【コラム】KrystalとJune Oneの『I Don't Wanna Love You』プロジェクトが作るアートと音楽の新しい接点とは
最近見た展示の中で 『I Don`t Wanna Love You』がすごく良かったなーと思ったのですが、展示が終わってしばらく経った後に書くのもなんだなと思いつつ考察として書こうと思います。
『I Don`t Wanna Love You』は韓国の4人組女性アイドルグループf(x)のKrystalとバンドGlen CheckのJune Oneがコラボレーションした楽曲であり、f(x)の所属するSMエンターテイメントのアートディレクター ミン・ヒジン氏がディレクションした映像と写真が加わり、単純なボーカルフィーチャリングではなく、音楽とビジュアルが一つのコンセプトの下、多彩に表現されるプロジェクトとして発表されました。
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楽曲に合わせて制作された『I Don`t Wanna Love You』の写真集発売とともに、写真展も同時に開催されました。
展示場所は弘大のカフェ無大陸と、狎鴎亭にあるBOON THE SHOPというセレクトショップの2カ所。無大陸は、カフェでありながら地下は公演場、また1階では展示やワークショップも行える空間になっている文化交流場のような場所。BOON THE SHOPはハイブランドを取り揃えていて、高級街の狎鴎亭ロデオに位置するセレクトショップ。文化的にも特色の異なった2つのスペースで開催したのも興味深い点です。
私は無大陸での展示のみ行きましたが、各客席に飾られた小さな写真から、タペストリーのように巨大な写真まで、展示方法も写真も美しくたまたま入ったカフェの客もまじまじと眺めている姿が目立ちました。
アイドルの写真展と言うとファンのためのイベントのような印象を受けがちですが、それをうまくアートとして表現することで、一般の方を含む多くの人の関心を集めたものとなったのを感じました。
会場の地下では、薄暗いコンクリート打ちっ放しの空間で壁に"I Don`t Wanna Love You"のMVが映し出されており、少しホラーを感じさせるモノクロの映像と相まって一人でその空間にいると、ゾクゾクッとするような感覚になるほど。
なぜアイドルらしい笑顔の写真、ポーズをとった写真ではなく、ズッシリとした空気を感じる古風な少女を盗み見るような感覚になるのは、ふとした表情を切り取ったような写真が多いのでしょうか。
写真だけではなく、洗練されたスタイリングにしても、音楽を新進気鋭のアーティストが手がけている部分についても、アイドルらしからぬ突き抜けたアート性みたいなものを感じるのです。
一口にアイドルらしからぬ、と表現したとしても、日本においても韓国においても多種多様なコンセプトのアイドルグループが存在している中で定義しづらいですが、アイドルと定義する部分というものが、一般的になんであるかといえば大衆音楽であるということでしょうか。K-POP自体、様々な国でも聞かれているし、中高生や若い世代の人も聞いて楽しまれている音楽です。
大衆文化でありながら、こういった表現をすることはある意味受け手の感覚をすごく信じているように思う。尖った表現も、まるでクラブシーンでかっこいいとされている若手のトラックメーカーの楽曲も大衆がそれを受け入れるだろうと考えられている部分から、韓国の表現の懐と土台の深さみたいなものを感じるし、そういった部分から次々に新しい形に変化するK-POPのカルチャーが現在進行形で存在しているのかなということも感じられるのでした。
初回のコラムにつながる話になりますが、K-POPには、大衆文化から次々に発信される若いクリエーターやアーティストの新しい才能を感じる面白さ、というのがあります。
今回の楽曲を制作したJuneoneについても、DJやトラックメーカーとしても活動していますが、もともとはGlen Checkというバンドのボーカルです。
サマーソニックにも2回出演、日本で単独公演も行ったことのあるバンドで、今年は米国で開かれるSXSW2017にも参加していました。U2やローリング・ストーンズの作品を手がけているアメリカのプロデューサー、スティーブ・リリー・ホワイトにラブコールを受けるなどインディーバンドでありながら実力派として注目されています。
Glen Checkでの活動でも、グラフィックデザイナーの友人を迎えてミュージックビデオやアルバムデザインを制作するなど、アート性の高さも注目されています。さらに、メンバー2人とも帰国子女であることから歌詞は全編に渡り英語であり、私たちの想像する韓国のバンドと違ったカラーを持っているように感じます。
トラックメーカーとしての楽曲とバンドセットの楽曲でも少し印象が違うので、バンドの楽曲も是非。(ミュージックビデオ含めとても素晴らしい!)
そして、Glen Checkの所属事務所BANAは、E SENS、Glen Check、XXX、250などが所属していることはもちろん、音楽、映像、アニメーション、展示会、ファッションなどアンダーグラウンドの様々な分野で文化的な試みをして独創的な魅力を持ったアーティストをサポートしている事務所です。
Krystalの所属するf(x)のシングル"4walls"の発売キャンペーンでは、楽曲が公表されるまでの期間にギャラリーにティザー映像をタイトルの"4walls"にちなんで4つの壁に映し出すという試みをしていました。
その時の展示会場で映像と共に流されていた楽曲の公式リミックスを制作していたのも、BANAの所属メンバーであり、BBC、Hypebeastなど海外メディアからも注目されるxxxと、「飛行」のプロデューサーであり、過去にBoAの公式リミックスコラボレーションを通じても知られているDJの250でした。
原曲もかっこいいがリミックスも3バージョンすべてとても良いです。この"4walls"の時のキャンペーンでもギャラリーの中に入るのではなく、外からガラス越しにギャラリー内の4つの白い壁に映し出された映像と音楽を覗きにいくという面白い試みになっていました。
今回は『I Don`t Wanna Love You』の展示について記述しましたが、Krystalの所属するグループf(x)は、かなりアートとの親和性が高いように思います。
音楽というコンテンツ自体は日本以上に電子音源やダウンロードコードの文化が進んでいて、CDが売れないと言われている韓国で、こういった1つの楽曲に写真や本で付加価値をつけること、展示という手法から音楽に直接触れる場を作るという宣伝の仕方は、音楽との新しい接触の形を生み出しています。
家ですぐにほしい音楽を買えるし、映像はインターネットですぐ観ることができます。そこにアート的要素を足す事によって作品そのものにたいする価値が生まれ、直接足を運んで体感しにいくコンテンツとして昇華されます。
音楽だけでなくそれに関わる写真や映像も合わせて一つの作品だと考えれば、f(x)及び今回のKrystalとJuneoneのコラボは、音楽とビジュアルイメージが一つのコンセプトの下で多彩に交わる一種の「アートコラボレーション」といえます。
大衆性とアート性と新進気鋭の若い力に一任する柔軟性、すべてのバランスを両立した今回の展示キャンペーンはとても面白く、音楽の新たな発信のされ方としてもとても興味深いものでした。
Erinam
韓国在住のグラフィックデザイナー ・イラストレーター。
韓国ブランド等のアテンド・コーディネーターとしても活動。