【Review】Drake『More Life』| ミツバチのように
OVOに所属するプロデューサーのNineteen85は、本日リリースされたDrakeの新作『More Life』について、以前こう語っていた。
「なぜ『More Life』をプレイリストと呼ぼうとしているかについては、このプロジェクトにはDrakeが交流した多くのアーティストが参加しているんだ。様々なアーティストと会っている彼は、他のアーティストたちが音楽的にどのようなアーティストかを理解しているから、世界にその新しいアーティストたちを紹介したがっている」
この発言のように、Drakeの『More Life』は多くのゲストアーティストをフィーチャーし、しかもゲストアーティストたちの存在感を、Drake自身は後ろに下がることによって引き出すものになっている。
文 : 和田哲郎
ここでは同じくというか、さらに多くのアーティストを自身の作品に参加させるKanye Westと比較してみよう。Kanyeの場合は参加アーティストが誰であれ、しっかりKanye Westの作品に昇華させる。様々な人の力を自分の元に集約させるKanye、それに対しDrakeは自分が様々な場所に移動し、テイストメーカーとしての地位を高めていく。
『More Life』でDrakeは長年の悲願だったグライム勢(Skepta、Giggs)との邂逅、QuavoやYoung Thug、Travis ScottなどのUSのラッパーたちなどのゲストアーティストを参加させ、音楽的にも多くのバリエーションが試されている。
批判を受けながらも常にDrakeなりのオマージュを捧げてきたダンスホール・レゲエのエッセンスは"Blem"や"Madiba Riddim"で聴くことができる。またタイトルの『More Life』という言葉も元々ジャマイカのスラングで、「より多くの祝福を」という意味だ。
Drakeは世界にはこんな音楽もあるんだと、グライムやダンスホールの他にもディープハウスにも焦点をあて、まるでDJのように曲を連ねていく。彼のBeats 1の番組『OVO Sound Radio』での選曲の幅もそれを表しているだろう。南アフリカのトップハウスクリエイターBlack Coffeeの楽曲も"Get It Together"で使用され、また2曲目"Passionfruit"には世界最高のディープハウスDJの1人である、Moodymannのクラブプレイ時のマイクでの煽りが入っている。Moodymannは「待て、待て、このヤバい曲をもう一回かけてやるから、ちょっとだけ待て」とクラウドに語りかける。このMoodymannの引用はDrakeの『More Life』に対するモチベーションを代弁してるのだろう。
ここで疑問が1つ湧き上がる。Drakeはただリスナーに良い音楽を届けてくれるだけで満足するようなラッパーなのか?もちろん答えはノーだ。彼ほど巧妙に野心を実現することに長けたラッパーは、いないくらいだと言ってもいいだろう。
それはMeek Millへの執拗な攻撃を見ればわかるだろう。『More Life』でもDrakeは直接的には攻撃していないが、Meek Millに対してジャブを送り続けている。"Can't Have Everything"で、Drakeは母のSandi Grahamさんが自身に送った音声メッセージを使用、Grahamさんの言葉はミシェル・オバマ前大統領夫人の有名な「When they go low, we go high」(相手はレベルが低いけど、品格を保て」の引用で締めくくられている。めったなことではビーフは起こさないが、一度起こしたとなると、自らの言葉を使わずとも執拗に攻撃を続けるDrake。
彼がビーフで強いのにはもう一つ理由がある。それはガードの硬さだ。自分の弱い部分をあえてさらけ出すことで、彼は相手に攻撃する部分を与えない。それは今回の『More Life』にも当てはまる。
例えばDrakeに対する批判で最も多いのは、彼が「盗む」ことである。彼は例えばダンスホール・レゲエのバイブスを盗み、正当な敬意をオリジネイターに表明しなかったことで、ジャマイカのアーティストたちから批判を受けている。もしくは若いラッパーのフロウを「盗んだ」と批判されている。XXXTENTACIONの"Look At Me"を盗用したと言われている"Kmt feat. Giggs"は『More Life』に収録されており、さらに前述のようにダンスホール・レゲエのテイストが入った曲も入っている。Drakeはしかし今回は「盗んでいない」、彼はただ新しい音楽を紹介したかっただけなのだから。このようにして彼は最も自分の嫌う攻撃を無効化できるのだ。Drakeは甘い蜜を吸い続けることができる。
そうここで浮かび上がるのがDrakeが『More Life』のリリース直前に入れたタトゥーだ。
花の蜜を吸うミツバチ、『More Life』をシンボリックに表しているタトゥーだ。より大きく描かれている鮮やかな花の方に目が行きがちだが、重要なのはもちろんミツバチの方だ。花=様々な音楽ジャンルを、飛び回り最もおいしい部分を吸うDrake。さらにただミツバチは美味しいところだけを吸っているのではない、ミツバチは、 花粉の媒介をして植物の再生産を助けている。DrakeはグライムをUSに紹介し、ダンスホールのムーブメントを世界的なものに押し広げ、様々な音楽の間を飛び回り、より多くの祝福を与える=『More Life』。
ハチの比喩はもう1つ使えるだろう。それはもちろん最近のJennifer Lopezと永遠のミューズであるRihannaの両輪の花を品定めするかのように飛び回るDrakeだ。『More Life』では、Jennifer Lopezは"Teenage Fever"のサンプリングソースとして使われ、また1曲目の"Free Smoke"でJ.Loは酔っ払ってメールをしてしまった相手としても登場する。しかしJ.Loの番号が古かったため、メールは戻ってきてしまう。これは新しい番号を登録しなかったという意味にも捉えることができるだろう。Drakeは散々デートをしたあげく、曲を引き立てるための素材として使うことができるアーティストだ。蛇足だが、実際J.Loとは年明けには別れてしまったというDrakeはその後、再びRihannaに擦り寄る行動をしている。
ミツバチのように精力的に飛び回り、花の蜜を吸い続けることで、存在感をシーンの中で強大にしてきたDrake。ミツバチのようにと比喩で、語ることのできるラッパーも彼くらいのものだろう。彼の集大成となった作品が『More Life』であることは必然的だったのかもしれない。
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