ドキュメンタリー映画『Waiting For B.』が明らかにする、ブラジルで非白人のLGBTQにとってのビヨンセの信仰的存在

2015年に初公開されたブラジルのビヨンセのファンたちを追ったドキュメンタリー映画『Waiting For B.』は2016年のリスボン レズビアン&ゲイ映画祭のドキュメンタリー観客賞を受賞した。

2013年、ビヨンセはMrs. Carter Show World Tourでブラジルを訪れライブを行った。そのブラジル公演の様子が日本語メディアでも報道されていたのを覚えているだろうか?

「ビヨンセ、コンサート中にファンにステージから降ろされる」というヘッドラインのニュースはこう伝える。

ビヨンセはこの日、大勢のファンの前でヒット曲「Irreplaceable」を熱唱していた時に、サービスでファンに近づいて、しゃがんだ。その時1人の男性客が身を乗り出して、彼女の上半身を掴み、そのまま観客の方へ引っ張ってステージから降ろしてしまった。すぐにセキュリティーがビヨンセを連れ戻し、彼女はそのまま歌を続けた。ビヨンセは歌い終えると男性に向かって「大丈夫よ、大丈夫」と言って、男性と握手をし、「私も愛しているわ」と声をかけていた。そして会場は「ビヨンセ」コールで熱狂した。Hollywood News

そう、ブラジルのビヨンセのファンはクレイジーなのだ。

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ドキュメンタリー映画『Waiting For B.』はそのクレイジーなブラジルのビヨンセファンたちを追ったドキュメンタリーだ。

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ビヨンセのファンたちはおよそコンサートの2ヶ月前からスタジアムにキャンプテントを持ち込み、チケットのための行列を作る。もちろん理由はステージの最前列をゲットするためだ。本作のドキュメンタリーの主人公たちは、その列の先頭に並ぶゲイたちだ。ビヨンセのファンの中でも、貧しく、疎外されたファンだ。彼らは2ヶ月間、テントの中で語り合ったり、ビヨンセのダンスを練習したり、メイクをしたり、家族のような関係になっていく。

その空間は彼らにとって安息の時間と場所になったにちがいない。ブラジルでは2012年から2016年の間にゲイ、レズなど同性愛者やクイア、トランスジェンダーがヘイトクライムによって1600人殺されている。そうブラジルはトランスセクシュアルの殺人率が世界一のホモフォビックな国だ

ドキュメンタリーの途中、ある男性はメイクをしながら独白する。

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異性愛主義のこの世界で自分がゲイであることで苦しむよりも、自分はゲイの世界で黒人であることに苦しんでいる。

ドキュメンタリー映画の監督、アメリカ人でサンパウロ在住のAbigail SpindelとPaulo Cesar Toledoは、以前からビヨンセのファンたちは、2ヶ月間テントを張って最前列を獲るために並ぶほど熱狂的だと聞いていた。

しかし、キャンプをするまでの熱狂というのはビヨンセに対する熱狂ものだけというより、ファン同士がそのプロセスに何か特別なコミュニケーションや意味を見出しているのであろうと考え、ドキュメンタリー撮影を決行した。

メディアFaderが行った監督へのインタビューで、Toledo氏はドキュメンタリーを撮影出来た理由として「なるべく自然な友達になるようにしたし、こんなファンがいるってことをビヨンセが見たらどう思うだろうねと、彼らが思ってくれていたんじゃないかな」と語った。

また貧しく、ゲイであり、黒人である彼らはブラジル社会で差別される存在だ。キャンプ中に彼らは叫ばれたり、物を投げられたり、罵られたりもした。しかし監督は、その彼らも何かに対して情熱を燃やしている、リアルな人間であるということを表現したかったと語る。

ブラジルのような保守的な国でトランスセクシュアルとして生きることは、様々な困難を目の当たりにする。同時にブラジルはレイシストな社会でもあると監督は説明する。テレビ番組を見れば「ここはスウェーデンかと思うほどブロンドの白人」しか出てこないという。ブラジルの国民の半分以上は非白人にも関わらずだ。

彼らと長い時間を過ごして監督たちも若さのエネルギーを貰った。差別に直面する彼らがユーモアを持ってそれをやり過ごしたり、コレクティブに、ポジティブに生きることに集中する勇気にリスペクトを持つようになったと語る。

Spindel監督は「カトリックの国ブラジルのビヨンセの人気はある種の信仰ではないか」と考える。ビヨンセは信仰の対象として振る舞い、疑いないようなステートメントを力強く発し、それに対してファンたちが答える。「これはある種ビヨンセへの従順な信仰とも言えるかもしれないが、それはエンパワーメントの形でもある」と考察する。

ビヨンセが観客によってステージから降ろされそうになった姿は別に観客によって撮影されYouTubeにアップロードされている。これがブラジルのビヨンセファンの力だ。

 

『Waiting For B.』は今週末ロンドンBFIで上映される。トレイラーは以下から。

Waiting for B. - Trailer w/ English Subtitles from Videosfera on Vimeo.

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