『Why Not Listen To ?』Vol.3 feat. J Rick、AMA、Vegyn、Roddy Ricch、Tei Shi、Vagabon

今や世界の音楽シーンではジャンルの垣根を越えて、数え切れないほど多くのアーティストが活動しているが、音楽フリークにとってそれを全部追うのは少々無理がある。そこで、FNMNLでは編集部が各月毎にオススメのアーティストをピックアップ。彼らの簡単なプロフィールをはじめ、音楽性、オススメの楽曲などを紹介していく。アーティストをディグするときの参考にしてもらえると幸いだ。

J Rick


昨年の9月、デビューアルバム『No Retreat No Surrender』をリリースしたプロデューサーのJ Rick。あまり聞き覚えのない名前かもしれないが、今やイギリスを代表するラッパーの1人となったOctavianの代表曲“Party Here”や“Hands”のプロデューサーと言ったら伝わるだろうか。
OctavianのバックDJも務める彼は現在23歳、ロンドンを拠点に活動している。そんなJ RickはこれまでAdeleやKing Kruleなどを輩出してきた名門ブリットスクールの出身だ。彼はRed Bullのインタビューにてブリットスクール時代のことをこのように語っている。自分以外の他の学生がスクール入学以前から音楽や芸術に関することを学んでいたのに対し、彼はトッテナムの普通の学校出身だったそうで「最初は(慣れるのが)難しかったけど、慣れることが出来た。だけど、結局は実際の音楽業界がどういうものかっていうのを反映しているに過ぎなかった」と皮肉を込めて述べている。ちなみに盟友のOctavianとはブリットスクールの喫煙所で出会ったとのこと。その後、似たような境遇で育ってきた2人はスクールに居心地の悪さを感じ、揃ってブリットスクールを退学。現在、他のメンバーを加え、Essie Gangというクルーを結成している。先日、リリースされた“Pattern Chanel”はJ Rickによる、うねるベースと音数の少ないビートが最高なバンガーだ。

“Pattern Chanel”だけを聴くと、ハードなビートを作るプロデューサーだと思うかもしれないが、先述した彼が9月にリリースしたデビュー作『No Retreat No Surrender』を聴けば、印象はガラっと変わるだろう。ラップの他にGorillazやMike Skinner、Jai Paul、Arcade Fireを好きなアーティストに挙げていることからも分かるように、彼の作るトラックは様々なジャンルからの影響を感じさせる。エレクトロニカのような“Here”から始まり、2曲目の“Change”はトランペットの音が特徴的なハウスだ。フィーチャリングも盟友のOctavianの他にアムステルダムのシンガーソングライターRIMONやブリティッシュナイジェリアンのObongjayarなど多様なアーティストを迎えており、J Rickのチャレンジングな姿勢がうかがえる。逆に言えば、もはやジャンルという概念が無くなってきている現代の音楽シーンが生んだアーティストともいえるだろう。

AMA



AMAはウェストロンドン出身の女性シンガーソングライターだ。昨年、デビューEPとなる『Screenluv』を名門レーベルDirty Hitからリリースした彼女は現在19歳とまだ若いアーティストである。そんな彼女は2018年にリリースしたシングル“MONOCHROME”でデビューを果たす。力強くもどこか儚い彼女の歌声と金属音が特徴的なスロウなビートが絶妙にマッチした同曲は、結婚式をモチーフにしたMVも話題となった。“MONOCHROME”という楽曲の題名に対し、非常にカラフルな同MVはA$AP RockyやKanye Westなどを手がけたDivision ParisのメンバーであるArnaud Bressonが制作している。

その後、ポジティヴなエネルギーを存分に感じられるシングル“Slip”をリリースした彼女は、先述したようにデビューEP『Screenluv』をリリースした。

Uncannyのインタビューで彼女は同作のテーマについて「ミレニアル視点のラヴ・ソング」と語っている。『Screenluv』の名の通り、スクリーンを通した恋愛はイギリスのみならず、日本も含め、世界のミレニアル世代にとって身近なものになってきている。AMAもその内の1人であるからこそ、作品に説得力が生まれると言えるだろう。個人的なハイライトは1曲目の“Destination”。エクスペリメンタルかつポップなトラックが素晴らしい良曲だ。

ちなみに彼女は音楽活動の他にも、そのエキゾチックなルックスを生かしてモデル活動も行っており、今後もさらに表現の幅を広げていくに違いない。

Vegyn



サウスロンドンを拠点に活動するプロデューサーVegyn。Frank Oceanの『Blonde』への参加や彼のラジオプログラム『blonded radio』の選曲などを手がける傍、昨年には『Text While Driving If You Want to Meet God!』、そして『Only Diamonds Cut Diamonds』とアルバム2作を発表した。ヒップホップ/R&Bからエレクトロニカ、IDM、アンビエントに至るまで幅広いジャンルを吸収し、煌びやかでありながらどこか乾いた独自のサウンドを創造している。

Dazedのインタビューによると、Vegynのキャリアは2013年にデモCDをJames Blakeに渡し、彼が自身のラジオ番組でその楽曲をプレイしたことからスタートした。その後彼はレーベルPLZ Make It Ruinsをスタートし、コンスタントに楽曲をリリースしてゆくこととなる。同じインタビューにて彼は、「僕が音楽を作るのは誰か他の人になるためで、そのレコードは、自分に聴かせたかったようなものなんだよ」と語っている。ジャンルを横断しながらも統一感が保たれたアルバムを制作出来る背景にはそのようなマインドが影響しているのだろう。

YouTubeチャンネルにて公開されているMVは確かなセンスと独特のユーモアを感じさせるものだ。

エモーショナルさとユーモア、そして尖った部分が同居した彼の作品は、間違いなくロンドンの現在を象徴するものだと言えるだろう。(山本)

Roddy Ricch



昨年、XXL Freshmenに選出されたRoddy Ricch。そんな彼はKendrick LamarやYGを輩出したカリフォルニア州コンプトン生まれの21歳だ。昨年、満を持してリリースしたデビューアルバム『Please Excuse Me for Being Antisocial』は自身初となるBillboardアルバムチャートで初登場1位を獲得し、名実ともに確固たる地位を築いた。中でも、同アルバムの2曲目に収録されている“The Box”はTik Tokでミームとなり、Billboardシングルチャートで第1位を獲得。

また、彼が参加した故Nipsey Hussleの楽曲“Racks in the Middle”は先日行われたグラミー賞にて、ベストラップパフォーマンス部門を受賞するなど、今最も勢いに乗っているラッパーの1人がRoddy Ricchなのである。

彼のラップの最も大きな特長といえるのが、その歌い上げるようなフロウだろう。確かなラップスキルもさることながら、歌うようなフロウが入ることにより楽曲に幅を持たせることに成功している。また、デビューアルバムの「Please Excuse Me for Being Antisocial』にはピアノの音が特徴的な哀愁漂う楽曲が多く、Roddyの持ち味をより引き立てている。

このようにヒット曲を連発し、一躍セレブリティの仲間入りを果たしたRoddyだが、当の本人はあくまでも謙虚な姿勢を貫いており、GQのインタビューでは「俺はパーティーにも行かないし、ハングアウトもしないし、誰かと話したりもしない。俺は自分自身をセレブリティだと思ってない」と語っている。さらに、Complexのインタビューでは同郷の偉大な先輩であるKendrick Lamarについて、「Kendrick Lamarは俺に人生で経験してきたことが良いアーティストであるための重要なパーツであることを教えてくれた。物語を描くときには、個人的な経験に基づいて作る必要がある。自分が知らないことについて歌詞を書くと、それは正しく聞こえることはない。なぜなら、その事について細かいことまでは分からないから」と自分自身の経験が曲作りの上で重要だと教えられたことを明かした。
このような謙虚な姿勢が、Roddyの曲がしっかりリスナーの耳に届いている要因なのかもしれない。

Tei Shi



Tei Shiはアルゼンチンで生まれ、カナダで育ち、現在はアメリカはニューヨークを拠点に活動しているアーティスト。現在、30歳と今回紹介しているアーティストの中でもキャリアは長い方の彼女だが、そんな彼女が昨年セカンドアルバムとしてリリースしたのが、『La Linda』だ。英訳すると『The Beautiful』となるとおり、非常に美しい作品となっている。今作のハイライトは紛れもなく、3曲目に収録されている“Even If It Hurts”だろう。

フィーチャリングにBlood Orangeを迎えた同曲はプロデュースも彼が担当しており、少しポップさもありながら、どこか儚いメロディとTei Shiのウィスパーボイスがマッチした良曲だ。幻想的なミュージックヴィデオも相まって、非常に良い雰囲気を醸し出している。ちなみに、Tei ShiとBlood OrangeはBlood Orangeが2018年にリリースしたアルバム『Negro Swan』の収録楽曲“Hope”でコラボしている。

Tei Shiの音楽スタイルは基本的にR&Bを基調としているが、そこにインディーポップ、オルタナティヴ、ベッドルームポップの要素をうまく練り込み昇華しているのが特徴だ。The Cutのインタビューでは、自身の音楽のことを「マーメイドミュージック」と表現している。彼女曰く、冗談半分でそう表しているそうだが、とてもしっくり来る表現だ。

また、Tei Shiの音楽からは、自身が過ごした様々な土地の影響も感じられる。『La Linda』の4曲目に収録されている“Matando”は全編スペイン語詞で、ラテンミュージックの要素を取り入れたトラックが心地よい楽曲だ。i-Dのインタビューにて彼女は同曲に対する強い思い入れを語っており、「ずっとスペイン語で楽曲を作りたいと思っていたし、近年ラテンミュージックが凄い身近なものになっている事実に感銘を受けたの」とのこと。

『La Linda』は先述したように英訳すると『The Beautiful』つまり『美』という意味になるが、今後Tei Shiは我々にどんな美しい世界を見せてくれるだろうか。

Vagabon



Vagabonこと、Laetitia Tamkoはカメルーンをルーツにもつアメリカ人のシンガーソングライターだ。現在、ニューヨークを拠点に活動している彼女は昨年、セカンドアルバム『Vagabon』をリリースした。

インディー・ロック色が強かったファーストアルバム『Infinite Worlds』から打って変わって、エレクトロポップ要素が強まった今作だが、作曲も作詞も全て彼女自身で行ったとのこと。Stereogumのインタビューによると、今回のアルバムを作るにあたり、彼女はYouTubeなどでLogicを1から学んだそう。ただ、彼女はドラムやギター、サンプラー、キーボードなど様々な楽器を演奏することが出来、彼女の『Tiny Desk Concert』の動画では実際に色々な楽器を操る様子が見られる。

また、自身が影響を受けたアーティストとして、彼女のルーツである西アフリカのアーティストであるManu Dibangoを挙げている。

『Vagabon』の個人的なハイライトとしては壮大かつ美しいトラックと彼女の艶のある声のハーモニーが素晴らしい“Home Soon”だ。

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