『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』mp3の生みの親、大手レーベルCEO、CDを盗む工場労働者たちのノンフィクション群像劇
著者のスティーヴン・ウィットは1997年に大学在学中から、ナップスター、ビットトレント、海賊版サイトから聴ききることができないほどのmp3の音楽データを自身のハードディスクに溜め込んでいた。海賊文化にどっぷり浸かった彼はふとしたことを疑問に思う。「このmp3のデータはどこから来てるんだ?」と。
そこから彼は、mp3というフォーマットがどこから来たのか、そして誰が音楽をリッピングして海賊ネットに流したのかなど、1990年代に生まれた「海賊文化」の様々な源流を探りはじめた。『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』は、mp3と海賊行為をめぐるグローバルな、活劇的なドキュメンタリー本だ。
当初彼は、私たちと同じように「音楽の海賊行為はクラウドソーシングがもたらした現象」だと思いこんでいた。つまり世界中の一般人であるがリッピングしたものをせっせとアップロードして、それがゆるやかなネットワークを形成してきた、というモデルだ。しかしそれは違ったという。海賊行為の背後にはエンジニア、企業経営者、工場労働者、犯罪者、捜査員など、あらとあらゆる種類の人たちが、それぞれの理由で動いていて、その偶然が海賊文化を形成する土台を作ってきたということだ。
2016年ストリーミングで音楽が「タダ」で聞ける時代は、1990年代以降の違法ダウンロードやリッピング、違法シェアなどの海賊行為を克服しつつあるのだろうか。そしてmp3というフォーマットは役割を終えようとしているのだろうか。このドキュメンタリー本は音楽ビジネスの行き先を示すものでもないし、単なるインターネット・ノスタルジーをあおるものでもない。リスナー、ミュージシャン、レーベル、エンジニアなど様々な視点から、音楽を聞く、音楽を共有するという行為を根本的に考えさせる本になっている。
ただいまAmazonのKindleストアではイントロダクションと1章の途中までを含む72P分を無料で公開している。是非手にとって読んでみてほしい。