【インタビュー】LIM KIM|「東洋と女性」のステレオタイプを打ち壊す新しい姿

「東洋と女性」をテーマにアルバム『GENERASIAN』をリリースしたLIM KIMは、以前はフォークポップデュオTogeworlのメンバー、そしてソロシンガーのキム・イェリムとして活動していたが、4年間の空白を経て改名し自身とプロデューサーのNo Identityによるディレクションの元これまでのアーティストイメージを覆す意欲先を送り込んできた。

今作には自身のパーソナリティーをより深く作品の中で表現することや、東アジアに生きる女性にまとわりつくステレオタイプとの闘いといった普遍的でありつつ現在的なテーマが描かれている。東京・渋谷WWW/WWW X/WWW βのカウントダウンパーティー『INTO THE 2020』で来日前のLIM KIMに『GENERASIAN』に至る流れや作品の着想などについて訊いた。

取材・構成 : Erinam

- まずはFNMNL読者に自己紹介をお願いします。

LIM KIM - 韓国で音楽活動をしているLIM KIMです。よろしくお願いします。

- 今年久々の新曲“SAL-KI”を発表しましたが、“SAL-KI”はクラウドファンディングサービスTumblbugを通じたクラウドファンディングが話題となりましたね。

LIM KIM - クラウドファウンディングには想像以上に多くの人たちが参加してくれました。この企画の為に文章を書いたり、準備する段階もとても面白かったです。この曲を発表するまで2〜3年間もの間制作活動だけに集中していたのですが、私が今している活動や、今後こういうものを出すつもりだという考えを、ついに世の中の人々に伝えたわけですから、それを見た方々がTumblbugやTwitterを通じてコメントをしてくれたりと反応をみるのも格別な気持ちでした。参加表明してくれる人達のおかげで、同じような考えを持っている人々が多くいるということを感じられる機会でした。

- 今年新曲をリリースする前の空白期間はどのように過ごしていたのでしょうか?

LIM KIM - 空白期間は本当に制作作業だけをしていました。本当に制作だけをしていたので引退説が出るほどで(笑)会社員が朝出勤して夜退勤するように、毎日制作を続けていました。

- プロデューサーのNo Identityさんとはどのように出会ったのですか?

LIM KIM - 彼のSoundCloudを聴いて、直接コンタクトしました。他にもBalming TigerやDEANにも楽曲提供している方なのですが、私はそれよりも前から一緒に制作していて、私が連絡した当時は自身の楽曲の制作しかしていませんでした。今回のアルバムでは、ビート的に彼の元々の音楽スタイルも入ってはいるのですが、私の表現したいテーマが明確だったので、ダイレクトに表現したくて新しいスタイルで制作してもらいました。

- ビジュアルメイキングも印象的でした。今回はどのように制作しましたか?

LIM KIM - ビジュアル制作も同様で、音楽やビジュアル作業をしている友人達に自分から直接連絡をして一緒に制作するようになったのですが、それぞれの考えも似ていたし、お互いの話を普段から分かち合ったりしていたので、自然とうまく作れたと思います。私と同様に問題意識を持っている人達と作ったからこそビジュアル的にも求めていた形を反映させようと情熱的に制作できたと思います。

- “YELLOW”のMVは上海で撮影したと聞いたのですが、ロケ地は何故上海に?

LIM KIM - もともと上海で撮る計画はなかったのですが、監督のChristine YuanさんはLA拠点で活動している方で、エージェンシーはロンドンだったので、この双方のロケーションを考慮した結果、第3地点で集まろうということになり上海のスタジオに集まりました。太鼓奏者やダンサーなど東洋人の出演するシーンも多いので、そういった点も考慮した結果でしたね。

- “YELLOW”というタイトルだけを見て、初めてMVを見たときは全体的に真っ赤なイメージだったことも驚きました。

LIM KIM - そうかもしれないですね。実は“YELLOW”という言葉は黄色というカラーを指しているのではなく、東洋人、黄色人種を指しています。

- "YELLOW”が東洋人を指しているとの事ですが、今回のアルバム『GENERASIAN』には全体を通して考えていたテーマがあるのでしょうか?

LIM KIM - はい。一言でいうならば「東洋と女性」という主題を置いて制作しました。東洋人や女性に対する社会的なステレオタイプがあまりに多いと感じていたので、それを少しユニークで目に留まりやすい方法でお見せできたらと思って、一見ステレオタイプ通りの姿でありながら、人々が期待していたのとは全く違う攻撃的に話をする東洋女性など、曲ごとにキャラクターを想定しながら制作をしました。なので曲ごとにモチーフが少しづつ違うのですが、全体を通して共通しているテーマは「東洋と女性」です。

- オリエンタリズムは残しつつ、既存の東洋のステレオタイプを破壊するような新しいイメージということですね。

LIM KIM - オリエンタリズム、というのはいわゆる西洋の人たちが期待するアジアンルックですよね。そのルックを期待する通り見せているようで、実際はそれに対して攻撃的に悪口を言うようなイメージ。「あなたたちはこんな姿を期待していると思うけど、実際は違う」ということを伝えたかったんです。

- 実際に東洋や女性のステレオタイプについて考えるきっかけが何かありましたか?

LIM KIM - 海外に行けば西洋の人たちが見ているイメージのようなものを感じるし、国内でも女性を見る時の固定観念があるように感じます。そういう経験というのは様々な状況の積み重ねですね。私の場合、元々K-POP歌手として活動していたからかもしれませんが、海外でも国内でも「K-POPの女性ソロ歌手」に対する画一的なイメージがあって、それを幼い頃から意図せず経験してきたので、その頃から「なんで私をこうやって見るんだろう」という考えが浮かぶようになったんだと思います。

- 曲ごとにイメージしたキャラクターがあるとのことですが、「asuka told me / we the kumi for girls / i wear fuku with the rose」「my flavor's like wasabi / it's not your typical taste / our style lookin' so kawaii」などYELLOWには日本語の歌詞も多く散りばめられてますね。YELLOWのイメージはどのようなものだったんでしょうか?

LIM KIM - “YELLOW”のイメージは「GIRL BOSS」です。『スケバン刑事』みたいな女ヤンキーみたいなイメージ(笑)『スケバン刑事』が面白いのは、ただの若い女子学生みたいな姿なんだけど、実際彼女たちは喧嘩して攻撃的で、っていう正反対のイメージも持っていて。見方によっては、西洋人の考えるか弱くて可愛い東洋の女性のようかもしれないですよね。でも彼女たちが想像も出来ないような口調や態度をとっているのを見て面白いと感じました。なので、このイメージを曲に反映させようと思ったんです。西洋の人達の想像を破壊するような内容が特徴です。

- フォークポップデュオTogeworl、そしてソロシンガーのキム・イェリムとして活動していた頃に比べ大きくイメージが変わった事に日本のファンの多くも驚いたと思います。

LIM KIM - 今回は初めて私が曲からアルバム全体のディレクションまで行なって活動しているので、「全く違う人」というのが正しいかと。元々他人が作ったものをやっていたのが、今は私自身が作ったものでやっている訳ですから、大きく違うように感じるのは当然だと思います。ハタチの頃から突然歌手として音楽活動もするようになって、多くの人にも会って、多くの出来事を経験して、その以前には無かった世の中に話したい事や表現したい事、というのが生まれました。なので、このように力強く変化したのではないかと思います。

- ここまで大きくイメージを変えることはチャレンジングな事でもあると思いますが、それに対する恐れはなかったのでしょうか。

LIM KIM - 思ったよりありませんでした。以前の活動を通して私を好んでくださっていたファンの方や、私が積み重ねてきたキャリアというのは私の物ではなかったと感じているので、「それらを失くしてしまうのではないか」という恐れがなかったんだと思います。実際の反応としては半々ですね。私を人間として好んで下さっていた方は今回のような全く違うコンセプトをしても、私という人間自身を連続的に見てくださっているようですし、その当時やっていた音楽ジャンルを好んで下さっていた方はそうではないと思いますし。

- 以前は事務所がしてくれていたことを、いきなり全て一人で始めたわけですよね。その部分で苦労はなかったですか?

LIM KIM - 良し悪しがあると思うんですが、会社に所属していた時は私が制作の過程という物を何も知らなかったんです。どうやって曲を制作して進行しているのか、カバーを撮ってもどの写真が選ばれて、どういう風にリリースされるのか、全て完成した時に成果物を見る感じでした。なので、私が実際に知っている部分というのは少なかったんです。でも、今回は1つ1つ自分自身が選択しなくてはならなくて、以前はしていなかった楽曲制作も初めてやってみました。だから、今回これだけ多くの時間がかかったのだと思います。でも以前は私の性格上、会社が全部してくれる環境にもどかしさを感じていました。自分の能力が無くなっていくような感覚とでも言うのでしょうか?私にも基盤があって、直接見て、体験したいのに、提案されたものを最後に完成した形で見るので、私のものだけど私のじゃないようでした。なので、作品を所有している感覚が感じられなかったのだと思います。もちろん現在も全て一人で制作しているのではなく手伝ってくれる友達がいますが、全て自分から繋がった仲間で、全ての過程を共にしているので、以前とは大きく違うように感じます。

- それだけ自分の考えが反映されたアルバムという事ですよね。

LIM KIM - ポップ歌手でも自分の求める音楽、個人の性向や個性が入ることが重要だと思います。私の以前の活動はいわゆる「K-POP」なのですが、「K-POP」は「K-POP」というカテゴリーで見られている。個人に対するユニークな特長や音楽的なカラーというのが注目されない。それはその人の能力が無いというより、全体のシステムのせいで一人一人の能力が見えないだけなんです。上の人たちが全てを決定して、指示だけするから。そういう部分を残念に思っていました。私は高校生までは普通の生活をしていて、自分のやりたい事をしていたので、音楽的な部分だけではなく、そういったシステムや、公の場で見せる姿というものに違和感を持っていたのだと思うし、私たちの国だけではなくアジアの人々、海外でも同様に個人の思考がより認められたらいいなと思いました。

- 日本でも少なからず女性ソロシンガーに対する「歌姫」のようなステレオタイプは存在するように感じます。

LIM KIM - 私のように、かっこいいイメージを表現する以外にも、力強く自分のイメージを入れ込むことができると思うんです。ただそういう機会がなかなか与えられないので、だんだん考えもしなくなるし、今では「ガールズクラッシュ」もなんだか単なるコンセプトになっているように感じますよね。最近はインターネットやYouTubeでもなんでもすぐにアクセスできるようになっているので、ただ既存の方式だけでやるのではなく、誰もがもっと色んな表現をする機会が増えたらいいなと思います。

- WWW / WWW X /WWWβのニューイヤーパーティー『INTO THE 2020』の出演が決まりましたが、日本でのライブで期待している事は?

LIM KIM - 今回のアルバム発表後は韓国でも他の国でもまだあまりライブをしていないのですが、日本で早速ライブをする機会が得られて嬉しいです。先程お話しした通り今回のアルバムは東洋がテーマで制作したものなので、同じアジア人として共感することができる部分があると思うので、そういった部分を日本の皆さんがどうやって聞いてくれるのか、公演する時の反応も気になりますね。

- 最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。

LIM KIM - 実は、東京は元々旅行で何回も行った事があってよく知っているんです。渋谷にも沢山行ったことがあるので、そこでライブをするなんて面白い感じです。英語でコメントを書いてくれる人はいても、日本で活動する機会はなかったので、今回直接皆さんにお会いしできるのが嬉しいです。日本のファンや、私の音楽を聴いてくれている人々が私の音楽やメッセージに共感して聴いてくれたらいいなと思います!

Info

INTO THE 2020
日程:12月31日(火)
会場:WWW / WWW X /WWWβ
時間:OPEN / START 21:00
チケット:ADV。¥3,500(税込/オールスタンディング/ドリンク代別)※未成年者の入場不可・要顔写真付きID
E + / ローソンチケット [Lコード:75226] / iFLYER(アイフライヤー) / RA / WWW店頭
ライブ:田我流/ Gabber Modus Operandi / GEZAN / Lim Kim / SANTAWORLDVIEW / Tohji / VaVa

DJ:悪魔の沼(Compuma / Dr.Nishimura / Awano)/ Aspara /εY∋(BOREDOMS)/ KM /桜井真理/ Mars89 / MOODMAN / Mr. Ties / okadada / suimin /リョウコ2000 /林義典/¥ØU$ UK€¥UK1MAT $ U / YOUNG-G、MMM(stillichimiya / OMK)

https://fnmnl.tv/2019/12/10/87525

RELATED

【インタビュー】DYGL 『Cut the Collar』| 楽しい場を作るという意味でのロック

DYGLが先ごろ発表したニューEP『Cut the Collar』は、自由を謳歌するバンドの現在地をそのまま鳴らしたかのような作品だ。

【インタビュー】maya ongaku 『Electronic Phantoms』| 亡霊 / AI / シンクロニシティ

GURUGURU BRAIN/BAYON PRODUCTIONから共同リリースされたデビュー・アルバム『Approach to Anima』が幅広いリスナーの評価を受け、ヨーロッパ・ツアーを含む積極的なライブ活動で数多くの観客を魅了してきたバンド、maya ongaku

【インタビュー】Minchanbaby | 活動終了について

Minchanbabyがラッパー活動を終了した。突如SNSで発表されたその情報は驚きをもって迎えられたが、それもそのはず、近年も彼は精力的にリリースを続けていたからだ。詳細も分からないまま活動終了となってから数か月が経ったある日、突然「誰か最後に活動を振り返ってインタビューしてくれるライターさんや...

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

Floating Pointsが選ぶ日本産のベストレコードと日本のベストレコード・ショップ

Floating Pointsは昨年11月にリリースした待望のデビュー・アルバム『Elaenia』を引っ提げたワールドツアーを敢行中だ。日本でも10/7の渋谷WWW Xと翌日の朝霧JAMで、評判の高いバンドでのライブセットを披露した。