『グラス・イズ・グリーナー:大麻が見たアメリカ』|大麻と音楽や人種差別の歴史、そして合法化の先を描くドキュメンタリー
先日4月20日、Netflixにてドキュメンタリー『グラス・イズ・グリーナー:大麻が見たアメリカ』の配信が開始された。このドキュメンタリーはヒップホップレジェンドであるFab 5 Freddyが監督と案内人を務め、アメリカにおける大麻の過去と現在を紐解いていくものである。
『グラス・イズ・グリーナー』では「アメリカの大麻の歴史は音楽と密接に関わる」として、大麻と音楽の歴史を同時並行で丁寧に掘り下げていく。メキシコからもたらされた大麻は1920年代ごろから「ジャイブ」「リーファー」と呼ばれ、ルイ・アームストロングのようなジャズミュージシャンたちに愛されてきた。その後もジャズと大麻は密接な関係を持ち、大麻をテーマとした楽曲も数多く歌われた。しかし、時の財務省麻薬取締局長官であったハリー・アンスリンガーによってアメリカの「大麻戦争」の火蓋が切られることとなる。
アンスリンガーは紛れもない人種差別主義者であった。アメリカで有色人種に対する明確な差別が法律で禁止されるようになり、彼は黒人たちに愛された大麻を取り締まることによって黒人たちを抑圧しようと考えた。メディアは「大麻を吸うと凶暴になる」「大麻を吸ったメキシコ人男性が家族を殺害した」といったデマを報道し、徐々に「大麻は危険なドラッグ」という認識が全米に広がるようになる。
その後もジャズシーンでは大麻を使用するミュージシャンが多く存在していたが、世間は白人たちがジャズクラブに行き黒人たちと関わりを持つことを恐れ、「大麻は危険である」との世論はさらに加熱していった。ジャズの盛り上がりと同時にジャック・ケルアック、アレン・ギンズバーグ、ウィリアム・ S・バロウズらに代表されるビートムーブメントが発生し、彼らに影響を受けたヒッピーたちが大麻合法化に向けた運動を開始した。
やがてベトナム戦争が勃発し、ニクソン大統領は反戦運動家たちを抑圧するため、彼らが愛した大麻への取り締まりを強化することを試みた。同時期に「シェーファー報告書」と題された医師、学者たちによる文書が提出され「少量の大麻は身体や精神への悪影響を及ぼさない」という発表がなされたが、ニクソンはその研究結果を黙殺し大麻の更なる厳罰化を試みた。ドキュメンタリーでは実際にニクソン大統領が発した「大麻をぶっつぶす」という肉声を聞くことが出来る。
その後もレーガン大統領によって大麻はより強硬に取り締まられることとなるが、音楽の世界ではヒップホップが満を辞して誕生。Run-DMC、Cypress Hill、Snoop Doggらによる大麻合法化に向けた戦いを垣間見ること出来る。Cypress Hillが1993年のサタデーナイトライブで生放送の本番中に大麻を吸う様子は痛快だ。
後半では、現在のアメリカでの大麻を巡る法律や状況の不合理が丁寧にあぶり出される。複数の州で大麻が合法化された現在も、かつての大麻所持厳罰化を受けて不当な刑を課された囚人たちが数多く存在する。その上、大麻に課される刑罰は年々厳しくなっているという。そして極め付けに、大麻所持で逮捕された者の多くは有色人種である。大麻を取り締まる影の理由であった人種差別は、現在も変わらず存在し続けている。
マリファナ産業が一大ビジネスとなった昨今は大麻愛好家にとって歓迎すべき状況ではあるが、黒人たちの文化であった大麻のビジネスで富を得ている者の多くは白人である。大麻の取り扱いには免許が必要だが、かつてストリートやアンダーグラウンドで大麻を取り扱い知識も技量もある者がかつての逮捕歴などを理由に免許を取ることが出来ないのだ。大麻が違法であろうと合法であろうと、大麻を巡る人種間格差は変わらず存在するという皮肉な状況がアメリカにはある。
日本でも大麻に関する議論が徐々に盛り上がりを見せている。『グラス・イズ・グリーナー』は大麻を禁止していた理由の不合理さ、大麻とカルチャーの関係、そして合法化の先に待っている問題の全てをきめ細やかに伝えてくれる。アメリカによってもたらされた法律を盲目的に信用し、客観性や冷静な視点を欠いた意見、報道が日本では多く見られるが、日本で大麻が違法である原因を作った国の現在を知ることで、議論を一歩前進させることが可能になるのではないだろうか。
大麻の合法化に賛成の方もそうでない方も、もちろんヒップホップ好きの方にとっても必見の内容に仕上がっている『グラス・イズ・グリーナー:大麻が見たアメリカ』は、現在Netflixで配信中だ。