokon - めちゃめちゃ重要ですね。MaphorisaがやっているGqomはもっとポップなもので。Amapianoでも実はそうで、結構歌物としてやり始めたのはMaphorisaやKabza De Smallが大きいと思います。

 - 彼らがきっかけで、ダンスミュージックのコミュニティだけでなくよりオーバーグラウンドで聴かれるようになった、ということですね。

audiot909 - KabzaとMaphorisaのコンビはシンプルに作曲が上手い(笑)

mitokon - 本当にリリースも多いですよね。

audiot909 - 2人で3枚出してますもんね。

mitokon - Kabza De Smallも本当に重要人物だと思います。Kabzaも元々ソロでやってたんですけど、彼がMaphorisaとコラボし始めてから一気にAmapianoが流行った流れもありますね。

audiot909 - Maphorisaもそんなに若くなくて、もう32歳で、Kabzaが27歳だったかな。だからある程度キャリアある者同士だとは思ってたんですけど、そこまで大物のプロデューサーだったとは。

mitokon - Maphorisaは今南アで一番ってくらい、凄く有名な人なんですよ。

audiot909 - ドキュメンタリー観たらめっちゃデカいモニターで作業してて、リッチなんだなと(笑)

mitokon - Maphorisaが元々有名だから色々な歌手やラッパーとコラボしやすいし、そういう人がAmapianoに乗せてヒット曲を出してるのが現状です。

audiot909 - 他のプロデューサーは比較的みんな若いのかと思うんですけど。Kwiish SAは21歳らしいです。

mitokon - Vigro Deepとかは20代前半だと思います。凄すぎる(笑)みんな若いうちから作れる環境にあるというか、周りに音楽が溢れてるから作りやすいんだと思います。

 - そういう磁場もあると。流れを整理すると、若い人たちがやってることをある程度キャリアを積んで人気がある人が取り入れた結果広がったという感じですね。

mitokon - そう思います。

audiot909 - 色々点と点が繋がりましたね。

 - Maphorisaはmixmagの動画でAmapianoのミックスをやっているのに「Gqomのアイコン」として紹介されていましたよね。

audiot909 - そうそうそう。Amapianoを理解していなかったんですかね?

mitokon - あれは謎でしたね(笑)結構コメント欄でも突っ込まれていて。

 - 「この人たちを追っていれば大体の流れが分かるよ」というようなプロデューサーやDJを挙げるとすればVigro DeepやMaphorisaになるんでしょうか。

mitokon - Vigro Deep、Kabza De Small、Maphorisa...。

audiot909 - 後はMfr Souls。Jazzi Diciplesはどれくらい有名なんですか?

mitokon - あの人たちもパイオニアですね。メインはそんな感じでしょうか。

audiot909 - “Baby Are You Coming?”のZero12Finestは他に曲を出してるんですか?

mitokon - 他にもあるんですけど、あれが一番のヒットですね。ドキュメンタリーにも出てました。

audiot909 - これはキラーチューンだしDJで使いやすい(笑)ベース系の人もこれは受け入れやすいと思います。

mitokon - 去年のヒットといえば、後はSemi Teeの“Laabantwana Ama Uber”。あれも大ヒット曲です。これに合わせてダンスをする動画が南アで流行りました。

 - 確かに、ダンスの動画を通じてバイラルヒットする流れもあるようですね。

mitokon - 凄くあります。

audiot909 - チャットアプリで広がったんですよね?

mitokon - そうです、Whats Appで広がって。南アの特徴でGqomとかもそうなんですけど、アプリでみんなが広げていく。Amapianoもやっぱりそうだったんですよね。

 - 音源自体も最初は怪しいサイトでしか落とせませんでしたよね(笑)GqomのKasimp3もそうですけど、最初は独自のプラットフォームから音源が広まる流れはあるように感じました。

audiot909 - 自分がハマりたての頃はBeatportかAmazonのMP3ダウンローダーで買えたんですけど、最初の頃は無かったですよね。

mitokon - MP3でダウンロードして聴くっていうのが南アの人のメインの音楽の聴き方になっていて、プロデューサーたちも広げたいっていうのがあるので割とフリーで出すんですよね。それこそWhats Appでも広げられるし、色々なダウンロードサイトがあって。

audiot909 - Thebelebeの曲を初めてダウンロードしたときに「これは本当に公式リリースなのか?」って(笑)「大丈夫なのか?このサイト」って。

mitokon - でも結構多いですよ。一回上げたら一気に色んなところでダウンロード出来るようになるんです。Maphorisaとかも使ってるんですけど、フリーでダウンロードさせて「どんどん使いたまえ」と(笑)

audiot909 - 完全に文化が違うんだな。

 - コミュニティにオープンな意識があるんですね。色々なプロデューサーがそれぞれ一緒に曲を作る流れがあるのも、その一端にあるように思います。

audiot909 - そうですね。アルバム見たらめちゃくちゃクレジット多いし(笑)

 - 占有する、というよりは「みんなで作っていこう」という雰囲気なんでしょうか。

mitokon - そうですね。結構その中で仲悪くなっちゃったりもするようですが(笑)

 - ビーフも起こるんですね(笑)

mitokon - ビーフ的なことも結構ありますね(笑)でも基本的には「文化を作っていこう、広げていこう」とか「もっと新しいものを作ろう」という雰囲気ですね。やっぱりメジャーな人は無名の人でもフックアップしてサポートしようとしますし。

audiot909 - この間Thebelebeがどこぞのデカいスタジオに行ってましたね(笑)自分が見始めたとき彼はフォロワー20人くらいだったんですけど、今は200人以上いて。

mitokon - この人も面白いと思っていて、私がこの人を初めて知ったのがダンスの動画だったんですよ。クラブで流れてるのを聴いて踊ってる人の動画なんですけど、「凄くカッコいい曲だな」と思って。

audiot909 - Thebelebeって多分Shazamにひっかからないですよね。どうやって見つけたんですか?

mitokon - それが面白くて、そう言うダンス動画に大体「この曲何?」って言ってる人がいるんですよ。それで教えてくれる人がいて。私もそれを追いかけて自分で調べて、っていうのをしょっちゅうやってます(笑)

audiot909 - そういうダンス動画はどこにあるんですか?

mitokon - 私の場合結構ずっと追いかけてるので、ある程度タイムラインが出来ていて。InstagramやTwitterに「South African Music」っていうタイムラインが出来ちゃって、そうすると自分の興味があるものが出てくるのでダンス動画もポンって出てきたりとか。それを自分がフォローしているアーティストが拾ってシェアするっていう。みんなシェアするんですよね。だから誰かをずっと追ってるとAmapianoの新作も含めて色々呟いてくれるから、それを追うっていう。

audiot909 - ちなみに自分がこの前やった『TYO PIANO』でThebelebeを流してる動画に、ちょこちょこ南アフリカの人がリツイートしてくれます(笑)

 - めちゃくちゃ良いですね(笑)

mitokon - 私はTYO GQOMっていうグループでDJやってるんですけど、そこの人がAmapianoを流してそれをアップしたりすると割と南アフリカの人が反応してくれて。今南アフリカでジャストに流行ってるので、「おー、日本でも!」みたいに喜んでくれますね。

audiot909 - 逆の立場だったらめちゃくちゃ嬉しいですよね。思わずThebelebeに「お前の曲この前使ったよ!お前は最高だから」って言いたくなりました(笑)

 - 広がりという部分で言うと、お二人が投稿していたドキュメンタリーでも「今度UKでもDJするんだ」って言ってる人がいて。ヨーロッパあたりでAmapianoの曲を作ってる人ってもういるんでしょうか?

mitokon - どうなんですかね。

audiot909 - 一応自分も一曲作って、この間KΣITOさんが一曲送ってくれたりして。そういう人はちょこちょこいるんじゃないかと思います。まだメジャーになっていないだけで。

 - そのうち遅かれ早かれ出てくるような雰囲気はありますよね。

audiot909 - どこがヨーロッパで一番最初にブレイクするきっかけになるのか楽しみですね。

mitokon - 南アフリカは元々イギリス領だったので近さは凄くあるんですけど、まだ分からないですね。

audiot909 - UKのサウンドシステム文化との相性は良さそうですよね。現場で鳴らすとめっちゃミッドベース出るんですよ(笑)

 - レゲエとの親和性も高そうな雰囲気は感じます。

audiot909 - どこが拾うのかなって色々考えますね。どうなっても不思議じゃないと思います。

mitokon - この間AhadadreamっていうUKのDJが来ていて、TYO GQOMと共演したんですけど、彼もAmapianoを知っているようで。もう早い人はちゃんとキャッチしていて、これからもしかしたら広がるかもしれないですね。

audiot909 - 現地以外でも今年流行るかもしれないですね。

mitokon - Gqomの層とはまた違う人にも引っかかりやすいように肌感覚として感じていて。Gqomの時とはまた違う人たちもいいねって言ってくれるし、Gqomが元々好きだった人たちも面白いって言ってくれるので。割と広がりやすそうな気がします。

audiot909 - キャッチーな曲も多いので、聴きやすいんじゃないかと。

mitokon - Amapianoはクラブで聴いても面白いし、家やカフェで聴いても凄く気持ちよく聴けるのが特徴だと思うので、Gqomよりも広がりやすいんじゃないかと思います。

 - キャッチーさもありつつ、誰が聴いても「こんなのあったんだ、面白いな」って思うような新鮮さがありますもんね。

audiot909 - そんなに音楽を沢山聴くわけじゃないうちの弟に試しに聴かせてみたんですけど「あー、いいんじゃない?」って(笑)これぐらいの層にも広がるのかなって。

 - DJやトラックメイキングの観点からもお話を伺いたいんですが、お二人がDJをされる中でAmapianoを使ってみるとどういう効果があるように感じますか?また使う際にどういった流れや方法を考えているのかもお聞きしたいです。

audiot909 - 取り敢えずフォルダー分けして、歌がありコード感が強い曲、歌があるコード感の強くない曲、コード感が強いインスト、コード感が無いインストのトラック、という風に4つに分けてプレイするとやりやすいように感じます。正月にミックスを上げたんですけど、その時もキュー打ちしてフォルダーを分けるとすんなり録れたから、これがひょっとしたらコツかもしれないですね。

mitokon - 私は結構好きな曲ばっかりかけるようなタイプで、全体のグルーヴ感で繋げちゃうというか。ガッと変えることも多いんですけど、聴いてるときの気持ちでフォルダは分けてますね。自分でやってるとどんどん深みにハマっていくような感じがあって。軽くも出来るしメロウな感じにも出来るけど、割とドープな方向に行きやすいように感じます。踊っていてもどんどん我を忘れてくるというか。

 - Amapianoのトラックにはどれも酩酊感が共通してありますよね。

mitokon - Amapianoについて調べてると、みんなかなり酔っ払いながら聴くような音楽なんですね。クラブでもお酒を飲みながら聴いたり踊ったりする印象が強くて。Amapianoで最初に流行ったダンスはビール瓶を持って踊るものなんです。最近はそれを頭に乗せて踊るのが流行って(笑)「Amapianoっていうのは酔っ払いの音楽なのでは?」って思いますね。フワッとした感じや我を忘れるような感じ。それがダンスから分かることが多くて、ドラッグとアルコールの影響が凄く大きいんだと思うんですよ。最初はビールとかのお酒から始まって、他にもドラッグを打つフリをするダンスとかもあって。そのドラッグが何なのかはあまり分からなかったんですけど、手ですりつぶして鼻で吸って手を払う、というダンスをみんなでやるのが流行って、「不健全だ」っていう話題もあったりしたんです。それで酩酊状態になるような感覚がずっと続くような。

audiot909 - だから長尺の曲が多いんだ。

mitokon - そう思います。ずっと続く、というのはみんな意識していると思います。

 - Amapianoのトラックを、例えばハウスだったり他のジャンルを聴いた後に聴くと自分の中でこれまでと違う特有の乗り方が出てくる感じがあって。

audiot909 - 酔っぱらった時やドラッグで飛んでる時に聴く音楽、という説明は凄くしっくり来て。キックがドンドン入ってる感じじゃなくて、どこが表拍なのか一瞬分からなくなるようなサウンドデザインをしていることが理解出来ました。

mitokon - まさにグルーヴというか、うねりと、何だかよくわからなくなるような感じ(笑)

audiot909 - キーボードも浮遊感がある音なのはそういう理由だったんだな。「揺れる」というニュアンスがあるのも独特だなと思います。

- audiotさんが最初にAmapianoを紹介されていたときにこのDJミックスを投稿されていましたよね。この人はDJが上手いのはもちろん乗り方も独特だし、ミキサーのディレイを多用するのが独特で。これはアフリカの方はみんなやるのかな?と思って。

audiot909 - アフリカの人は割とやってる感じがします。友達にSecVeeっていうアフリカ人のDJがいるんですけど、ディレイ使うのが上手かった。

 - 空間を作る、というイメージなんでしょうか。

audiot909 - 空間把握能力が高いのかな。Black Coffeeとかも凄くディレイ使うのが上手い。

mitokon - そこがメインにありますよね。Black Coffeeとかはみんな大好きだし、そこが土台としてあるように思います。「独特のノリ」とおっしゃってましたけど、南アフリカの人をずっと見ているとみんな結構ずっとその乗り方で。乗り方も日本の人とは違っていて、それは「跳ね感」なのかなと思います。

audiot909 - SecVeeと一緒に頭バーでパーティをやったことがあるんですけど、アフリカ人の友達をいっぱい呼んでくれて。その時もみんな一斉にダンスし始めて。初対面なのに輪を作り始めて。

mitokon - 体と音とが一体になっていて、即踊り出すし、ダンスがコミュニケーションなんだと思います。クラブとかとは関係なく、元々のトラディショナルなダンスや歌が始まりというか。そこでコミュニケーションをしてきたのが始まりで、そこにクラブミュージックが身近だったりするんで、ダンスと音楽が人生の一部で、殆ど命の一部なんだと思います。それが見ていて感動するところですね。

 - Forest Limitでの『TYO PIANO』は日本で初めてのAmapianoのパーティとなりましたが、やってみていかがでしたか?

audiot909 - みなさん新しい物を見てるな、という感じがあって。感想も沢山言ってくれて、新しいムーブメントを感じました。

mitokon - お客さんもそういう反応の方が多かったですね。「Amapianoって何?」っていう方もいたし、「ついに日本でもやるんだ」って人もいらっしゃったんですけど、元々南アフリカに行っている人は「上陸した!ここから広がるかもって思った」と言ってくれました。

audiot909 - 自分はあの時点でAmapianoを知って1ヶ月くらいだったんですけど。本当にこの何ヶ月かが凄く面白かったですね。元々アフロやファンクよりのハウスをプレイすることが多かったんですけど、「自分が次に向かうのはこれだ!」って。

 - 今後開催予定のイベント『Amapiano Life』(注:延期)もその延長線上でやっていく、という感じでしょうか。

mitokon - 橋本徹さんもラジオとかでAmapianoをかけてらっしゃったようで。しかも凄くハマってらっしゃるみたいで、橋本さんと一緒にDJをされているariboさんが声をかけて下さって。『TYO Piano』にも来て下さっていたんですけど。私たちとはまた違うところでAmapianoを面白いと思ってる方がいたんだな、っていうのはありますね。橋本さんも結構DJでかけていらっしゃったりするようで、面白いなと。

audiot909 - 水曜日のカンパネラのケンモチヒデフミさんもゲストで参加してくださることになって。「こういったところの人が反応するんだ」と思って、ここからちょっと大きな流れになるんじゃないかと思います。

mitokon - ケンモチさんも南アフリカの最新ダンスミュージックをめちゃめちゃ取り入れてらっしゃって。xiangyuさんの曲でGqomとかを作られていますけど、Amapianoもその流れで知ってらっしゃるようで。

audiot909 - このままトラックメーカーやDJが増えたら嬉しいですね。もしくは我々にオファーしてくれればどこでも行くんで(笑)

mitokon - ケンモチさんがAmapiano作ったら面白そうですね。

 - audiotさんがAmapianoをご自身で作られてみて感じたポイントなどはありますか?

audiot909 - いっぱいありますね。How To動画を何個か見てみたんですけど、シェイカーの音が凄くデカいじゃないですか。シェイカーを取り敢えず置いてみてそこからグルーヴを作って、スネアの位置を決めて、みたいな。スネアの位置もハウスとかと違って2拍、4拍じゃないんで、気持ち良いところを探して。あとやっぱり一番はログドラムですね。これ実は凄く重要な情報だと思うんですけど、「ログドラムってそもそも何なんだ」って思ったらYAMAHAのDX7ってシンセのプリセットに「Log Drum」っていうのがあるんですよ(笑)南アフリカの人って何故かFL Studioめっちゃ使うんですけど、FLの中にDX7をコピーしたプラグインが入っていて。そこにも「Log Drum」っていうプリセットが入ってるんですよ。自分はabletonで作ってるんですけど、DDX10っていうvstを使えばそこにも「Log Drum」が入ってるので、それを使えば出せます(笑)後は意外と肝なのが、裏打ちするときの音にトロンボーンやトランペットのサンプルを使うことが多いんですけど、その音色の選び方が結構大事というか。意外と安っぽい音を使った方がグルーヴ出せます。あれとログドラムの組み合わせを考えると作りやすいと思いますが、難しいです(笑)ログドラムの休符の使い方はVigro Deepなどを聴けば参考になると思いますし、後はHow To動画を観ると良いと思います。

 - これを読んでAmapianoを作ってみる方が出てきたら良いですね。

audiot909 - 自分で作ってみて思ったんですけど、日本人が作ることは不可能じゃないと思います。全然出来るな、と。

 - ある程度の文法は固まっているから、コピーしようと思えば出来る感じもありますよね。

audiot909 - やっぱり我々は日本人だから、アフリカの人たちが作るものとは絶対違うものが出来るじゃないですか。それをアフリカの方が聴いたらどう思うのか凄く興味ありますね。夢としては日本でAmapianoのコンピレーションとか出してみたくて。やりたいって方がいれば連絡くれたら嬉しいです(笑)

mitokon - 別の話で伺いたいのが、私は曲を作ったことが全く無いんですけど、南アフリカの音楽の特徴として南アフリカの空気というか、割と乾いた空気が音として出てるんですよね。気候に合った音を作ってる感じがあって。南アフリカは結構ドライな音を感じるんですね。でもみんな使ってるソフトや音は同じじゃないですか。その違いがどこから出るんだろう、っていつも不思議なんですよね。Gqomもそうですけど、日本の方が作ったトラックと南アフリカの人が作ったものはやっぱり違う感じがして。それはどうしてなんですかね?

audiot909 - ソフトによってサンプルの違いはあると思うんですけど、SecVeeが曲を作ってるところを見たら音のチョイスから全然感覚が違うんですよね。16分のシーケンスを打ってリズム感の違いって出るかなと思いますけど、でも全然違うんですよね。音色の選び方や、「え、そこに置く?」とか。キックを4発打って、作っていく内にグルーヴが変わっていって、拍の頭が変わったりしてるのにそのまま作っていくんですよ。それが衝撃で、リズムの捉え方が違うんだなって。割とポリリズムとか好きじゃないですか。リズムのルールに対してもっと自由なんだなと思いました。

 - 既存のダンスミュージックの文法に捉われすぎていないということですね。

audiot909 - 自分が全然良くないベースラインを打った時も、「じゃあちょっと直すね」って感じで直してくれたら凄く良くなって。あの日見たときは「かなわないな」と思いました。

mitokon - 拍の頭が変わるのは面白いですね。南アフリカのPantsulaってダンスをずっとやってる知り合いがいるんですけど、その方のダンスクラスに一回だけ参加したことがあって。その時に言っていたのが、「南アフリカではリズムをダウンじゃなくてアップで取るんだ」と言っていて。それは南アフリカに限らずファンクとかもそうですけど、Pantsulaのステップを踏み出すのがこっちとしてはめちゃくちゃなところなんですね。シンコペーションで取っていて。例えば四つ打ちで乗っていても終わりと始まりの位置が全然違って、リズムの取り方が違うことをそこで知って。

audiot909 - これはまた似たような小話なんですけど、一回小西康晴さんがDJしてるところに南アフリカの友達と一緒に行ったんですね。そのとき小西さんはJ POP寄りの曲をプレイされていたんですけど、その友達が無理やり裏拍で乗り始めたんですよね。感性の違いが凄く面白いです。作ってみても違うものにはなりますけど、そこに寄せていってもしょうがないし。

 - ある程度自分の中で生まれるところで独自性を見出した方が面白いものが出来ますよね。

audiot909 - KΣITOさんのトラックを聴いてみたら「ベースミュージックやってきた人だな」って感じで面白くて。解釈の違いが各国で分かれるような気がして、広がったらそこが面白いなと思います。

 - Amapianoがそれを受け入れるだけの度量もある音楽だ、ということですね。

audiot909 - そう思います。「何やってもいいんだぞ」って。

 - ありがとうございました。

audiot 909選曲のプレイリスト『Rough guide to Amapiano』

RELATED

【インタビュー】JUBEE 『Liberation (Deluxe Edition)』| 泥臭く自分の場所を作る

2020年代における国内ストリートカルチャーの相関図を俯瞰した時に、いま最もハブとなっている一人がJUBEEであることに疑いの余地はないだろう。

【インタビュー】PAS TASTA 『GRAND POP』 │ おれたちの戦いはこれからだ

FUJI ROCKやSUMMER SONICをはじめ大きな舞台への出演を経験した6人組は、今度の2ndアルバム『GRAND POP』にて新たな挑戦を試みたようだ

【インタビュー】LANA 『20』 | LANAがみんなの隣にいる

"TURN IT UP (feat. Candee & ZOT on the WAVE)"や"BASH BASH (feat. JP THE WAVY & Awich)"などのヒットを連発しているLANAが、自身初のアルバム『20』をリリースした。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。