【インタビュー】Daichi Yamamoto 『Andless』|自分を脱いでいく

Daichi Yamamotoが本日9/4に1stアルバム『Andless』をリリースした。昨年リリースしたAaron Choulaiとのコラボ作『WINDOW』やKojoeの作品への客演などでも、その自由なフロウで斬新な印象を与えてきた彼だが、ソロアルバムとなった本作では、多彩なフロウはそのままに、より自身の内面の感情に迫るリリックに惹きつけられる作品となっている。

ゲストにはJJJをはじめKID FRESINO、VaVa、Ai Kuwabara、そして同郷の中村佳穂が参加。プロデューサー陣にもJJJ、VaVa、grooveman Spot、Kojoe、KM、okadada、Arμ-2やTaquwamiなど精鋭たちが集結した1stアルバムはどのように作られていったのか、彼のルーツと共に迫った。

取材・構成:和田哲郎

撮影 : Yuki Hori

- Daichiさんはお父さんが京都・Metroオーナーだったり音楽と近い環境にいましたよね。ロンドン芸術大学ではインタラクティブアートを勉強していたと思うんですが、音楽を職業にとは思ってなかったんですか?

Daichi Yamamoto - 思ってなかったですね。どちらかというと絵描きとか漫画家になりたくて。音楽を始めたのも結構後半で。もちろん好きで聴いてはいました。

 - 自分でやろうと思っていなかったのはどうしてですか?

Daichi Yamamoto - 始め方もよく分からなかったし、多分そもそも興味がそんなに無かった。「聴き手側でずっといいや」みたいなポジションで。楽器とかが弾けたら弾いてたんですけど弾けなくて、でもヒップホップにハマった頃から、リリックだったら誰でも書くことは出来るなと思って。

 - 「始めたきっかけはぼんやりしてて覚えていない」ということですけど、ヒップホップにハマったのは何歳ぐらいですか?

Daichi Yamamoto - 高校ですね。小学5年生ぐらいから友達とBIllboardトップ10に出てくるような洋楽とか、そういう王道を聴いたり、Youtubeがなかったんで洋楽のPVコンピレーションみたいなのを買って自分の家で友達と見てファッションとか仕草を真似してました、でも自分から深く調べて聴くようになったのは高校です。

 - そのきっかけになった作品などはありますか?

Daichi Yamamoto - Sound Providersっていうジャズ系ヒップホップ。それまでギャングスタラップがヒップホップだと思ってたんですけど。お兄ちゃんの影響で「これがヒップホップじゃ」みたいな。お兄ちゃんは50 Cent、2Pacみたいなイカついムキムキ系を聴いてて、それが最初はあんまり合わなくて。で、Run DMCとかを聴いてみたんですけど「なんかちゃうな」って。その時兄ちゃんがたまたまレコードで掛けてたんですけど、ジャズをサンプリングしたSound Providersの“Who am I”って曲があって、「めっちゃカッコいい」って。「誰?」って聴いたらバカにされそうだから、紙に書いてバレないように調べて(笑)それからジャズヒップホップにハマりました。

 - 面白いですね。Gラップはちょっとマッチョすぎたという感じですか?

Daichi Yamamoto - 最初はGファンク系のトラックとか好きやったんですけど、歌詞カードを見たときに絶望して(笑)「マジか」と思って、それで一旦距離を置くみたいな。ジャズはそんなに聴いてなかったですけど、お父さんはジャズも結構好きやったんで。家でかかったりはしてましたね。

 - 聴くようになっても、聴く側とやる側は結構カッチリ分けてたんですね。

Daichi Yamamoto - そうですね。その時は日本語のヒップホップは全く聴いてなかったんですけど、アニメの『サムライチャンプルー』を観て「これ誰なんやろ」って思って、それでShing02さんを知って。日本語でラップ書くっていうアイデアがその時初めて浮かぶっていう。今までは英語ばっかり聴いてて、英語でそこまで書けないんで書かないってところもあったんですけど。「日本語でも全然カッコいい」と思って、ちょっとずつ。

 - ラップ以外で日本の曲には触れてましたか?

Daichi Yamamoto - そうですね、結構J-POPとか聴いてました。

 - ちなみに、家では普段日本語を使ってましたか?

Daichi Yamamoto - お父さんとは日本語で、お母さんとは英語で。英語で喋ってくるのを日本語で返す。結構飛び交ってましたね。

 - じゃあ、その環境にいることが歌詞に影響したりしましたか?

Daichi Yamamoto - 今思うとそうですね。ロンドンにいたときに日本人のミックスの子がいたんですけど、ルー大柴みたいに日本語に「Very~」みたいなのを混ぜて、それでナチュラルに会話してて。それを聞いてた外国の人に「お前ら何の言葉を喋ってるの」って言われて。その子も音楽をやってるんですけど、そういう感じで歌詞を書いたりするんで。自然と英語と日本語を混ぜる文化はあるかもしれないです。

 - ロンドンで学んだインタラクティブアートは実際どういう内容ですか?

Daichi Yamamoto - 実際すごくバラバラなんですけど。最初の1年は基礎で、ある程度なんでも出来る状態にさせられて。映像撮ったり編集したり、写真撮ったり、プログラミングとか、全ジャンルの基礎をやり進めて。その後にインタラクティブな考えとかワークショップを2年目に受けさせられて、2年目の後半から自分が行きたい方向に行くんです。僕は個人的にサウンドアートとかに興味があったんで、音を使ったインタラクティブな作品を作ってたんですけど、友達はドキュメンタリーを作ったり写真家になったり、舞台芸術をやったり。

 - そのときのサウンドアートは、曲も自分で作ってましたか?

Daichi Yamamoto - そうですね。曲を作るというより、レコードのサンプリングみたいに実際にヴァイナルを切ってピザみたいにつなぎ合わせて、それを再生して一つの変なループを作ったり。ゲームの『Pong』のパドルを自分の声の高低差で動かして、それでゲームするとか。そういう、あんまり音楽音楽してない物ですね。

 - どちらかというと音自体に対して興味があったということですね。

Daichi Yamamoto - メインでそれをやってサブで自由なことが出来て、それも提出するんですけど、それで自分で曲を作ってMVを作ったりもしてました。

 - その曲は音楽的に今の感じに近いものですか?

Daichi Yamamoto - 音楽的には結構ローファイなものですね。

 - その時のものはSoundCloudなどに発表してましたか?

Daichi Yamamoto - 上げてました。YouTubeとかに。

 - 2017年から日本で本格的な活動を始めた訳ですけど、「“上海バンド”が自分の転機になった曲だ」と言ってましたよね。改めて、“上海バンド”はどのあたりが転機になったんですか?

Daichi Yamamoto - それまでは歌詞の内容とか「何か伝えたい」とか、メッセージ性を先行させて曲を作ることが無かったんですけど、日本に帰ってきてから色んなアーティストと出会って聴いて、メッセージ性の面白さを知って。それこそVaVaちゃんのリリックとかは自分に正直で、その姿勢がすごく好きだなと思って。結構アルバムを通してそれがコンセプトになったんですけど、自分に正直に書くみたいな、着飾らないみたいな感じで。そういう方向性をざっくり持ってたんですけど、それが“上海バンド”で初めて形になったというか。キーソングになりましたね。

 - 実際に歌詞の書き方やスタイルも変わりましたか?

Daichi Yamamoto - 変わりましたね。いつもは音に嵌めて自分の気持ちをラップするのが絶対だったんですけど、“上海バンド”に関してはその反対というか。書いたものにどうやって合わせるか考えつつ、そのまま行くと自分が今までやってきたことの意味が無くなっちゃうんで、そういうのをサビとかブリッジで嵌めてあげて、全体的にバランスを整える作業をやりましたね。

 - 自分に正直な部分もありつつ、「これはフィクションなのかな?」みたいな要素もあったり、断片的なものが挟み込まれてくるのがDaichiさんのリリックの面白さですよね。視線が一つだけじゃないというか。

Daichi Yamamoto - 一行ごとに意味が飛躍する、みたいなことはずっとやりたくて。自分の中でそんなに上手く行ったという感じはないんですけど。映画もそうですが、Frank Oceanの歌詞の意味の飛びかたがすごく好きで。全然関係ないことを言ってるんだけど、それが想像力を刺激するようなリリック。ちょっと俳句的な感じがあって。

 - 余白がある。

Daichi Yamamoto - そうですね。リリックは思い出せないんですけど、すごく情景を細かく説明するというより、断片的に写真のように描写していって、それを聴き手側が頭の中で想像して、色んな解釈が出来るみたいなのが。

 - “上海バンド”でも「これは実際に自分にあったことなのかな?」と思わせるところも多いというか。例えば「仲間とラッパー、ペインター、不思議な三人」というシーンとかも、本当なのかフィクションなのか凄く揺らがされるというか。その後のヴァースも「缶コーヒーとタバコ休憩」というところだったり、最初に出てくる人とその次に出てくる人が違うような感じがして。

Daichi Yamamoto - 確かに。あの曲に関しては友達のために書いたんですけど、友達の目線の曲で。上海バンドに三人で行って、そこでご飯食べてって話だったんですけど、その時にそいつがめちゃくちゃ「仕事辞めたい」って話をずっとしてて。僕はタバコ吸わないんですけど彼はタバコ吸うんで、彼の職場とかを2ヴァース目で想像して「こんな感じのとこでこんなこと思ってるんやろな」って展開して。3ヴァース目で「それでいいやん」って話になるんですけど。

 - 自分のことを歌うこととは違うというか。

Daichi Yamamoto - そうですね。そのアイデアもKendrick Lamarを聴いてて思いついたことなんですけど、彼は彼の身の回りに起きたことをあたかも自分の身に起きたように歌ってるシーンが凄くあって。聴いてると凄く悪い一面と優しい一面があって、その掴み所のない感じが凄く良くて。彼のコンプトンの地域を体現しているというか、だからサポートされてるのかなって。

 - このアルバムを聴いてると、もちろんサウンド的にも多彩だし、リリックも「どれがDaichi Yamamoto自身なんだろう?」っていうのが良い意味でわからない部分もあって。今回はトラックも、オルタナティブなものから影響を受けたビートが多いのかな、という感じが良い形で裏切られてるというか。KMくんのビートの曲は結構ハードだし、そもそも音の幅は広く持ちたかったんですか?

Daichi Yamamoto - そうですね。ヒップホップだけ聴いて育ったわけではなくて、レゲエとかハウスとかテクノとか、色々聴かされて。アルバムの曲は自分的には全部ヒップホップなんですけど、いわゆる「こう」みたいなのに縛られたくはなかったというか。そもそもそういう考えが頭の中に無かったので、一回ブレーキをかけそうになって「ブーンバップ系のビートを入れようと思うんですけど」って言ったら、マサトさんに「それやるんだったら振り切って入れない方が良い」と言われて。

 - じゃあ最初にやりたかったこと通りのアルバムが完成したんですね。

Daichi Yamamoto - 今アルバムを通して聴くことが少なくなってるのもどこかにあって、みんなプレイリストに入れて聴くじゃないですか。最初、急にああいうハードなのが来たりスポークンワード系が入ったりすることを心配してたんですよ。一枚のアルバムとしてまとまるのかなと思ったんですけど、逆に最初と最後の曲でガッと無理矢理一つにして、中で色んなジャンルに振り分けられるという状態にしておいて、気分でピックアップして聴けるような状況を作れたら良いのかなって。

 - 実際に自分で音楽を聴くときもアルバムを通して聴くというよりは、プレイリスト的な聴き方が多くなってますか?

Daichi Yamamoto - そうですね、後は一曲単位で聴いたり、延々と無限ループで30回ぐらい聴いたり。その中でも本当に良いアルバムに出会ったらアルバム通して聴いたりはしてますけど。

 - 「良いアルバム」の条件ってどんなものだと思いますか?

Daichi Yamamoto - やっぱり長く聴けるっていう意味で、流行りに乗りすぎてないけど乗らなさすぎてなくて...(笑)絶妙な距離感を保ちつつ、聴けば聴くほど旨味が出るような。普遍的なテーマがあったりすると長く聴いてもらえるのかなと思いますけど。Kendrick Lamarのアルバムは全部今も聴けるし、初期から聴き直しすこともできますよね。Frank Oceanも一本目のミックステープも『Channel Orange』も今聴いても再発見があって、Nasの『Illmatic』とか、いわゆる名盤もそういうのがあるのかなと。後、ちょっとシネマティックで物語性がある作品もそうですね。

 - 「自分のアルバムのここをこうまとめたら良くなったな」と思うところはありますか?アルバムとして完成させるために気をつけたポイントというか。

Daichi Yamamoto - ざっくりしちゃうんですけど、今回はリリックを意識して気をつけましたね。何を気をつけたかって言われるとアレなんですけど(笑)でも、いつもよりも時間を割いたというか、書き直すことが多かったんで。「ここをこう言ったらもっと意味が変わるかな」とか、「ここで“俺”って言ってるのを“君”に変えたら違うように見えるのかな」とかを意識しました。あと、ビートとかも全体的に似てないけど似てるみたいな、雰囲気感や温度感は意識しましたね。

 - ちなみに、一番書き直した曲はどれになりますか?

Daichi Yamamoto - “Escape”と“Let It Be”、あと“She Ⅱ”。フィーチャリングが入ると、やっぱりちょっと負けられない気持ちになる(笑)。“She Ⅱ”に関しては自分で完成させてからJJJに送るのがマナーとして良いと思って書いてたんですけど、架空のJJJのヴァースを頭の中で想像して、何を書いても「いや、これじゃ擦り合わないな」っていうのがあって、ずっとそれで書き直してから送ったんですけど。“Let It Be”のKID FRESINOくんの場合は、書いて送ったら速攻でヤバいのを書いて来て「これはヤバい」と思って少し書き直しましたね。でもBig Sean がKendrick の"Controll"のバースを聴いても書き直さなかったって言ってて、意地じゃないですけど変えすぎたら違うなと思ったので3%程変えて。 そこからサビが決まらなくてすごく迷いました。“Escape”はアルバムの中で最初の方に出来た曲だったんで、まだ自分の中で書きたいことや方向性が定まってなかったので。そういう意味で時間が普通にかかりましたし、没頭しすぎて曲の本質が分からなくなって、マサトさん(A&Rを務めるJazzy Sportの福田氏)とgrooveman Spotさんにイイねって言われて初めて我に返れて終りが見えました。

- リリックも女性に関するトピックが多いですよね。そこがちょっと意外だったというか。僕は結構、女性に関するトピックもフィクション的なことが多いと思ったんですが、そうじゃなくて一人の人に対してですか?

Daichi Yamamoto - そうですね。一人の人だったり、フィクションもあるんですけど。“Los Location”とか“Brown Paper Bag”とか“She Ⅱ”はまあまあガチです(笑)

マサト - 確かに女の子ネタ多いよな。

Daichi Yamamoto - 一応時系列もあって。

マサト - 当初Daichiの曲は言葉が弱いというか、当たり障りの無い言葉が並んでたから、もっと生活の中の言葉とか身近な言葉を入れたらもっと良くなるんじゃないかなって話をしてて、出て来たのが“Brown Paper Bag”で。これはちょっと吐露りすぎじゃないかって思ったんですけど(笑)相手方もいることだし「大丈夫なの?」って確認したら「大丈夫です」ってことだったから一皮むけたのかな、と。

- “Brown Paper Bag”はメッセージじゃないけど、自分と向き合って書いたってことですね。

Daichi Yamamoto - 全体的にレベルは違うかもしれないけど、正直に書くのはテーマにしてました。それを「Undress(脱いでいく)」っていう。しっかり思ってることを書く。一番それが難しいってことに気づいたんですけど。自分で普通だと思ってることがいっぱいあって、それをマサトさんとか友達に喋ってると「それ全然普通じゃねえよ」ってことがあったりして。それをもう一回自分でピックアップする作業に今後もフォーカスしようと思って。そうやって書いた曲の方がみんな面白いと言ってくれたり、共感を生めるんで。パーソナルになるほうがもっとみんなも「あー分かる」ってなれるんじゃないかって。

- 前はもう少し俯瞰してたんですか?

Daichi Yamamoto - 前は音としてリリックを書いてたんで、ここまで吐露っとしてなかった。VaVaちゃんにも同じことを言われて、一緒に曲を途中まで録って家に行って、どういう風にブラッシュアップして行こうって話をしてるときに、VaVaちゃんが「Daichiくん歌えてラップ出来てちょっと隙が無いんで、人間臭さが絶対出た方が良いんすよ」って。そのときタイムリーにマサトさんとそういう話してたんで、そういうのは意識しましたね。直接的では無いけどVaVaちゃんの歌詞とか聞いて、イメージしたりしました。

 - トラック選びに関してはどういう部分を意識していますか?

Daichi Yamamoto - 10曲、20曲くれる人もいるし、1曲だけの人もいたんで曲によって違うんですけど、今回は結構「このビートだったら普段はやらないだろうな」とか、どう乗って良いのか分からないやつとかもあったんですけど、マサトさんと相談しながら取り敢えずやってみて、形になるんじゃないかって。取り敢えずやってみるって姿勢で録って、出来たら意外に面白かったですね。

 - 「最初は出来るか分からなかった」という曲はどれになりますか?

Daichi Yamamoto - okadadaさんのやつとか、あとVaVaちゃんのやつも結構考えました。okadadaさんのやつは逆に2000年らへんのノリで、選択肢がありすぎてどうラップして良いか分からなくて。どうラップしてもNeptunesやPusha Tのあの2000年頃のカッコ良さに勝てないっていうのがあって、それで苦戦して。逆に振り切って、ラップしようと思うのを一旦やめて自由に作ったらああなりました。VaVaちゃんのやつも今までやったことがないグルーヴ感で、独特のノリ方があったので何回か書き直して。

 - okadadaさんにトラックを頼もうとしたのはどういう経緯ですか?

Daichi Yamamoto - マサトさんが推薦してくれて。直接喋ったことはなかったんですけど、元々METROとかのパーティでよく名前も見るし、自分の周りの人らと距離が近かったんで。でもちゃんと挨拶をしたことはなくて、そういう意味でもちょっと面白いって。京都のビートメイカー今回いないなってふと思ったんですけど、okadadaさんとかdhrmaくんとか、日常で接するくらいの距離の人が入ってるので面白いんじゃないかと思います。

 - 今回のトラックメイカーの名前を見て「こんな人も入ってるんだ」と思う人も多いと思うんですよ。

Daichi Yamamoto - 自分のコミュニティが無いんで(笑)地元でコミュニティ作ってやってる人もいるんですけど、僕は大学時代に京都にいなかったからまだ良く分からなくて。最近出会うことが増えました。

 - パーソナリティとしてもそういうところがありますか?リリックを見ても「自由」を個人的に大事にしているのかな、と。

Daichi Yamamoto - そうですね。何かに縛られるというか、一つのものに頼って何かするというのは、あんまり好きじゃない。

 - 子供のときからそうでしたか?

Daichi Yamamoto - どうなんでしょう。未だに小学校からの友達が一番仲良いです。そういう意味ではずっと同じグループかも知れないですね。少人数でずっと遊んでるみたいな。でも子供の頃からこうしないとだめとかそういうのはあまり好きじゃ無かったですね。

 - ボーカルでいうと、中村佳穂さんが入ってますよね。中村佳穂さんの魅力はどんなところですか?

Daichi Yamamoto - 無条件に明るくさせてくれるというか。会ってもそうなんですけど、曲もそうで。元気づけられる。テクニックの面でもぶっ飛んでるなっていうか、声の質も唯一無二で。音のはめ方も、どちらかというとフロウを意識してラップするんですけど、それさえも超えちゃうような言葉と音の合わせ方をしてて、単純にすごいなって。京都で一回ライブに呼ばれてセッションしたんですけど、リハの段階から凄く自由で、それに周りのバンドの人が合わせていくみたいな感じで。ヒップホップはトラックをかけて歌ってって感じでバンドならではの自由さは無いと思うんですけど、それにみんなが対応して、演奏することでもう一度曲を作る感じがあって。それが中村佳穂さんのライブで面白かったです。J-Popの親しみやすさもあるんですけど、ああいうのを見るとジャズやファンクのエッセンスも入っていて、無敵やなと思いますね。

 - 今回は自分でトラックを作ってる曲もありますよね。今後はビートメイカーとしてもやっていきたいと思っていますか?

Daichi Yamamoto - 基本は自分のために作るので今はいいかなと思っていて。リリック書きながら作るのが楽しいんで、それは自分で楽しめるやり方があって。お願いされたら頑張るかもしれないですが、進んで「トラックメイクしてやっていきます」というのはまだ無いです。

 - セッションしながらというか、両方一緒に作っていく形が面白いというのも、いわゆるバンド的な感覚というか。

Daichi Yamamoto - 着地が見えないのがスリリングで、どっちにでも行けるみたいな状況で曲とビートを作っていく。

 - マサトさん的に見て今回のアルバムはどういうアルバムですか?

マサト - どういうアルバム...?1stアルバム(笑)

 - (笑)でも、1stアルバムっぽくもないじゃないですか。完成度と、音の幅的に。それがアーティストとしての個性なのかなと思うんですが。

マサト - うーん…。イメージが固まっていない1stアルバムだから試せる。試すうちに「どのスタイルがDaichiにとってベストなんだろう」って探る期間が結構あって、色んなタイプのビートを渡してやってみる。取り敢えず挑戦しよう、ダメならダメで無しにするからとにかく作ろうって進めてました。それで作っていったら、各曲ある程度のクオリティを更新していくから。一個の曲を軸に作っていくアルバムというよりは、もっと幅広いというか。色んな角度からお客さんが来て喜んでくれるだろうなっていうイメージでした。客演も色んなところから来ていただいて。特定のシーンに属してない人だから、そう言う意味では色んな人が入れる作品っていうのを彼の最初の立ち位置として、Daichi Yamamotoを定義するアルバムになりましたね。

 - 曲数も多いじゃないですか。それは自然に増えて行ったんですか?

マサト - 個人的には12曲くらいに収めたかったけど、どんどん出来るから。ってことは枯渇することは無いってことでもあるし。今回は100%詰め切ってない部分ももちろんあって、まだ余白はあるしまだ見せてない所もあるから、次作では今作もまた超えれるかな、と思ってます。何にせよ取り敢えず今は沢山曲を作った方が良いって。そういう状況ですね。

 - ちなみにまだリリースされてない状況ですけど、次に試してみたいテーマも考えていますか?

マサト - 海外に向けた動きをしたい。英語も喋れるし。ステージングを見てても海外のアーティストと比べて引けを取らないし、声も出てるから海外を視野に入れて動くべきだなって。僕英語話せないですけど(笑)

Daichi Yamamoto - 個人的にも出たいですし、もっと長い目で見たら音楽以外のことにも手を出したいし。今回のアルバムは全体的に冷たい印象だったんで、もし次作るならもうちょっと温かみのあるというか、エネルギッシュなものにも挑戦したいですね。

 - ありがとうございました。

Info

Artist: Daichi Yamamoto / Title: Andless
Label: Jazzy Sport / Cat No: DDCZ-2237 / File Under:Hip Hop CD
税抜上代: 2,500yen / 発売予定日: 2019.09.04

- Track List -
01. Dress Feat. Ai Kuwabara
02. Be Good
03. 上海バンド
04. Los Location Feat. VaVa
05. One Way
06. Crystal Feat. Kaho Nakamura
07. Champion
08. Sunday
09. Brown Paper Bag
10. Let It Be Feat. Kid Fresino
11. U.F.O
12. Escape
13. Concrete
14. School
15. She II Feat. jjj
16. How
17. Undress Feat. Ai Kuwabara

RELATED

【インタビュー】5lack 『report』| やるべき事は自分で決める

5lackが今月6曲入りの新作『report』をリリースした。

【インタビュー】BES 『WILL OF STEEL』| 初期衝動を忘れずに

SCARSやSWANKY SWIPEのメンバーとしても知られ、常にアクティヴにヒップホップと向き合い、コンスタントに作品をリリースしてきたレジェンドラッパー、BES。

【インタビュー】CreativeDrugStore 『Wisteria』| 11年目の前哨戦

BIM、in-d、VaVa、JUBEEのMC4名、そしてDJ/プロデューサーのdoooo、ビデオディレクターのHeiyuuからなるクルー、CreativeDrugStore(以下、CDS)による、結成11周年にして初となる1stアルバム『Wisteria』がついに発表された。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。