【コラム】Prince 『Anthology: 1995–2010』| 後追い世代から見るPrinceの巨大さ

私が生まれたのは1987年で、Princeが9枚目のアルバム『Sign o' the Times』をリリースした年だから、Princeの音楽に関しては後追いもいいところ(ミーハーなことを言うと6月生まれの双子座でPrinceと一緒!)。名盤として取り上げられることの多い80年代の諸作を優先的に聴いており、正直に告白すると90年代以降の作品は後回しにしてしまっていた。今回は1995年から2010年にかけてリリースされたPrinceの音源をまとめた『Anthology:1995–2010』を後追い世代の一人がどのように聴いたかということを書いていきたい。

Princeという人がこの世界に存在することを最初に認識したのはおそらく1997年頃で、カーミットやミス・ピギーでお馴染みの「マペット放送局」にPrinceがゲストで出演した回を観たときのことだ。当時「マペット放送局」は教育テレビで土曜の夜に放映されていた。番組の冒頭、Princeは放送局の受付で警備員のクマに名前を尋ねられて、「かつてPrinceと呼ばれたアーティスト」と名乗ったり、当時の最新アルバム『Emancipation』のジャケットの中央に描かれたシンボルを指さして「ぼくの名前を読むことはできないんだよ」と言ったりするものの、クマにまともに取り合ってもらえないというギャグを演じていた。

その頃Princeは、Princeという名前を捨ててシンボルマークで自身を表し、周囲はPrinceを「かつてPrinceと呼ばれたアーティスト(The Artist Formerly Known As Prince)」と呼んでいた。後にYouTubeで件の回を再見したが、ぼんやりと記憶に残っていたのは番組の冒頭だけで、番組内で披露されたPrinceの音楽やパフォーマンスは記憶になかった。番組ではパペットとの寸劇のほかに、『Sign o' the Times』収録の"Starfish and Coffee"と『Crystal Ball』収録の"She Gave Her Angels"を披露していた。オプティミスティックなムードが横溢する愛くるしい"Starfish and Coffee"は、可愛いマペットたちとパフォーマンスするには打ってつけの曲で、映像とともに聴くと胸が締め付けられて泣いてしまそうになる。

"Starfish and Coffee"はポップスの名手、メロディ・メイカーというプリンスの資質を如実に表す曲であろう。他にもある種のポップス・ファンの琴線をくすぐる曲を多く残している。80年代の曲でいえば、"Do It All Night"、"Take Me With U"、"Rasberry Beret"、"Pop Life"、"Christopher Tracy's Parade"、"Do U Lie?"あたりか。ここでいうある種のポップス・ファンとは例えばPaul McCartney、Todd RundgRen、The Beach Boys、Prefab Sprout、XTC、Steely Danなどの音楽を愛好するような人といえば伝わるだろうか。ちなみに最初に買ったPrinceのアルバムは『Around The World In A Day』で、宮子和眞が監修した『インドア・ポップ・サイクル』というディスクガイドで取り上げられており気になったのがきっかけだった。『Anthology:1995–2010』に収められた曲では、1995年『Chaos and Disorder』収録の"Dinner with Delores"はジェントルで親しみやすいポップスで、ライブ活動をやめた後のXTCのような質感もあるし、初期のSteely Danを思わせたりもする。Princeはギターを歪ませてとてもクールなソロを披露しているが、そのサウンドはNels Clineのギターを思い出した。

2004年『The Chocolate Invasion』収録の"When Eye Lay My Hands on U"はNilsonの"One"、または『マグノリア』におけるAimee Mannの音楽のような寂寞としたポップスと思わせておいて、ドラム・マシンのフィルに導かれてFunkadelic的なワイルドで怪しいムードに突入。Childish GambinoがFunkadelicのようなサイケ調のファンクにオマージュを捧げた『Awaken, My Love!』を思い出す。

話は前後するがPrinceの音楽を初めて耳にしたのはおそらくK-1のテーマに使用されていた"Endorphinmachine"だと思われる。1995年リリースの『The Gold Experience』に収録された曲だ。K-1が全国ネットのゴールデンタイムで放送されるようになった1996年の頃のことだろう。ただその時点では、聴けば必ず血湧き肉躍るハードロック調の曲がPrinceによるものだと知らずにいた。2007年の『Planet Earth』には"Guitar"という軽快なアメリカン・ハード・ロック調の曲が収められている。ところでPrinceはGrand Funk Railroadのファンだったそうだ。

自ら積極的に音楽を聴くようになったあとで、Princeの名前とともにその音楽に触れたのは、スカパーの音楽専門チャンネルで2004年に『Musicology』のタイトルトラックのMVを観たときのこと。そのときPrinceは自らの名前をシンボルマークからPrinceに戻していた。当時このMVはよく流れていたので記憶に残っている。"Musicology"は先人たちによるファンクを礼賛する曲で、少しハネた16分のリズムに下半身がムズムズする。歌詞にJBの名前が出てくるが、JBの曲でいえば"Licking Stick – Licking Stick"など、ジョン・ジャボ・スタークスがドラムを叩いているタイプのリズムだ。2小節フレーズの1拍目でドラムのタムが叩かれるが、これはPrince流の"The One"オマージュなのだろうか。JBやP-Funkを支えたサックス奏者、Maceo Parkerは1999年の『Rave Un2 The Joy Fantastic』からPrinceの作品に参加しているが、この曲では演奏していない。"Musicology"もまたPrince一人で制作された曲で、そのことを改めて意識すると楽器を演奏する者としては畏怖の念を禁じ得ない。「ダチーチーチー」もお手の物なのね・・・。ちなみに2001年の『The Rainbow Children』収録の"The Work, pt.1"もJBおよびJB'sへのリスペクトが捧げられた曲で、ベースは元スライのLarry Grahamが弾いている。

"Musicology"を聴いて思い出されるのはBeyonceが2003年にリリースした"Work It Out"。プロデュースはThe Neptunes。シンセのプリセット音源を使用した打ち込みの曲で"Musicology"とはベクトルが異なるが、こちらも70年代のファンクをオマージュする曲。Princeもシンセを多用するミュージシャンだが、プリセットの音源をよく使用していたそうだ。The Neptunesは「こんなのどこで使うんだよ」と感じてしまいがちなギターを再現したシンセの音源をよく使用するが、どっこいこれがフレッシュで聴くものにインパクトを与える。

"Work It Out"もそうだし、PharrellがPrinceに歌ってもらいたいと思って作ったという"Frontin'"でもPrinceのカッティングを思わせる音色を聴くことができる。1988年の『Lovesexy』収録の"Alphabet St."のカッティングなんて「これ絶対Pharrellが好きなやつじゃん!」と思わず独り言を発したくなる。Princeなんだから当然だろ、と考えてしまいがちだか、ソロイストとして名高いPrinceはカッティングの名手でもあることを改めて心にとどめておきたい。

Pharrellにリスペクトを捧げられるPrinceのほうもネプチューンズを意識したかのようなサウンドを披露している。全米チャート1位を獲得した2006年の『3121』の"Black Sweat"だ。シンセの音色選びなどはPharrellと同じくPrinceの影響を受けたTimbaland的なところもある。この曲を聴いたときにPharrellやTimbalandはどのように感じたのだろう。もちろん本人にしかわからないことではあるが、もし仮に自分が彼らの立場であれば少なくとも1週間は嬉し涙を流し続けると思う。

『Anthology: 1995–2010』は37曲も収録された編集盤だが、取り上げることができたのは数曲だし、散漫な内容になってしまい恐縮してしまうが、今回改めて感じたのはPrinceが放った音楽の巨大さ及び音楽というものそれ自体の巨大さ。Princeはポップス史を更新する存在でもありつつ、ポップス史を体現する存在でもある。スケールが大きすぎてどれくらい大きいのかすらわからない。今後もPrinceの音楽に触れる度に想像以上の大きさを感じて唸らされるはずだろう。それはきっととても幸福なことのはず。そんなことを思う4月21日の一日前、雪の降っていない春の日であった。

鳥居真道

1987年生まれ。トリプルファイヤーのギタリストで、バンドでは多くの作曲を手がけている。また他アーティストへのライブやレコーディング参加、楽曲提供、選曲家としても活動。ピーター・バラカン氏はじめ多くの方とDJイベントも定期的におこなっている。

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