性表現、セクシャリティに揺れる韓国

韓国は5/9に大統領選挙の投票日を迎える。1回に100万人集まることもあった退任デモ運動から、一連の事件後の新しい大統領の誕生ということもあり、もちろん国民全体の関心度も高い。

そんな中で、候補者たちの出演する討論番組での一コマが話題となった。

それは軍隊内の同性愛問題に賛成か反対かという議論の中で、文在寅候補が「同性愛に反対する」と発言したのに対し、沈相奵候補が、「私は同性愛は賛成や反対ができる話ではないと思います。 性アイデンティティは、言葉そのままアイデンティティです。私は異性愛者だが、セクシャル・マイノリティーの人権とまた自由が尊重されなければならないと思います。それが民主主義国家です」という発言をしたのだ。

この発言は大きな反響を呼び、ツイッター上では2日経った時点で5.5万リツイートを記録し、翌日のニュースにも取り上げられた。あまりに爆発的な反応ではないか?と思うほどである。

去年から韓国ではものすごく性の取り扱い方について、注目が集まっていきていると少しずつ感じるようになった。

社会全体がまだ指針の決まらぬ、性の扱い方を問題視して毎回1から考えようという姿勢が見えるように思う。

よく韓国は性的表現の規制が厳しいと言われるが、私は女性アイドルがボディラインを強調した衣装で、きわどいダンスを踊っていることや、性表現を匂わすような歌詞を歌い上げる若いアイドルがいることに最初は驚いた。(その度によくミュージックビデオやテレビで音が消されたりしているが)

そういった芸術表現も規制されるなら、そういった表現を避ければいいのではとさえ思うが、どこまで芸術表現として可能で、どこからは不可能なのか、まだ国内ではっきりとした線引きがないからこそ、毎度のように規制がかけられる問題が起きるかもしれない。

昨年から何度も韓国内で議論が巻き起こっているフォトグラファーのrottaの作品についても同様だ。

ロリータ風の少女のグラビアを撮影している彼の作品は、素晴らしいという絶賛の声の一方で、度々問題視され、ときには大きな非難が起きている。

rotta

2

3
3枚ともVia https://www.instagram.com/_rotta_/

ここで実感するのが、韓国内でのロリータ(少女性)を含む表現がどれだけ難しいかということだ。rottaの作品が問題になるのは露出が多いことよりも、何も知らないような表情、あどけなさ、少女性の強調だ。「あくまでコンセプト」と眺めるか、「小児性愛コード」が含まれるかが議論の中心となった。

もっと露出が多くて過激でセクシーな写真であっても、大人っぽい成熟した雰囲気の女性の写真であるとこういった論争が起きない。同じ年齢の女性の写真でもロタさんの作品のように、成人した女性が制服を着ていることに度々議論がまき起こる。

正直コンビニなどで日常的に女性のグラビアが目に入る環境で育ってきた私にとっては、rottaの写真についての論争は正直あまりピンとこないもので、純粋に綺麗な写真だなと感じていた。(もうその時点で一つの指針を失っているのかもしれないが)

実際、日本では少女性は神聖化されてる部分もあるだろう。芸術表現においても、制服をきた少女というキーワードは大きい存在のように感じるし、アイドルにおいても20歳を超えた女性アイドルも制服のようなコスチュームを着ていることも少なくなく、日常的に少女的なコンテンツを見ているせいか、(私個人の感覚ももちろんあるかもしれないが)正直ロリータというキーワードに罪悪感を抱く事なく日常的に目にしている部分があるように思う。どこからが消費で、どこまでが芸術なのか、難しい線引きである。

結局ロリータにおいては女性自身の自発的意思が働いているかどうかが最後のキーポイントとなるのだろうが、大体の場合あどけなさを前面に押し出した表現がロリータとなる場合が多いので、そう思うとrottaが受けた批判というのも頷けるのだった。

ロリータでなくとも、セクシャル表現は度々問題視されている。昨年、男性向けのセクシー雑誌MAXIMの韓国版の表紙で、タバコを持った男性の横に車のトランクに押し込められた女性の縛られた足が見える表紙や袋に女性が入ったようなグラビアが大きな批判の的になった。見出しには「女たちは悪い男が好きだろ? これが本当に悪い男だ」とあり、これは女性蔑視であり、女性に対する暴力表現だ。と批判が相次ぎ、その号は全て回収される事態となった。

こういった女性蔑視の問題視される事の発端となったのは、以前の記事にも少し書いたが、去年の漫画家の未成年者性暴行容疑が発端となって、イルミン美術館のキュレーターが権力を盾に女性作家に対して行っていたセクハラが発覚したところからだろうか。

その時から権力のある男性に屈することなく声をあげようという運動がSNSやインターネットの掲示板上で巻き起こり、今まで声をあげることのなかった女性たちが、教授、作家、音楽家など著名人を含む主に文化的・社会的権力のある人々から受けた被害を次々に暴露していくという事態にまで広がった。

そんな話題の最中イルミン美術館で開催された『ソウルアートブックフェア』では、ガールズパワーをテーマに制作した作品も目立った。

4
WORKSとmat-kkalによるグッズ
5
Via http://work-s.org/

このように性的な問題について若い世代のアーティストが積極的に表現している事が多いのも興味深い部分だ。

女性アーティスト、75Aは「部屋の中での写真を見る人のために、ポーズを撮る訳でもない、それは外であっても芸術かわいせつかの議論も必要としない。韓国に住む75人の女性のブラジャー姿を撮りました」という女性の下着姿を掲載した写真集に音源のダウンロードコードをつけた作品を発売した。

75A

75Aは韓国で一番小さいブラジャーのサイズである。恥じらいのない目つきと表情、自分自身の自然な姿。それは、貴方に評価されるものでもないし、セクシャルの議論にかけられるものでもない。

7

8
2枚とも Via https://tumblbug.com/75a

この作品には、同時期に発表されたH&MのLadylike(女性らしさ)を再定義しようと作られた2016年のAutumn CollectionのCMに通じる表現を感じた。H&MがLadylike(女性らしさ)の再定義を訴えたように、女性らしさは他人に消費されるものではなく、自由な意思で行われるものである、という部分である。

 

自由な意思での性表現といえば、韓国にはZUZN magazine(韓国語で濡れた雑誌)というグラビア雑誌がある。これはレズビアン的表現を多く含む女性の作った女性の為のエロチック雑誌とでも言えようか。

ZUZN

10

11
3枚とも Via https://www.facebook.com/zuznmagazine/

雑誌紹介には「韓国の保守的な社会のタブーに残っている話題を挑発的に取り上げます。私たちの目標は人々の心を揺さぶることです。読者ターゲットは、主に20代と30代の女性です。私たちは読者にセクシーでフェミニンなイメージを提案しようとしています」とあり、これまで、BDSM&LGBT、ロリータ、百合文化、など国内でタブー視されがちな様々なテーマで毎号制作している。

濡れた雑誌に相対するかのように今年DUIRO MAGAZINEも創刊された。これは性少数者、創作者の窓口になって、同時代のゲイ文化に新しい呼吸を作ろうとすることをテーマにしたゲイマガジンだが、ハイファッション誌のような作りで、写真もとてもハイセンスで美しい。

Duiro Magazine

Duiro Magazine

Duiro Magazine
3枚とも Via http://duiromagazine.com/

このようにアーティストやデザイナー、ミュージシャンなど若い世代の表現者達が芸術表現として性を扱っていることも多いように思うし、それらは題材としてセクシャルであるが、誰もが手にとってみたくなる作品として昇華されているものが韓国には豊富にあるように思う。

紹介したように今の韓国では、今回の議論以外にもセクシャルをどう扱っていくべきか多くの論争が度々起きているように感じる。LGBTや、セクシャルな芸術表現、女性蔑視など問題は様々であるが、自分と違う性をどう扱っていくかが現在の韓国内で大きな問題意識として芽生えていることが実感できる。まさに社会全体で見直しているタイミングであるのだ。

こういった論争が巻き起こる度に、自分の国ではどういう状況なんだろうと考え直す事が多い。 セクシャルな要素を含む芸術表現に限っていえば、国によって規制や容認のポイントが異なっていることも実感する。

隣の国の話ではあるが、韓国が今後どういう指標をつけていくのか注目しつつ、自分自身は何をポイントとして指標を構えているべきなのか、我が身を振り返るタイミングとなればいいと思う。

実際今回の記事は、正直知識として未熟な部分も多い私が書いていい題材なのか迷いがあったが、韓国で生活する中で度々見聞きするこの問題を同じように日本にいる人に届いたらどう感じるだろうかと思い、まとめてみた。

当事者でない問題にどれだけ当事者のように考える機会を増やせるだろうか、と思うのだ。

Erinam

韓国在住のグラフィックデザイナー ・イラストレーター。

韓国ブランド等のアテンド・コーディネーターとしても活動。

http://erinam-ports.tumblr.com

instagram.com/i.mannalo.you/

RELATED

【日本と韓国 : 隣国で暮らしてみて Extra 】| Erinam

『日本と韓国 : 隣国で暮らしてみて』は日本から韓国に渡りキャリアを積んだアーティストや、日本に暮らす韓国のアーティストに話を訊くErinam(田中絵里菜)氏のインタビューシリーズ。今回は彼女の初の著書『K-POPはなぜ世界を熱くするのか』の発売を記念して、番外編としてErinam自身の韓国生活について話を聞いた。

BEST BUY 2020 Selected by Erinam

全世界がコロナ禍に揺れた2020年も、いよいよ年の瀬。今年は皆さんにとってどんな一年になっただろうか。恒例のFNMNLの年末企画も激動の年の瀬にスタート。

【ミニインタビュー】Mischief | 韓国ウィメンズストリートブランドの先駆け

韓国のウィメンズストリートブランドの先駆けMischiefが4月に原宿・TOXGOで初のPOP UPを開催。POP UPではMischiefの新作をはじめ、VERDYによる"Girls Don't Cry"との限定アイテムも発売され、開店前には多くのファンが列をなした。

MOST POPULAR

【Interview】UKの鬼才The Bugが「俺の感情のピース」と語る新プロジェクト「Sirens」とは

The Bugとして知られるイギリス人アーティストKevin Martinは、これまで主にGod, Techno Animal, The Bug, King Midas Soundとして活動し、変化しながらも、他の誰にも真似できない自らの音楽を貫いてきた、UK及びヨーロッパの音楽界の重要人物である。彼が今回新プロジェクトのSirensという名のショーケースをスタートさせた。彼が「感情のピース」と表現するSirensはどういった音楽なのか、ロンドンでのライブの前日に話を聞いてみた。

【コラム】Childish Gambino - "This Is America" | アメリカからは逃げられない

Childish Gambinoの新曲"This is America"が、大きな話題になっている。『Atlanta』やこれまでもChildish Gambinoのミュージックビデオを多く手がけてきたヒロ・ムライが制作した、同曲のミュージックビデオは公開から3日ですでに3000万回再生を突破している。

WONKとThe Love ExperimentがチョイスするNYと日本の10曲

東京を拠点に活動するWONKと、NYのThe Love Experimentによる海を越えたコラボ作『BINARY』。11月にリリースされた同作を記念して、ツアーが1月8日(月・祝)にブルーノート東京、1月10日(水)にビルボードライブ大阪、そして1月11日(木)に名古屋ブルーノートにて行われる。