寺田創一インタビュー - 甘い季節の再来 -Pt.4

昨年オランダのRush Hourからリリースされたアルバム『Sounds from the Far East』をきっかけに世界的な再評価が起こっている、日本のハウスミュージックシーンのパイオニア、寺田創一。昨年おこなったインタビューでハウスの時期を甘い季節と述べていた彼に、その季節が再来している今の活動や世界各国でおこなっている公演などについて聞いたインタビューこちらはPt.4

写真 : 横山純

取材/構成 : 和田哲郎

寺田創一インタビュー - 甘い季節の再来 -Pt.1

寺田創一インタビュー - 甘い季節の再来 -Pt.2

寺田創一インタビュー - 甘い季節の再来 -Pt.3

-- それは昔から感じられていたことですか?それとも全く新しい発見ということですか?

寺田創一 - 昔はほとんどパフォーマンスをやっていなかったのです。Omodakaでパフォーマンスをやるようになって、でもOmodakaではマスクとかカツラとか衣装という鎧みたいなものを着てるから、ちょっとは自分を解放するのには役立ってるんですね。でも、何もないときでも自分を解放して自由なことをしてても恥ずかしくないって気持ちの状態に持っていきたいんです。ああ何を話してるんだろうな、おれは。寺田創一

-- とても興味深いです。Omodakaだと別人格だから安心して解放できるってことなんですが、ハウスセットのむき出しの体でもそういうモードに入れるようになったというか

寺田創一 - これはカッコイイとかカッコ悪いとかつい考えちゃうんですけど、それを考えないようにしたいなと思って。結局そんなことを考えてないときの方が自然で良いことが多い。後で写真とかみたりする時、明らかにカッコ悪いけどいい顔してるって思うときがあって。その逆もあるんです、この時は意識しててカメラに向かってアピールしてて一見良さげだけどなんか意識してて不気味だなとか。そういうカッコイイとかカッコ悪いとかを感じてない瞬間を多くしたい気持ちが増えました。

-- それはハウスのパーティーに遊びに行ってたときとかも感じていましたか?

寺田創一 - その頃はお客さんだから、なんにも気にせずにいた。ダンスフロアにいるのは気楽だし、自由だったし、解放されててすごい楽しかったんですけど、それに近い気持ちになりたい。パフォーマンスを始める前は今日はクールにやってやるとか思っても、結局いつもどおりになってしまうんですね。

-- そういうモードになってるときは音楽そのものになってるってときなんですかね?

寺田創一 - それも一瞬だけで、ああ今自分の感覚がないと思っても、その瞬間ですぐ我に帰るから、またそこで音楽と自分が別れちゃうんですけど。何も感じないときが瞬間的にあって、それを長くしたらいいんだと思うんですけど。どうしてもかっこよく見せたいと思う気持ちを持ってる自分と、音楽が別れてる時間の方が多くて、もしくはクールにやろうとしてる自分という意識が多いんだね。何も感じない時間をもっと長くした方が自分としては楽しくなると思う。

-- 楽曲制作のときはそれとはまた違うモードなんですか?

寺田創一 - 楽曲制作のときもそのモードになる瞬間があって、多分そういうなにも考えていないときにいい案が出ます。でも当然作ってるときも同じで、これをこういう風にしたらカッコイイとかこれはダサいとか色んな目論見が渦巻いてて、それがほぼ100%くらいじゃないですか(笑)トレンドはこういう方向だからとか、そういうのもあるんだけど、全部忘れてボーッとしたときにやったことがすごくイイとか、そういう割合を増やしたいです。今はもう何かをレコーディングするっていうのはみんな1人で出来るようになったけど、録音ボタン押す前に適当にやってるときがすごいイイのが出て、それをもう一回やろうと思ってもできないみたいなときがあると思う。試しになにかやっているときはなにも考えてないから、それがきっといいみたいな。うまく言葉で表現できないけど。でもあれかな、全部無心でやってもいつもの手グセのやつができるから、ちょっとは考えた方がいいのかな(笑)

寺田創一

-- どうなんでしょうね、全然違う方向性に行くこともありますからね。

寺田創一 - やっぱり半々くらいなのかな。だってライブパフォーマンスだって本当に無心なものだけでやったら収拾つかなくなりそうだもんね。両方あって、それを行き来するのがいいのかな。

-- 自在に行き来できるようになったらいいんですかね。次どういう曲を作りたいかとかを聞かれたときに寺田さんは「なにも決めてない」と答えてることが多いんですが、それも自然さにつながるからということでしょうか。

寺田創一 - いやそれは本当にわからないから。そういうことを聞かれたときに本当に何も考えついてないんだよね。特にライブパフォーマンスを連続でやっているときに、全然制作のことを考えられなくて。気分的なモードが違うってことなのかなあ?歌とかじゃない全部インストのものをやりたいなとか、Omodakaのこともやりたいなとか全部いろいろあるんですけど明確に次はこれこれをやるっていうのが、本当に頭の中に浮かばなくて。

寺田創一

-- 海外からの制作オファーもきたりしていますか?

寺田創一 - 多いのはリミックスを作ってくれないかという依頼で、でも去年の11月くらいまでにリミックスやってくれないかって言われて、いいよって言ったのが半年くら出来てなくて今頃ようやく完成したくらいなのです。今の自分の制作環境が全部ハードウェアで作るような移動しにくいシステムになっていて、ツアー中にラップトップPCでやるっていうのが出来ないから、ちょっとはラップトップPCで出来るようにした方がいいのかなとも思うんですけど、だからいろんなリミックスのオファーとかに全然応えられなくて申し訳ないです。

最近やったリミックスの一つはつい最近までアムステルダムに住んでいた日本人のレーベルのリミックスで、あとナマコプリのリミックスもVenusさんに去年の冬くらいに話をもらってやるやるって言ってて全然できなかったんだよね。その後も他から色々オファーをもらっても、いつ完成出来るか分からないっていう答えがめちゃくちゃ失礼だなと思って断ってしまうことも多いです。ラップトップPCのソフトでもやりたいんだけど、物覚えがすごい悪くなっていて1回覚えたことを忘れる頻度が高くなっているんだよね。アイデアだけ作っておいて家でハードウェアに変換すればいいのかもしれないし、今はラップトップで完結してる人も多いから自分もそれをマスターできたらなと感じます。人の操作を見ていて「このソフトにはこんな機能があったのか~」と思うことも多いんですよ。

- - 最近Far Eastで活躍していた横田さんも復活されていますがいかがですか?横田さんはDJもやられてますよね。

寺田創一 - 横田くんはすごい小さいガジェットでDJをやっていて、今週の木曜日も渋谷でやるって言ってた。それを見に行こうと思ってます。Boiler Roomも横田くんと一緒にやったしね。”Do It Again”ってロンドンですごい人気の曲も横田くんの曲で、Youtubeには寺田創一ってクレジットされることが多いんですけどね。横田くんの曲は本当に良いのが多いので、彼のリリースされていない曲を中心にしたアルバムをFar East Recording から出そうと相談しています。配信で初めてからCDも作るかもしれないし、レコード化も全曲かどうかはわからないけどできたらいいなと思うんだ。

- - 去年の『Sound From The Far East』はレコードだと廃盤ですもんね。

寺田創一 - 廃盤というか、横田くんの曲でサンプリングのクレームがついた曲があって。2nd Pressではその曲が差し替えになったんです。横田くんのリリースされてなかった曲は、RAのミックスの中に入れたりして、結構横田くんのところに問い合わせとかがあるみたいで、アナログになる可能性も多いと思いんじゃないかな。

- - RAのはミックスだったのが驚いたんですが、なんでミックス形式にしようと思ったんですか?

寺田創一 - あれは最初RAのミックス企画をやったらいいんじゃないかってRAに紹介してくれたのはNicで、その話をエージェントとRush Hourに相談したらライブパフォーマンスの内容はどんな形であれウェブにアップロードしない方がいいと言われて、自分はそういうもんかと思って、じゃあそのライブの内容とかをアップするのはやめとして、どうすればいいかと相談してたところに、Antalが日本産の音源でみんなに知られてないようなものがいっぱいあるだろうから、そういうのをDJミックスにしたらいいんじゃないかってアイデアをくれたんです。それで横田くんのアンリリースの曲があったなと思って、あとは自分の周辺の人で当時アナログを作っていた人の面白いトラックとか、最近イベントで一緒になってこれ楽しいな~と思う曲とかを集めて作ったのがあのミックスです。DJミキサーで作ったわけではないからミックスの仕方とかが、DJ的ではないという感じがするかも。DJだとフェイドイン・アウトが普通だけどそれをやめて、1小節ごとや数拍ごとに出たり消えたりするやり方の方が、みんなが聞きなれない繋ぎ方だろうと思ってそれを試しました。Dubmaster XのリミックスとかTakechaの曲も入ってます、Takechaとも90年代のはじめからアナログ作ってて当時からレコードをお互いに送りあったりしてたんですよ。

- - 今年は横田さんのリリース以外でFar Eastからリリースを考えていたりしていますか?

寺田創一 - Omodakaの新しいのを作りたいのと、寺田創一としての新しいものもやりたいんですけど、だからこそツアー中にラップトップでやるべきかも。でも行ったことない国に行くと出掛けたくなっちゃうんだ。音楽制作ソフトを開けたくないし、PCの前にいたくないし、携帯を見たくない。外に出てどこか行きたいし、行ったことない国だとスーパーマーケットで食材を見てるだけでも楽しいし。海外だとこれからポルトガルとかクロアチアとかこれまで行ったことのない国で決まっていて、あとはオランダとかフランスのまだ行ってない街へも行きますし、あとアイルランドにも行きます。今年はツアーを体力の続く限りやりたいし、ライブの時も制作のときも自分自身じゃなくなる瞬間を増やしていきたいですね。

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