今月の25曲 | 2019年10月編 Selected by 高橋アフィ、CH.0、鳥居真道、Lil Mofo、和田哲郎
昨年よりスタートした好評の連載企画「今月の25曲」。様々な形で音楽に携わるレビュアー陣が、その月に聴いた音楽から5曲を紹介するコーナー。
レビュアーとして登場するのは、TAMTAMのドラマーでDJとしても活動し、好きな音楽は新譜という高橋アフィ、京都を拠点に活動するDJでKID FRESINOとのパーティ『Off-Cent』も話題のDJ CH.0。さらにトリプルファイヤーのギタリストで他アーティストへのライヴ、楽曲への参加も行う鳥居真道、東京を拠点に国内外で多くのギグをこなすセレクターのLil Mofo、FNMNLの編集長・和田哲郎の5名。
新譜だけでなくその月に聴いた楽曲ならなんでもOKという、ゆるい縛りの中から5人がセレクトした楽曲がこちら。
高橋アフィの5曲
1. SAULT - Smile and Go
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詳細がまったくわからない、多分3人組のバンド(?)。「質感の音楽」という感じで、すべての音が破茶滅茶カッコよく、ドラムのぱさぱさな音色も、音量デカ過ぎるしミスも目立つような音色ゆえに圧倒的に魅力的なベースの音色も、革命的なほどカッコ良いです。ローファイ文脈ともいえそうなんですが、vapor感の無さというか、ソリッドなざらつきが素晴らしく、「チル」や「サイケ」の流行を終わらせてしまうのではないかというほどの勢いを感じました。
アルバムでは曲ごとに雰囲気が違い、結果すべて最高というバランスなので、ぜひアルバム最初からじっくり聞いてください!
2. Marquis Hill - To You I Promise
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シカゴ出身のトランペッター、10月にリリースされたアルバム"Love Tapes"より。「オーセンティックなジャズをヒップホップ世代のグルーヴ感で再構築するハイブリッドな感覚の持ち主」などと言われており、本作もゴリゴリに重心の低い音作りとサイケで激チルでスピリチュアルな雰囲気がカッコ良いです。まったりとだけしてしまいそうな所を程よくタイトにもまとめるのがプレイヤビリティであり、さりげなく動き続けるベースに注目して欲しい1曲。
3. MC Wostin - Vida Noturna
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ノイズというか、インダストリアルというか、エクスペリメンタルというか、とにかく聞いたことがない面白い音が鳴っていることが多い気がして、日夜掘っているバイリファンキより。全部の音が不穏でうるさく、怖さ以外の感情が出てこない来ない上で、所謂トラップの「バスドラ入ってきた」的な解放感すらもない、踊りやすいかも不明な音作り。地獄とはこれ!みたいな凄みが最高です。ボーカルの声がずっと歪んでしまっている荒々しさも良し!
ここまで来るとエクスペリメンタルの上にポエトリーみたいにも聞こえ、じゃあ歌詞を聞いて楽しむのか…?謎は多いですが、刺激な音であることは間違いありませんし、個人的にも大好きです。
4. Yamaha Sessions | Greg Spero x Mike Mitchell
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いつもはドラム系チャンネルの動画ですが、こちらはヤマハのキーボードのチャンネル動画。Spirit Fingersというジャズ/フュージョン・バンドのキーボードGreg SperoとドラムMike Mitchellのデュオのスタジオライブ動画です。
特に聞いて欲しいのは前半の曲。デュオなんですが二人とも攻め攻めで抽象度がひたすら高く、リズムはしかっりあるのですが結果アンビエントにも聞こえてしまうような浮遊感のある演奏が素晴らしいです。Mike Mitchellの要塞のようなドラムは、アクセントの概念が無いというか、ループ感の無さ/どんどん音色(というか叩いている楽器)が変化するプレイで、従来の「ビートを刻む楽器」からはみ出してしまうような、それでいて繊細さというよりパワープレイで行ってしまう大胆さが素敵!
後半はハウシーな楽曲なんですが、こちらも二人とも攻めまくり。4つ打ち的な快楽性はほぼなく、かわりに演奏技術が大活躍。プレイヤーらしさが出たヘンテコさが面白いです。
5. Robert Glasper - Indulging In Such
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今までのポップな印象はどこへやら、エクスペリメンタルでビート重視になったRobert Glasperの新作Mixtapeより。リズムパターンがどんどん変わっていくのですが、その振り幅の広さと、そんな変化するにも関わらず自然に聞こえさせてしまう達人たちの技が面白い所です。個人的にはジャズという以上に、普通にビートものとして楽しみました。
高橋アフィ
TAMTAMのドラムの他、文章やDJ等。好きな音楽は新譜、趣味はYouTube巡り。
CH.0の5曲
1. Romare -Danger
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UKのハウス、ビートダウン名手 Romareが2年ぶりに新作を発表!という事で早速チェック。A面のDangerも素晴らしいですが、個人的にはこっちが大本命。ローテンションの曲だけど上がる曲。ほんのりアシッド感もあって、早い時間にかけてじっくりフロアの温度を上げてくのに持って来いな一曲。リリースはNINJA TUNE!
2. Stro Elliot - Marvin's Mood
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irieな雰囲気のイントロから、中盤 Marvin Gayeの声ネタでジワジワ込み上げてくる胸熱な展開に、グッと込み上げる何かがあります。正直この曲をきくまでは、90'sマナーに忠実な北米に数多く存在するJ dillaフォロワーの1人。ぐらいな認識でしたが、それが勘違いだった事に気がつきました。バッドな明け方にも陽気な昼下がりにも、等しく優しさを分け与えてくれる名曲です。
3. BEKON - Cold as Ice
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先日神戸の Nice Grooveというクラブで、名古屋南部のビートメーカー Ryo Kobayakawa君と一緒させてもらった時、DJでこの曲をかけていて、そのカッコ良さに思わず曲名を尋ねてしまうほどでした。気になって調べてみたら、 kendrick lamar - DAMN. にプロデュースで8曲(!)も参加している超気鋭のプロデューサーでした。その割には意外と注目されてない気がするので、風化させてはいけない名曲としてここにピックアップ。
4. Shigeto - MCM
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日を追うごとに円熟味を増してゆくデトロイト在住プロデューサー Shigeto、またの名をZachary Saginaw。IDM・ダウンテンポと実験的なビートアプローチから華麗なるグラデーションを伴い進化を遂げ、今やジャズのマルチプレーヤーと呼ぶに相応しい傑作をリリースし続けてます。
今回のEPも粒揃いで、特にデトロイトの兄貴分 Andresが参加したこの曲は、過去作Field Dayのジャズリメイク。よくある原曲負けの Remixやリメイクではなく、軽快なブロークンジャズへと見事にアップデートを遂げてます。特にレンジの広がりは原曲を遥かに跳び越え、アレンジもお見事です。
5. MONO/POLY - I'm Lit Like Fire
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Low End Theory終焉のニュースから早一年、危うくこの人の存在を忘れるところでした。LAビートシーン最盛期から常にカッティングエッジなダンストラックを供給し続け、随所にG-Funkを感じる、いい意味で浮いた存在だった MONO/POLY。
そんな印象とは打って変わって、今回は生音をふんだんに使った躍動感溢れるビートミュージックを展開してます。とにかくドラムのダイナミクスが素晴らしいです。
本企画連動のSpotifyプレイリストもまだまだ更新中! 是非チェックを!
CH.0
京都を拠点に活動するDJ。2017年 KID FRESINOと共にDJパーティー『Off-Cent』をスタート。
その他、数々のアーティスト・ビートメーカーの作品へのスクラッチ参加に加え、
自身のMixCloud上で多数のMIX音源を公開。現在、自身初となるアルバムを制作中。
https://www.mixcloud.com/channel-0/
鳥居真道の5曲
1. Los Pirañas - Infame golpazo
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コロンビアのギター、ベース、ドラムという編成のトリオバンドLos Pirañasの新作『Historia natural』より。フランスのEtron
Fou LeloublanやスウェーデンのSamla Mammas Mannaといったレコメン/RIO系バンドのコロンビア版といった趣の奇天烈でクールなサウンドが良し。乱れたトーンのギターを聴けばResidentsに参加したギタリストSnakefingerのファンもきっとにっこりすることでしょう。Afrosoundという70年代に活動したコロンビアのグループのユニークでファンキーなサウンドの遺伝子を受け継いでいるような気もする。アルバムまるごと素晴らしい内容なので非常にレコメンです。
2. Cannibale - Acceleration
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Cannibaleはフランスのエキゾ・ガレージ・バンド。エキゾ・ガレージなんていうジャンルが存在するかどうかはさておき・・・。バンドの詳細についてはフランス語の情報が多いため不明。音源はFrancis Bebeyのアンソロジーやフレンチ・ディスコ/ファンクの発掘音源集『France
chébran』シリーズなどリイシューものでも定評のあるフランスのBorn Bad Recordsからリリースされている。ドラムのちんまり具合がツボ。サンタナ風の間奏もマイケル・シュリーヴよろしく派手に叩かずひたすら地味なのがかわいい。
3. The Pro-Teens - Full Recovery
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前回ご紹介したSurprise Chefの音源をリリースするメルボルンのレーベルCollege Of Knowledge Recordsからリリースされた音源。アメリカの同名のバンドがいるが異なります。様々なグループのメンバーが集まって音源を作成し、手売りないしレコ屋に直で卸していたものをCollege Of Knowledgeが改めて流通及び配信している模様です。
治安の悪いパーカッションの音がいかす。iPhoneのスピーカーで聴くと非常に良い感じ。ポスト・パンクっぽい質感もありつつ、BADBADNOTGOOD的な浮遊感もあるアンサンブルがなんともクール。祭囃子の笛っぽい音も琴線に触れる。
4. Elisio Vieira - Tchon Di Somada
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大西洋の中央、アフリカ北西沖に浮かぶ群島国家、カーボベルデ産の70年代~80年代のコズミックな音源をまとめたコンピ『Radio
Verde』からピックアップ。ジャケがモロですね。Analog Africaが数年前に『Space Echo: The Mystery Behind The Cosmic Sound Of Cabo Verde Finally Revealed』という同様のコンピをリリースしていたが他レーベルによるその続編といった感じ。
テンポ速めのダンス音楽でノリとしてはカリブ海的。アコーディオンっぽいフレーズの軽い音色のシンセが良し。いわゆる「リズムの解像度」が高いプレーヤーたちの気合の入った演奏が素晴らしい。宇宙にメッセージを発信するにもそれなりに技術が必要ということ。
5. Nardeydey - Dreamin
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Nardeydeyはロンドン在住のミュージシャンで、“Dreamin”は3作目のシングル。どれもジャケが可愛らしいので思わず聴いてみたくなる。
冒頭の生っぽいドラムと手拍子の繊細なビートの組み立てとテンションの低いボーカルに心を鷲掴みにされる。エフェクトのかけ方も麗しい。一生に一度で良いからかんなエフェクト処理してみたい。その後の展開、いかに?と思っていると登場するのはモダンなギターのコード弾きで、鼓膜が融解。レイヤーの重ね方も実に見事。素材の組み合わせ、シルエットの妙で勝負するオシャレ上級者的なハイセンスさが漂う。実際のオシャレ上級者がそういうものなのかどうかはさておき・・・。
Kendrick Lamarの“Bitch, Don't Kill My Vibe”的な酩酊状態を思わせる浮遊感のあるサウンドだと言えるような気もするけれど、一方でどこか素面っぽい。タイトルが“Dreamin”だったことを思い出した。ゆめうつつ状態の心地よさともの寂しさ。オーガニックなサイケ体験。ラストのSEは『インセプション』でいうところのトーテム的なものが倒れる音ですか?
鳥居真道
1987年生まれ。トリプルファイヤーのギタリストで、バンドでは多くの作曲を手がけている。また他アーティストへのライブやレコーディング参加、楽曲提供、選曲家としても活動。ピーター・バラカン氏はじめ多くの方とDJイベントも定期的におこなっている。
Lil Mofoの5曲
1. Low End Activist - Street Level
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Dream Cycleも良かったけど買うならこっちかな。
ドキドキたのしみにしてる一枚です。
2. bergsonist - Sensation
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よさがちりばめられたbergsonistのすばらしい新作EPから。
全体的におすすめです。あついハートを感じます!!
3. Pelada - A Mí Me Juzgan Por Ser Mujer
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これは衝撃のリリースでした!!
拳をつきあげて合唱したい系です。感動しました。
4. Darkoo - Gangsta ft. One Acen (Gangstaway)
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マージナルボイスフェチのみんなにおすすめ。
声質がいきた一曲に強め女子大好きおばさんは沸きました!!
5. LEX - GUESS WHAT? feat. XakiMichele
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問答無用のニューエラ最重要人物では・・!!
実は謎に時代に抗い未だにサブスクしてないんだけど、もう無理かも。
Lil Mofo
リヨンのラジオ局、LYL Radioで2ヶ月に1本番組を担当しています。
https://soundcloud.com/lil-mofo-business
https://www.mixcloud.com/lilmofo/
http://lyl.live/show/lonely-only/
和田哲郎の5曲
1. Love Mansuy - Count On You
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モントリオール生まれで、ニュージャージー育ちのシンガーLove MansuyによるデビューEP『Of Age』から、柔らかくソウルフルなボーカルと、ソリッドに高揚感を与えてくれるトラックがモダンな1曲。こうしたソウルフルなR&Bとラップのトラックがほとんど変わらなくなってきてるよなと、今年はよく思いました。
2. J Rick - Want feat. Octavian
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Octavianと同じクルーEssie GangのメンバーでもあるプロデューサーJ Rickのアルバムは、個人的にもかなりグッときた作品でした。Octavianのアルバムもそうでしたが、クロスオーバーというよりも最初から様々な音楽と共に育ってきたんだなというのがわかる混ざりかた。さらに言ってしまえば、もう色々なものが混じってるのが普通だよねというのを、さらっとやっているのがよかったです。
3. Summer Walker - Come Thru feat. Usher
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今更かよ感もありますが、Summer Walkerのアルバムは下半期の重要作だったと思います。ボーイフレンドのLondon On Da Trackによる最小限のメロウさで最大限の効果を発揮させる、さすがの仕事っぷりに、テンションを落ち着かせたボーカルもバッチリすぎました。そして大ネタ中のぶちこみかたも文句なし。
4. Father - ICEMAN
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露悪なのかどうかギリギリなところを常についてきて、結果として品が出てしまうFather。今回も独自路線を突っ走り、ローテンションのラップの中に狂気を感じるというFatherらしさ全開の結果に。
5. Nocturnal Sunshine - Pull Up feat. Gangsta Boo & Young M.A
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このNocturnal Sunshineは、テクノシーンで活躍するプロデューサー/DJのMaya Jane Colesの変名ですが、メンフィスサウンドに影響を受けつつ、エレクトロニックな要素を取り込んだDJにもいい塩梅な1曲でした。
和田哲郎
FNMNL / shakke-n-wardaa