「これまで以上に私たちの声が必要になる時が歴史にはやってくる」グラミー賞と現代社会のポリティクス

第59回グラミー賞はジェニファー・ロペスのトニ・モリソンの引用からその幕を開けた。

最優秀新人賞のプレゼンターを務めたジェニファー・ロペスは「それまで以上に私たちの声が必要になる時が歴史にはやってくる。(...)その時こそアーティストが動かなくてはならない時だ。(...)今夜、普遍的な言語である音楽を祝福しましょう」とトニ・モリスンを引用したスピーチを行った。

Black Lives Matter、大統領選挙、トランプ大統領の入国禁止令などの社会的背景を受け、ポップシーンも例を見ないほど政治化した2016年の音楽アワードは、Kendrick LamarのフリースタイルやPharrell Williamsの「Hands Up, Dont Shoot」ダンスが見られた昨年以上に政治的なメッセージにあふれた。

パリス・ジャクソン

2010年の第52回グラミー賞授賞式で急逝した父親のマイケル・ジャクソンに贈られた功労賞を受け取ったパリス・ジャクソンはプレゼンターとして登場。The Weekndのパフォーマンスの呼び込みの際に、ヒューストンからカナダまで伸びる「ダコタ・アクセス・パイプライン」を反対する #NoDAPL を叫び、拳を上げた。

Laverne Cox

トランスジェンダーで女優でアクティビストのLaverne Coxは、メタリカとレディー・ガガのパフォーマンスの直前で「みんな!Googleで‘Gavin Grimm'と検索して」とオーディエンスに呼びかけた。Gavin Grimmはトランスジェンダーをカミングアウトしたヴァージニア州の高校生。学校は彼に対し、男性用トイレの使用を禁止し、男女兼用トイレを使用するように命じた。現在、彼はその権利を巡って最高裁判所で争っている。

A Tribe Called Quest、Anderson .Paak、Consequence、Busta Rhymes

A Tribe Called Quest、Anderson .Paak、Consequence、Busta Rhymesは、ドナルド・トランプを辛辣に批判するパフォーマンスを行った。ドナルド・トランプをベトナム戦争で使用された枯葉剤になぞらえて「エージェント・オレンジ」と呼び批判。さらに「トランプ大統領が恐れそうな」さまざまな人種、民族のエキストラをステージに呼び、最後は「Resist!」とパフォーマンスを締めくくった。

Katy Perry

大統領選挙中にヒラリー・クリントンの応援を行っていたケイティー・ペリーも、ヒラリーばりの白いスーツを身に身にまとって、「目的があるポップ」の新曲"Chained to the Rhythm"を披露した。また彼女は、民主党のエリザベス・ウォーレン議員が共和党の上院議員ジェフ・セッションズの米国司法長官任命を審議する議会で発言を禁じられた事件を受けて、ウォーレン議員をサポートする「Persist(繰り返し言い続ける)」とリストバンドを身につけていた。

SchoolboyQはピンクのフーディに「Girl Power」と書かれたレッドカーペットに娘と共に登場。もちろん「女子力」ではなく「男性や他人にこびず、自立した生き方を貫く女性」へのエールを送った。

ビヨンセ

9部門にノミネートされながらも最優秀アルバム賞を逃したビヨンセは、『Lemonade』で最優秀アーバン・コンテンポラリー・アルバム賞、MV "Formation"で最優秀ミュージック・ビデオ賞を受賞した。ビヨンセは受賞スピーチで以下のように語った。

映像作品とアルバムでは、私たちの痛み、闘争、無知、歴史に声を与える一連の作品を作りたかった。(...) 私の子どもたちに、自分が持つ美しさを考えるためのイメージを見せることが私にとって重要だった。そうすることで子どもたちはこの世界で成長できる。鏡を通じてーーー、その鏡とは家族であり、ニュースであり、スーパーボールであり、オリンピックであり、ホワイトハウスであり、グラミー賞でもある。それらを通じて、自分たちの姿を確認することができる。

そしてビヨンセは黄金の衣装に身を纏い、『Lemonade』から2曲“Love Drought”と"Sandcastles"を披露し、その2曲のMVをグラミー賞後に公開した。

 

“Love Drought”のMVは1991年に映画祭で公開されたジュリー・ダッシュ監督によるインディー映画『Daughters of the Dust / 自由への旅立ち』を参照されて制作された。MV"Love Drought"の1:15のカットは、1803年に集団自決を行ったLgbo Landing(イボ人の漂着)と呼ばれる出来事を象徴している。

ナイジェリアから大西洋を通ってアメリカ大陸に連れられてきたアフリカの民族イボ(イグボ)人は、奴隷として働くことを拒否し、奴隷船を乗っ取り、ジョージア州とサウスカロライナ州の間にある孤島に漂着した。奴隷たちはそこでも奴隷になることを拒否し、歌いながら海へと集団行進を行い、自決した。

映画『Daughters of the Dust / 自由への旅立ち』は、そのLgbo Landingが起こったジョージア州とサウスカロライナ州にある孤島で、西アフリカの文化を守る、逃亡奴隷とネイティブアメリカンのクレオール文化であるガラ(人)の生活と島の美しさを描いた。奴隷制後の文化的記憶、家と帰属、黒人女性のアイデンティティを問う作品として、1991年のサンダンス映画祭のグランプリにノミネートされ、ベスト・シネマトロフィー賞を受賞している。

ビヨンセはグラミー賞の大賞とも言える最優秀アルバム賞を、驚異的なセールスを記録したAdeleの『25』に譲ったが、Adeleも認めるように『Lemonade』のアルバム、そして一連の映像は今世紀を代表する音楽/文学/映像作品として記憶されるだろう。

Kanye WestやDrakeが欠席し、Frank OceanやKendrick Lamarはグラミー賞のコマーシャル、古い体制を批判した。もちろんビヨンセではなくAdeleに最優秀アルバム賞が贈られたことを「制度的なレイシズム」と批判するむきもある。しかし、その舞台に立ったアーティストたちはプラットフォームを存分に利用し、素晴らしいパフォーマンスを行いながらも、オーディエンスに思慮深いメッセージを送った。あとは私たちの問題だろう。

Text by Jun Yokoyama

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